01/【Ⅶ】
自分で『邪神だろ』って言っておいてなんだが――
『邪神』がこんな『ちっさい奴』だとは思っていなかった俺は、少し困惑しながら歩いていた。
「おい、今、普通に失礼な事考えたでしょ」
「いや、事実としてちっさいじゃねぇか」
「やかましいですよ。エコモードなんだから当然です」
そうやって気にするから余計に『幼く』見えるんですけどねぇ……
「というか、そもそもの誤解があるんですけど――『邪神』じゃないですよ、私」
「……『旧支配者』?」
「いあいあ――違います。分ってて言ってますよね?」
……まあ、このフォルムで『神』とやらとガチ戦闘して、世界の軸一本叩き折るって――
どこの冒涜的魔女っ子アニメだよ、とか思わんでは無いけど……
「……じゃあ、何だよ、お前……」
「何って――具体的に『何』ってなると、『メニュー』ですね」
普通の『メニュー』がいあいあ言わねえよ……『ウiンドウズ』って、そっちの『窓』じゃねえから。
「――前提として、『敵』ではないですよ。『味方』になるのか、って聞かれると貴方次第ですが」
「……のこのこ出て来て置いて、その言い草は無いだろ……」
「……まあ、そうですが。実際問題、私個人の立ち位置に関しては、『邪神』寄りなので……」
おい、漏れてるよ、重要情報……
「というか、聞きたい事って何です? 言って置きますけど、全部は話せませんよ」
「――介入がばれるからか?」
「…………」
うん、そんな苦い顔しなくても、察しがつくから……
「記憶無いという割には、随分と自分の世界の頃の知識が豊富でらっしゃる」
「『記憶』が無いんであって、『知識』はあるんだよなぁ、これが」
――まあ、『此処』来て更に詳細に思い出して来てもいるが。
というか――インフルエンザでの死が、夢の中めいて感じる、と言うか――
じゃあどうだったって確信無いんだけど――こっち優先だしな。
「んで、そういう察しの付け方出来るって事は、お前も俺ら同様の『転生』だか『転移』だかの――」
「面倒な人だなもう、世界の根幹部分のところの話を山勘で当てに来るとか」
当たりかよ。てかごまかせよ。
「まあ、私はデータを参照してるだけですけどね。という訳で、『転生者』ではないです」
参照て――でも、そう言ってるって事は、外部からの存在に対応出来る様には出来てる、って事だな。
――そうなると、この世界ってのは、一体何なんだ、って話になるが。
「さあ? 『神々の遊び』とやらなのか、『ヴァン=アレン帯』的なモノに蓄積した情報の渦なのか――
そこまでの根幹は『知らない』ですからねぇ――」
あ、やっぱり成り立ちは知らないんですか、そうですか。
……素直に言ってくれてるなら、だが……やれやれなんダゼ……
・ ・ ・
「『世界』の成り立ち、不明。『神』の正体、不明。
『魔術』は存在するが、『科学』も一定度の進捗……」
「ぴんぽーん、世界情報が追加されました」
「……この世界は外部世界からのなんらかの影響を受ける形で存在し――」
「――――」
「ほら、ぴんぽーん、言ってみろよ、不正解か言えないか知らんが」
「そういうメタい角度から探り入れないで貰って良いですか……」
「じゃあ素直に吐けよ」
「言える事はある程度言ったじゃないですか……というか、本音が漏れてますよ……」
どうやら彼女は、『オペレーター』としての存在を、『邪神』が改造したものの様だ。
『メニュー』、ってのはその通り――ただし、『応答システム』らしきモノに手を加え――らしい。
……いや、考える事多過ぎて、話半分で聞いてたから、その程度の理解なんだが……
――となると、この世界のベースは、『ゲーム』なんだろうか――
……『ゲーム』って言ってもまあ、『電脳遊戯』『卓上遊戯』から『マネーゲーム』まで色々ある訳だしな……
「――まあ、それより、この後どうしたらいいんだ?」
「知りませんよ。私、単に『機能説明』で出てきただけですし」
「……ええと……チュートリアルですか?」
「そんなトコなんですけど――貴方相手には要らないですよね?」
投げんなよ。初心者以外は蹴り出すって何事だよ。
「――ヒント位いいじゃん」
「『神』を倒してください」
雑。ヒントですらねえ。
つか、『世界』寄りの存在なのに、『神殺し』頼んでくるって、何事よ。
・ ・ ・
結局、このメニューさんは碌な事を知らなかった――言わない権利を行使してる可能性も有るが。
いや、まあ、期待はしてなかったが。
期待してなかった理由的には、色々有るんだが――
『邪神』が存在していたといわれてる『時代』からこっち、下手すると数千年単位で時代経過が起きてるからだ。
その後に何もない訳が無いし、そうなると『当初目的』が保持されてるとは考え辛いし……
邪神の衝突当時の『事情』を伺ってもいいんだが、まあ、『本体』じゃないなら正確でもないだろうしなあ……
「で、何時までついて来るんだ?」
もう手も離したし、ハウスつってんのに、なんで俺の横歩いてんの。
「いえ、そもそも私、『貴方』の一部ですよ。
『貴方』を形成するシステムの一部なので、何時までも何もないですね、ずっとです」
……ナニイッテンノ、コイツ(A')
「あ、そうか、『賢者』が飛ばしてた『使い魔』のお仲間かな?」
「『メニュー』です。『使い魔』ではありません」
――いや、だから、だな――
「あ、そうか、『異世界転生』にはお約束の『謎存在様』からの贈り物か?」
「『神』が実存してるのに『謎存在』もへったくれも無いでしょうに。
まあそもそも、『神』というよりは『上位存在』というべきでしょうけど」
「――待って、ちょっと整理させて」
え、なに? なんだ? ゲームっぽい世界に転生して無双するお話じゃないの?
そうだよな、多分そうだ、そうに違いない、そうであるといいんじゃないかな!?
「――よし!! 分かった!! つまりこれは――」
「違います。『VR』じゃ有りません。貴方の出身世界から見れば、正真正銘『異世界』です」
「被せて否定しなくてもいいじゃねぇか!?」
「……『記憶』が無いのも難儀ですねぇ……」
「――ひょっとして、来る前に説明されてる?」
「――『邪神』の頃の『記憶』を辿ると、そうですね――
……まあ、『邪神』そのものもうろ覚えだった臭いですけど」
……何処まで突っ込んで聞けるもんなのやら、さっぱり分らん……
あれこれ『聞く』のには『情報クリアランス不足です』とか言いつつ、色々漏れてるし……
「――『邪神』も『俺』も、『同じルート』で来てるから、こういうシステム?」
「そうですね――そう考えて頂いて大丈夫かと」
「……『賢者』達は、『別ルート』?」
「そうですよ――まあ多分、あっちもメニュー位はパクっ――
――っととと――『利用』してるとは思いますけど」
……何があったんだ、おい。
「まあ、『連れてきた奴』が違うと考えれば、辻褄は合う、のか……?
「……貴方に寄せて言うと、利用してる『プラットホーム』が若干違う、と考えて貰った方が良いかな?」
……And版とリンゴ版かよ……どっちがどっちとは言えないが……
「というか、マジで何を求められてるんだ、俺は――」
「分りませんよ。私自身が引っ張り込んだ訳でもないですし。
――『開拓』が本来の役なんですけどね、『私達側』は」
……すごく重要そうなこと言われてる気がするんだが――
「……いい加減、はぐらかさないで、するっと言えよ、お前……」
「人聞きの悪い……ええとですね。『メニューのシステム』としての私の名前を名乗ってませんでしたね」
「――ええ、はい、まだだね」
「『AnotherWorldReclamationUnit』、
略称、アウルと言います――まあ、『アウル』ってのは『邪神』に後付で付けられたモノですが。
というのを、多分言われてます、『転生』前に――
さっきも言いましたが、私自身の管轄とは違うので、確実に、と迄は言えないですが」
……『記憶』無いのが大問題であったか……
というか、ダメだな、判断材料が増える一方で、パズルの枠がどの程度の大きさなのかの判断が付かない――
そんな事を思いながら、俺は更に歩を進める。
・ ・ ・
何が起きてるのかさっぱり分からない。
『植物』に『転生』して250年後、『魔王・勇者・賢者』と知り合って。
『時間を過去へ遡ろう』としたら、現れた『メニュー』こと『邪神』の欠片さん(?)に出会い。
『邪神』も『転生者』で、俺と同じ系統で、『世界の開拓』の為にやってきたと言われ。
――設定盛り過ぎじゃね、と思いながら歩いていると――
・ ・ ・
「――なんだ、あの『扉』」
光の粒子が流れている空間に、『扉』が浮いている。
……『扉』、つうか……見慣れている筈の何の変哲も無い『スチールドア』なんだが……
所謂、標準的で、平均的な、回しノブの付いた、スチールドアなんだが……『ファンタジィ』?
「……装飾の凄い、木の両開き、とかで無く、何故……」
「――ああ、『本体』が痺れを切らして出てきたかな?」
「本体って――『邪神』か」
「そう」
「――そして、お前のキャラの定まらない感じは何なの?」
「スミマセン・キキトレマセンデシタ」
くそ、何の真似差し挟んでやがるんだこいつ――要は、ここ開ければいいんだな?
そう思い、『扉』の前に立ち――うわー、何百年ぶりだ、ドア開ける、とか――
ガチャ――ガチャガチャ――
「……開かな――
ガンっ!!
――いがっ!?」
唐突に開く扉に顔面をぶつける俺。
「――すまん、タイミングが悪かった」
そ――外開き!?
「……なんつうお約束な事を……何処の時代の喜劇から抜け出てきたんです?」
「おま、顔面強打した相手に、その反応って……!!」
しかもお前、振り向いた瞬間だから、モロに受けちゃったよ!!
つか、これの構造がおかしいだろ!? 単に『立ってるだけ』で何でそっちに開けないのよ!?
「……相変わらず、人食った奴だな、アウル」
「命令も盛らないで、好きに生きろといって放した貴方の御蔭でね」
「『存在する意味』なんて、自分で探すもんだろうが」
あー……やっとチカチカしなく成って来――た……
「――じゃ、神?」
「――ええ、『邪神』です――」
「その呼び方、あんまり好きじゃないんだが……」
――その顔を見た瞬間――
不意に、本来の世界での記憶がフラッシュバックする。
――といっても、何の懐かしさも無い。
ただただ、スライドか何かを見る様に、脳裏を駆ける光景を見送る。
――その中に、なんで『こいつ』がいるんだ?
「……まあ、入れよ。『従弟殿』」
「――言ってる意味が分からないんだが」
「かもな――あの死に方じゃ」
「……何?」
「頭、パーン、だし」
……『北斗ザコ』?
・ ・ ・
「――ええと。もっかい」
俺は、告げられた自分の死因に、頭が痛くなった。
「何回言っても、内容は同じだぞ?
『私もお前も、心霊スポットに行って、そこでこっちの世界の『神』に殺された』」
「…………」
「特にお前は、頭を――ドパッと撃ち抜かれてな」
「詳しく描写しろってんじゃ無いから……」
なんでそんなモヒカンな死に方――まあ、いいや、『記憶』無い理由分かった訳だし。
……いや、それで納得せい、って言われても困るが、納得するしかないと言うか……
「というか――なんでそんな設定マシマシなんだよ……」
「それを私に言われてもな」
「どうせ『賢者』達もその場に居たんだろ」
「そうだよ」
「訳わかんないって、中二の俺でももっとシンプルな設定だわ――」
「――それも、お前の記憶そのもの、って訳じゃないんだけどな」
「――わかんねぇ、ってか、どれもこれも訳わかんねえ」
『邪神』曰く。
同時に殺された『俺』と『もう一人』を、『何か』が混ぜて『転生』させたらしい。
……いや、意志が働いてなのかどうかは不明らしいが……
――で、魂複数分だから、表示がバグってる、らしい。
――はは、もっともらしい理由だが――乾いた笑いしかでねえ。
思わず上を見上げる――てか、多分だが、この場所のイメージって、その『心霊スポット』か?
……いや、『THE廃墟』って感じだからそう思うんだが……
「大体、この世界の『邪神』が、なんで俺の『ねえちゃん』ポジで向こうに――」
「『神』だって転生ぐらいするさ。
こっちに来た時みたいに、『神』に転生する事も有るんだから、有り得るだろう?」
「……貴方、厳密には最初からそうじゃなかったです?」
「いや、いいから、アウル。話を複雑にすんな。
唯でさえ混乱してるんだから――なあ、『従弟』殿?」
「その呼び方、止めてくんね?」
悪気とかは無いんだろうけど、違和感しか感じない。
「すまんが、こっちも『ザッと』の説明しか出来ん。『そういうモノ』と受け容れろ。
そもそも、こんなぶっ壊れた構造の世界で、現象一つ一つの可否を気にしていても仕方ない」
……其処がそもそも、良く分らんが……
……うん、まあ、言ってる通りのイカレタ構造体ならね……何でも有りかな……
「……複数の『世界』が、『世界樹』に、『ハヤニエ』みたいになってる様な、とか――誰がやったんだソレ」
「知らん――結果そうなった、とも思えるがな」
うん、こんな風に世界の『形状』のネタバレされると思わなかったよ。
まあ、『北欧系の世界モデル』ぽいが――『ユグドラシルにはミッドガルド等があり――』的な。
にしたって、無関係だったのを繋げるとか、何処のろくでなしだよ――
……いや、湧き上がってくる『知識』でいくと、無くは無いけど……
「まあ、それをやった奴の『意図』と、『設定山盛り』なのと、直接の関係は薄いだろうがな」
「薄いんか」
「恐らくは、ではあるけどな。
目的が手詰まるたびに、別箇所にデータ移して再開してれば、設定がダブってそんな事も出てくるさ。
コピペを繰り返してるうちに、手順を間違って、余分なものが増えて――みたいな」
……こいつもこいつで、何でそんなのを分る――
……って一瞬思ったが、よく考えると、そこ考察する場合でもないか……
「――古いゲームにそんなバグ技あったな、ソフトリセットでロードして、みたいな――で、『意図』は?」
「途中参加で途中退場なんでな。知らん」
「『神』と戦ったんだろ?」
「――行き掛かりでな。『意図』まで汲んでる余裕は無かった。それに、戦った相手は『末端』だしな」
「んじゃ、結局『不明』か」
「ああ」
俺も『邪神』も、溜め息をつきながら、アウルを見やる。
「――いや、出来ませんよ?
『テラフォーミング』で世界樹枯らすとか」
「「だよな」」
……『理由』無視で、根から絶やせば、手っ取り早いと思ったのに……