表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/388

『03』/20


 思わぬところで、思わぬものを手に入れてしまった。

 それが正直な感想だ――

 故郷の村の付近に、伝説の剣があったら、こんな気分だろうか?


「――使い道、無いけど――」


 そして、それを『そうび』出来ないと成ったら、多分こんな気持ちに成っただろう――例の主人公も恐らく。

 ――そもそも、これは別に伝説の剣では無く、『鱗』な訳だが――

 縁を指で撫でると、かなり鋭い――まあ、撫でただけで指先が切れる程ではないが。

 で――少し力を込めると――


 ――パキン


 乾いた音と共に、少し欠ける。

 欠けた部分は、そのままエネルギーの粒子になって流れ――元通りになる。


「……勿体無い事しないでよ……」

「いや、お前も見ての通り、再生するし――」


 そもそも、一回落として割ったのお前だからな、心臓に悪い。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 歩いていった二人と対照的に、俺たちはその場に残って、それを見ていた。

 ――僅かに紫掛かったような、虹色が滲み出る様な、銀色の鱗。

 ……ほぼ確実に、そうだとは思うが、と俺はメニューを呼んで見る。


 ### 『天に座す者の真鱗』

 ### 異世界から召喚された、伝説的な竜種の鱗。

 ### 数多の時と戦い、そして溜め込んだ宝物の物質・霊性が混ざり合い、

 ### 一種独特なエネルギーを内包する。


 やっぱ、『グゥエイン』のか――もう一方も見る。


 ### 『天を征く者の光羽』

 ### 異世界から召喚された、とある大鳥の羽。

 ### 強い願いが込められたその羽ばたきは、

 ### 他者を明日へと運ぶ概念を内包する。


 説明が詩的だが、『ミイナ』のだな。この何とも言えない色合いはそうだろう。


「――つか、あるなら言えよ、あいつ」


 危うく冒険者ギルドとかに回収されるところだぞ……

 『三位セレ』が『お散歩ですので』つって案内とか断ったから良いようなものの……


「まあまあ――『グゥエイン』達も気が付いてなかったんじゃないかな?

 ――何せ、出てきたの、アレからだし――」

「――それもそうか――」


 言いつつ俺は、シオの差し出してきたそれに手を伸ばす。


「――うひゃあ!?」

「え!? なん――」


 おい、急に手を振り上げるな――


 ヒュゥゥ――パキンッ!!


「……おい」

「……いや、その、なんか、いきなり鼓動して……」


 ――割れたんだけど――『グゥエイン』の形見……真ん中ぐらいからパッキリと。


「――ど、どうしよう?」

「いや、どうしようったって、お前……」


 ――ジジジ――……


「……なん、だと?」

「――今、割れて、たよね?」


 慌てる俺たちの目の前で、それはすっとぼけた様に、元の姿に成っていたのだった。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――すげえ贅沢な『無限プチプチ』だな、今のところ」

「その扱いは無いと思う」

「――そうなんだけど」


 今のところ、この強度だとそのまま武器転用は出来ないしな……


「どっかの物語みたく、そのまま『力場の刃フォース・ブレイド』でも出れば良かったんだけどねぇ」

「どこの『ナノマシン』の残骸の爪だ」

「其処まで言ったならズバッと言えばいいじゃん」


 ――まあ、それは兎も角、アビーでも無理なら出ねえだろうな、多分。

 ――とすると、単なる『戦利品トロフィー』か、後は『素材』なんだろうけど――


「――も少し真面目に、『鍛冶師』やっとけば良かったかな……」

「そもそもで『鍛冶』じゃないは兎も角――

 隣に天才居たら、それに任せるのが一番だからね。チグサどうしてるかなー」

「出て来る時も何か作ってたけどな――」


 もっと真面目に、『通信機』の類作らせれば良かったかな、と少し後悔する。


 ――この世界、『念話』の術は有るが、基本距離が短い。

 同空間内なら然程問題なく届くが、障害物があったりするときついし、距離が離れると中々難しい。

 『空気じゃなく、魔力を揺らして大声で会話してる様なモノ』とは、目の前の魔女っ子の談である――

 だから、遠くなると書簡が基本だ。


 ――まあ、『基本』な。

 『神の枝アールヴァン』連中には、そう言った技術はあるらしい――秘匿されてるけど。

 秘匿されてるって事は、あんまり突付かない方が良いのかな、と、『忖度』した訳だ。

 技術上は再現可能な段階ではあると思うんだけどなあ……

 途中での『盗聴』やらの問題を考えて、あまり進めなかったのが裏目に出たかもしれない。

 後は、『魔術』方面でも遣り様有るか、と鷹揚に構えてたし――

 こんないきなり、『遠くに速く連絡したい』がくると思ってなかったしなぁ……


「まあ――巡礼棚上げになったから、問題ないんじゃない?

 即時で強化必要な場面じゃなくなった訳だし」


 言われて、納得半分、という心持に成る。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 ――あの後、二人で上がってくると、なんだかドタバタとした雰囲気に地上はなっていた。

 話を物陰から聞くと、『教会』の上の方から、早文が来たと言う。

 使者が『転位装置』乗り継いでエスターミアまで来たというから、相当な焦り様だ。

 ――因みに、『転位装置』は、念話みたいな『術』じゃあない。

 『井戸』とかの跳躍現象を再現して、エルフが造った物とも、もっと旧い時代の遺物とも言われている。

 因みに、俺は後者の意見を推している――『通信』秘匿でこっちは限定的でも解放とか、訳分からんし。


 尤も、基本的に一回使うとかなり長めのクールタイムが必要らしい。結構不便なのだ――

 ――クールタイムの理由が『魔力の充填』なら、なんとか、なんて悪巧みもしているが、今は関係ない。


 ともかく、巡礼は中止、というのが一時間もしないうちにベルに伝えられ、彼らはバタバタと帰っていった。

 因みに、天幕とかは後から輸送するらしい。


 ――厄介事押し付けられたクランツさんが、一群見えなくなった後に、


「またこんなんかよコンチクショウがぁぁぁああ!! リアジューバクハツシロ!!」


 とか叫んでたのが、悲しかった――ええんやで、泣いて、ええんやで。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 そんなこんなで、俺たちは今、エスターミア側で張っていた大天幕の中に居る。

 ――まあ、待機状態だわな。


 つまりは、だ。

 差し当たって、危険な魔所に赴く様な用は無くなった訳だ。

 ――なんだけど、やっぱり『混沌竜』とか気に成るんだよな――

 死骸をみた訳じゃないから、下手すると『神』に取り込まれてるし。

 ……まあ、あんなへたれ、なんとでも出来るけどさ。

 思い上がりじゃなく、負ける心算がない、って奴だ。


 それより、大陸がいささか気に成る。

 『教会』連中があんだけいそいそ引き上げたの見るに、向こうでなんか有ったらしいし――

 つっても、『教会』も確か、俺の過去生の基督教なんかと同じく、騎士団囲ってるって話だしな――


「そういえばベル。『タイド』って『教会』関係の所でも?」

「起こって不思議は無いが、制圧出来る武力はあるだろう」


 武力問題じゃ無さそうだが――

 因みに、東方島嶼の心配は、正直してない。

 する必要が在る訳が無い――むしろ、ダンジョンの入り口が無くなってないか心配な程度だ――

 火力偏重なんだもん、あいつら……


「――良かった、入らずに済んだ、本当に、本当に良かった……」


 ……泣くほど怖がる事無いでしょうに、ナタリーさん。


「ふむ――思わぬ余暇が出来てしまったな」


 ……ベルさん、なんすかその悪巧み顔。


「――ナタリー。モノはついでだ。東方に行って来い」

「はあ、東方……」


 ――ぱたむ


「ちょ!? ナタリーさん!? ナタリーさん!?」

「御嬢様、そんな揺すったら、首にダメージが入りますって」

「――何考えてる? ベル?」

「うん――『大陸側の状況が今ひとつはっきりしない』なら――

 一時的に『四位フェル』にそちらへ避難してもらうのは有りだと思ってな」


 ――うわ、それだけじゃない癖に、清々しく言うなよ、脳筋系女騎士。

 どうせあれだろ、『こういう事の情報共有もしないなら』って当て付けだろ……

 この人、ほんと、何も考えてない様に見えて、鋭いな。


「下手なタイミングで行けば、『六星連』との連携を疑われて五月蝿いが――

 このタイミングでなら、文句は有るまいよ――」

「あの、私もですか?」

「ああ、問題ないと思う。今回の貴女は、『四位』からの依頼で、『学院』からやって来た護衛だからな」


 ――なんで嬉しそうなんですか、マリーさん。

 そんな期待するようなトコじゃないよ、飯は美味いけど。


「イゾウ、お前もだ」

「あ?」

「あ、じゃない」

「本気か?」

「お前の弟子二人が、十二分に頼れるのは分かった。

 お前はお前で、自分と向き合って来い――そいつらともな」

「――分かったよ」


 はは、尻に敷かれてるな、イゾウ。


「ジン――」

「ん?」

「その、ごめんね?」


 ……お前、ひょっとして、お前が……


「さっき、暇になったなら、行って見たいかなー、って言ったら、その……」

「――何でまた……」

「いや――ジンがフラフラ歩いてた所とか、見てみたいなー、とか……」


 ――いや、いいけどさ。

 お前も片方の血の故郷に行って見たいだろうし――あれ? 行った事自体は有るのか?


「とーほーって、どこ?」

「うん、海渡った、ご飯の美味しいとこだよ」

「まじか!!」

「まじだとも!!」

「ジンのお金でタダ飯だ!!」

「「いいぇああああああああ!!」」


 おま、まじフザケンナよアウル、カーラ滅茶苦茶食うだろが!! さっき厨の人に引かれてたろうが!?

 あとそっちのBBA!! 余計な知識与えるんじゃねえ!! つか、俺よりも資産は――


「――ジン。ちょっといいか?」


 あんだよイゾウ!! 酒も出せつってもお前はお前の懐から出せよ!?


「――ちょっとな」


 ――どうやらそう言うのとも違う様なので、俺は促されるまま、外に出た。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「東方に着いたら、ちょっと行ってみたい場所があるんだ」

「――花街の類?」

「ちげぇよ、あっち酒美味いから、そっちも行きたいけど」


 一頻り笑うと、イゾウは顔を伏せた。


「――ある島だ」

「……『レムナエク島』か」


 そこは、統治権こそ『六星連』の旗下だが、かつてはエルフ達が住んでいた。

 ――今も、とも言われている。

 交流の類殆ど無いから、情報も余り無かったんだが――


「――知ってたか」

「東方にも足跡有ったから、幾分か探ってみたんだよ。

 『第三柱』って呼ばれてたのがあったのは、そこだろ」

「ああ――」


 こいつが召喚の際に、『とある事件』に関わった事は、漏れ聞こえていた。

 それがあった島に行こうとしている、と言う事は――


「――今回の暴走、理由は分かってるんだ」

「…………」

「とどのつまり、ビビっちまったんだよ、俺は――

 あの時と同様に『剥落』が起きるんじゃないかと――

 まして、二年前のアレの場所の近くだ――」


 ボスッ


「――ぐっ!?」

「四の五の抜かすな、おっさん。

 なんとかしようって言うんなら、手伝ってやるからよ」

「殴ること、ねえだろ、油断した……」

「釣銭だ。一発多く殴られてたしな」


 結局、平和はまだ遠いなー、と思う俺だった。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 遠いどころか、戦乱が近付いている。

 それは分かっている。


「空はこんなに青いのにな……」


 船の準備を待ちながら、俺は空を見上げる。

 その色は、『記録』の中の向こうの空と、さして変わりが無い。

 ――不意に、別の『記憶』がよぎる。

 来て貰っては困る、不愉快な『未来』の『記憶』――天を遮る枝葉の下の、静寂。


「おおお――すごい」

「カーラは海初めて?」

「まえ、いったけど、すぐ別にいった――アレ、食べられるのか?」

「ああ、『シシカマス』ですかね、食べられますけど――」


 ――ざぶーん!! みぎゃー!! いっぱいよってきたー!?


「ああ!? 聞きなさいよ人の話!?」

「いや、今のはマリーが悪いよ、食べられる、の前に凶暴なの教えないと……」

「――かわいいなあ、バカの子は」

「――いや、さっさと引き上げましょうよ、船に噛み付かれても困りますし」


 ……俺の杞憂を他所に、実に楽しそうな事だ。


「――ま、俺の望む所は、こういうトコなんだけどさ」


 ぺしゃぺしゃ


「ちちち、ちべたい、じん、あたためろ」

「おい、よせ――タオルで拭いてもら――」


 ヤメローヤメロー――べしゃー


「はいはい、カーラ、拭いてあげるから、まずこっち」

「うう、みず、ひゃっこい」

「当たり前だ!!

 何月だと――くっそ、いいから拭いてもらえ、後俺にもタオル!!」


 ――何て締まらない。

 実に締まらない。

 だが、そう――あんな静寂は真っ平御免だ。

 そこがどれだけ平和でも、独り瓦礫の上なんて、御免被る。

 どうしようもなく騒々しく、悲劇もあって、痛みもあって、

 基本的には悪意に満ちていても――

 俺は、こっちが好みなのだ。


 その為なら、幾らでも抗うさ――

 まあ、見てろ、『グゥエイン』『ミイナ』。

 お前らが羨ましくなる様な、そんな未来に行き着いてみせるから。

 背嚢に入った二人の欠片に、そんな風に呼びかける。


 そんな風にして、舞台は、次へと進む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ