『03』/REm/07
――事は済んだ。
『井戸』の暴走も収まった。
――もっとも――『子供達』は、ほとんどが死んだ。
……だったらなんだ。
こんな風に、全部を拾えない事等、何度も在っただろうに。
何故、以前よりも――悔いている?
= = = = = =
「…………」
出来るだけ海岸に近い所に墓を作って、生き残った少女はそれに祈っている。
――墓とは言っても、其処には『骸』は無い。
ジンが停止させた途端、そこから溢れていたものも、潮が引く様に戻って行き――
後には、何も無い、元通りの『枯れ井戸』だけが残っていた。
――そう。何も。
流れに飲み込まれていった六人の子供らも――飛び込んだアレの姿も無く。
――囲う様に建っていた例の鳥居も、水の勢いでか、役目を果たした故かは知らないが、酷く朽ちた。
――一遍に時の押し寄せたモノの如く。
「――すまんかった」
「――何を謝ってるんです?」
何ってお前……と口ごもるイゾウ。
もうちょっと早く来ていたら、とか――
「――このタイミングで無ければ、何も起きてなかった、と思いますよ?」
「――そうかも知れねえけどよ」
「それに、これで、どこへでも行ける様に成った、とも言えるのかも知れませんし」
そんな事を呟く、エルフとも獣人とも言える少女。
「――疑問に思いませんでしたか? 何で私たちが、この島を離れなかったのか――」
「……半分はアレだろ? 『親への義理』と、『生き残った奴の責任』、とか――」
――そんなイゾウからの返答に、相手は意外そうな眼差しを返す。
「……何だよ? 俺の口からそういうのが出るのが、意外か?」
「……いや、そういう風に見て貰える要素、有ったかな、と――」
「……まあ、一般論だ――だから半分つってんだよ」
「――なぁんだ、『建前という半分』ですか」
そんな風に笑い――ふっと表情が消える。
「――離れなかった理由、生き残った子達の殆どが――『恐怖』でこの島を出られなかったんですよ」
「――『恐怖』?」
「……色々ですけどね。『外は恐い』、『世界は恐い』。そんな風に言われて育った子達ですから」
「――お前もか」
「――どうですかねぇ? 記憶が途中からな分、身に染みてるのも半分ですし――」
そう言って、こちらを振り向く。
「――私は屈しませんよ。あの子達の分まで、一個一個、乗り越えます」
「――強ぇな」
「――と、いう訳で、付いて行きますので」
……なんで、俺、子供に懐かれるんだ……そんな事を思うイゾウ。
――鴨のオッサン共々、子守をしてた記憶が、ふと過ぎる。
「――ま、いいか」
「大丈夫です、私そこそこ出来る子ですからね。
――自分の名前もはっきりしてないですけどね」
そんな風な言葉を背に、イゾウは海岸沿いを歩き始める。
イゾウがベルに、『後処理を』と言って『ふざけんな』と殴られるのは、もう少し先の話である。
・ ・ ・ ・ ・ ・
船を待ちながら、急転した状況の中から拾った事を、ゲンは精査していた。
――先ずは、時間軸に沿って、この島に起きた事を考えよう。
遥か昔――この島にも『鋼鬣』、或いはそれの『先行者』の『砦』があった。
それは地下に降りて行った時の、構造物のパターンから読み解ける。
正確な年数測定など出来ないが、最近少しだけ潜った場所に装飾が似ていた。
恐らくは、『東方島嶼』各地の『残留遺物』が示すのと同様の事が在ったのだろう。
――『敵』の発生と、それによる攻撃だ。
もっとも、それ以外はほぼ分からない――『年代』の点ですらもだ。
お前の記録を参照しろ、という声もあるだろうが――そもそもで、自分の『経年』が確定的でない。
以前も少し触れたが、年数カウント系はほぼ切って消してしまっている。
『本体』のパーツからの推測も、修理に継ぐ修理で――と言うか『融合』した関係で、難しい。
――ゴーレムとしての『造り』から――というのも方法論では在るのだが――
人類側から見た場合の『鋼鬣先行種』等と呼ばれる存在群の手になる、等と言う推測が精々。
そして、その存在群の『遺跡』は兎も角、『歴史』は殆ど残っていない。
おまけに、何度起きたのか分からない『改暦』が、通常の歴史からの年代計算すらややこしくしている。
『アガザル原種』がその当時の自分にとっての主敵、と言うのすら、類似性等からの回答。
自分に規定された敵対者識別から総合的に判断しただけ――
『アガザル』と呼ばれる存在群が、そこに引っ掛かったが故の、逆算に過ぎない。
――だから、この島の本当の最初の世代が、『何時』の事であったのか、それは結局不明だ。
正確な年代を引く事は出来ないから、恐らくは、で『自分と同世代』と仮定しよう。
この『島』の防御ユニットの類が見当たらない事は、ほぼほぼ全滅したか――
――若しくは自分の様な、特殊ユニットが置かれていた事を示している。
恐らくは、後者――それが、『機神』と呼ばれている存在であり――
そいつは恐らく、そいつにとってのマスターの血筋である、『猫の獣人』を守ってきたのだろう。
其処へ――『地のエルフ』の一群が、漂着。
悪意からでないと信じたいが――『世界樹』を植え、想定と異なった結果を招いてしまう。
――恐らく、想定していた以上の『成長速度』、そして、『泉』の噴出――
……どちらが先であったかは定かでは無いが――
――それを止める為に、『機神』は何をしたのか。
<――『砦』の制御コアが停止していたなら、自分を使用する、か>
ぽつりと呟く。
恐らく、その想像は外れていない。それで隔壁を、各部で無理矢理に閉じたのだ。
自分が防衛して居た砦は、本当に出丸の様な感じだったが、ここはもっと大きい規模だったと考えられる。
その中に植えられ、暴走した『世界樹』――それらの『根』や『枝』を、隔壁で締め上げた――
『成長・拡散』する傾向よりも、『維持・収束』する方向にシフトさせたのだ。
結果、『世界樹』は休眠した――急速な成長が遅滞した、とも言えるだろうが、制御に成功したのだ。
――とすると、恐らくは、この島に来た最初の地のエルフにも、『庭師』が居たのだろう。
こんな方法は、ある程度の前提知識が無ければ難しいだろう事から、それは分かる――
そして、もう一つ、居たであろう事の証拠。
自分達が降りた隔壁の部分から『上』は、それでも成長を続けた事。
――多分だが、崩壊や浸食が進む『島』の状況に対応する為、何らかのエネルギーを必要としたのだ――
リスクがあっても、だ――それは恐らく、『機神』と呼ばれた奴も同様だった筈だ。
完全に影響を排除する気なら、出来た筈だ――だが、『世界樹』の排除は『採れなかった』。
だから、締め上げるだけに終わり――恐らく、後世に問題が更に拡大した。
それ故、僅かに出ていた『梢』を、どうにかこうにか長く伸ばして成長させた。
慎重の上にも慎重を重ねて、コントロールしたモノ――
それが、恐らくは『第三柱』と呼称されるものだ。
そして、恐らくは10年ほど前。
本格的に活性化させて、当時の様々な問題に対応しようとしたのが、『第三柱崩壊』に繋がっていく。
これの『切っ掛け』はイゾウ=オカダだが――
自分が見るに、そしてシゼル女史の言葉やらを鑑みるに、結局は失敗していた公算が高い。
意図そのものがどうであれ、『実験施設』として見た場合、この場所の状態は、余り良くなかっただろう。
強力なエネルギーを循環し得るだけのシステムが、完璧なモノとして残って居たかが甚だ疑問だし――
『第三柱』そのものも、相当に負荷の掛かった状態だったのは変わりない筈だ。
『族長』や子供達が掻き集めたメモ紙の類からは、それが読み解ける。
外部から来てそれを主導した者達の資料は、殆ど残っていなかったが、分かっていなかった筈は無いだろう。
――問題は、恐らくは、その『失敗』は想定内のものだったという事だ。
恐らくは『上のエルフ』の連中がやってきて、実験の結果に据えていた事は――
<――『アカシャ・ドライブ』へのアクセス、か>
この世界のあらゆる『情報』が集積されているという『存在』というか『現象』というか――そういうモノ。
その『実在』は、他でも無い『渡界者』――彼らがその証左と成っていた――
一般的な『人間』の知る筈も無かった情報――例えば、『スキル』等にレベルがある――等々。
兎に角、そう言った情報を彼らが知って居るのは、そこから得て居るからだ、と言われている。
『スキル』のレベル等については、『術式』の形に編纂され、垣間見る事は可能に成った。
しかし、それを可能とする水準の『術者』は、恐ろしく少なく――
――そして、垣間見れる情報は、結局は『渡界者』のそれに及ばない。
……詰まる所、『上のエルフ』にも、それを知らねばならない事情があるのか。
――在るのだろう。だが、何故十年前から?
そして何故、三年程経ってから、処分に及んだ――?
<――意図が分からない>
「何さっきからブツブツ言ってんだ、ゲンちゃん」
ふと目を上げると、そこにはジン=ストラテラ。
<合理的な判断、とはとても言えない、三年間の隔絶を考えてるトコです>
「……いや、お前まで迂遠な良い回しで、物事語る様に成らなくても……」
言いながら、相手も腰を下ろす。
<失敗したにせよなんにせよ――
『崩壊』の後、数年間、『大人たち』がそのままだったのが疑問で>
「――多分だけど、いいか?」
<何です?>
「『アガザル』だよ」
相手の言葉に、思わずきょとんとなるゲン。
<……どういう事です?>
「沸いた『泉』を閉じようとしたか、制御しようとしたかは不明だけどな。
――そっから出てきたモノに、根こそぎ持ってかれたんじゃないかな?」
<……状況証拠は?>
「『井戸』に成ってた、って事だな。
単に『樹』が崩壊しただけの状態なら、明確なあの形にして、緊急用に崩壊する様にはしてない」
<――じゃあ、『子供達』が何らかのシステムを負わされてたのは?>
「『別の誰かの意図』と考えれば、分かるかもな」
<――つまり、ジン。こう言いたいんですか? あの子達全員――>
「『霊媒』だよ――多分。
主副は在ったんだろうけど、結局は『何か』に『繋げよう』としてたんだろ」
<…………>
「先天的か後天的か知らんが、そういう風に――
別の何かを脳なり何なりに記録出来るだけの、許容量を持ってる連中だったんじゃないか?」
ジンの言葉は、ゲンに一つの事を思い起こさせる。
<――まるで、『ゴーレム』の『コア』じゃないですか、それじゃ>
「半永久的に動く体の思考回路に、『生体』を利用、ってのはあまり賢いとは思えないけどな。
だからまあ、実験――いや、下手すれば、総仕上げ、ってトコなのかもしれないし」
<――総仕上げ?>
「この場所への入植の段階から、そういうモノを造る実験、何て風に、根性悪い想像も出来る――」
酷く冷淡な口調で呟き――
「……って事さ」
呆れ果てる、という風に手を上げるジン。
「今回の一件、イゾウの思い付きで来たにしては、トントン拍子で話が進み過ぎてた、と思わないか?」
そう言われて、黙る――言われてみれば、だ。
自分達が上陸してから、24時間も経っていない。
――まるで、仕組まれた芝居に参加したかのような、スムーズさだ。
――まるで――スイッチが押されるのを、ただただ、待っていた様な――
「なあ、ゲンちゃん」
その目は、十代前半の『子供』の目とは思えないほど、冷え冷えとしている。
「こんなクソミソな事やってても、まだ人類を『盟友』と呼んでくれるか?」
<――何バカな事言ってるんですか>
ゲンはそう前置きした上で、即答した。
<当たり前ですよ>
心なしか、その声は、笑っているようにも思えた。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「――楽しそうだなー……」
その光景を、ぐったりと見ている、『猫エルフ』――『族長』。
「――混ざってくればいいんじゃない?」
「……なんだか、今更ながら、色々申し訳ない気分に成ってきまして……」
話しかけてきたシャチョー・ミツキにそんな風に返す。
「どっから何処までとは言えないですけど、結局、仕組まれた通りに色々動いた挙句……
皆さんを巻き込んで『悲劇』を演じただけの様な気がしてきまして……」
「うわー、このニャンコったら、まともすぎる、どっかのネ○クェイドさんみたいなフォルムで」
「失礼な!! 一応『族長』ですよ!? ボスですよ!? 見えないでしょうけど!?」
悪かったな背が低くて!! ぽんぽんすんな!!
「くひひ、すまんすまん。そっか、考えたら、あんた年上か――その位なら、50とか?」
「いや、エルフ混じってるけど、うちらは其処まで長寿じゃないです。
私も――確か20ちょいだった気がしますね。記憶曖昧成ってますが」
「変わんないじゃん私と!?」
自分もだが、随分落ち着きの無い人だな、と思う『族長』。
「――あのさ、あんまり思いつめない方が良いよ?」
「はい?」
「世界は常に、1:1に成ろうとするもんなんだよ」
いきなり、両手の人差し指を立てる。
「私みたいに凄まじいスキャンダルに巻き込まれた奴でも、それでも味方で居てくれる人が居るみたいに――
どんだけ辛い事だらけに思えても、まだ見つけてない楽しい事がある筈なんだよ――
自分が悪かった、自分の責任だ、なんて悩んでる暇があったら、歩いて探す方がマシだよ?
――まあ、出て来た分、歩き出そうって気には成ってるんだろうけど」
……不意に、『族長』は固まった。
「――『電波』って奴ですか?」
「ちげえわ。普通に経験則だわ」
言っている事の半分も理解が及ばなかったが――
この人は、自分と同じ様に何かと直面した事のある人なんだろう。
そして――
「いや、へこむ事も多いんだけどさ。へこみっぱなしだと、詰まんないし。
私が悪うござんした、なんてへりくだってると、相手方が図に乗るって分かってるし――
人間って、弱いと踏むと、幾らでもカサに掛かって責めるからね、うん」
「あの、外出るの怖くなる事いうの、止めてもらえます?」
「大丈夫大丈夫、そんな時は、私らがなんとかしてあげるよ」
きっと、自分の見つけたい事を、見つけた人。
取り敢えずは、この人達に着いていこう、と思う『族長』だった。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「いや、悪い。漁業ギルドの会合で、遅くまで飲んでな、気付くのが遅れちまった」
そう言いながら、タコのおっちゃんは船から降りてきた。
「だが、面白い話も幾つか聞けたぞ」
「面白い話?」
「ああ。まあ、食料とか商売しに来てた行商人を乗せた奴の、噂話なんだが」
ありゃ、タイミング悪かったか。少し日をずらせば、情報持って此処来れたかも――
「――お? その嬢ちゃんは?」
「こ、ここ、こんにちわ」
おい、おっさん、あんまり接近すんな、イカツイんだからあんた。どっかのグラサン禿みたいなんだから。
「どうした? 『漂着者』かなんかか?」
……何て?
「いや、現地の子だよ?」
「おいおい、冗談止せよ。ここ最近で見かけたこの島の連中は――」
待って、このタイミングでまさか――
「基本的に『大人』で、全員同じような『ローブ』だったぞ?」
…………
「……まさかのちゃぶ台返しキター……?」
「……キターつか、テノヒラクルーつか……」
途中から、違和感は感じてたけどよ……というか、お前も何となく変に思ってたな、シオ?
「……まあ、興奮でテンション上がったにしても、キャラ違い過ぎたしね……」
――その通り。ああ、やっぱ、お前もあれよな――どっかで『梓生』ねえちゃんだよ、実際。
そういう、霊感めいた直感は。




