『03』/16
「まーた落下オチか――馴れたくも無いけど、いい加減馴れて来たな」
ぼやきつつ、俺は『グゥエイン』の背を蹴って、イゾウに切り掛かる。
対する相手は――まるで血振いでもする様に、刺さっていた相手を弾き飛ばし――
ガギィィィイン!!
こっちの攻撃を受け止め――る、って、受け止めての流れから、掴みに派生すんなよ!?
「『風砲』!!」
離れる相手――俺は再び『グゥエイン』の背に戻る。
「何してんのジン!! そいつ、接近戦の鬼だぞ!?」
「いや、落下の勢いで『切り逃げ』する予定が――!?」
言い合う俺達の視界の隅に、そいつの腕が伸び――ええええ!?
ガカッ!!
「なん、え!? どうやって――!?」
『グゥエイン』が尻尾で弾き飛ばしてくれて助かったが――どういうこった?
『浮遊』とか『飛翔』の魔術の類を、こいつが出来たとは思えないんだけど――
――トッ――トッ――
――俺の疑問に答えるように、ソレは空間を蹴って飛び跳ねる。
正確には――いつぞやも見た、『犬の頭蓋』めいた、何かを足場に。
「――アビー、あれ、なんだか分かるか?」
「正確には解んないけど、『犬神』じゃないの? あれの本場って四国じゃなかった?」
「――何でお前、日本の妖怪にまで無駄に詳しいんだ――」
「あらゆる方向性から、あらゆる可能性を探すと、そうなって――来る!!」
アビーの言葉を受けて、『グゥエイン』が身を翻すと、そこを火炎が通り過ぎていった――
見れば、そこには、壁に爪を突き立て、こちらを睨む『混沌竜』。
「――まーだ居るのか」
<ふむ――小娘、あの剣士を足止めせよ>
「……だからー、なんで皆私に無茶振りすんの――出来るけどさ――」
そう言って、アビーは背中から跳ぶと――
「『飛翔』――」
細密なコントロールが必要な筈の術を、詠唱無しであっさり使い――
「――『浮遊』、『跳躍』、『飛翔』!!」
「――っ!?」
そこへ肉薄してきたイゾウに、術を付与した――
左足と右足で別の術掛けるとか、魔術方面では、やっぱりこいつはチートだ。
――ああ、イゾウ、無理に動くな、壁にぶつかってるじゃねえか。
「戦闘じゃ図抜けてるからね――直ぐ対応して来ると思うから、長くは無いよ?」
<十分だ、小僧――やるぞ>
そう返すと、『混沌竜』に向かって飛ぶ『グゥエイン』。
<飛ぶ事も出来ぬか――哀れよ>
「黙れ――」
最早、頭の残っていない首から、直接火球を撃ってくる、それ。
――あっ、見た事あると思ったら、こいつの今のフォルム、ザッハークに似てんだ。
本数多いから、どっかのプロビデンスGに見えるけど。
――でも、こいつ――
――ボァッ――
<ふん――温い炎よ――>
なんで――一本ずつしか攻撃しないんだ?
「――もう息切れかい? 『混沌竜』」
「黙れ――私――は――我は、余分なモノを捨て、本来に戻りつつあるのだ」
余分――ああ、『グゥエイン』とかかな?
「負け惜しみか? そんなにブドウは酸っぱそうか?」
「余分な、事だったのだ――そんな事を、せずとも――『我を打倒し得るモノが、ここには居ない』――」
「――何言ってんだ?」
――んー……?
「分からぬか!? ハハハ!! 都合が良い!!
ならば、我が勝つ!! 勝つとも!!
お前らが果てるまで続ければ良いだけだ!!」
――いや。思い出しては居るんだけど。
こいつ、本気で言ってるのか?
――いや、もう、なんというか――何処までおめでたいんだ?
「『白竜』だろ」
「――――」
「言っとくが、『殺されない』事を『無敵』と思ってんじゃねえぞ?」
「ならばやって見るが良い――」
だから、その火の玉は効かないって――連続で燃え続ける『ブレス』ならともかく。
「――おい、一個だけ答えろ――お前はかつて、『どんな風に混沌竜』を倒した?」
「――決まっていよう?
『一本ずつ襲い掛かるその首を倒し続け――『白竜』が一本と相打ちに成り』」
「――やっぱり、『違う』んだな」
「――何?」
――俺の知ってる所の『攻略法』はあてに出来ない――か――
いや。既にこいつは、自分の口にした『縛り』からは逸脱している。
出て来た処から、既に全部の首で動いていた。
『グゥエイン』『ミイナ』という異物を抱えた処から発生したせいか――
むしろ、俺の知って居る筋に近い行動をしている。
――まあ、全くの別世界で、『縛り』も無いだろうけど――こいつは、そこに縋ろうとしている。
――まあ。『不死身』の攻略法ぐらい、なんぼでも知ってるけどさ。
「『グゥエイン』。壁からアレを引き剥がせ!!」
<ああ>
「無駄な――ああ、語ることもあるまい!!」
そう言って、口を噤むそれ――首は再び肥大し始め、残る首が伸びてくる。
<ふん―ー苛々する形状に成りよるわ!!>
『グゥエイン』は噛み付くそれに構わず、壁から引き剥がし――再び投げ捨てる――
<愚か者め――ビューネイの下僕どもの方が、まだ堪えたぞ!!>
そして、そいつに向かって羽ばたく――
その勢いのまま、相手の腹を爪で捉えつつ、更に加速――ちょ、まて、てめ、速すぎる!!
<小僧!! 我を知って居るならば、やってみよ!!>
「お前とこの主人公、頭おかしいって!! これで跳ぶとか!!」
だが、やってやる――この世界で最初で最後かも知れんしな!!
<ツイン――スパイク!!」
Gyyyyyyyyyy!!??
ぎゃぁああああ!! 頭弾けとんだ!! 落ち――ぎゃあああああ!?
<クハハハハ、やれば出来るではないか!!>
「こ――怖ぇえよ!! 普通に怖いって!!」
キャッチするなら、口じゃなく手にしてくれよ!!
「――まあ、いいや、問題は――」
目の前のこいつもだけど――と、上の方を見る。
「……――雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄!!!!」
やべえ、やっぱり長くもたなかった――
イゾウの奴、自由落下に近い速度で跳んできやがった。
ギャリッ――!!
おまけに、残った首の一本に一撃くれたぞ!?
実質のデバフ乗った状態で、どういう運動神経してんの!?
「――っははは!! やはり!! 効かぬ!! 効かぬぞ!!」
「――じゃあ、これならどうよ」
――いや、アビー、お前まで降りて来なくても――んで、その片手で練り上げてる魔力の塊、何よ――
「ははは、何をやっても――
「食らってみてから言ってみなさい」
――っ!? ――!! ――!?」
――おっかねえ女だな。躊躇い無しで相手の息の根止めに行ったぞ。
「ぶっつけ本番ではあるんだけど、私もノッてるからね。『無空硝牢』とでも名付けようかな?」
「――っ!? ――っ!!」
「真空状態で『音』が届くわけ無いでしょ――まあ、完全真空でもないけどさ」
やっぱりだよ、この魔女っ子、『窒息死』させに行ったよ、本体を。
「――っばぁあああああ!!」
「あーりゃ、やっぱ、長くは無理かー――まあ。この一瞬有れば――ほれ」
――ゴリュっ
あまりに痛々しい音が響く。
イゾウが再び飛来し、相手の体と首の付け根を、深々と引き千切ったのだ。
「あ――ばか、な――」
「屡唖唖唖唖唖唖!!」
そのまま二の太刀に移ろうとするイゾウ――だが。
――ぞるっ
相手の傷口から、得体の知れない――いや、良く見慣れた――モノが迸り、イゾウを再び弾き飛ばす。
木の樹皮の様な茶と、赤が混じった様な色合いの――しかし、所々が妙に生々しい、赤と白の――
――観察は其処までだった。
ひゅがっ!!
「んなっ!?」
「轟亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜!!」
まるで、そんな手妻は見飽きたとでも言いた気に、再び飛び掛り――蹴り飛ばすイゾウ。
「――あれも、『接がれし者』か」
「何時見ても気色悪いな――どうする、ジン」
――いや、決まってるだろ。
どういう原理で首を模倣したりしたのか知らんし、本当にそうかも分からんが。
『接がれし者』相手なら――やる事は決まってる。
「叩いて叩いて燃やす」
<む――あまり時間が残っていないな>
見れば、『グゥエイン』の体が崩壊を始めている――体が縮み始めている。
――こいつと一緒に、もっと戦いたかったなぁ――こいつに乗ってマスコンとか。
<どうする?>
「引っつかんで上へ飛べ!! アビー!! 下まで『罠』複数仕掛けろ!!」
「あいよー」
さて、最終局面、だな――俺は『槍』を引き摺り出し、構えた。
・ ・ ・ ・ ・ ・
何がどう違ったのだ?
何ををどうすれば良かったのだ?
「考えれば良かったんだよ!!」
何故こうなのだ?
何故こんな事になるのだ?
「思い直せば良かったんだよ!!」
うるさい――お前に、何が――
「ああ、わからねえよ!!
俺とお前の知ってる『世界』の『根底』が違うってんなら尚更!!
だが――分かり合おうとしなかったのは、お前の方だろうが!!」
息すら出来ぬ加速の中、それはその言葉を聞き続け――
ドズっ
その棘が、深々と刺さるのを感じた。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「――違う、とは――違っているなら、何故、我を、こんなに知っている――?」
それこそ、言っても意味無いだろ。
『八対四』か、『一対四を八回』か――『GB版』だとか『SFC版』だとか、そんな違い。
そんなちっぽけな違いで――
お前の『世界』と、俺の知ってる『世界』が若干違う等、説明する意味が無い。
だが、それ以前に。結局の所、お前の失敗は――
「――『雨宿りの木』の下で、雨が上がらなくても、もっと待てば良かっただろ」
「――――」
「わざわざ、相手が足を止めて待ってくれた時に――お前には出来た事があったはずだ――」
「『決まっている筋』を、覆す事など――」
「だから、俺は、お前が嫌いなんだよ!!
『お前』だって、『何時か』は、『アムリタ』だった癖に!!」
――ボッ!! ボッ!! ボッ!!
穂先に相手を刺し貫いたまま、アビーの張った『罠』を突き破る。
その度に、崩壊と再生を繰り返す、『首』。
それすら形作れ無く成りつつあるのか、無数の『触手』が弾け出ているものもある。
そして、それすら次の罠で砕け散る。
――まるで、この瞬間にも、『輪廻』を繰り返す様に。
「立ち止まったのは、『お前』だったからだ!!
もっと考えれば良かっただろう!?
『何が問題で、何が出来るのか』を!!
何も出来ない、なんてのは結論だ!!」
底が見えてくる――其処には、アビーが張った一際大きな術式が、輝いている。
「――結論を出す前に、手を握って傍に居れば良かっただろうが――
躊躇い無く殺し殺される結末に至る前に――」
ガクン、と一瞬、視界が揺れる。
見れば、『グゥエイン』の羽が崩壊を始めている。
「一本道しかなくても、その途中で寄り道する事は出来た筈だ。
此処に来てからもだ――相手を食い散らし、食い破る前に、何か出来た筈だ。
――考えなかった――手を取り合わなかった、お前の負けだ」
そう言って俺は、『槍』を手放し――それの石突を、一発蹴る。
「『不運惨果・散華の槍』――」
それは、そのままの勢いで――アビーの張った術すら貫き、その地面すら貫き――
深々と、その下の更なる闇へと落ちて行った。
・ ・ ・ ・ ・ ・
<やれやれ――どうにか間に合ったか>
砕け残った足場に俺を下ろすと、『グゥエイン』は呟く。
「――無茶するよ、全く――というか、あんた今、どういう状態なの?」
<さてな――『魂』を譲り渡した訳では無い故、猶予があるのかもしれん>
「――なんだろうねぇ……『適当ででたらめ』の真髄を――」
ドザァッ!!
「――ああ、もう一匹の『適当ででたらめ』が来たわ」
着地音のした地点を見ると、そこにはイゾウが居た。
ただし、結ばれていた筈の髪は解けて、おどろに乱れ。
その眼光は最早餓狼の様相。
普段のだるそうながら、優しげな眼差しは無い。
正に――『剣鬼』と呼べるような気配が、そこに漂っていた。




