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『03』/19


「む――」


 目が覚めたのは、昼近くの事だった。


「――え?」


 ふと見ると、足に引っ付く様にカーラとアウルが転がっている。


「――は?」


 左を見ると、腕に背を付けてアビーが転がっている。


「――なん――」


 右を見ると、シオが手を握ってい――もとい、絡み付いている、全身全霊で。


「――――」


 黙って顔を上げると――


「――――」

「――おはよう」

「――オハヨウゴザイマス」


 ――ベルが入り口からこちらを見下ろしていた。

 違います朝チュンじゃないですもう昼ですごめんなさい。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「いやー、ごめんごめん――意外と寒い、と思って寄った所までは記憶があるけど」


 そんなアビーを横目に、昼飯を食っている。


「なんであのねーちゃん、あんな怒ったんだー?」

「さあ――何故でしょうね?」


 分かってて何とも言えない笑顔でこっち見てるんじゃねえよ、アウル!!

 お前は確信犯だろ!! これは実に面白そうとでも思ったんだろ!?


「寝床は分けただろうに、何故ああ成った!?」

「いや、ジンを回復してたら、そのまま寝ちゃったらしくて……」


 あっちではシオが怒られている。

 ――その、すまんな。


「――結句――悪いのは貴様か、ジン……」

「落ち着けや、ベル。『そう言うの』じゃないのは分かってるだろうが、うらやま――」


 ゴスッ


 ――余計な一言を何故言ってしまうんですか、イゾウさん……


「――まあ、いい。別にお前らの関係性をとやかく言う心算は無い。

 如何とでも好きにすりゃあいい――だが状況を考えろ状況を!!」

「いや別に、そういう関係じゃ――そう言えば、色々、どうなったんだ?」

「――『巡礼』は日延べだ。明日冒険者ギルドの確認を入れて、明後日になる。

 ――『三位セレ』と言うより『教会』が色々うるさかったが、黙らせて置いた」


 いや、さーせん、一人で事後処理投げられたら、切れるわな、そりゃ。


「後――お前らの仲間の一人、ユートとか行ったか? あいつは『三位』の陣営に行った」

「あー……まあ、仕方ないかな。

 そもそもでこっちに居たのも、変ちゃ変だったし」


 ドライですね、アビーさんや……一応弟子でしょうに。


「そもそも、私が教えられるのは基礎の基礎だったし、それもある程度習熟してたしなあ。

 才能の傾向が私とは違ってるから、何時かは独立路線だったし。

 ああ、『情報』って点で心配しなくても、あいつはこっち陣営の事は殆ど知らないはずだから」

「というか、正式に挨拶に来てから行ったからな。

 そう言った事は彼が『ヴァレリーク』なら、尚の事心配していない――扱いの心得は有るだろうし。

 ――お前らも昨夜、一声掛けてから行ってくれれば、あんな手間――」


 いや、半分は偶発的だったんですけど……と言おうとしたが、眼光の鋭さに黙る。


「――で、何が起きた?」

「――イゾウからは?」

「途中から『奥の手』で意識とんでて分からんという奴の話など、信じられるか?」


 無理ですね。ああ、『奥の手』についても聞かないとな――


「――まあ、ある程度で良ければ」

「仔細を知って居るのはお前らだけだ――聞かせろ」


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 説明し終わって、ベルはふむ、と一言だけ――反応薄っ。


「――それだけ?」

「ダンジョン内で奇態な事態が起こっても、それを一々疑うのは手間だ」


 いや、そうかもしれないけどさあ……


「それに、それだけの事があったのなら、別の問題の発生原因を、其処に求める事も可能だ――

 それだけの『魔的質量』がぶつかって、何処と繋がってるのか不明、なんてのなら、な」

「何?」

「エルスから早文が来てな。大陸各地の複数箇所で、小規模な『タイド』が起きた模様だ。

 『二軍』の爺様経由でロアザーリオにも確認を取っている、との事だが、恐らくは起きている」


 『嘯』というのは、獣魔とかの大規模発生の事だ。

 別の世界で言うところの『スタンピード』とか呼ばれるモノに当たるだろう。

 小規模な、って話なら、そんなに被害は無いと思うが――

 ――ユートの心配が、モロに的中してるのがなんとも……


「もっとも、被害が出たとして、秋の今時分に何の対策もしてない所の方が悪いんだ。

 それが原因であったとしても、突付いた事の責任問題なんかには成るまいよ」

「あー、『冬眠型』の対策?」

「そうだ――尤も、エスターミアの場合――

 街道至近の所は町場の逆方向に『餌場』を置いて、制御してるがな――」

「おお? そりゃまた何で?」

「駆除しても旨味が無いんだよ、ウチの領内で『秋の嘯』を起こす奴は……人足代の方が勝ってしまう」


 ――初めて会った時、自分を脳筋とか言ってたけど、十分頭良いじゃん、この人。


「――変わったバケモノは?」

「ん? 詳細は確認中だが、一便には明記されていなかった。

 あいつが書き落とす事も無いと思うから、出現は不明だな」


 うん――『アガザル』無しなら、各国の軍でなんとでも出来るだろう。

 ……出来なかった所は、油断大敵って事で一つ、どうだろうか?


「とりあえず、一日休め――『三位』の陣営にはそう伝えている」

「あーと、失礼します。昨夜の一件の関係者の方は、こちらに?」


 そう言って、天幕に入ってくる人物が居る。


「クランツ殿、どうした?」

「ギルドの状況調査に『三位』様が同行したいとの事で、昨夜の関係者の方もご一緒に如何か、と――

 あーと、ですね――あくまでも『個人的に』お誘いだそうで――……」

「……実質的に『巡礼』になってしまうだろうが」

「私としてもそう思うんですけど、ホントに傍回りだけ連れて、らしいので――」


 やめなはれベルさん。相手、滝の様な汗掻いてるじゃん……


「――僕は良いですよ」


 何時の間にか仮面をつけ、立ち上がるシオ。


「――良いのか?」

「お給金が頂ければ」


 ――いや、今更『四位フェルの代役』をやらなくても。

 そもそもクランツさんこのひと、多分知ってるんじゃないかな?


「それに、エリン家の末姫と、繋がりを取っておくのも悪くは無いでしょうし」

「――個人として動く以上、給金は出せんが、阻む理由もない」

「――んじゃ、俺も行く」


 ――ほっとくと、あまり良い事にならない気もするし……


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――で、最終的に、この穴から飛び立った、と」

「そんな所ですね」


 『三位』――今は個人的にだから、ミカ=エリンか。

 彼女は、僧侶が普段着るようなローブに身を包んでいた。

 流石に、昨日現れた時の様なキラキラしたヴェールとかはつけて居ない。

 ――つっても、見た目にも分かる程度に良い生地の物着てるけどな、流石聖女。


「見てみたかったですね――」

「……グロかったので、あまり見目いいものじゃないですよ」


 ――ところで、お前、なんでそんなV系バンドみたいな服装してんの、ユート?


「――何笑ってやがる」

「いや――昨日言ってた事が思わぬ形で成就されて、俺は満足です」


 似合うけど、面白い。写真でもあったら撮ってる。


「――責めないのか?」

「何を?」

「――黙ってそっち離れて――」

「まあ、よく有る話しだし。どっかの『ヴァイス』みたいな抜け方したらぶん殴ってたけど」

「――いや、俺、ゲームあんまやらないって――」

「『おれは しょうきに もどった』?」

「いや、だから……」


 無駄に真面目なんだよ、力抜けよ。

 ――それに、立場的に『三位』と『四位』に一人ずつ、俺らみたいなのが付くのは悪くないし、と思う。


 ――皇帝を選ぶという戦いが控えてる中、戦力が一極集中するのは良くないと思う。

 それで良い場合ってのもあるが、俺の立場の根底は、最終的には『神』の打倒だ――

 まだちらちらとしか姿を見せてないが――どうせ『敵』だろうし。

 そんな中、その手下であろうエルフ――

 『神の枝アールヴァン』の息が掛かった国の長の選定――直接でなくても、何かの動きはある筈だ。

 となると――まあ、都合の良い奴に肩入れしてくる可能性が高い。

 何処に、となると――恐らくは『一位エノ』だろうか。

 何せ血統が血統――母親が『エルフ』らしいし――

 バーフェルブールの先代が養子に迎え入れて云々って辺りも、なんとも色々ありそうな話だし。


 ――俺が最初に居たあの時代、あの情勢へ向けた修正案の様なモノが動いているのは、確実だろう。

 あくまで『だろう』だ――何せ、『賢者』『魔王』の『歴史』の知識とは大分乖離している。

 それに、逆を言えば『神の枝アールヴァン』と呼ばれる連中の『知識』の度合いも不明瞭だ。

 『起こり得る、経験としての『未来』』、とでも言うか――

 『巻き戻し』的な事が可能であるのなら、知っていて対応出来る筈の事に、対応していなかったりする為だ。

 尤も、極端な介入を行わないとかの縛りがあれば――何て、あらゆる方向に考え得る。


 だが、ここはあくまでも、シンプルに――相手に嫌がらせをする方に考える。

 相手の予測を外れ、混沌とすればする程、状況を読んで行くのは難しくなる。

 当初予定と異なる手段を取らなければならない事が重なれば、多少なりと焦りも出て来るだろう。

 悪手や馬脚、とまでは行かなくても、拙速な攻め手が出る事も有るだろう。


 そう言った時に、ある程度でも気脈を通じている相手が居るのは、確実に良い事だ。

 味方なら尚良いが、敵であっても、手が分かったり協力出来る事も有るだろうし。

 後はそういう混沌の中で、どの程度まで食い込んでいけるか――そっからが課題だな。


 まあ、そんなの無くても、明らかに味方に付きたくない奴も居る。

 『一位』とか絶対に敵になるしかない立場だと思うしな、俺。

 個人的には知らないけど、貴族連中の蠢き方見てれば、どんな奴なのか想像は付く。

 清く厳しく引き締める奴なら、ここ数年で態度変わってると思うけど、んな事ないし。

 そもそも、いかに寒村と言えど、開拓者とか流出するままにしてる奴が居る段で、もうね。


「――悪いとは思ってる。けど――色々考えたら、俺はこの人放っておけないらしい」

「それは『恋』って奴だ」

「キャラ立ちし過ぎてて、そこまで思えてねえよ、落ち着け、色ボケガキ」


 お前だってその体14じゃん、中身に到っては20代半ばだろが、確か。

 まあ――自分の自由の『課題』の為でも、教区連中を幸福に出来ただけ、兆倍マシだけど。

 色々在るにせよ、幸せに成れれば良いなぁ、とは思ってますよ、ええ(ニッコリ)。


「――あら? なんでしょうか?」


 そんな声が聞こえ、俺とユートは振り返る。


「――戦った竜の死体の一部、ですね」


 シオがそう呟く方を見ると、そこには『混沌竜の首』が転がっていた――

 ――位置から見て、イゾウが切った分かな?


「――『変性』が解けて、元のモノに戻って行ってる様ですね」


 おおい、豪胆だな、普通に『竜の首』触ってますよ、この聖女。


「ミカさん。あんまり触らない方が――」

「大丈夫ですよ、ユー君。もう――ほら――」


 そう言う聖女の、掌が置かれていた部分は、ざらざらと崩れ始めている。


「『崩壊』途中です。もう数十秒で――」


 ――ざあっ


 その言葉が終わらないうちに、それは形を無くして崩れ落ちた。


「――何か残っていますね?」

「いや、だから、無防備に進まないで下さいって」


 大変そうだな、ユー君www


「――『鱗』と、『羽』」


 いや、待って、お前も無防備に進むな、シオ(汗)。


「――これは貴方に譲ります、『四位』」


 鱗と羽を持ち上げ、シオに渡す聖女。

 ――ああ、うん。バレてるとは思ってたさ。


「――『教会』側で五月蝿くありませんか?」

「『冒険者』が『戦利品』を得るのは、当たり前の事ですよ?

 奪ってまでなら問題でしょうけど、私はたまたまその場に居合わせただけですし」

「――いいのか?」

「……おおっぴらには成らないけど、『聖樹教こっち』――

 鱗位なら幾分かのストックあるからな――後、確か、加工大変だし」


 ああ、確か、そのままは使い辛いんだったか――

 『竜の鱗の強度は、実は魔力通してるから』、云々。


「それに、私はあくまで『散歩』の途中ですから」

「……こんな物騒な『散歩』は勘弁して欲しいんですけどね」

「こんな所でないと、気軽に歩きながら散歩出来ませんし」

「――あの、手に絡みつかないで」


 ――やろう、仲睦まじいじゃねえか、爆発しろよ、末永く炎上しろよ。


「……それが、皇帝を目指す理由、ですか。

 『聖女』も、事によっては『樹の巫女』同様、『世界樹』に身を捧げるから――」

「――命を捧げるのはどうでも良いんですが――

 ――自分の心を『教え』に捧げる気には成れなくなってしまったんですよね」


 シオの問いに、そんな風に答えながら、帰り路を目指す聖女。


「――出来るだけ、直接的に切り結ぶ事の無い様に祈っていますよ、シオ」

「――ええ。こちらも、そう願います、ミカさん」


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――アレが、貴方の手紙にたまに書かれていた方ですか?」


 ミカの問いに、ユートは頷く。


「――不思議な気配の人ですね」

「――不思議、ですか?」


 不思議というか、底知れない奴ではあるが、と考え込むユートに、ミカは笑う。


「まるで、森の様な、とでも言えば良いのかしら?

 確かにそこに有るのに、全容が見えない――

 ――それで居て、薄暗いと言う様な、不快ではない。でも、きっと――」


 不用意に中に入るのは、とても恐ろしい森――

 そんな事を思いつつ、相手にとっては友だったと思い、口を閉ざすミカ。


 そして、それきり。

 二人は、ゆっくりと、何を語るでもなく歩いていた。

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