『04』/10
――時間は少し遡る。
「さーて、こちらの話はいたって簡単な事だ。
『知ってる情報があったら話す事』――素直に言ってくれりゃ、こちらも労力を掛けずに済む。
そちらも体力を消耗せずに済む。余計な時間を浪費する事も無い。
お互いにウィンウィンだ――な?」
……いや、あのさ――手にマキザッポをパシパシやりながら言う事かよ。
どう見ても『悪徳婦警』です、あるいはそういうプレイです、本当に(ry
「し、知らな――」
「わけ・ない・じゃん」
ガスッ
「んぐぅぅぅぅ!?」
「この間は『森林監視員』で今日のシフトは『怪しげな施設の警備』って。
やらかして逆なら分かるよ。罰当番で外ならな。
罰でより重要なとこにって意味わかんないよ? ん? ねえ、おい」
おいおいおい、小指踏むなよ、いてえ。
『尋問とか面倒だし全員倒そうぜ』とか言ってた奴のやる事かよ。
「じゅう――重要なっ、事はっ、しらないん、いぎぃぃ!?」
「ほほう? 知ってる事は有るって事だな?
言え言え吐いちゃえ、見た感じ、恩義だの忠誠だのがある訳でもないだろ? あん?」
「……ザミー、お前の相方って……」
「私にも分からん……というか、私も、先祖の借りをアレから取り立てに出向いただけですし……
大雑把に居住地だのは調べても、それまでどんな婦警生活送ってたか迄は、さっぱりですし……」
だってあんた、手馴れ過ぎだよ。
相手の格好見ろよ、どっかで見た事のある捕虜映像かよ。
――この状況の説明をすると、だ。
まあ、歩哨でウロウロしてた奴の中に、この間の『そんなおっぱいに屈しない』さんが居たんだ。
物のついでと捕らえて尋問する事にしたのだ――したのだ、つか、カティが走っていったんだが。
――つか、カティ、只の婦警にしちゃ接近戦の捕縛格闘も強いんですけど。『ザ・ボス』かよ……
――やめやめ、脛をつねるな、いてぇ……
= = = = = =
「俺たちは――ギルドの中央から派遣されて来てて、本当にただの、警備なんだ」
「出入りしてる人間の名前ぐらいは分かるだろ?」
「ほとんど知らない。出入りの業者位は知ってるが、内部の人間なんて殆ど――
そりゃ、所長の名前位は知って居るが、会話する事は先ず無い――したくも無いが。
――というか、こんな所にやって来る位だ、分かるだろ」
「――『転移装置』か」
あー、まあ、あるだろうな、と思ったが。
「そうさ。俺たちは外回りを見回ってるだけで、中はほぼ知らん。
所謂『内勤』連中は大概そっちから出入りしてるんだろうし――そもそも、そんなに人数がいねえ。
さっきも言ったが、ウェイとか言うあの所長は、自分の研究に没頭してて、顔を合わせる事も無いしな」
「……ウェイ?」
「――ん? ウェイ?」
え、待って。やな予感がするんだけど。
「ああ――不気味な親父だよ。常に覆面つけてる。たまに届く研究資材は訳解らん物が多いし――
研究室から悲鳴が漏れてるとか、不気味な獣の声がしたとか、そういうのには事欠かない。
しかも――こっちの苦労なんかお構い無しに、好き放題だしな」
「好き放題?」
どうせ碌な事じゃないだろうけど。
「ああ。機密を守る為になら、外に何も出さないほうが良いだろうによ。
『失敗作』を勝手に貴族連中に流して、資金を集めたりしてるらしい。
偶に、極々偶にだが、でかい荷物が搬出される事があるんだ。
というか、俺が外に居たのも、あの親父のザルな警戒意識のせいで、実験体が一体逃げたとかいう話でな」
「――おいおい、いきなり随分と話すじゃん?」
「――言ったろ? 俺は、というか、『警備』連中は大概が派遣されて来ただけだ。
――正直、あんたらが、あのイカレた親父を止めてくれるなら、それもいい。
仕事は無くなるが、俺らの責任ででないなら、幾らでも後はあるだろうさ」
『研究者』で、『ウェイ』で、『イカレてる』って―ーあのだな。
「……ジン、なぁんか、『強力なパワーストーン』の匂いしねえ?」
おい、やめろって。フラグ立てんなって。何ニコニコしてんだ。
「――因みに、フルネーム知ってる?」
「……どうせ偽名だと思うぞ? 書類には、『ウェイ=クビン』とか署名されてるが」
ワー、ロマサガダナー、『魔ノ島』ノ魔術師ダナー。
「――じゃねえ。アウル?」
「いや、どうでしょうね。確実には対峙してみないと分からないけど――
――イゾウさん達の出た分のとは、違う様に思いますけど」
「――まあ、会ってみれば分かるだろ」
だから、なんで嬉しそうなんだあんた。
だから、そのパシパシ止めなさいって。相手がビクビクしてるでしょうが。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「――どう見る、呉用」
一方の呉用たちは、手助けされた娘と一緒に、ゴドンウェイまで戻っていた。
「――『エルフ』が様々な研究に手を染めているとは聞いているが、確たる話は聞いた事が無い――
その点含め、これは恐らくは――その研究者の独断だろう、とは思うが――」
「うむむ……あの娘さんや我等の様に、外の住人か?」
「――可能性は半々だが――」
「父さん――」
娘に呼ばれて、そちらを振り返る呉用。
「どうだ?」
「熱は下がってきてる。急激にじゃないけど」
「うむ――内部で害に成っている物が中和されても、体が直ぐに治る訳では無い。
別を入れた場合の反応が分からんから、回復剤の類も入れられん、様子見だな」
「はい」
「――フィガロは?」
「あ、はい、食材を買い足しに出ました――食い尽くされた、って……」
「そうか――まあ、資金は『二位』勢力から持って来る様に手配する」
花栄は頷き、再び呉用に向き直る。
「――研究者の方は、先ずは置いておこう。
ジンたちが何とかするだろうし、考察には因子が足り無すぎる――
むしろ――差し当たり、あの娘さんだ」
その言葉に、頷く呉用。
「うむ――『彼女』は確実に、我等と同様なモノだ。
気絶する前に言っていた『地名』、この世界には無かったはずだ。
――廃村の類までは分からんがね。そうなると、恐らくは、という論法だが――」
そう言って、『彼女』を見遣る呉用。
其処には、ソファーに転がって寝ている、『村娘』が居る。
「……只人の類か? 鉄牛の様な剛力だったが?」
「――とは言えまい。流石にな――あんな人が気絶するような『投擲』、出来る様に見えんし。
が、それが最初からなのか、それとも彼女が施されたという『何か』のせいなのかは、分からんがね」
呉用の言葉に、花栄は頭を掻く。
「……『きどらんと』『そーもん』『ひらが』『ぽーる』だったか。
俺も調べてみるとしよう――まあ、可能性は薄いとは思うが、ギルドにでも問えば、有るか無いか迄は――」
「ああ。だが、あまり大きく動かない方がいいな。
意味を知って居る者に、ここにいると喧伝する必要は無い。
まずはジンたちの動きを待つが良いだろう――婚礼の儀も在るし」
「――『ニーナ=コッペリア』、か。
……名も格好も、こちらの住人としてありふれているのだがなぁ……」
その言葉たちの意味を知らない二人は、飯を腹一杯食ってすやすや寝ている村娘に、溜め息を吐いた。
・ ・ ・ ・ ・ ・
――さて――事態は、ぬるりと動き出す。
「――嗅ぎ回っている鼠が居るとは知っていたが、まさかに直々に会いに来るとはな」
いや、だって、あんたが『ソレ』ならいきなりは逃げないだろうし。
「――あんたが、『ウェイ=クビン』か?」
「如何にも、と言いたいが、好きに呼ぶが良いわい。
名前なんぞは容器に貼られたラベル程度のモノだしな」
……うーん……実に、それっぽい反応をしよる。胡散臭さ◎って感じ。
「――見たところ、碌でもない研究を、この世界でもしている様だが?」
なんだよ、その背後のでかい水槽。不老不死研究以上の何かに目覚めちゃった?
「――ほう。『この世界』、か。主も外の者か。そして儂を知って居る――ふむ。
――とすれば、主は、例の『石ころ』を求めてきた類か?」
「――いいや。お前の研究が遠因になって、ややこしい事態に巻き込まれたんで、その礼にな。
ついでに、原因を潰しておくか、と――まあ、ついでだよ」
実際、証拠を押さえれれば楽かな、と思ったが――白を切られればそれまでだし。
「おほほほ、怖い怖い。
『マルディアス』の連中は、大なり小なり理由が在ったが、御主は物のついでで儂を殺すか。
だが――うん、黙って死んでやる訳にはいかんのう」
「……お前、『ウェイ=クビン』じゃないだろ」
「何故そう思う? 儂が『マルディアス』と呼んだからか?」
「いいや。敵意を向けてるのに、さっさと逃げなかったからさ」
ドガァ!!
「こんちわーっ!!」
バスッ!!
通風孔の網を破って、カティが背後から相手を撃つ――なんで『宇宙海賊』風。
その胸には大きな穴が開き――
「……なんじゃ、それだけか?」
「――おおう。まじかよ」
バシュッ!!
二弾目は頭を的確に撃つも――
「無駄じゃよ」
「――だろうな」
「――そっちの小僧は気が付いて居ったか」
気が付くというか何と言うか。
余裕が在り過ぎるんだよな、逃げるでもないのに。
「――どうだ、アウル」
「ほぼほぼそうですね。中身がそうかまでは分かりませんけど」
「――その『器』、誰に用意してもらった?」
「『用意してもらった』!? ふはは!! 蒙昧!! 蒙昧だ!!
儂を知って居ると言っても、そこまでの様だな!!」
うっわ、本編も大概にイラっと来る奴だったけど、磨きが掛かってるなこのジジイ。
「じゃが、教えぬよ――手札は幾つあろうと、隠しておくべきだ」
「要らんよ、想像は付くし」
「ほう? ほうほうほう――普通の連中より、鼻が利くか『御節介焼き』か――
いや、そこは良いわ――折角なのだ。儂の実験に付き合え――」
そう言うと、見てくれはどう見ても死体にしか見えないそれは、アンプルを取り出した――うわ、まさか……
「中々、都合の良い素体が無くてな。
先日の娘っ子は、別の実験が上手く行ったのは良かったが、御蔭でこれは全く効かなくなったからのう……
もっと前の『エルフの末裔』と『転移者』は、対象が手元に居らず、経過観察には向かないと来て居る。
――全く。捕らえてくる事も出来ぬとは、使う相手を――」
「聞いても無い事をべらべらと、ありがとうよ!!」
バシュッ!!
「――説明は最後まで聞け、然る後に動くが良い――さもなくば、ほぉれ――」
――ガチャン!!
「――おい、生きてんのかよ、それ」
カティがビビッたのも、無理は無い。
水槽を破って出てきたのは――
なんと言うか、阿修羅とか明王とか、そういう仏像あるじゃん、あれ。
ただしその顔面が、虎・狼・蜥蜴だけどね……なにやらかしてんだ、この狂魔術師。
「一度動けば、長くはもたぬのに、わざわざ起こすとは、罪作りな事をするわい」
「よく言う。自分で合成したんだろうに。起動もお前がした癖に」
「入っては成らぬ場所に忍び込んで、死に掛けておった連中だぞ?
生かしただけありがたいと思うがな――さて。その様子では、素直に協力はしてくれんか」
「お前、実験台に成れって言われて、そうですかって言うかよ」
おーい、カティさんや、ノリノリなのは良いけど、どうする気だよ。
「てめえからは下種の匂いがプンプンするぜ。
偉大な先人の言葉を借りるなら、『ゲロ以下の匂いがプンプンする』って奴だ」
「随分な言われ様じゃな。まあよい。
で? どうするというのだ? 見てのとおり、儂を『殺す』事は出来ぬ訳だが――」
「なもん決まってる――」
バシュァァァアアアアア!!
「ぬう!?」
「全部焼き潰せば終いだろうが!!」
えええぇぇぇ!? ちょ、なにそれ!? 後ろの壁に大穴空いたんだけど!?
「おい、ザミ子、なんだあの『バスターライフル』!?」
「……その、うん、所定の手順で撃つと、ああなるんですよ、あの銃……けど……」
「ああ、くそ、ここでかよ!?」
――って、おい。銃身死んだじゃねえか。
銃身赤熱して融け落ちるとか、初めて見たわ。
「――危ない危ない。それ程の『魔力』が直撃したらば、流石にこの身も持たぬのう」
うーわ、おまけに相手、ケダモノ明王を盾に生き残りやがった。
「もっとも――『魔力』は儂の『餌』じゃがの」
……あんな機能のあるウェイ=クビンとか聞いてない。
欠損とか、再生して行ってるぞ――って、アンプルねえけど、ひょっとして……
「さてさて、一旦やった実験故、面白い事も目新しい事も無かろうが――
これだけされて黙って退くのもつまらん――」
あちゃー。おまけに、ケダモノ明王と融合して行ってるんだけど……
「四肢を落としてから、存分に実験に使うとするか――」
う、うーん……雲行きが……
「――弱ったな、どうしよう」
「……今度から、突っ掛かる前には装備確認してくれ……」
「そうだそうだ」ヒョコッ
「暴走すんなとは言わんが、後先は考えてくれ、頼むから」
「そうだそうだ」ピョコッ
…………
「どっから湧いた、アビー」
「――ワタシ、タラール族のアイシャ。
こんな遠くまで来たのは――あいいいぃぃぃ!?」
「状況考えてふざけようよ、魔女っ子BBA」ギリギリ
「イダダダダ、ギブギブギブ!!
蔦で頭絞めるの止めろぉぉぉぉ!! 漏れる、脳漿漏れちゃう!!」
うるせえ、どっから湧いたって聞いてんだろうが、このアホ。
「――うわ、なんだ、この状況……」
……お前まで、何故生える、イゾウ。




