『03』/11
夢を見ていた――ここ数年の事――それが、極端な倍速や、思い出した様な等速で、通り過ぎる夢――
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何がどうなったのか、東方島嶼の海岸まで飛んだ俺は、前にも言ったが、先代の『韓志和』に拾われた。
――まあ、其処に何らかの意図がどの程度働いたかは知らない。
だがまあ、都合が良かったといえば都合が良かった――
何せ、見てくれは10歳そこそこの子供だからな。
おまけに、この世界の――いや、この『歴史』の『常識』を知らない訳だ。
『賢者』や『魔王』の知識を総動員しても、これは多分どうにも成らない。
『常識』というのは知識でもあるが、どうしても『感性』の方の話に成る――
おまけに使ってるのが、系統不明な『植物関連』の術――
『賢者』『魔王』が知らない系統だっただけかも知れんが、どう捉えられるか分からん。
――イゾウとかの前で、平然と使いまくってたけど、後から考えると……
……と、まあ、其処にも『常識』不在だった訳だ。後から冷静に成って考えたら……
……『常識』は皆無だが、バケモノ相手に十善に戦える10歳児。
『かつて草で、転生してきましたが、怪しい者では在りません』――
はいそうですか、なんて成る訳ぁない。成ったら相手の頭を疑う。
『危険人物』として、或いは『召喚物』として、国とか軍とかに引っ張られない訳がない。
しかもこの世界、どう考えたって『人権』とかの考え方があるとは思えないし。
どう考えたって『不審』な以上――面倒だが、『不審』でない程度になるまで、学ぶしかない。
――シオが姿を表舞台から消したと聞いた時、俺はそう決断し――
記憶が曖昧な子供として、数年を生きる事にした――
別に孤児院にでも入れてくれれば良かったのだが、先代のおっさんは俺を普通に育ててくれた。
俺が真っ当な子供じゃないとは気が付いた上で育ててくれてたんだろうから、器がでかいというか何というか。
……まあ、当人自体、大層変なオッサンだったんだが……
前に言ったと思うが、大陸側も少し落ち着きが見えていたし――
俺はとにかく目立たないように、姿を潜ませて生きていた――
幸か不幸か、使える『術』に関して如何こうは然程気にせずとも良い様だった。
確かに系統樹としては珍しいが――逆を言えば『術』は、其処まで磐石な『学問』では無い様だった。
――まあ、差し当たり、不便が無ければいい。その程度の認識ではあった。
――だが、俺の望む望まぬに因らず、波乱の因果は継続する。
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今代の『十代・『韓志和』』こと、チグサ=フェルゾは片親だった。
母親は、チグサを生むのと引き換えに亡くなった――と、俺は聞いている。
おっさんもその辺りは詳しくは説明しなかったし、俺も突っ込む気はなかった。
問題はむしろ、チグサ本人――というか、それを狙う連中が居る事にあった。
父は『転移者』、母は『種子保持者』。
持っていた『種子』の名は、『イヴァルディの末裔』。
北欧神話の小人の名工の名を関しているそれは、要するに工芸の天賦を与える類らしく――
チグサは、生まれながらに、未来の匠となる宿命にあった。
『種子』は血統で遺伝はしないが、その宿主の死の傍にある者に、移る事がある。
チグサの場合もそれだ――そして、おっさんは、チグサを護る為に、表舞台からは姿を隠していた。
もっとも、チグサの母親の段から表舞台には居なかった訳で、元々といえば元々だったらしい。
或いは其処に、俺という嵐が起きなければ。
親子二人、慎ましく生きながら、狙う攻め手の緩む時節を待てたのかもしれないが――
実際は――件の化け物、『アガザル』の群れに襲撃を受け――オヤジさんは、死んだ。
あの時、具体的に何が起きたのかは、後に成ってから知った。
おっさんも関係していた工芸ギルドの一部の連中――まあ、半貴族だが――
この連中、よりにもよって、『魔物に襲われて死んだ』というシナリオを立ててしまった。
『救援に駆けつけたが間に合わず、父親は死に、娘は一命を』――という所か。
まあ――非常に黒い手ではあるが、其処は仕方が無い――そういう『常識』で生きていたのだろう。
だからといって、その計画を『アガザルが異常発生したエリア』でやるのは――
――正体と、そのヤバさを知っている身としては、愚かな判断としか言い様が無い。
どうにかこうにか、誘拐には成功したが、ろくでもないおまけ付きだった――無論、俺だ。
何匹ものアガザル相手に集中してしまっていた俺は、頭に一撃を喰らって気絶し――
何処かの廃砦で目を覚ますと――
――同時に――『暴走』した。
――暴走。まあ、そうとしか言えない。
『常識』とか『節制』とか、そう言った奇麗事が一切ブッ飛んで、相手連中をひたすら害していた。
殴り、蹴り、引っ掻き、折り、裂き、持ち上げ落とし、潰し、握り、捻り、抉り――
……仮とは言え、妹が腹を裂かれそうになってたら、仕方ない、と言って置く。
後に残っていたのは――
手足をもぎ取られながら、主犯の名を泣き叫んでいる相手――
ソレを足蹴にし、殺さないと静かに成らない、と考えている俺――
それを必死に止めようとしているチグサ――
そして――
「おいおい、随分と――凄惨な様だね――ジン」
・ ・ ・ ・ ・ ・
「――アビー!!」
「――――」
目を覚ます――
此処は『空虚の野』ダンジョンの第三層。
二人に蹴られて気絶。よし、状況確認完了――う、って、手を放せ、シオ、立てん。
「……てか、なんでのこのこ、入って来ちゃうかな、お前――」
「――ごめん」
「危険地帯だって分かってるよな?」
「――ジンだって、そうでしょ――」
「様子見だけの――いや、その、すんません……」
めちゃくちゃ目許が赤い目で、『スンっ』って目で睨まないでよ……
――って、あれ?
「シオ、アビーは?」
「――相手を追って、奥へ――僕は、残れって――」
言われて気が付く――空気がかなり熱い。
地面を見れば――床が融けた様な痕跡。
「あのアホ――『獄炎招来』を――!?」
これってどう使うんだ、って聞いたら、自分で『危なすぎるからやめとけ』とか言ってた術だろが!?
「――ダメ、いっちゃ、ダメ」
立ち上がろうとする俺の服を、シオが引っ張る。
「――このままだと――このまま、背負いすぎると、ジンがダメになるからって――
そう言って、一人で追って行った、アビーの事を、考えてよ――」
……ヤバイ、俺、もしかしなくても、死ぬ程ダサいぞ、この状況。
自分一人でなんとかしようとした癖に、実際は俺の内面心配されてるとか……
――って、待て。腹立って来た。
そうじゃないでしょうが。ああん?
こっちの精神衛生の心配はありがたいがな――
「――じゃあ、お前も来い」
「――え?」
「え、じゃねえ。来い」
こっちだって心配してねえと思うのか、あのバカは!!
ハラハラしたり、それで良いのかよと思って無いとでも!?
「お前だってそうだ!!」
「え、あ、はい!?」
「そっちも心配してたかも知れないがなぁ!?
俺の方は俺の方で、お前の無茶苦茶な遣り様見て、禿げるかと思うほど心配したんだからなぁ!!
お前といい、アレといい、自分だけが心配してマースだと思ってんのかぁ!?」
「あ、あう、ああう、すんません」
本当、この――ああもう、いいよ、振り回されるのは前前世から慣れっこだよ、ドチクショウが!!
「行くぞ!! さっさと片付けないと、色々バレる!!」
「あー、うー、その――もう、一部には、バレてる――」
「尚悪いわ!!」
なんでバレたし!!
・ ・ ・ ・ ・ ・
「――宜しいのですか? 『三位』様」
「なにが、ですか?」
側近の質問に、にべも無く答える『三位』。
「『四位』の部下が、先行して潜入を――」
「――安全確保の為に動いて頂いている、そう捉えるべきでしょう」
「――『罠』を仕掛ける可能性は」
はぁ、本当につまらない――『三位』はそう言いたげに溜め息を付く。
「――問題にするならば、もっと早い段階ですれば良かった――
貴方は、機を伺って、それをなさらず――
かと言って、明日の準備に、警護の者を増強する算段をしているでもない」
「そ、それは――此度の『行幸巡礼』はあくまでも――」
「分かっています。だからこそ、私たちのとやかく言う事ではありません。
繰り返します――『要請が無い内に、軽挙を成してはなりません』」
その冷たい声音に、側近は天幕から出て行く。
「――これでいいかしら? マリー」
「ありがとう。数年ぶりに会って、いきなりの無茶を聞いてくれて」
傍らには、マリーメイア=フラタカンフェル。
続き柄で言えば、親戚に当たる――
「ふふ、嬉しいのよ――数少ない、お人形に見えない相手に頼み事をされて」
「……やっぱり、そうとしか見えないのね」
そして――彼女の『感性』を知る人間の一人。
「ええ――これでも最近では、大分違うはずなのだけれど」
――マリーが何故そんな事を、知り得たのか、と成ると――彼女の姉との関わりである。
単に病気を治しに行ったりしていただけなのだが――その回数が、中々に多かった。
必然、年の近かったマリーメイア等とも仲良くなった――
……まあ、マリーが厄介事に巻き込まれ、学園に入って以降は、会う事はめっきりと減っていたが。
「――ミカ。前も言ったけれど――無理はしないでね」
「大丈夫よ。これで、あなたの頼みの為だけでもないし」
友人の為に動ける余裕が出来た、その事を嬉しく思っている気持ちとは別に――
――極々単純で、しかし、ひょっとすれば悪趣味かもしれない気持ちが、抑えられない。
例えば『彼』は、この地面の下の混沌とした事態を、どう治めるだろうか。
また、話に聞くだけの『彼』は?
あるいは、競い合う相手ではあるけれど、『彼女』は?
――だから、まだ、余計な事を言って、止める訳にも、止めさせる訳にも行かない。
――まだ――やっと今、ぶつかり合っただけ――それでは、何も分からない。
命のぶつかり合う気配に、聖女は静かに目を閉じていた。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「――かっこつけなきゃ良かったかも」
アビーは、実際の所、少し焦っていた。
大規模火力だけなら、自分の知る所の最大火力である『獄炎招来』。
相手の魂魄表面の情報から、これでなら決着がつくと踏んだソレは――
Gyyyyyaaaaaaaaammmm!!!!
内部を這いずっている奴の再生力に拮抗しただけだった。
「もうちょっと、様子見れば――とほほ」
「というか、何でジンを蹴ったし」
一緒に来たアウルが、自分にも理解不能な術式の攻撃で、相手を下がらせる。
「いや、幸せに背を向ける背中って、むかつくじゃん」
「☆イラっ☆」
「うーわ、それ、まさにその感覚――こう、小指・人差し・親指立てて――」
――ドガァ!!
「うひぇっ!!」
「ブレス来るってのにキメキメでポーズしてるから……」
「こーわ!! ジリ貧だわ。
あんた、なんか無いの? 空間に穴開けてボッシュートとか――」
「やれたら、さっさとやってます――というか、本当に何者ですか貴女」
何者、ね――自分が知りたいんだけどな、とアビーは思う。
「――幸せになりたかった奴、でしょうね」
「――成れば良いじゃないですか」
「いやー……それは――」
一瞬――本の一瞬、考えた。思いを巡らせた。
――幸せ、という事に――
――メリメリッ
相手の鱗が爆ぜ、そこからソレが迫り来るその光景を、アビーは無感情に追った。
「――自分が死ぬかって時にまで、復讐考えてる奴に、それは勿体無いよな――」
何言ってん――そう言いながら振り返り――アウルはその光景を見た。
「――アビーぃぃぃぃぃぃ!!」
別から響く声を聞きながら、『来ちまったか』という表情で――
傷口を突き破り新たに生えた『首』に、一呑みにされる、アビーを。
――oooOOOOOaaaaaAAAAaaahhhhhhhhh!!!!
それは、歓喜の声を上げる。
それの原型を見た事のある筈の、ジンにとっても異様な姿で。
それは巨大な花の様で。その口から伸ばす無数の舌は、蕊の様。
「――出やがったな、『混沌龍』――」
ぞるぞると這い出るソレを、ジンは静かに見定めた。




