『03』/14
北欧神話の『スルト』、ヒンドゥ神話の『カルキ』や『シヴァ』――
事によっては、『終末』を予言されている宗教の『主神』もだが――
『世界を破壊し尽くす』、あるいはそれに順ずる様な『滅亡』を齎す存在というのは、意外と多い。
始原へと回帰させるモノもあれば、次なる世界の入り口として、均すモノもある。
審判を行うモノもあれば、一切合財纏めて火にくべるモノもある。
しかし、それは善でも悪でもない――『一切滅却』を象徴しているだけである。
システムの上で、特定の値が水準に達すると行動を開始し、全てを須らく均す。
その役割が帰属するところは『神話』『宗教』で様々だが――
基本的には『現実』を破却し、次の段階の世界へと進めるという行動は合致している。
個体名としては様々だが、それに冠する称号として、相応しいのはこれであろう。
――『世界破壊者』。
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さて話は全く変わるが、『ROMハック』という言葉がある。
原義的な言葉の意味は兎も角も、ゲーム界隈ではこういう定義であろう。
『ベースとなるゲームソフトのシステム・シナリオ等の変更不能部分にアクセスし、
主人公の能力を変更したり、ゲームその物の難易度操作を行ったり、
シナリオ部分に選択肢を持たせたり、全く新しい筋道を構築したりする』
同様のステータス的変更をもたらす物に『チート』と呼ばれている物があるが――
これは原義的には『ズル』とかそういった意味であり、その仕組みも基本的には異なる。
『世界そのものの数値を書き換えている』というよりは――
『顕現している現象に、更に上書きしている』と言った方が良い。
前提からして書き換えている『ROMハック』の方が、色々と、より根深いとは言える。
ともあれ、この『ROMハック』――
『著作権』や『ライセンシー』に引っ掛かる為、基本的・法的にはアウトの分類――
……なのだが、この類が世の中から絶えた事は無い――何故か。
単純に、上辺を誤魔化した『海賊版』の『キャラ変更』等は他所に置くとして――
『難易度が高すぎる低すぎる』、『グラフィックが気に入らない』という、ゲーム的要素から――
『このキャラクターの扱いを何とかしてあげたい』という物語的要素まで。
様々な理由は在るとは思うが、基本的には『満足出来ない存在』が居るから、なのだろう。
例えば――『彼ら』の『そのまま』を、否む様な――
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『グゥエイン』は、静かに時を待っていた。
『竜の宿業』に従った自分を討ちに来るであろう『友』を。
『子竜』は、ひたすら耐えていた。
自分の身に宿る、世界を終わらす『災厄』の重みに。
『ミイナ』は、ただただ走っていた。
自分が知る由も無かった、大きな犠牲を払う、『使命』に向かって。
まるで――抜け出る事叶わない、『重力』に捕らえられた様に。
引き摺られる様に、或いは、それ以外の道が無い様に――
再び――『運命』の轍を――
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実際の所、この『ROMハック』――言う程簡単な事では無い。
どちらの愛に優劣がというのではないが、単純に『小説』を派生させるのとは、入り口の狭さが違う。
何せ、前提となる知識が異なる――
『該当言語』を知らなければ、そもそも読み解く事は出来ず――
『仕組み』を知らなければ、書き加えたとしても、正常に動かす事が出来ない――
分類的には同じく『二次創作』だが、やっている行為は『一次創造の模倣』に近い――
極論するなら、そこへの愛情や希求が余程で無ければ、手間を掛けてまで『そんな事』をやる事は出来ない。
不平不満を抱きつつも――物語を書き留めて、満足する者の方が遥かに多い筈だ。
――それを始めた連中というのは、法的に是か否かは兎も角も、相当な連中だったのだろうと思える。
それこそ――世界のバランスを壊す程度の思いを抱く程に。
――現実・現在・定義・既定を叩き壊す以上――
『それまでの世界』にとっては――その存在はやはり、紛れも無い『世界破壊者』であるのだろう。
――たとえ『それら』が、誰かにとっての、底なしの悪夢や地獄であったとしても。
『世界』とは、『天秤の傾いた方』の事でもある故――『上がった』側の皿の中など、殆ど省みられない。
下手にそれらを気にするものは『変わり者』。
それらを擁して異を唱えるものは――大雑把に括られる――
『悪』とか――『魔』とか。
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不意に、三者はそれぞれに――何かの引っ掛かりを感じた。
本当に、それで良いのか、と、問われたような。
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――だが、世の中には、なんと呼ばれるか等、知った事では無い連中も、確かに居るのだ。
――例えば――
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――自分は――三人が振り返る先――
――ガシャァアアアアアン!!!!
それぞれ、別の物に見えていた、壁が砕け散り――
「誰がババアだ!! 『XXX』野郎が!!
経年が事実にしたって、それしか特徴無いってのかよ私は!?」
砕ける筈の無い『壁』を打ち砕く、盛大なノックの音とともに――『魔女』が現れた。
・ ・ ・ ・ ・ ・
――さて、ここに。
『ROMハック』と『チート』と、良く似た筋道の物事がある。
それは――魔法と魔術。
システムを理解し。
世界を解析し。
願うものを結実する。
世界そのものを書き換えている『魔法』と。
現象を上書きしている『魔術』。
だが――『魔法使い』でなくても、『魔術師』でなくても。
あるいは――『『世界破壊者』で在ったとしても――
『誰かが誰かに手を差し伸べる事は、出来る』。
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さしたる速さではない。
シゼルはそう判断しながら、相手の目を狙う。
「お二人共!!」
「『躯縛』!!」
「『腐朽』!!」
相手がかわした処へ、ヴァレリーク謹製の物理的固定の術式と、主の崩壊毒式が穿たれる。
――中々いい。流石に『竜系』、しぶとくはあるが、押し切るならこれで行ける筈だ。
「――もっとも、あっちの方は無茶苦茶ですけどね」
そう言って目をやる方には――イゾウ。
その動きは鋭く――しかし、無駄な力が入っていない――しかし――
ooooOOOOOhhhHHHH!!
「雄々々々々々々々々々々々々々々々!!」
その気合のぶつかり合いたるや、獣と獣が組み討っているのと変わらない。
そして、その斬撃痕を見れば、獣が食い千切った様な痕。
脇を見れば、既に一本が半ば千切れるように転がっている。
「マジかよあの人――歴史上の人物の癖に、なにあの魔的な能力……」
呟くユートの声に苦笑する。
「気が立ってると思うので、近寄らない方が良いですよ?」
「言われても近寄らないですよ、あんな危ない状況――」
「二人共!!」
主の言葉に振り返ると、そこには迫る首――
「『光指』――『延長』!!」
傍の術者が光の刃でそれを応撃するのを見て、貴方も大概でしょうに、と更に苦笑する。
構成密度が尋常でない為か、『竜』の鱗も徹っている。
「――さてさて――もう一方は――」
そう言って今度は、シオ達の方を見る。
「――心配無用ですよねぇ……」
そこには、無数の『鳥』で相手を圧迫する、二人の姿があった。
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「――あー。当たり引いたな、これ……」
「何、当たりって!?」
いや、言いたくないなー、と思いつつも、俺は言葉を連ねる。
「――あの中で、あんまり怯んでない奴いるだろ? あれ多分『不死身』だわ」
「……なんで先に言わないの……」
言ったら士気下がりますから、と思ったのが半分。残りは――
「出方が半分で、その要素持って来てないかと思ったんだけどな。
あんなメタな言動取る位だから、別物になってれば、と思ったんだけど……」
「――今度からは、他の誰にも言わなくても、僕には言って。
覚悟が決まってるなら、そう行動するから」
「ああ、悪い」
こいつ、ホントにあの時ちびった奴かよ――勇ましい成長の仕方しちゃってまあ……
「兎に角、どうするの?」
「――他の首を復活させるような要素が無いなら、そこまで持っていくのは出来る。で、後は――」
「後は?」
「……動き待ち」
「……無計画とか言って僕を怒る資格無いよね?」
うぇひひ、サーセン。
でも、仕方無いんだよなぁ――ステータスの文字、見た事無い表記なんだもん……
「――というか、君、今更なんだけど、何その髪の色」
「……今更、というか今言うか。変装――というか、そういうスキルで変えてる」
「――髪の色が変わるスキルって、また変なスキル持ってる――ね!!」
「無限複製能力のあるお前が言うな――よ!!」
――体力がバカみたいにあるのも仕様かな?
よくこんなのをガリガリ切れるな、イゾウの奴……
「――そう言えば、アウルは?」
「うん――『悪事』を働いてる」
此処が、ライセンスのあるゲームなら、だけど。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「――って、おおう……びっくりした。
夢の中の『隔壁』壊しちゃったのかな?」
アビーは、眼前の三者を見遣った。
それぞれが、それぞれの姿でそこに居る。
<……騒々しい娘だな。お前を待っていた覚えは無いぞ>
「いやいや、寝惚けてんなよ、『巨竜の子』。
最年長だろうあんたが率先して動かなくてどうすんの」
その首に向けて、腰に手を当て叱る様に語りかける。
「折角自分たちの枠が無い世界に来たのに、あんたはただ待ってるだけ?」
<――先程、見えたぞ。自分に囚われているのは、お前も同じだろう?>
「違いますねー、全然違います。私は、自分から、殴りかかってるのよ。
渋々とはいえ、ビューネイと戦った時のあんたの様にね。
ところが今のあんたは、生き死にを他人に丸投げして待ってるだけ?
何時からおじいちゃんになったんですかー?」
<小娘――!!>
「葛藤してる『ミイナ』の方がましよね――」
そう言って、『祭壇』の前の階段の途中で立ち尽くす少女を見る。
「――選びたいんでしょ?」
「……分かりません……」
「分かるよ。君の『流れ』を見れば。
本当は最後まで役に立ちたかった筈なのに、最後までは無理だった。
そしてそれを、自覚はしてなくても覚えているから、躊躇ってる――『先へ進む』という事、そのものを」
「……私は……」
うつむく少女に、傍らに転がっていた『子竜』を抱き上げて、手渡す。
「――自由にして良いんだよ。
もう一回運命に囚われるのも、全く違う道を歩くのも、君の自由。大丈夫」
静かに、静かに堪えている『子竜』の額を、そっと『ミイナ』は撫でた。
「――お話中悪いですが――」
「うおっ!? ちょ、っと、心臓に悪い出方しないでよアウル!!」
いきなり『祭壇』の上にいた相手に、抗議の言葉を上げるアビー。
「――全員を助けるには、無理が有ります。『体』が無い状態ですから――
でも、幸いというか、ここは『泉』の近くなので――
三人を情報集積帯に送って、そこから座標を探して元の世界に戻す事は出来るかもしれません」
「……それって、元の鞘に戻すってだけでしょ?
プラス、上手く行くかも博打じゃん――『井戸』から繋がってる確証なんて無いんだし」
「ですが、このままでは、単に『屍竜』の類になって討伐されるだけです」
その言葉に、『グゥエイン』は瞑目する。
――恐らくそうだろう。アレの侵食を明確に自覚する寸前まで、自分は既に瀕死と成っていたのだ。
――恐らくは、『子竜』が抱えてきた『痛み』だろう。
「――それを『希望』とは言わないでしょ」
「……聞こえてたんですか」
「あんのバカ、一発殴るわ。無茶な事頼みくさって、全く……」
「……ふーん……」
「……なによ、その目……」
『希望』――この期に及んでの、『希望』とはなんだ?
自分には無い――いや、『望むべくして終わった』、そう考えるべきだろう。
だが――この二人は?
<――『管理者』の類と見るが、お前は何処までの事を出来る?>
「……そんな単語が出るとは、貴方も大分外れてるんですね。
そうですね――無い物をどうにかする事は出来ません。
時間と環境が無いので、貴方たちの不足分を引っ張って来て完全再現、も難しい」
その言葉に、応えたのは『ミイナ』だった。
「――『在るモノ』は、何とかできるんですか?」
その目は、強く静謐な意志を宿していた。
・ ・ ・ ・ ・ ・
シナリオを捻じ曲げる程の意志。
それは、それを成す者だけのモノだろうか?
助けられる側に、その意志が無ければ、手を取らないのでは無いだろうか。
畢竟――心と心が繋がらなければ、それは起こりはしない。
望まぬ者に与えても、それは意味を成さない。
呼ぶ者と、呼ばれる者。
一点と一点。
それを以って、道は引かれる。
一次から、二次へ――次元を超えて、道は生まれる。
これは、道を拓く物語。




