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『03』/REm/09


「おっと――撃破されたな」


 あまり明るくない空間の中。覆面の男が、そう呟く。


「……随分と軽く言う。 計画の進行に必要な者、と聞いていたが?」

「『可能ならば確保、無理ならば排除』の命令な段で、必要度は低いんだろうよ。

 そもそも、最初は別に命令が行ってて、途中からこっちにお鉢が回ってきただけだしねぇ――」

「――以前の俺もそうだったが、少しは口を噤んだらどうだ。

 漏れた言葉が、思わぬ棘となって足に刺さる事もあるぞ――『双顎フタラギ』。

 そもそも、今の此方は単なる手駒――命令の遂行を成せなければ、立場が危ういと思わんか?」

「『真闇マナヤミ』殿は、真面目だねえ――真面目に過ぎるから、行き場がなくなるのさ」


 『黒い全身鎧マナヤミ』から発される剣呑な気配を、『覆面の男フタラギ』は、軽薄そうな態度で受け流す。


「幼い熱情、後生大事に抱えて、あんな戦乱に巻き込まれた俺の言う事でもないが――

 こんな世界に来てまで、真っ当に悪党こなさなくても良いんじゃないのかい?」

「――――」


 剣呑な気配のまま、横に滑らせた『真闇』の指先から、光が閃く。

 音も無く走る炎を、こちらは抜剣し――それに突き立てつつ、散らす『双顎』。


「――ふたりとも、少しは落ち着いたらどうだ?」


 不意に闇の中から、声が掛かる。

 そこには、散らされた炎の残光に浮かぶように、長髪の男の顔が浮かんでいる。


「――おう、『禍衣マガギヌ』」

「主戦力級たる二人が、そう剣呑に争い合っている場合か?」

「じゃれ合いだよ、なあ、旦那?」

「まあ、そうか――本気なら、こんなものな訳も無いものな」

「それに、お前がもう少し働ければ俺も――」


 返答の返らなかった方を見る――戦意は無いのか、腕を組んでいる。


「かつての上司よりは遥かにマシだが、堅物・直情径行の旦那と行動しなくて済むんだがね?」

「もう少し待ってくれ――何せ、今は脚が無い」

「――あの男は、どうした?」


 軽薄同士の会話に溜め息を吐きつつ、『真闇』は問う。


「『瓶』の中に入って回復してるよ――

 『定着』から僅かな時間であの戦力を示すというのは、流石に『実物』があるのは違う」

「――上は、どう判断した?」

「どうとは?」

「分かった上で問うな、『愚かなる王子』」

「そうかっかかっかするなよ、『破れし衣』。

 俺たち『たゆたう者ども』と、彼の様な存在とでは、求められている事が違う」


 そう言って上げた両の手は――欠損から再生しようとする最中の様に、欠けている。


「焦らずとも、問題は無い――展開が上手く行かずに焦れるのも分からんでもないが――

 相手の手の内の深さも分からん内に相手の懐深くまで入っても、俺の様にしくじるだけだ。

 ――かつての貴方も、もっと深く深く、気付かれない程に深く行動していれば――

 あんな引っくり返しに遭わずに済んでいた――それは、重々承知故の、慎重さだろう?」


 まあ、それこそ俺のいう事では無いが、と付け加える『禍衣』に、『真闇』は黙す。


「――まあ、仲良くやろうぜ――何せ――

 腹の黒さを考えるなら、俺らなんて、全く以って大した事無いんだし」


 『双顎』の言葉は、闇の中に静かに溶けて行った。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――『強襲』の上で『拉致』、それが計画だった筈――

 いくら何でも、こちらの指示を完全に無視されては困るのですがね」


 そんな事を話す相手に、『芹沢鴨』と目される男はクツクツと笑うのみだ。

 くいくいと五指を動かし、確かめるかの様な態度に、相手も、方向性を変える。


「……忠告した通り、馴染むまでの時間が掛かるのと、そこからの変性が完結するまでの間は――」

「――やいのやいのと五月蝿い奴だな。結果は残しただろうに――まあ、攫っては来れなかったが」

「……『戦闘力』としての結果は申し分ないのですがね。何せ、我々も――」

「拾えなかったのも、何れ手に入れれば良いだけだろうが。

 玉璽玉宣の類で有るまいに、今直ぐ得なければ事が終わるとでも?」


 そう言いながら、自分の入っている器に、コン、と拳を当てる。

 器の外の相手は――途端に表情が曇る。


「最初に言って置いた筈だがな? 『協力はしてやるが、平伏なぞはせんぞ』、と――」

「……貴方の力の程は良く分かりました。そして、疑いも無い――

 ただ、まだ完全に成っていないうちに、そうはしゃがないで頂きたい、と言っているだけです。

 貴方は、貴重な『成功例』の一つなのです――早々に消耗されては、此方も困る」


 精一杯の強い言葉に、『芹沢』はニコリと笑い――


「――まあいい。お前らの側にも、お前らの側なりの事情があるのは分かる。

 ――だが、俺が『獲物』と見定めた相手に手出しをするのは関心せんぞ?」


 その凄烈な笑みに、相手はゾッとしたように後退る。


「――何故、分かるのです?」

「取り逃がしたものを取り逃がしたままにして置けるほど、お前等の上は潔く無かろう?

 俺の様な存在を、世を越えて呼び寄せる様なイカレは――」

「――――」

「――くく、そう怖気るな。兵法の類の基本でもある。『敵にとっての嫌な事をやる』、というのはな。

 あの娘をそのまま預ける事が、相手にとっても此方にとっても、大事にも成らずとも――

 『勢いをつけたままにしたくない』と言うのもわかるし、なれば、どんな手でも取るだろうしな。

 ――まあ、どちらかと言えば、相手の方に余計な事が漏れない様に、の方が大きいのだろうが」


 そこまで、読めるのか、この男は――

 相手のあまりの能力に、恐怖すら覚え始める――


「――素晴らしい。素晴らしい賢察」


 その背から、不意に声が響き、そちらを振り返る。


「――『GM』」

「そう怯えるな」


 そう語りながら、暗い通路から仮面の男が出てきた。


「この方が素晴らしい能力を持ちながらも、その性情ゆえに不幸に遭われたのは、先から承知だろう」


 目の前の相手とは明らかに毛色の違うそれに、目をやる。


「――ほう? お前が、俺の『呼び主』か?」

「しかり。お初にお目にかかります、遥か遠き地の英傑殿」


 掛けた言葉が、するりと流れる。受け止めはした上で、自然に。

 器の中から、眼を凝らす――だが、その相手の気配が知れない。

 ――まるで、霧を見ているような、手応えの無さ。


「――俺の様な者を呼ぶ必要性があるとも思えんが?」

「いやいや――私には、一人でも多くの『同志』が必要でしてね」

「同志とはまた、迂遠に言う――『手駒』ではないのか?」

「とんでもない。手綱を握れるとは思っていませんよ」


 ――読めない。読ませまいとしているのか?

 それともどうも違う。


「――簡潔に言いましょう――『国家安康』『君臣豊楽』ですよ」

「――お前も、『外側』か?」

「いえいえ。知って居る事を言ったまでの事」

「――ふん。分からんな」


 そう吐き捨てた『芹沢』に、そいつはこうも言った。


「――まあ、そんなものはお題目。

 『より良き世を、もっとより良き世を求めん』という奴です」


 ――その言葉で――言葉の表情で、と言ってもいいが、『芹沢』は察した。


「――成る程。お前とはいい酒が飲めそうだ」


 この男は――自分の同類なのだと。


「ふふ――兎に角先ずは、その身体を磐石としてください。

 事が進めば、何れにせよ出てもらわねば成りますまいから」


 言葉の裏に、暗い影を匂わせ、相手は笑う。

 成る程――これならば、自分は存分に楽しめそうだ。

 下らぬ紐付きにならなくても、自在に、存分に。


「――良いだろう。折角に招かれたのだしな。

 だが、命令には沿い切れぬ事もあるぞ?」

「不要に暴れなければ、それで構いませんよ――

 機材を壊すような真似はご勘弁を。安くなく、資材も限られていますので」

「ふふ、ああ、すまんな。あんなにも容易く破れるとも思って居なかったのでな」


 すこし向こう側の方に、壊れたままに成っている器を見、『芹沢』は頭を掻く。


「では、またいずれ」

「ああ」


 面白い。中々に面白い事になってきた。

 そう思い、含み笑いを浮かべる『芹沢』だった。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 自分の語った言葉の意図に、あの男は気が付いたようだ。

 まあ、もっとも、気付く様に言った部分も有るのだが。


「――『破棄コード』のレベルを下げておけ」


 部屋の外に居た男に、そう伝える『GMグランドマスター』と呼ばれる位階の男。


「――宜しいのですか? GM?」

「私の考えに近い――欲求の類までは、把握し切れていないがな。

 暴走するようならば止める必要はあろうが、戦力という点では、止めるに足りる者達がいる。

 『強制破棄』をする必要まではないだろう――」


 そう答えると、相手の男は恭しく一礼をする。


「さて――では私は帰って、『女神』のご機嫌を伺わねばならん。

 ――指示は追って出すが、『素体』は何体か準備して置け――段階は低めで構わんがな」

「は。何体ほど?」

「『呼ぶ』か『呼ばぬ』かも含め、未だ未定だ。そちらに任す。

 多いに越した事はないが、準備段階スタンバイに移行すると――」

「承知しております――」

「よし。それも含めて、だ」


 言って男はさらに歩を進め――『転移装置』へと入る。


 ――シュゥゥウウン


 空気の流れるような音と共に、目を開けると、其処には――


「お帰りなさいませ」


 恭しく頭を垂れる、一人の男。

 白髪頭が上がり露わに成ったその顔には、何とは言えない笑みが浮かんでいる。


「――ハクタクか。使いの首尾はどうだった?」

「さて。判断を保留しているのは同じとの事ですが、しかし、こちらになびく、という者でも――」

「構わんよ――事実の積み重ねが欲しいだけだ」


 そう言って、外した仮面の下には――『一位エノ』の顔が。


「向こうもさして変わらん――だが、一つ良い株を見つけた。

 後は、陛下がどんな『ルール』を持ってくるかだ」

「こればかりは、私にも読み切れませんな。考え方が自在に過ぎる御方のようですし」


 違いない、と笑う『一位』。


「――カウランドールは?」

「相変わらず、貴族との協議に忙殺されておりますよ。

 あの方はあの方で有能、あのような事をさせずとも――」

「能吏に過ぎるのだ、アレは――こちらに付いてのここ数年で、はっきり分かった」


 歩きながら、続ける。


「――裏切りを警戒すべきでしょうか?」

「案ずるな――というよりもお前は、必要ならばその手を打っているだろう?

 ――こんな風に、『夢殿』までの人払いを完了させておく様な奴ならば」


 『一位』の声に一礼しながらも――


「しかし、相手が相手です故。気取られればそれこそ離反を招きかねません」

「そう器の小さい相手でもないがな、アレは――

 仮にそうなったとしても、問題は大きくは無い――あれは、個の欲得は少ないからな。

 知った事を手土産に云々は無いだろう――大体が、あれは誰が皇帝になろうが構わんという考えだ。

 むしろ、邪魔をする事もないのだろうが、こちらの目的の為の必要悪を、アレにあまり知られたくは無い――」

「――後世に書物でも残されて、後から謗られても困りますか」


 くつくつと笑うハクタクに、『一位』も笑う。


「お前もだぞ? 『善政』を敷く者に仕えたいのならば、こんなにもアレコレと弄する者は間違いでは?」

「煩雑に絡み合ってしまった糸は、解きほぐすよりも断ち切って、新たにするが良いでしょう。

 閣下のお考えは、必ずしも悪く在りません――必要と在れば、先陣にも立ちましょう」

「戦を求めるハクタクとは、お前も大概よな」

「その後の楽土を求めて居りますれば」


 そう言うハクタクに、何とも言えない笑みを浮かべ、更に廊下の先へと歩いていく。

 そこには、大きな扉が一つ。

 それを開けながら、言葉を返す。


「――それには期待してよいぞ。『より良き世を、もっとより良き世を求めん』」

「――『全ては、より良き夢を見るために』」


 そう返す男を背に、扉は閉じられた。

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