『04』/08
儀礼的な意味での『婚礼の儀』は恙無く進み、終わった。
これで、『異天の勇者』が、一角とは言え『廷臣派』と縁付いた事になる。
だけではない。『聖樹教』は『醒天』と知己がある。考えも近い。
つまり、『異天の勇者』は立場的には、ほぼほぼ『廷臣派』に近くなった。
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「――なのに、何故こんな――?」
「――さてさて、何故だろうな」
手に持っていた花を火にくべながら、『二位』が答える。
「自分たちの勢力が伸張する機会に、何故引っ掻き回しに――」
「それも、これ見よがしに、『竜の怨念』を演出してな」
「……『二位』様――いいえ、『デュランダル』。正直に、というか、忌憚無く答えて。
幼い日にほんの一時遊んだだけとは言え、友と呼んでくれるなら――」
こいつは『幼馴染』と自分を言った。
本当に幼い日に、一時だけの馴染みだったのだが。
――それでも、彼は、自分をちゃんと認識している。
「――懐かしい名で呼ぶ。何、簡単な理屈だよ。
『廷臣派』や『上のエルフ』が考える事と、『一位』の思考が違う、とな」
「――じゃあ、これは、『一位』では――」
「恐らくは違う――まあ、立場がある故、加担を要請されたなら、と言うのはあるがな」
「……それでは、この――」
――ドォン
「――『襲撃』は、何処の誰の思惑です?」
「さあて、な――本当に『竜の怨念』かも知れんぞ?」
赤く染まる、窓の外の雪を見ながら、『二位』は呟いた。
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儀典が終わり、夜会の宴も一時間程過ぎ――宴もたけなわとなった頃。
不意に、窓際に居た領主が、グラスを取り落とした。
「……な、なぜ――」
わなわなと、窓を見ながら呟く彼に、列席者達も窓を見る――
――そこには、竜の首が浮いていた。
一瞬静まり返り――次には一点、悲鳴と怒号の飛び交う狂乱場となった会場。
単なる思い過ごしでは無い、とばかりに、竜の首は炎を吐きかけ――
・ ・ ・ ・ ・ ・
「――助かったぜ、ツブラ」
「ああ――エレーナ嬢も、問題ないか?」
「はい、大丈夫です――ですが……父は……」
嫌な予感が当たってしまった、とツブラは溜め息を吐く。
――一方で、まだ『完全には』当たっては居ないと、自分に警告し――
「――お父上の事は残念だが、今は自分たちの身の安全を確保すべきだ」
「くそ、武具置いてる部屋まで、かなり距離あるからな……」
「守りながら戦う事より、安全な場所に退避させるべきだな」
何故、そう思っているのか、ツブラ自身、確信が在る訳ではない。
――ただただ、唐突にそういう場面を幻視する事があるのだ。
――単なる想像なのか、はたまた違うのか。
或いは、完全に発現していない何かのスキルの影響か。
――何れにしても、垣間見える場面は、あまり面白いものではない。
今回の場合――最悪なのは――シロウが彼女を殺す場面。
ただし、場面の前後が全く分からない為、何故それが起こったのかが分からない。
「――タスクやリュート達とも寸断された。アレを俺ははっきりとは見てないが」
「ああ――『竜の首』だった。俺がやった奴だとは思うが」
「――丁重に『埋葬』したんだろ?」
「勿論だ――タスクが『蛇の恨みは怖いからな』とか言ってたぞ」
だとすれば、単なる『屍竜』の類か? と黙考するツブラ。
自分は諸事で少し離れたから、それを埋めたタイミングには居なかった。
タスクは『聖樹教』――言うなれば『宗教』に近いから、その辺りは本当にちゃんとやれたとは思う。
同時に、竜にそれが通用するのか、と言う疑問は確かにある。
――だが、タイミングが、良すぎないか? と自分に問い掛ける。
「お話中、失礼。『一位』様はご無事に脱出されたのは、確かなのだな?」
「ええ、連れて来ていた兵を取りに行き、掃討すると――」
「――然様か。良かった、先ずは、一安心だ」
そう言って、緊張を解く『廷臣派』の一人。
「――ゲナコフ様、供回りの責任を問われる事は無いと思います――あの混乱の場だったのですから――」
「ああ、うむ――だが、失態ではあったな、互いに」
「――互いに? パニックが発生したにしても、退避の手伝いも――」
「け、警備は本来、当事者国の――」
相手の口から漏れた言葉に、シロウから闘気が漏れ、相手が引く――そこに割って入る。
「……言っている場合ではない、ゲナコフ候。
責任の問い合わせは、無事に帰れてからにした方が良い」
ドオン――ドオン――
「……あの爆発に巻き込まれない様に祈りつつ、な」
そう言ってツブラは、周囲の様子を伺い始めた。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「――やらかした……あんだけ大見得切って置いて……」
四つん這いで打ちひしがれているユートを横目に、シオは考えていた。
「あんなモノが出て来るとは誰も思いませんよ、流石に。落ち着いて? ユー君」
「うう、何たる有様か……ジンに大笑いされる……」
「いやいや、いいから、逃げましょうよ」
「――何処から、来たんだろう?」
回りの会話を一切無視して、そんな言葉を呟くシオ。
「『竜の首』なんてモノが『飛んできた』んだったら、絶対監視の目に引っ掛かる」
「――『思念体』の可能性は?」
ミカ――『三位』の言葉に首を振る。
「――そっちだと、成るスパンが短過ぎると思う。
仮にそうだとしても、安定してない状態で、小一時間も暴れ続けるのは無理があるはず――
まあ、それは『屍竜』でもだけど――それ以前に、粗めに組んでいても――」
「……俺の張ってた、『清浄』の術式に引っ掛かるか」
立ち直ってきたユートに頷く。
「――ジンも大概だけど、貴方も大概ですよ……
『清浄』の術式を並べて『警報』代わりに使うとか、思いも寄らなかった」
「アレ、本当は『虫』想定してたんだけどな……ほぼほぼ無意味になったな」
「いいですねぇ、ユー君。独自術持ってるとかカッコいいですねぇ」
「――無限エリクサーが何か言ってるが、まあ、さておき……」
どうするか、とユートが言おうとする――
「――なー。みんな、何とたたかってるんだ?」
――不意に、カーラが言った言葉に、全員がそちらを向く。
「――何と、って――うーん……『お化け』、なのかな?」
ぶふっ
「クランツさん、語彙が不全起こしてますよ。『お化け』って」
「いやいや、何ていや良いのさ!? 俺も見てないし、お前も見ては無いんだろ――」
「――待って」
不意に、カーラの方に向き直るシオ。
「――カーラ、『竜の匂い』する?」
「しないよ?」
「――どういう事?」
「カーラは、鼻が利くんですよ。普通の人間よりもずっと」
「俺も『りゅ――モガモガ」
「うん、後でゆっくりと自己紹介しようね――」
「むーぐ」
今更、『三位』に隠しても仕方ないだろうに、と、ユートは苦笑する。
「――じゃあ、やっぱり、実体が無い?
……でも、言われてみると――確かに『屍竜』の順をすっ飛ばしてる気はするな」
倒されたという日付から考えて――と頭を回す。
「――というか、適当に暴れ回ってるって印象だな。狙うなら、倒した相手だろうに」
クランツのその言葉に――不意に。カチリと。
「――まさか――」
何かが噛み合った様に感じ、窓の外を向く。
それはユートも同じだった様で――
「――『陽動』だ、これ」
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「――だろうな」
マリーの言葉に、『二位』が返す。
「――目的が分かってて言ってる――そう捉えて良いのかしら?」
「『一位』の目的までは分からん。だが、この状況を編んだ奴の考えている事までなら、読める」
その目に宿る面倒臭そうな雰囲気から、凡その当たりを付ける。
「……まさか――『予言』とでも?
『上のエルフ』でも、一部だけが知るという、それに沿って動いているとか――」
そんな御伽噺めいた理由で――と返そうとしたが、相手がそれを遮った。
「――逆なら、どうだ?」
「……予言の中の状況を再現する事で、結果を招こうとしている、と?」
「生憎と俺は内容そのものを知らんが、そこのメイドは、知って居るか?」
振り向いた方には、隠し通路から出てきたシゼル。
「――唐突に何事ですか? あ、御嬢様、ある程度の避難は完了しました」
「『上のエルフ』の『予言』についてだ」
「ああ、なるほど。生憎と殆ど知りませんね。まあ、知らないなりの知識でお答えするなら――
体裁は『詩集』みたいな物で、読み手によって印象が変わる部分も大きい物らしいです。
――『予定表』の様に捉える者が居ても、不思議では無いかもしれませんね」
「――何らかの形で『断片』を知り得た奴が、それの状況を作り出そうとしている?」
何の為に――とマリーは考え――
「『予言』の成就そのものが目的、ではない?」
「――ほう?」
「――『場面の再現』が目的なんじゃないですか?」
そう呟いた。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「だとして――狙いは――なんだ?
そんな『御伽噺』『神話』の場面の再現なんて、わけ分からん事の狙いは?」
「分からない。けど、『何が起きても不思議じゃない状況』の演出だと思う」
ちっ、と舌打ちし、ユートは不意に床に手を置く。
「『光指』『展開』」
「ユー君、『魔力』要ります?」
「借りる。背中に手置いて」
「はい」
「――『延長』――『六角陣』」
「お、おおお?」
地面にパチパチと走った光の線は、次第次第に六角形を描きながら広がっていき――
「――やべ――お二人!! 上階東奥の部屋に!!」
「カーラ!!」
「あい!!」
ユートの言葉に、シオとカーラは窓を蹴破って、上に飛んだ。
「どうした!?」
「何でそうなったか、さっぱり分からんが――」
・ ・ ・ ・ ・ ・
窓を突き破って、二人が突入すると、其処には数人の人影――
「――状況がさっぱり分からないけど、なんで『勇者』同士で切り合ってるの?」
対峙する『力』と『堅』の勇者に向け、そんな言葉を発するシオ。
――ジンが居なくて良かったかもしれない。
下手をすれば――『昔の友達』を、『仕留め』なくてはいけないのだから。
そんな事を、静かに考えながら。
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一方――
「やれやれ。とんだ御転婆に成ったものだな」
駆け抜けて行った背中を見送り、そんな事をぼやきながら、『二位』もまた行動を開始していた。
「――このままではのっぴきならぬ事に成るのも確かだが、王族の姫が、なあ」
言う言葉の割りに、その表情は笑顔。
「――さて、では――」
近場から響き渡る炸裂音を聞きつけ、にぃ、と笑う。
「俺も、遊ぶとするか」
その目には――獰猛な敵意を宿しながら。




