『03』/REm/04
『三柱鳥居』。
『三足鳥居』等とも言われたりするそれは、『現代ニッポン』に現存、となると中々珍しい。
最も有名所は、イゾウも触れた京都太秦の『木嶋神社』は『元糺の池』のだろう。
他にも全国各地幾つかは在る様だが――珍しく、謎多いモノには違いないだろう。
その原義は種々様々に言われている――
渡来系の『秦氏』に関係するとか、ヤタガラスの脚数だとか、『造化三神』に関係する系統とか。
――といっても、専門の研究者でもないので、下手に触れる事はしないで置こう。
分野近い爺さんですら、『あんな象徴的な形象に、他が混じらない筈が無い』とか言ってたしな。
――だから、うちの神社に伝わっていた、伝承だけちらっと触れる――
曰く――これは、『三界に通じる門であり、また、三相を現す』。
『三相』とは、特に何か特定の事を示す事ではなく、物事の本質の内包する事物である。
過去・現在・未来とも言えるし、天地冥とも言える。
――うん、非常に、胡散臭いのは分かる。
というか、もうちょっとちゃんとした話を伝えなさいよ、先祖……
……まあ、あれも、厳密には鳥居って感じでも無かったけども――
・ ・ ・ ・ ・ ・
「まあ――京都じゃないのは確かだが、形式なんて似るだろ」
一々拾ってたら、話が進まないよ、イゾウさんや。
「というか、『井戸』の現物初めて見たよ。もっともっと深いところに在るもんだと思ってたが」
というか、『空虚の野』に成っちゃった時の例のアレは、結構な深さだった気が――
「ああ、『ホンモノ』じゃないですよ。形を整えては居ますけど――ええとあれです、『元栓』じゃないです」
……あのだな、『族長』……
「――どの位まで、知った上で、俺らをここに連れてきたんだ、お前」
「ああ、身構えないで下さい――敵対意思は無いんですよ」
「おう、ジン。そいつに敵意とか害意はねえよ。あったら、俺の中の『犬』が反応してる。
――まあ、その『犬』をどうにか、って話で此処に居るんだから、信用成らんかも知れんが」
お前もお前でだな……
「一応ですね――調べてはいたんですよ。
なんだってああなったのか、とか、外から来た人たちが何を目的にしてたのかとか。
何せ『第三柱』がああなって以降も残って研究してましたし――
もっと言えばより強く協力してきてた位ですし。
そうなってくるとこう、やっぱり大人達が消えた理由に絡んで不審に思えるじゃないですか?」
「――つまり、この構造に成ってる、ってのは――」
「予想はしてました――まあ、残ってた資料なんかの図面からの想像でしたけど。
ただ、その――結局の所、その目的が、なんと言いますか――」
……困った顔されてもなぁ。
「……胡散臭い『伝承』に頼ってる感の強いトコ在りまして」
「……どういう事?」
「うーん……要するに、ですね――」
「無理と無茶をやるに値する、何かが埋まってる――『埋蔵金伝説』めいたのが在るんだろ?」
シオ、えー、って顔しない。言ってて凄く胡散臭く感じるけど。
「……わかります、その反応……
おまけに、根拠にしてるのが『予言』ですからね」
「――『予言』て」
「『予言』というか、どうとでも取れる御伽噺、といいますか――」
・ ・ ・ ・ ・ ・
――古の時代。
彼らの祖先は、『大陸』に残った者達とは、また別の筋道を模索していた。
大陸の端まで来た彼らは、地に既に居た人々の伝承を探り、さらに東――海の彼方へと歩み出た。
しかし、かつて『地の人々』が渡って来た頃よりも、海は激しく。
数隻の船団で出発をした彼らは、一隻で波間を漂う事となった。
陸からは遠く、逆巻く波は、彼らを容赦なく襲う――
そんな中、ある朝、彼らの元へ、一人の救い主が訪れた。
それは、機械仕掛けの存在であり、彼らをその住んでいる島へと連れて行った。
そこには、『獣人』達が住んでいた。
機械の存在は、彼らから『神』と呼ばれていた。
『神』といっても、『予言を与える』とか、『雨をもたらす』とかいった事ではない。
威光を振るい、その存在たちの上に立つというのでもない。
静かに見守り、静かに手助けをする。
祖先たちは、その在り様に興味を惹かれ、この地に根を下ろす事にした。
獣人たちとも手を取り合い、やがて、その種族と合一していった――
ある時、島の中心で、大きな力が発生し、そこから影があふれ出始めた。
影はどんどん島を飲み込み、人々も飲まれていった。
機械仕掛けの『神』は、その言葉を理解出来る者たちに、こんな事を言った。
「これから私は、あれをどうにか抑え様と思う。
だが、それですむとは思えない。
あれに、どうにかして『栓』をして欲しい」
「言葉の通じない方々に、悲しむ事は無いと伝えて欲しい。
私は何時か、戻って来たいと思っている。
もしも、私があなた達を忘れていたとしても、変わらず受け入れて欲しい」
「どれほどの長さになるか分からないが、これが私の使命でもあるのだから」
・ ・ ・ ・ ・ ・
「――という、『神の帰還予言』みたいな御伽噺があるんです」
「……いや、俺、そういうところを……」
「いや、ですから、吹っ飛んだのの八割方こっちの手落ちですから……」
「――どうしたの? ジン。げんなりした顔して」
……厭な事が目に付いただけだよ……目配せすんな、『族長』こら。
「……お前、意味合い分かってて御伽噺て、それもどうなんだ……」
うわぁ――にぃやぁって笑顔に。
「やらかしたエルフと――
止めようとしたドワルフの自律機械装甲と――
そんな事すっかり忘れてしまった人のお話でした」
やっぱそうかよ。
「多分、私たちの先祖は、自分たちのやった事のあまりの大きさに慄いて、それに協力したんでしょうね。
樹を一本植えた事が、この島の生態系をぶっ壊すとは思ってなかったんでしょう――
まあ、生態系で済まなかった訳ですけどね」
……うーん、『当たり』を引いてしまった、って事なんだろうけど……
「――要するに、あれだな?
この島に漂着したお前らの先祖が、『世界樹』の苗木かなんか植えて――
――そんでなんで、最終的に俺が出て来るんだ?」
思考を端折るなよwww お前が出るのにも関係は在るだろうけど。
「――要するに、そこの『井戸』、『世界樹』の立ってた痕跡なんだろ」
「そうです――『第三柱』の立っていた痕跡ですね。資料でもそんな風に処置した、とありましたし。
ただ、痕跡と言い切ってしまうと、他所様で『泉』と呼ばれてるソレとの、説明の整合性が――」
「――面倒臭いから、端折って、どうぞ」
えー、じゃない。
「……幹というか、元がずばっと無くなってて、『泉』だけ残ってるのは変でしょう、って話です。
というか、だとすると疑わしいのは――そもそもの順番が多分あべこべなのではないかと。
――伝承を省みるに、『世界樹』が偶々爆発的に成長した、んではなく――
ある程度は意図して植えた――そして、意図以上の結果が出てしまった、何じゃないですかね。
――他所のがどうかは分かりかねますが、要するに――
其処の『井戸』、あちこちから、力が合流してる様なポイントの真上なんじゃないですかね?」
「……つまり、これの方が、先だった可能性がある――ってか」
「そうです――んで、恐らく――色々な資料を漁るに――
……ってまあ、あんまり説明長くするのもアレですね。そちらは分かってるみたいですし」
……分かってるというか、分かりたくねえよ、そんな水準の事……
……ただ、なあ……恐らく、そういう事だよな……
『向こう側』まで『根が貫通』しちゃった結果、そういうのが出た、そういう事なんだろうなぁ……
……『世界樹』ってのは、世界すら掘り進むのかよ。
……クールダウンの為に、一回切れよう。『なんて樹だ!!』
「――で、まあ、ここにお連れした理由は、そちらの――」
「――ジンだ」
「ジンさんなら、分かるんじゃないですかね?」
「分かりたくないです」
やめようよ、シャドウゼロ呼ぶような真似は……
「――ジン。頼む。予測が付いてるなら教えてくれ」
「お前が死ぬ、という予測は付く――死ぬとまで断言はしないが、死ぬ思いする」
「――なんだそりゃ――?」
「起動して、出て来るのは多分『お前』だ」
御伽噺の内容にあったでしょ、『影』って。
やだよ、Lv70とかの分身斬喰らうのは……速過ぎるんだよ、ド畜生が。
「……俺が、出て来るのか?」
「まあ、お前とは限らない。こっちの心を読んで、『ベル』とかが出る可能性もある」
「――俺が、か――そりゃいいな」
「だから、やめと――はい?」
いかん、こいつが基本的に戦闘狂なの忘れてた――てか、聞け、すたすたすたじゃなくて!!
「――くるぁあああああ!! 『俺』!! 出てきやがれ!!」
おーい、『井戸』に向けて絶叫したよこの人ったら。
「――おい、単なる空井戸だぞ?」
「――お前ね。人の話最後まで聞いてから――」
――びしゃっ
……呼んでませんよ。お呼びじゃないよ。『マナの聖地』へお帰り――
――『井戸』挟んだ向こうに、何か降り立っちゃったよ、おお、もう……
ごぎっ、ごぎっ
「おい――なんで半裸なんだ」
「知るか、バカめ……」
めっちゃ首鳴らしてんじゃん。
「ジン――離れ
――どがぁあああああああああ!!!!
――うぉおおおお!?」
まじか、なんだ、今の速さ!?
「ちょ、ちょっと、予想外かな?」
「あ――ぶないなぁ!!」
よ、良かった、シオがワープ取得しててマジで良かった。
てか予想外かなで済ます気か『族長』こら!!
「――っは、ははは、ひゃひゃひゃひゃ!!
これが『俺』か!? 『奥の手』使ってるときは、こうなってんのか俺は!?」
あかん。スイッチ入っちゃったぞ、イゾウに。
ガ――ギギギギギギン!!!!
――いや、その――『影』の方が若干強いぞ、これ。
剣で切り込んでそのまま『犬頭蓋』で連撃してるなんて、見てないし、俺。
「――ジン、手出しすんなよ!!」
いや、即時手出しして、止めさせたいです。
「――頼むから見ててくれ。俺は――意地でもこいつをどうにかせにゃならん――」
……でも、多分、出したら出したで、こいつがどっか別勢力に付きかねないし。
――なんで俺の周囲はこう、戦闘狂比率高いんだよ!!
・ ・ ・ ・ ・ ・
――勝てる気がしない。
一合受けて、そう感じたのは、何時以来だろうか。
ガキの頃のリョウさんか。
少し経っての武市さんか。
桃井の道場の時の、『師範』と直接やった時か?
――いや。そっから、何度でも、そう思った事は、あった。
その度に、俺は、どうにかこうにか切り結び、泥臭く勝った。
「花が無いのは仕方ないとしても、術理としての格も無い」
そんな事を言われた事もあった。クソ喰らえだと思った。
勝つとは、生き残る事。生き残らねば、勝ったとも言えぬ。
剣の道、なんて澄まして言っていられる奴に、それが分かるものか、と。
『剣を持っている獣』と評された事も。
変な話で、有り得ない話だが――俺はひょっとしたら『桃井』とかじゃなく――
『壬生狼』の元の塒に居た方が――もっと強く成れたのじゃないのか――
そう、思った事もある。
――もしも、もしも、もしも――
あの日、あの二人に会っていなければ。
あの日、あいつに会っていなければ。
そして、あの日、あのジジイに会っていなければ。
それも、あれも、これも、どれも――
俺は、『人』たるを諦め――貪狼の様に剣を振るえたのだろう。
――目の前の、こいつの様に。
――っガギィィィィン!!
――だが、出会ってしまった。
そして、忘れられなかった。
「――お前の事も、忘れてたわけじゃねえんだぜ。『首白』」
相手が、イゾウの言葉にピクリと反応する。
「――もっとも、お前に頼り切って、お前の『主』とは到底言えなかっただろうけどよ――」
――う――餓亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜!!
「――っは。『主』は唯一人、ってか――何百年も、忠義な御犬様だぜ!!」
相手の剣をぬるりと絡め取り、いなしながら、イゾウは剣を構え続ける。
人として、こいつを放っては置けなかった――あの日の心のまま。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「これはこれは――なんとも、変わった柄のモノが居るのう」
最初の記憶は、それである。
「主、主上、お召し物が汚れます」
「何、気にするでない――ここは殿上でもないのじゃから」
そう言って、ひょいと自分を摘み上げると、懐に抱いた。
「見てみよ、黒地に首だけが白いなぞ、話に聞く熊の様ではないか」
「ははは、犬の子の中に、熊の子が混じっておりますか」
それが、最初の記憶。
・ ・ ・ ・ ・ ・
おかみはどこだ。
きょうだいはどこだ。
なぜわたしをおいていかれるのだ。
イゾウが、その言葉の意味を理解したのは、もっとずっと後に成ってからの事だ。
それを理解するには、当時のイゾウはあまりに幼く、物を知らず。
それを知ったとて、どうする事も出来なかったのだが。
――時は遠く、源平の昔。
この地に流されてきた、さるかしこき方に仕えた、とある犬の話。
巷説の類に過ぎない筈のそれを、イゾウは後に知り――知ったところで、出来る事等殆ど無かったが。
弔うべきそれの骸は、既に、何処にも無く。
それの求める者は、歴史の遥か彼方。
そして、それの成仏を願うには、イゾウは既にひね過ぎており。
二匹の獣は、一つの体の中で、絡み合う様に、食い合い、果てる筈だった。
もしも。イゾウが、イゾウでなかったならば。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「ぜっ――は――」
「ぬふふ、終わりか?」
その老人は、飄々とした調子で、イゾウに話しかけた。
「剣筋も鋭い、捌きも良い。
だが、気当たりが強過ぎる故、察しが付く。
主の剣を、儂の様な老いぼれが、息も切らさずかわせる事の理由じゃよ」
別段諭す風でもなく、老人は呟く。
「それでも、太平の世に其処までの切り結びをやる事の無い相手には、十分通じるじゃろがな――
分が悪い相手というのも居るんじゃ。それと切り合わねばよいだけじゃ」
「――それじゃ――たりねえんだよ――」
ゆらりと身を起こし、もう一度構えるイゾウに、老人はにこりと笑う。
「……『死なぬ』が主の勝ちなんじゃろ?」
「――皮肉を習いに来たんじゃねえよ」
「――ようやっと、『人の意地』を見つけたか」
「知るかよ――ヒトの意地なのか、虫けらの意地なのか、そんなもん」
吐き捨てるように言いながらも、酷く澄んだ目に成りつつあるイゾウに、老人はまたしても笑い――
――ぽーん
まるで、抑えられていた枝の様に、飛び掛る――
――ギジィィィイイン
・ ・ ・ ・ ・ ・
相手が、受け止めるでもなく、しかしかわすでもない事に、『イゾウの影』――
イゾウが『首白』と呼んだ相手は、一旦距離を取った。
相手の剣筋は、自分自身よく理解している。
だから――今の、手ごたえが無い程の『払い』で、自分の剣がゆらりと逸らされた事が、理解出来ない。
……『咬み折る』気ならば、出来た筈――だが、理解は出来ずとも、これ以上、長引かせる気もない――
再び、突風の様に、相手に切りかかる――
・ ・ ・ ・ ・ ・
「――出来たじゃないか」
「――――」
澄んだ残響にイゾウが気が付く――よりも先に、再びの斬撃。
キイィィィィィン
金属同士の擦れ合う音が、高く残響する。
「かかか。目録も何も無いが、御主は出来た。それを以って目録にせい」
「……いや、わからん――なんだ、こりゃ?」
「頭で考えるな。それは主ではない」
「じじい、バカにしてんのか」
「元より、賢い訳でもなかろ?」
老剣士はそういって、笑う。
「全部御主じゃ。そして、そこに良しも悪しもない。
剣の辿る刃筋が千遍あらば、人もまた万に違う。
もしも、正しい道が一筋だけであるならば、戦国の世にでも、当の昔に一つの流派になっていよう」
そう言って、老人は月を指す。
「万象は不変であるが、無形でもある。儂の見る月の色と、主の見る月の色が、完全に同じでは無い」
「――禅問答は良いんだよ」
「ま、御主はバカで良いのじゃ」
老人はそう言って笑った。
「バカとは、本来『無知』の事。
知らぬが故に過ちもあろうが、知らぬが故にこそ、囚われも無い――」
そう言って老人は、足元の水溜りの月を、ふっと乱した。
・ ・ ・ ・ ・ ・
確実に、自分の喉を狙ってきているその一筋の光に、イゾウはそっと手を触れた。
掌に痛みが走り、パっと花が咲くように、血が跳ねる。
――相手の一撃は首筋を僅かに反れ――しかし、相手は既に次の手を打って来る。
犬の首が、全方向から飛び掛る――
――が、イゾウの動きは、尚峻烈だった。
刃筋を逸らした動きからの返しの勢い、ぐるりと一回転しながら、剣を振り抜く。
相手を直接に狙うのではなく、犬の首を狙ったその剣筋は、歪に、無軌道に跳ね――
ギャリン!!
相手の突き出してきた二の突きを、下から大きく跳ね上げ――
――ごぢっ!!
その顔面に、深々と、裏拳を叩きつけたのだった。
・ ・ ・ ・ ・ ・
殴り倒され、意識が揺れる中で、『首白』は相手を見ていた。
違うのだ――お前ではない――我の主は――
「――寂しい事抜かすなよ。
こんな巷まで一緒に来ちまった仲で」
その目は、寂しげながらも、自分へ親しみを抱いているのが分かる。
だが――
ゴロゴロと転がりながらも、すぐさま立ち上がる。
「――許せぬ」
「――ああ」
「お優しい、あの方を、あのように変えた――世が許せぬ」
「……今はその世じゃねえんだよ」
「何よりも――我は我が許せぬ!!」
そう叫ぶと、相手はふっと笑う。
「……気が晴れるまで付き合ってやるよ、犬っころ」
自分をその身に捕らえている男は、そんな風に笑った。
・ ・ ・ ・ ・ ・




