『03』/REm/05
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『族長』と呼ばれているレムナエクの娘は、見守るしかない状況に、困惑していた。
『予言』の中の『機神』――それと共に来た人々。
その一人は、かつての『第三柱』の崩壊にも関わっている、と聞いた。
とは言え、復讐を考える程、村にも島にも愛着は無い。
だから、彼らを連れてここまで来た事は、興味本位だったのだ。
『第三柱』とは、極論すれば『世界樹』――
言い伝えに伝わる所の、世界を支える巨大なソレの『若木』だ。
それを破却する程の事が起こせる存在、それはどれ程なのかと。
単体で起こしたのではないにせよ、一つ時に倒れてしまう程に『揺らせる』存在と言うのは――
だが――これはまるで――
「……じゃれ合いに近くなってきたな」
自分の心境と同じ事を言われて、振り返る先には、その人物の連れの一人。
自分と、姿形の上での年齢は其処まで違わないはずなのに、この人物は――
「――これが終わったら、正確な状況を話してくれ」
「……正確な、状況、ですか」
「『ネバーランド』になんで『ピーターパン』がいねえんだ?」
「――『それは私と、誰かが言った』」
「マザーグースかよ……じゃなくて――」
そう言うと、相手は、こちらをジッと見据えた。
「――情報を引き出す存在も、必要だと思いませんか?」
「――まさかの、お前が『庭師』か?」
「残念ながら違います。能力的に名前をつけるなら、『霊媒師』ですかね」
そんな風に語る自分を、相手は静かに見つめ続ける。
「――まあいいや、後だ後」
「――あれ? 興味ないんですか?」
「――言いたくてうずうずしてるじゃねえか。
――まあ、十年、一人でそんなのを抱えてきたら、大変だろうけどよ」
そう語る相手を彼女は、眩しそうに見つめるだけだった。
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知る筈の無い事を、知る人間が居る。
何処から得たとも知れない知識を、語る人間が居る。
よくある、とまでは言い得ないが、歴史や世間を見渡せば、全く在り得ないとも言い得ない。
幅広く見れば、『託宣』も『遠隔透視』も、同じ情報が手に入るならば、結果はイコールだろう。
様々な都合で、職掌や呼称が、若干ずつ違う、そう言った種の存在――
その中で、死せる者と、或いは体なき者と言葉を交わすものを、『霊媒師』という。
「――『霊媒師』……」
シオが、何とも言えない表情で、ポツリと呟く。
「――どした?」
「ん――いや、ウチもそういやそんな風に言われてたよね、と……
あくまでも、夢で見てただけで、細部曖昧だけど――変な縁だなあ……とね……」
「――まあ、ウチの場合は、厳密にはそっち方面とも若干違ったけどな。
巫覡、って大雑把に括ればそうだけども、あの辺り、ソースで言い方違うし……」
そんな事を口にしつつ、切り結んでいる二人を見る。
「――アレも一種の、『交霊』だよなぁ……大分過激な『オシラアソビ』だけど」
「――記憶そんなにはっきりしてないけど、それは凄い誤解招いてる気が……」
「……まあ、『肉体言語コックリさん』か、どちらかというと……」
「ますます違うと思う……」
我ながら、凄まじくどうでも良い感想を述べる俺と、突っ込むシオ。
……これだ、こう言うので良いんだよ……ゆっくりで良いんだゆっくりで……
「――あの、すいません。
お話は良く分かりませんが、『外』での『霊媒師』って、そちらの――」
「――ん? ジン?」
「ああ、ジンさんばりに、変な感性してなきゃいけないんですか?」
良い雰囲気なんだから、口を挟まないでくれ、『族長』少女。
大体、姫彦というか、主副の認識が違うっつの。
――だからと言って、赤裸々に語り出すな、シオ……
「――おお。やっとみつけ――何ですか、アレ」
「戯れ合い(肉弾)」
「――シゼルさん、一人で降りてきたの? 結構入り組んでたと思ったんだけど」
「私を舐めてもらっちゃあ困りますねぇ」
このエルフメイドも謎だよな、正直……
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こいつはなんだ、と『首白』は思った。
自分の攻撃を、緩やかに絡め取るその所作――余りにも緩やかな――まるで剣舞だ。
「――残念だな、『首白』――
お前が、覚えてるのは、こっちに来る直前までの俺の剣筋らしい」
血を吹いている手を、刀に巻いていた布切れで締め、こちらに笑う。
切り合いの最中とは思えない、緩やかな雰囲気の笑みだ。
――『気が済むまで付き合ってやる』――?
自分にとっては利の無い事で、何故ここまで必死になるのか。
――いや、必死というには、あまりにも――
「随分と余裕だな」
強く発した言葉も、負け惜しみに過ぎない事は分かっている。
同時に――単純な疑問でもある。
――こちらの牙――刀を折る位、訳が無い筈だ。
その程度の『剣腕』の差は在るし――こいつは、自分同様に、怨嗟を抱えた一個の獣だったはず。
恨むに足りる理由を負っている事も分かっているのに――
「――その余裕、と言って良いか分からんが――何処から――」
「――色々あったんだよ。俺は俺でな――」
そう言いながらイゾウは、こちらの牙を流す。
今のなぞ――正に好機であったろうに――!!
「おいおい、不機嫌な面すんなよ――ま、言葉で語る仲でもないか。
考えてみれば。お前とは、ずっとこんな風な主導権の取り合いだった。
お前は、確かに『憑き物』だが、同時に『俺』でもあるんだから」
「――母を捜して泣いていた、お前と同じにするな、ガキが!!」
「同じさ――何か探して泣いてたのは変わりゃしねぇんだよ、犬っころ!!」
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「はた迷惑な口喧嘩に成ってきましたねぇ……」
全くだよ。何考えてんの、あいつ等――つか、何時までやるんだよ、これ。
「――ジンさん。面倒なんで話し同時進行していいですか?」
「面倒なんで、て、お前」
「だって、終わらないじゃないですか」
うーん、『剣腕』対『魔術』の構図で、手数が拮抗してるのは確かなんだが、言い様ってモノが……
「『ネバーランド』、なんて言ってるあたり、気が付いてるんじゃないですか?」
「――どういう事? ジン」
……言いたくないです、そんな目をされても。
「まあまあ、シオ様――あんまりジンに背負わせても何でしょう」
「……つまりは、『子供』しか居ない理由が、碌でもないって事だね?」
……態とだな? このエルフメイド……
――シオの前でそこらを当てると、放って置けなくなるだろうに……
「……『ピーターパン』だって『ウェンディ』迎えに行ったりしてるだろ。
こっちはこっちの事情で偶々来ただけの客だ――必要なキャストは、自分で迎えに出ろよ……」
「……生憎と、『ティンカーベル』の在庫は切らしてますので――
それと――まあ、諸事情色々在りまして、さっさと伝える事伝えたいんですよね、実際――」
「――あー、ジン――肩持つ訳じゃありませんが、その子は隠したくて隠してる訳じゃありませんよ。
……あくまでも多分なんですが――『線引き』が分からないから手探りなだけです」
シゼルの言葉に、そちらを向く『族長』。
「――読んでくれましたか」
「ああいうモノを無造作に置いておいて、読んでくれましたか、でも無いでしょう。
何処を警戒してるのか知らないけれど、承知だろうからと言って、放っておかないの」
「おお、流石、エルフのお姉さん」
「貴女もエルフでしょ、と言いたいけれど――違うのよね?」
シゼルの言葉に、相手は頷く。
「……どういう事? シゼルさん」
シオからの問いに、相手をちらと見――相手が頷くと――
「――その子は、姿形こそ他の子達と同じだけれど、全く違うものなんですよ。
いや、まあ、『更に違う者』って考えも出来ますが―― 詳細は上の資料にありました。
まあ、直截な書き方はしてませんでしたが――で、ある程度、『第三柱崩壊』の真相も見えました。
――んで、一人で歩いてきたんですけどね」
……資料先に読んだ方が、話が早かったのか……失敗。
「――つまり、どういう事?」
「うーん……あくまでもレポート部分読んだ雑感からですが――
その子は、此処を離れられないし、何らかの理由で『限界』が近い、ってトコじゃないですかね」
「そうですね。他の子はいいんですけど」
「――どういう事?」
「ジンさん、どういう事だと思います?」
質問するのかよ……分かったよ、ああ、もう……
「起こった事を考えるなら、『外部の奴』が『第三柱』に『生贄』を――ってとこか――
もう少し突っ込むなら――『樹の巫女』の代役、兼、『何かの実験』」
「おおお、すばらしい」
「ふざけんな。主犯の仲間だろ、お前」
「いや、違いますよ? 私もあくまでコンタクト取る為のシステムの一部です。
えーと、ほら、『バーコードリーダー』みたいなもんですよ。ソレそのものは読み取るだけです」
……エルフが、どこまでエルフなんだか分からん言動をありがとう。
「ま、この言葉の知識も、最初から私の持ってた物なのか――
はたまた、『世界樹』とか、『井戸』とかから吸い上げたものなのか、不明なんですけどね」
「――こういう面倒臭い話だから、後回しにしたかったんだよ、ホントは」
島に来るまで聞いてた事と、来てからの印象が違いすぎて、違和感しかなかった。
だからまあ、『遠巻きに見てる人は多分、幻覚でも見せてるんだろうなー』的に考えては居たけども。
でも、住人の中心にあからさまに怪しい奴が居たら、それを疑うしかないじゃないですか。
「――どこまでが、『本当』なんだ?」
「大体は本当ですよ――本当、というか、嘘は言ってません、というか」
「……ああ、なるほど。お前の側もアレか、警戒をしてた訳か」
「まあそうですね。伝承やらは抜かれてましたから、こっちの油断誘いに来てる可能性もありましたし」
まあ、そうよな――一つ上の世代が無条件な信用で失敗してるの見てるなら……
……もう少し分かり易く助けを求めてくれんかね……難しかったのも分かるは分かるが……
「問題は、私自身、それをやった連中の、『本当の意図』が不明だって事なんですよね――
いやまあ、この島の『上』世代は、『第三柱』の『衰退』を危惧してやったんでしょうけど――
外から呼ばれてきた人たちのまではねぇ――」
「ああ、当てましょうか?」
お願い、メイド探偵さん――
「ここ十年来の『上のエルフ』の動き、後、残ってた資料から見るに――
当初の目的は『第三柱』の活性を上げる事、だったんじゃないですかね?
勿論、その先に思惑はあったんでしょうけど、最初の段階では『どの程度まで無理を出来るか』、だった」
って、おい、マジで分かるの?
「『第三』『第三』言ってますけど、数は単なるナンバリングですからね。
使い捨てにしても問題ないと判断したらば、幾らでもやるでしょうし――
島なのも、外部への影響や、情報の秘匿を考えれば好条件ですし。
そこから先の部分は、多分携わってた連中毎で色々と踏めます。
まあ、『ベルトーリエ代行』を『奉じて』居た段で、更に別の――『森都』の思惑も混じって感じますが」
うわー……マジで有能でダメな人だった。
普段はあくまで駄メイドなのに。
「――で、その子の話に成るんですが――
お二人は、アウルさんの正体、分かってますよね?」
「……その口振りだと、あんたも知ってるのか?」
「『嗅ぎ回られるの面倒なんで』、って自分からある程度は言ってくれましたよ?」
……あのマニピュレーター、自由奔放過ぎませんか……
「で――大雑把に推察すると――
『擬似的に、彼女と同じ物を造ろうとした』んじゃないですかね?」
「――すいませんが、さっきも言いましたが……」
「……まあ、結果は御覧の通り、と言いますか――
私の血統も、そっち方面の専門じゃないんで、説明する適切な単語が分からないですがね。
――どういった風な感じなの?」
「どういったと言われましても――知識は思い浮かぶけど、何で覚えてるんだ、私、と言いますか……」
……当人がこの感じだと、失敗、というか、接続はしたけど肝心な所は読み解けなかったのかな?
「――まあ、アレ、一種の『アガスティアの葉』だからな。成る程――
でも、エルフって、そんなの必要ないくらい、知識蓄積してるんじゃないのか?」
「半端エルフの私のいう事じゃないですが――
それなら、『地のエルフ』を地上に振り蒔いた時に、もっと最善の手段を取ってたと思いますよ?
なんで十年前のタイミングで、更に深い情報を必要としだしたのか、そこは不明ですけど」
――そこは逆に、何となく分かるな。
「……不確定要素が、一時に増え始めたから、じゃないかな? イゾウとか、アビーとか」
「……まあ、思惑は色々在ったとは思いますが――
恐らく、大きく舵を切る破目になった理由はそこですね――
こういう時、エルフに然したる伝手も無い身って、困るんですよねぇ……内情が良く分かりませんし」
普段「こうきなしゅぞくです(笑)」を自称する人が何か言ってらっしゃる。
自分から嫌われに行ってるよな、お前。
「まあ、でも、多分アレじゃないですかね――
実際の所、此処での失態をどうにかしようとして、元々のプランを無理矢理持って来た――
だが、上手く行かなかった――想定以上に損傷が大きかったのか、そもそも無理筋だったかは知りませんが。
それが、『第三柱崩壊』から『集落襲撃』の間の出来事じゃないんですかね」
「……結局は、あれだろ」
言わないで、って顔すんな。
「……『素晴らしい結果の為の、尊くも必要な犠牲』」
「あー、まあ、そういう事ですね――もっと悪し様に、『点数稼ぎの為』とか言われたらどうしようかと」
自分から言うなっつの。本当にエルフ的な連中嫌いなんだなあんた。
「――つまり、私はそんな事の為に、こんな身にされた訳ですか」
……うん。まあ、その。こいつも犠牲者なんだよな。
「あーもー、腹立つなぁ……
私、自分の記憶ほぼほぼ無くなる目に遭ってるのに、理由はそんな事なんですか?
だから嫌いなんですよ、上世代――
自分たちの狭い世界観の中で完結してて、多角的に物事見れないというか……」
「はいはい、ぶちぶち言ってないでいいので、落ち着きましょうね」
ギィィィン!!
「――丁度、向こうも一段落着いたようですし」
見ると、イゾウが、相手の剣を払い落としたところだった。
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「――ふざけているのか」
「あ? 何が?」
「――何故、『狗骸』を使わない?」
イゾウは――一瞬真顔に成り――
「……舐めてた訳でも、なんでもないが、使うのを忘れてた」
「――貴様――」
「違うって――楽しかったんだよ。お前と切り結んで、殴り合うのが」
その言葉に、今度は相手が言葉に窮した。
「お前だって、命のやり取り云々というより、『相手を負かす』って事より――
途中から、楽しくなってたんじゃないのか? 顔は仏頂面だったがよ」
「――鼻歌が、出るほどにか」
言われて、振り返り――苦笑いでイゾウは答える。
「――拍子でもつけてないと、お前の熱に当てられて、また奔りそうになってただけだ」
「……我は、それでも、許せぬ――」
「いいじゃねえか。それだけ大事だったって事なんだろ。
大切なもの傷付けられて、それを求めて彷徨って――
だから、俺もお前も、あの時あの場所で、出会ったんだろうよ」
イゾウのその言葉に、相手は初めて笑みを浮かべた。
「……仏道の様な事を」
「俺は基本、『縁』って奴が『神仏』だと信じてる。
お前と会ったのも、何かの導き、とかじゃなく――
惹かれあった結果なんだと思いたいだけさ」
もっとも――
「『縁』にも、色々あるわけだが」
背中に走った寒気に、『井戸』へとその切っ先を向ける。
「――相変わらず、勘の鋭い奴だ」
井戸の縁に腰掛けて、それは居た。
素浪人、というには派手な着流し。
腰には一本の差料。
手には、黒光りする、閉じられた扇。
そして――つけた面の奥からでも、鋭い眼光が光っている。
「……御懐かしい面――でもねえな。なんだい、その『面』は」
「――こいつを付けてないと、外で呼吸が出来んらしくてな」
ゆらりと立ち上がるその身の丈は、かなり大きい。
「――いい面構えになったなぁ、犬っころぉ――
良いぞ、実に良い――昂ぶりが抑えられん!!」
「……言い様を考えろ、女相手の時は洒落者の癖に」
「くひひ、口まで達者に成ったか?」
すた、すた、すた――近寄ってくる相手は、自然体だ。
「――こんな世に、あんたが来てるとは思わなんだな、『常州鴨』」
「それはこちらも同じ事さ。『土州犬』」
懐かしい呼び名で、互いに見合い――
――ギィィィン!!
一瞬のうちに、肉薄する。
「――良いぞ、良いぞ!! 寝ていた処を起こされた甲斐はあった!!」
「んなデカイ声出さなくても聞こえてるよ。相変わらず、うるせえ御仁だな」
――ギャリィィィン!!
言葉を交わすのも惜しいと言いたげに、一撃を見舞いつつ、今度は離れる。
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「……勘弁してくれ……」
ほんと――マジでなんだ、お前、イゾウお前。
『鴨』? 『鴨』っつったか? 『常州の鴨』っつったか?
んであの背とか、扇とか――くそ、マジか――
ふざけんなよ、何で『壬生狼の初代筆頭局長』と知り合いなんだお前!?
「ど、どうしたの? ジン?」
「いや、もう、頭痛くなってきた。イゾウの相手も、別世界人だぞ、あれ……」
「……そう、ですかね?」
なんだよ、猫エルフ娘。
「――匂いが、変なんですよね。あの人――」
「――匂い?」
「『霊媒』っぽくいうと、中身とガワが違うというか」
おい、霊媒っぽくもねえよ、もうわけわかんねえよ、諸共に。
「――そもそも、お前自身の方の問題は何だ? なんで俺らに協力を――」
「あー、とですね……
はっきり言っちゃいますと、私以外の子らを、どうにかして外に出してあげて欲しいんですよ」
「――は?」
――おい、何だ、こめかみに指グリグリやって――
「私自身、ちょっと、悪影響出てるらしくて――」
「あ、たんま――」
ギャン!! ギン!! キィン!!
「もうちょい下がるぞ、退避退避!!」
てかイゾウお前、余裕無いの分か――笑ってる、めっちゃ笑ってる……




