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『04』/01


 オクトゥムの月――『帝国』も、北方では雪の便りが聞こえ始める頃となった。

 この世界に転生してから、15年目の冬がやって来ようとしている。

 

 ……そんな中。俺『ユート=レム』と、『三位の皇継セレ・カハル』――


「こ、これはこれは――ミカレリア様!! 仰って頂ければお出迎えに――」

「いえ、近くを通るに当って御挨拶しないのも、と思い伺っただけですので」


 『ミカレリア=セレ=エリナス』は、『北方域』と呼ばれる地域へと向かっている。

 理由は――なんと言うか、中々な厄介事だ。

 俺が来る必要性は無かったんじゃないかな、と思いつつも――

 彼女が行くって言ってる以上、『第一補佐です』と周囲に強弁された自分が、随伴しない訳にも行かず……


 ……『厄介事』――簡潔に言うとだ。『結婚』の立会人を頼まれたのだ。

 ――誰の、って語るまでも無い気もするが、一応言おう。

 『北方領』の領主の娘、『エレーナ=ジル=マハブラン』と、

 『天拳鬼腕』『力の異天者』、『シロウ=タカシナ』のである。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――忘れてた……こういう要らん仕事が付いて回る事を……」


 ええ、そら、まあ、ね。

 その二人の婚儀なら、貴女クラス動かないとダメですよね……

 適当な人員見繕って『お二人に祝福あれ!!』だと、後々の関係性に響きますもんね、実際……


「ごめんね、ユー君。私もすっかり忘れてました……」

「……後……改めて、『聖女』だったと、思い起こしてた……」

「そっちもごめんね、挨拶だけでもしておかないと、ここの町長さん、悲しそうな顔するから……」


 そこらもなあ……熱心な信徒を悪し様にする訳にもだし……

 ……兎に角……

 一旦休憩、とある街の食堂で食事中だ。


「と言うかほんといい加減『あの爺様』、地位譲るとか何か無いんですか?」

「――私も、思わないでは無いけど――」

「ちょちょ、二人とも、不遜過ぎると消されますよ!?」


 ああただって、思った事有る癖に……ロイエ=クランツ『筆頭巡礼司』殿?


「……ユート、感情ダダ漏れなんだけど……」

「"出世したなフェ○ーリン"」

「誰だよ……」


 いや、俺だって、適当な相手の前では言いませんとも。

 あの無茶極まる『改革』をこなした『戦友』だから言っとるんですよ、ええ。


「仮にも宗教のトップが、生き汚い生き方してるのはどうなんよ、ってだけですよ」

「死に掛けてたあの時に、引き戻すべきじゃなかったかなぁ……」

「――貴方らはホント――なんで俺、こんな職についちゃったし……」

「人が居なかったから」

「実務こなせる人居なくなったから」

「前任者をロアザーリオ辺境の、海の見える教会に飛ばしたの貴女方ですよね!?」


 仕方ないじゃないですか、やだなあ。俺だって関わりたく無かったよ。

 交代の理由、ド級スキャンダルだし。表向きは健康上の理由だけどさ。

 でも、下手な人に頼むと、それはそれで面倒事に発展するし。


「実際問題――

 仕事の殆どを周囲に振り分けして何とかしている状態で、何年経ったよ――

 ――って話ですよ。終身で就いてなきゃいけない訳でもなし」


 というか、そりゃ色々と内部でも発生するわ、って思う。

 何十年と権力の手綱握ってる人間が、生きるか死ぬかじゃねぇ……

 ……そもそもあの爺さん、能力は兎も角――まあ、言っても仕方ない事だけど。

 家柄血筋はいいからな――本人も、別に無能じゃないんだけど……

 辣腕振るったボスに権力集中し過ぎて、当人が年食ってダメになる典型だもんなぁ……


「今回の事だって、元々はあの人が出るって言っててこうだし。体調悪いの喧伝してる様なもんですよ」

「まあ、直々に出て、『勇者』と協調路線取ってるポーズを見せたかったんでしょうけど、ね」


 自分だって思ってんじゃねえか、クランツさんよ。


「止めましょうか。ぶつくさ言ってて山が動けば世話は無いですよ」


 苦笑いしながら、茶を飲むミカ。


「それもそうですね――実際問題、誰が後釜、ってなってもごたつきますし」

「そういう事です――それより、クランツさん。列席者の方は?」

「――内々で行う、との事なので、然程人数は居ませんね。まあ、面子が豪勢ですが」


 そう言われて、渡された資料をめくる。

 ――『異天』はまあ、不自然じゃない。

 『皇帝』の名代で『フラタカンフェル』の当主が来るのも不自然じゃない。

 貴族連の中であまり重要視されては居ないけど、皇帝の直臣扱いだからな、『マハブラン』。

 ……後、お祭り好きだしな、あの『王様』。

 『直臣扱い』? とか突っ込まないでくれ、貴族内の位階のアレは、複雑怪奇なんだよ……


「問題は、何故『二位の皇継デュラ・カハル』まで居るのか、何ですが」


 ――マジで、何で居るんだ? 『マハブラン』、一応、勢力図では『一位エノ』旗下何ですが……


「定期的に冬季演習してるみたいですよ? 今回のは、若干毛色が違ってますけど」

「というと?」

「一ヶ月程前、『タイド』があちこちで在ったでしょう。

 で、北域でも『氷土狼グラシャヴォーフ』の群れが発生したらしいんですが――

 その時に、ロアザーリオから来ていた学者さんが、被害無しで追い返したらしいんですよね」

「――ロアザーリオで、学者って、なんか凄い違和感ありますね」


 おいおい、そういう事言わないで上げろよ、ミカさんや。

 確かにあそこ、軍閥跋扈するヒャッハー領だけども。


「詳報は、あんまり突っ込んで聞けて無いですね――まあ、調べれば調べられますが――

 と言うかまあ、表立った不審箇所無いのに態々聞き込みすると、逆に此方が怪しまれるでしょうし。

 その学者さんも、現地に居た理由としては、薬草の類を探してたって話ですし」

「それが何故、デュラが来る事になるんですか?」

「『氷土狼』って、『聖獣』と看做される事もあるんですよ――『マハブラン』は俗宗も根強いですし。

 それを無傷で追い返した、その人がどうやらロアザーリオの縁故らしいってんで――から、だと思います。

 『直接謝意を伝えたい、ついでではないが、娘の結婚式にも』って流れじゃないですかね?」

「――関係を考えると、不自然な動きでは無いみたいですね。

 招く理由も最初から有って、そこに更に理由が重なれば、『二位』が辞退する事も無いでしょうし」


 ――まあ、そっちはいいや。偶然ぽいし。居た理由までは掘り下げたくないけど。


「――問題は、『一位』からは誰も来てないって事か」

「祝辞・贈物の類は沢山来てるらしいけど、基本、『田舎者』として見下してるからな、『貴族連』――

 まあ、位階やら財力やらで、直接の手出しが出来ない感じも有るけど――」

「――『四位フェル』と『六星連』まで、一緒に『名代』出してるのになあ……」

「――下手すると、分かりやすく、全員纏めて『不運な事に遭って貰う』つもり、かな?」


 ……だから、なんでこの『聖女』、そう物騒なの……


「うーん……必要性がないでしょう。

 『事故』に見せかけて『暗殺それ』を行うなら、対象となる札がもう少し多い時にやるでしょうし。

 『二位』は兎も角『三位』である貴方に手を伸ばす必要性が見えませんし――

 それに、大きな規模で『暗殺』やるなら、自分達の所からも被害者送りますよ」


 この人も大概なんだよな……さすが、『没落貴族』の嫡――


「うむ、美味い――喉が痺れるこの感覚よ」

「か、っら!! ――美味いけど、かっら!?」

「なるほど、これはゴヨウが探しに来たくなる訳だ。俺の国の、南方の味に似ている」


 ……なんだろ、後ろの方が五月蝿いんだが。


「こんな辛いのを求めるって、カエイさんの友人も『奇食家グルマニヤ』の類ですか?」

「いや、別の理由だ――ククク、実にらしい理由だ」

「理由というと?」

「俺の国の南方では、汗を掻く為にこういった辛い料理が生まれたらしい。

 だが、あいつは、身体を温めるという効能に着目してな――

 野営なんかの時に酒だのの代わりにならんか、と研究していた。冬場は其処其処冷えたしな」

「それはまた――食事から体調を、ですか」

「酒代がバカにならん、から始まってるがな。

 飯で腹が膨れればその分は飲むまいと、美味い飯を研究したり――

 その延長で、普段から仲間の体に気を使うのが混ざり――だ。

 こっちに来ても、そういうのは続けているらしくてな」


 ――医食同源の御国はチガウナー……いや、待て、違う人の可能性も。


「まあ、以前は汁物に落ち着いたんだがな、これの類は。

 量作るには丁度良い、とかいっていたが、味も中々だった」

「ふむ――ちと気に成るな。フィガロ、これでスープの類、作ってみろ」

「完成まで俺がずっと味見するんですよ!? 死にますよ!?」

「まあ、ロアザーリオに此処までの辛味のモノはないからなあ、はっはっは」


 ……気付きませんように。どうかどうか気付き……


「――久しいですね、デュラ様」

「ん――おお!? 妙なとこで会ったな、ミカ殿」


 祈りは届かなかった……ああ、やっぱ、そうだよな、うん。

 タイミング的には、どっかで会うよな、行く道多くないもん……


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――『一位』から人が来ない理由?」

「ええ。貴方ならご存知かと」


 ――なーんで、同じ馬車に乗ってるの、この人……

 というか、無造作に聞き過ぎだよ、貴女も……


「来ない訳が無いだろう」

「――教会の諜報網に抜けが有ると?」

「――ふむ。抜けは無いだろう。抜けは無いが、ちと『一位』を知らんな」

「――どういう事です?」


 怪訝そうに問うミカに、デュラは答える。


「アレの脳内は、いかに人を驚かせるか――『場を沸かせるか』とも言い換え得るが――

 どのタイミングで登場するのが一番『効果的』かという点においては、どんな貴族よりも突出している。

 なれば、絶対に来るとも――恐らくは、『異天』に匹敵する様な、『近衛』を連れて――唐突に」

「――何故、言い切れるのです?」


 ミカの更なる問いに、デュラはにやりと笑う。


「それはな、俺が俺だからだ」


 ……何イッテンノ、コノ人……


「――ま、折角だ。ゆるりと愉しむとしようでは無いか?」

「――そうですね。あの『迷宮』に関しての、貴方のお話も聞きたいところですし」

「然したる意見は無いぞ? ひょっとしたら、それなユート=レムの方が、多く知っているかも知れん」

「いえいえ……ご冗談を……」

「ふふん、何が冗談なものか――まあ、いい。そちらの話題に付いても、道々聞かせて貰うとしよう」

「……そちら、とは?」

「分かっていよう?」


 いや、返答したのミカなんで。俺に向けて微笑まれても……

 ……やだなぁ……絶対根掘り葉掘り聞かれる流れだよ、主に、『四位』の周囲の連中について……


「まあ、繰り返すが――気長に行こうでは無いか。まだ道行きは長いのだから」


 ――馬車は進む。

 繰言と謀略の夜会へと向けて。


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