『03』/REm/08
「――どういう事だ? 村が複数在る様には思えなかったが」
俺たちは、兎も角一旦船に乗った。
甲板上で呟くアパムに、ゲンも考え込んでいる。
<――生体反応に引っかかってるのは居なかったですけどね>
「索敵範囲どの位だっけか?」
<50mそこそこですけど、歩き回りながら見たから、見落としは無いと思います>
「――となると、地下が怪しいが――」
「把握している範囲だと、島から地下に『降りられる』となると、あそこ位ですし――
なにより、生活範囲が狭いと言ったって、そんな人たちが居たら流石に気が付きますよ。
集落の後だけに引っ込んで生きてた訳じゃないですから」
アパムに水を向けられ、答える『族長』。
「生活用品とかはどうしてたの?」
「それこそ、たまーに行商人の人来てましたから、貯蓄を切り崩してどうにか。
まあ、作れる物は基本作って生活してましたけどね。この服とか、手製ですし」
島だし、独立で回せてるとは思ってたけど、そのレベルかよ。侮れねえな。
「――おっちゃん、噂ってのは?」
「ああ、これがまあ――実に妙な話なんだがよ」
シャチョーに聞かれたおっちゃんが、頭を掻きながら答える。
「夜の漁なんかで、何度か来てる奴なんだがよ――
『岩礁の位置が違う事があった』『陸の形が微妙に違う事があった』って話でな」
「何だそれ、海底火山かなんかかよ、コワ」
「この辺りじゃ、そんなのは聞かねえんだがなあ――たまーに、矢鱈に海流激しい時はあるが――」
「自然環境ってのは何処でも厳しいもんだなあ、ねえ、ゲンちゃん――」
<――ええ、まあ、そうですね――……ハハ――……>
あ、うわー。ピンと来てしまった様だぞ、ゲンちゃん。
ロボット(仮)が膝から崩れ落ちるとか、中々見ない光景だな。
「――どうした、ゲンちゃん?」
<――ふざけてる。多分まだ生きてるんだ、この『砦』>
「――そこに居るのか?」
<――恒常的に居るんじゃないと思いますがね――
何れ、ソレが事実ならもう、前提からして全部覆されちゃう話ですね――>
そう言いながら、海底を見つめる。
「おーい、ゲンちゃん、俺にも分かる様に頼む」
<……噛み砕くと、別のダンジョンが、更に奥に在る、です>
……クラマ、少しは考えろよ――まあ、今のは、ゲンちゃんへの『空気を変える一撃』だろうけど……
「……おじさん。船を――ぐるっとこの島の周りを回せます?」
「おう? そうだな――潮はそんなに荒れてないし、行けるぞ」
お、シオが何か思いついたようだ。
「ゲンちゃん――海底に不自然な所が無いか、監視出来る?」
<――まさか、『空虚の野』と同じ様に?>
「うん、多分――あくまでも勘だけど――開口部の配置は――」
そう言って地図に、あの時上空から見えた入り口の位置を、丸で示し始める。
「他は、攻撃が来ないか警戒。三人は生身の戦闘とか経験無――ああ、アパムっさん、あれだっけ?」
「……一応サバゲやってたけど、手持ちの武装が無いぞ?」
「――じゃあ、ミツキ・クラマは、アパムと一組で警戒。
ホントに警戒だけで良いや、そこのメイド姉さんも戦えるだろうし」
「あーと、まあ、仕方ないですね」
「イゾウはアパム達と――ええと――」
――信用してない訳じゃないが、タコのオッちゃんの前で、『猫エルフ』も『族長』も拙いか?
話がややこしくなってもあれだしな……
「――『シャイフ』さんを守ってくれ」
「ちょっと、ジンさん、『シャイフ』ってなんです?」
「あー、うん、その――後で説明するから」
……ああ、我ながら安直つか――いや、シャチョー、何故吹いてる。
「――ジンちゃんや、アラブ圏の『族長』じゃん、それ」
「同じじゃん!?」
「……なんで分かったし」
シャチョーも何のかんの油断なら無いんだよな、実際……妙にニッチな知識背負ってるし。
「つか、他にも在るでしょうがよ――あーとー……
……『シャリーフ』、は宗教的にヤベぇか。シャ、シャ、シャ――」
「いや、別にシャで押さなくても……」
「シャ――『シャルンホルスト』……」
「……ジンの事言えない程度だな」
「ぜったいあれだな、『甲板+女子』で『シャなんとか』で脳内検索した結果だよな」
あーもー、『シャル』でいいだろ『シャル』で。
・ ・ ・ ・ ・ ・
結果として言うと、周囲を回る間には、攻撃の類は無かった。
島は不気味な程の沈黙を保っている。
「――『穴』は無かったけど、不自然な地点はほぼ一致。どう思う?」
「構造は同じ、って事なんだろ。『何故』なのかまでは分からんけど」
地図に示された丸と、ゲンちゃんが反応した位置はほぼ同じ――
――構造的に同類だとは思っていたが、ここまで似ると逆に、『意図』じゃなく『自然現象』にも思えるな。
<――条件が悪すぎるので、潜るのは保留ですね。注水でもされたら、それだけで全滅しますし>
「コントロールが『敵』側に渡ってるなら、そうなるよな」
「本体持ってきて、砲撃しちゃえば良いんじゃね?」
<残ってる部分とかが暴走する恐れが大き過ぎますので、それは止めましょう>
向こうは向こうで、なんか恐い話をしてるし。
というか、砦と見たらブッパしないといけない病かなんかか、クラーマーさんよ。
そう、あれだ――ヒャアガマンデキネー。
「――それよりも、『シャル』、大丈夫かな?」
「いきなり呼び名に馴れたな、お前」
「難しく変更されたなら兎も角、そんなにイメージからも乖離してないし」
「……『シャイフ』はそんなに変だったか? 偽名程度にゃ丁度だと思ったんだが……」
「いや、まあ、肌褐色気味とか顔立ちとか、そっから呼び覚ましたんだろうけど……って其処じゃないよ」
ああ、まあ――疲労やらでぶっ倒れた、つか、崩れたからな。かくん、て。
「――『島から離れられない』、も、嘘っぱちだったからな。
――まあ、気が抜けた、って所もあるんだろうさ――張り詰めてたものやら、唐突に失くせばよ……」
――何のかんの、面倒見良いよな、イゾウって。
「まあ、何とか成るだろ――ミツキさん付いてるし」
・ ・ ・ ・ ・ ・
「――なんなん、私の人生は……」
「へこんでるねえ」
仮眠室のベッドに転がっている『シャル』に、ミツキが笑う。
「……『母親』に言われてた事の、大半以上嘘っぱちだった気分が分かります?」
「いやー、流石にわかんないけど、腹立てられてるなら、まだいける」
そう言う問題でないのは、ミツキも百も承知だが――本当にヤバイと、感情すら動かなくなるし、と。
「――『世界樹』との繋がりの関係で、ダメだって言われてたんですけどねえ――」
「あの緊張の顔と、ほっとした後の顔よwww」
「……珍妙だったのは分かりますけど、言わないで下さい」
そう言いながら――ふと言葉の内容を思う。
「――どっちにとって、ダメな事だったのかな?」
「――というと?」
「君にとってダメだったのか、それとも――」
・ ・ ・ ・ ・ ・
イゾウは、甲板の後方で島を眺めていた。
思いつきで来ただけ、それだけの筈が、妙なものに出会ってしまった。
おまけに――『力』は取り戻せたが――アレが現れて、敵わないと来た。
「――参ったな。あのおっさん、こんな世界でまで俺に絡まなくてもいいってのに」
――何をボーっとしている。お前自身が気が抜けたか?
「うっせぇな、何言って――」
不意に聞こえた『首白』の声に答え――
「――やべえ、なんだこれ――」
――ドンっ
不意に、船体が大きく揺れた。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「お、おおおお!?」
波間を切って、それは不意に浮かんできた。
「――何、あれ」
「何って、取り返しに来たんじゃない? 嫁さんを」
「勘弁してくださいよ――というか、あれ、あの影なんです!?」
――何って、俺、見たことある代物なんだけど。
――ザパァッ!!
「――また『竜』かよ。しかも二つ首か」
……幻覚じゃないんですね。
「――ジンさん、その顔だと、知ってます?」
「……『寝取られ男の竜の一匹』」
ごめん、そんな風にしか言えない。というか、単体で出てきてる理由が分からん。
<――――>
……あれ? どしたのゲンちゃん?
<――考え事の邪魔をしないで貰って良いですか>
――スチャっ――
え、ちょ、何、その右腕。でろーんって長いけど。
<テスト頼まれてたの忘れてたので、動作チェック兼ねて展開したのは良いんですがね。
――こんな『大砲』、人間大でまで積まれる謂れが在りませんよ、ええ>
……チグサのバカ、何を組み込んでるんだ……しかも、無断だったっぽいし……
<――ふふ、しますよ、しますとも、テストですからね、ええ――>
――ガッ、キョン――
あー、どっかで見たわ、このフォルム――『クジラナミ=サン』じゃないですか!?
「シオ、対ショックに船の前方に風張れ!!」
「わかった!!」
「全員何かにつかまれ!! シャチョー!! シャルを死ぬ気で掴め!!」
「立場違くないか――
――ドンっ!!
――ぬおぉっひゃぁ!?」
うわ、やっぱ『アームストロング砲』!?
どわわ、衝撃でめっちゃ揺れる――!!
――ドゴォ!!
『双頭竜』は、腹を貫かれて、そのまま海面へと落ちた。
――フォルム的に最弱の状態とは言え、一撃で屠るんか、ゲンちゃん……
<――やっぱダメだ、戻せない――だろうとは思ったんだけど……>
「――いや、あの、大丈夫か?」
<……何か、色々苛付いてぶっ放しちゃいましたけど――戻せないです>
……展開後の強度計算とかもしろよ、あいつ。しばらくこのままかよ。
――でなくて。それもだけど――
「……何に苛付いてんだ?」
<――兵器なんですよ、基本的に。考えて考えて、脳汁迸らせて考えるのは、人間の仕事です>
「……脳汁て……」
<でも、考える事を覚えてしまった――それに付随する事は、兵器としてはマイナスに成る筈なのに――
ですが、困った事に、棄てたくも無い――別に羨ましい訳では無いですが――
――たった一騎で、『世界樹』に向かった『機神』の『心情』が、何となく分かる――
そしてそれは、残念な事に、平押しで防衛していた頃には、分からなかった筈なので――>
そういうと、ゲンちゃんはこちらを向く。
<――多分、私の『同胞』が利用されているだろう、このダンジョンも――
――いつか攻略手伝ってもらいますよ? 『戦友』>
なんだか、不敵に笑うのだった。
・ ・ ・ ・ ・ ・




