『04』/11
「まじで何しに――」
「お、おう、先ずは離してやれ、だらーんって成ってる」
「……」くたー
「……貧弱だな、おい」
「お前ね――」
だって本来こいつ、魔力で補強したりするから硬いじゃん。
「――痛いってば」
「おう、悪い。そっちも悪いと思ったら――」
「随分と余裕じゃの!!」
あ、やべ、このジジイ忘れて――
「『妖精踊環』」
――ビュンッ
「――あーいて、急に来たのは悪かったけど、本気で絞めなくて良いでしょうが」
……あの、相手、一応魔術師なんですけど、抵抗もさせずに短距離ワープさすって。
「いや、今のは私でも絞めるわ。あんたみたいなアイシャが居てたまるか」
「赤髪じゃん!!」
「うるせえ、大釜ぶつけんぞ」
――まじで、何しに来たの、ねえ。婦警と戯れてないで良いから。
「……こっち見るなよ。俺も巻き込まれたんだよ。『ひょっとしたら』の実験に」
――こっちもマッドだったの忘れてたわ、魔術方面でだけど。
・ ・ ・ ・ ・ ・
時間は、更に少し遡る。
「――うん、良かったわ。『敵』って訳じゃ無さそうで」
「うん、ええとですね……良かったです」
アビーの冷え冷えとした視線が治まったのを見ながら、そんな風に呟き――
レムナエク島出身の猫エルフ――シャルはほっと胸を撫で下ろした。
「――でも、まあ、一番『近い』かもしれないのよね」
……撫で下ろし切る前に、物騒な目を向けないで欲しい。
「――あの。最初に訊いたと思うんですけど、何の質問なんですか?」
「もちろん、『夢』の質問――って事を聞きたいんじゃないとは思うけど――」
うーん、と一伸びして、アビーは続ける。
「――『夢』とは、何か。時に『現実』にすら影響を及ぼし得る、『夢』とは」
「……随分と抽象的なお話ですね」
「ああ、いや、そう言うんでも無いよ。そうだなー。なんて言うのが一番的確なのか」
こめかみをポリポリと掻く。
「――『夢の国のお姫様』に、どうしても言ってやりたい事があるんだよね。
ただし、そこまで到る道が、どうにもこうにも見つからなくて。
うかうかしてたら、数百年の時が経っちゃって――それでも諦めが付かないという、そういうお話」
「すいません、さっぱりわかりません」
「――ああ、うん、まあ、長い話なのよ。
私自身たまに――『それが性質の悪い夢なら』って思う様な、訳分からん話だし」
遠い目で窓の外を見る、その視線の先に映る誰か。
シャルは、その横顔をジッと見つめる。
「……大切な人だったんですね」
「――んー……大切な友達ではあったんだけど……今は、『分かり合えない相手』、だな――
あっちはきっと、未だに友達だと思ってるんだろうけど、私は……」
そこまで言うと、アビーは深々と溜め息を吐く。
「――自分ではどうにもならない事を、当たり前の様に責められてもさ。
『間違ったら正すのが友達』、なんてのたまわれても、どうしろって話だもんね」
「――恩着せがましい友情ですね」
お茶貰ってきますね、と続けて、シャルは部屋を出た。
あまりにもその笑顔が悲痛だったので、いたたまれなくなったのだった。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「――おい、アビーよ」
「何よ、わんちゃん」
「――呼び方――まあいい。
それよりも、いい加減、ジンにも話したらどうだ?」
「……何を?」
「すっとぼける必要がねえだろ。
あいつは、多分、お前の『敵』が誰なのか勘付いてるぞ?」
刀を手入れしながら、イゾウは呟き――それをアビーは無表情に聞く。
「と言うより、お前が話そうとしないから、お前を連れ回して一緒に探そうとしてる節があると思うんだが――」
「……頼んだわけじゃないし」
「いい加減、諦めろって話だ」
「――何を?」
「――分かってるだろうに。お前が一番」
イゾウの言葉に、アビーは――
「……あんたに話したのすら気の迷いなのに――
ジンになんか話したら、それこそ決心が鈍るわ」
「――どうだろな? あいつは『他人』に対してかなり薄情なとこあるからな。
案外、探すのに協力した上で、止めの一撃になるものを持って来るかも――」
「だったら尚の事関わらせたくないわよ」
吐き出したその言葉に、アビー自身、少し躊躇う。
「……可能な限り、ジンとシオは、平穏に、幸せになって欲しいって言ってんでしょうが」
その返答に、イゾウは笑う。
「――何よ」
「『シオ』に託しても、幸せになんかなれねえぞ?
いや、そうじゃねえな。『誰』に託しても、『自分』は幸せに成れない。
『自分の幸せ』は、自分でしか感じられねえもんだからな」
その言葉に、アビーは大きく目を見開く。
「……生意気なワンコロだな。経年で行けば遥かに年上に向かって」
「都合良い時だけ『数百歳』になるんじゃねえよ。
それにこれは、歳関係ねえ類の事――真理って奴だ」
「……随分白粉臭い真理ね」
「おうよ、銀猫と戯れて掴んだ真理だからな」
過去の悪い遊びを、悪びれもせずに語るイゾウ。
「それに、実際問題として、動きが出始めたのはジンと関わってからだろ」
「――まあ、確かにね。
あんたに最初頼んだ時も、そういう怪しげな噂は掴めたけど、実際の動きがあった訳じゃなかったし」
「お前の組織の奴、締め上げる前に自害したしな――
もっとも、自害なのか何かから逃げての『転落死』なのか知らねぇけど」
……数年前の出会った頃の事を思い出す。
組織内の別勢力の影に、今貴族の間で流行っていると『ある事』を見た自分は――
「……『座標』」
「あ?」
「――あの時は、『座標』が特定出来なかったから、そのまま終わった。
無論、直接にこの世界に顕現している確証までは無いけれど、でも、ひょっとして――」
「お茶持って来ましたよー、開けてー」
暢気な声がドアの向こうから響く――アビーは、視線を其処に固定したままだ。
「……おい、止めてやれよ、無茶に巻き込むのは」
「……そう無茶じゃないよ――おかえり、シャルちゃん。んで、早速で悪いんだけど」
「……なんですか、目が怖いんですけど」
「だぁいじょうぶ。ちょっと君の見る『夢』を解剖するだけだから」
ビクッとなるシャルと、それはそうだ、と呆れるイゾウ。『解剖』て。
「――何、何も痛い事は無いよ、ちょっと頭窮屈だけどね」
そして、清々しいまでの毒っぽい笑顔で、アビーは笑うのだった。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「――『夢』に入り込もうとしたのか」
「直で入れるかの実験も兼ねてたんだけどね」
こわっ。似たような事ちょっと前にやってたけど、再び実行するとか。
出られなかったらどうする気なんだこいつ。
「シャルの頭に何か、輪っかつけて、それに紐結わえ付けてだな」
「――描写はいいよ、てかそれでなんで此処に飛んで来てるんだよ」
「直接は入れなかったみたいだね。
エラー回避の為に、セカンダリで近似座標に飛ぶようにしてたから、それでこっちに飛んだらしい。
やっぱ、『転移装置』は扱いが難しいねぇ――つか、解析途中でやるべきじゃなかったかな、実際」
……こいつって、ほんと、壁の中とか出たらどうする気だったんだ。
――ズゥン
「――でも、なんだろ。
なんで結局は君の居るところに飛ぶかね」
「知るかよぉ(震え声)」
「君を狙ってる訳でもないだろうに、なんでベティを探そうとして此処に……」
――ドォン
「いやはや、焦ったぞ――だが、なるほど、こういう使い道が有るなら、『転移の術』も一考の余地がある」
……短距離だった、そうだった。戻って来るのはええよ。
「とりあえず――なにこれ?」
「『ウェイ=クビン』だとさ」
「……ジン、あんたって……」
俺のせいみたいに言わないでくれるか、俺はガチャってねえ。
「――でも、成る程――イゾウのいう事じゃないけど、君の傍には厄介事が吹き荒れてるんだから――」
「お前まで低気圧呼ばわりすんのかよ」
「吸引力の変わらないどころか、年々増してってる気がするけどね――」
「――随分と、のんびりと会話をしておるな? んん?」
そう思うなら、さっさと消えてくれませんかね、本編みたいに。
「読めるもん、あんたは。本体じゃないだろうし、魔素見るに『運命石』も無い状態みたいだしね。
そこでどんだけのモノになっても、ザコのボス程度だと思うし」
「――――」
……いや、予想はついたけど、煽るなって言うのに……
「――確かに、本来の手は殆ど無いが――
それでも、この『虫食み』の効能を舐められたものよな――」
そういって相手は、もう一本アンプルを取り出し――おい、飲むのかよ。
「いや、普通に『失敗作』だから、それは」
――お前、なんだって?
「――あんたの使ってるその薬、うちの結社でも研究してた奴が居たのよね。
つっても、古い文献から引っ張り出してきた奴を、擬似的に合成しただけのだったけど。
結果は失敗。『邪化』の様な効能に至る事は無かった。
当人は気取って『蝕魔の霊薬』なんて呼んでたけど」
「成る程、これは奇縁――それを持ち込んだ者と知己であったか。
もっとも、儂のそれは『原物』により近いものだが――」
「馬鹿ね、そもそもそいつは――ってまあ、そっちはいいんだけど――
『失敗』の理由は『濃度』でも『組成』でも無いのよ」
こいつ、ほんと――なんであの時『通信機』ぶっ壊したし。
「ジン、取り合えず、諸々の説明は後でするから、全員退避――」
「おう、イゾウ。元々はお前が投げた事なんだから、雑用、するよね?」
「……状況は――」
「おう、イゾウっち、私らも行くから、警備員さん達逃がすぞ」
「――流したの確かに俺だが、こんな事になってるとか……」
「まぁまぁ」
言いつつ出ていく、イゾウ達。
「――なんで残るかな」
「攻略法を知っておこうかとね」
「――随分、安直に考えておるようだが――
この肉体は魔力があれば、無限に再生を出来る。
対して主らは――」
「――うわ、好都合だわー。ジン」
「なん――
「『妖精踊環』」
――どあっ!?」
バギャッ!!
「ぐっ!?」
お、お、まえ――
「いきなり相手にむけて飛ばすとか、何考えてんだ!?」
「いや、ほら」
ビキキキキ……
「――『脆弱化』するのが、なんだね、すぐに再生を――?」
パチ――バチバチ――
「バランス取るのが死ぬほど難しいのよ、その状態。
末端の脆弱化は、組み換えの副作用だから、濃度を薄めて長期投与で何とか出来るとしても――
よほど魔素捜査の上手い奴じゃないと、途中で――」
――バンッ!!
「――ね。魔素が暴走して、体内でも周囲でも暴発する」
「――俺を投げつける必要性は?」
「さっきのお返し」
バンッ!! バンバンっ!!
「――成る程、これは予想外だった。前の時は戦闘はせんかったしな。
そもそも、あの男、そこまでの事は言わなんだがな」
「――まあ、何処までの関わりか知らないけど――
……って、まあ、それも言わなくて良いか」
……ならチクリと言うなよ。相手、微妙に不愉快そうじゃん。
「――まあよい、これもまた一つの知識。
これで、また一歩完成に近づけるわい」
そう言うと、破裂し続ける肉塊から、不意に気配が消えた。
「――逃げたか。ジン、アレ、本編以上にめんどくさそう」
「見りゃ分かるわ。問題は――」
「ん? ああ、アレ? 心配無いよ。すぐ壊れるから」
――パンッ
最後に一つ乾いた音を残し、巨大な肉塊は反応しなくなった。
「――さて。どうしたもんかな」
「――とりあえず、寒いので、あったかいとこ行きたいんだが」
「――『転移装置』は?」
「カティのビームで吹っ飛ばされたよ」
……ほんと、ロクな事しねえな、あの婦警……




