01/【Ⅳ】
――こんな夢を見た。
深夜の山道を、誰かを背負って歩いているようだった。
風邪でもひいているのか、背負った相手からはゴホゴホと咳き込む声が聞こえる。
道端で、点々と何か草が光っているのが見えるが、あんな風に光る草、私は知らない。
「――花が、咲いているね」
不意に背中から声が降って来る。
「……そうだな」
そんなつもりは無かったのだが、随分と不機嫌な調子で返してしまった。
「――ここらで、置いていっていいよ」
相手は、それに気が付いてか、そう言った。
「……そうもいかないだろう」
不用意にそんな事をしては、取り返しが付かないと、何かが告げている。
「――はやくしないと――」
焦っているという風でもなく、しかし急かすように、それは言う。
「……どうなるんだ?」
「――追いつかれてしまう」
「……追いつかれると、どう――」
「――こうなってしまうよ」
――ばさっ
不意に背中の方で響いた乾いた音に、私は振り返った。
そこには――花が一輪。
「……なんだ、この夢十夜みたいな流れは」
そんな風な夢を見た。
# # # # # #
<ノイローゼか!?>
「…………」
「…………」
「…………」
……やめてよ、かわいそうな子を見る目で見るのは……
こんな訳分かんない夢、突っ込みぐらいさせてよ。
「――起き抜けで悪いが、ええと――
『フュtベウvジンgふjrbs』よ」
ちょwwwおまwww無理矢理読むなおwww何処の発音不能邪神www
<――ジンでいいや、元の名前忘れちゃったし>
「――ああ、そうか。ジン<怪物>って読むんだな」
<あんな傍若無人じゃねえよ!!>
「まあどうだっていいか。どうせ著作権も肖像権も向こうの世界に置いてきたんだし」
おお『賢者』よ、汝メタ過ぎるなり。
<――ところで、なんでそっちの二人は冷えたチーズフォンデュ食った様な顔になってるんだ?>
『勇者』と『魔王』が、なんというか、酷くげんなりした顔になってるんだけど。
「どんな顔だ――まあ、お前に頼みたい事とも関係有るんだがな」
――この師弟、なんで俺を使役しまくってるんだろうか。
「おい、草――じゃなかった、ジンよ――悪い予感的中したぞ」
はいはい、なんだい『魔王』。
「――外は100年経ったらしいぞ?」
――なんて?
「【遣霊】との通信が良くないから、下手するともっと経ってるがな」
<……ええと。何、俺のせいなの?>
「一概にそうとは言えんが――
もう一方の事は、お前が切っ掛けで隙が出来て、決定打にはなったな」
だから、『勇者』――こう、もうちょっと詳しく話してよ。
「――外の現状を話してやろう。二人に、後詰の存在が危険とは聞いたな?」
<おう。【異天力】がどうのこうのって――>
「【異天力】を分かりやすく言おう。お前、元の世界でゲームの類は?」
<……【異天力】と書いてチートと読むんですか、そうですか……>
マジかよ――え、てか、じゃあ何、擬似チート帯びた軍勢で何が――
<――なんか、嫌な予感がするんですが――>
「不死だが頭の悪い奴が、わらわらと繁殖して地上を覆っている。
原因であろう連中は生き残って何処かで隠れているだろう――」
ブァイオゥハッザァドゥ。勘弁して。なんだその状況。
「でだな。隠れてる連中は恐らく、この樹を掘って他世界に行こうとし出している。
そうなると、向こう側で閉めれれば良いが、出来ないと推定される」
<異世界ゾンビ、異世界ゾンビじゃないか! 作者の高校の頃の作品じゃないか!>
「阿呆どのも尻拭いなんて御免被るが、そのままは寝覚めが悪いのでな。
そこで、頼みたいのだが――お前、過去へ転生して、どうにかしてくれんか?」
――え、おい、何?
<異世界で更に過去転生て、ああた――
いや、そもそもお前が行けばいいんじゃないのか? 俺、無知だよ?>
「やってみたが、私の使える方式では特定の時間軸を超えられなかった。
いや、理由は割れている。これは魂魄を自身の過去へと上書きする方法なんだが――
私はとある年代で、別人といえる人物に成ってしまっているのでな。
その軸を超えると、書き込みに失敗してしまうんだ――」
ボリボリと額を掻く『賢者』。
『知識をより多く処理出来る様に、体を色々と改造したんだが――
それ以前のハードとしての肉体には、収まり切らなく成ってしまっている」
<――つまり、自分自身へ戻れるけど――今のデータ量はその時点以前のHDDに収まりきらない、と>
「そういう事だ。かといって、今から別の方式を模索するのも賢明ではない。
今のは不完全ながら基礎研究が終わっていたのを利用したが、別となると真っ白からのスタートだ。
連中が異世界――こちらにとっては『故郷』か――そこへと渡るより、ずっと掛かるだろう」
あー……なるほど。
――つまりは――
<250年――今や350年か――それまでの間で、どうにかは出来る、と?>
「先ずは、といった所だがな――
外の状況の主犯――まあ、ケツを捲くろうとしているから、失敗したんだろうけど――
そいつらを止める事が出来れば、大丈夫だろう――相応に困難ではあるだろうがな」
――んー。
<メリットが俺に無いな>
「なんだ、草の癖にエロ同人みたいな展開が欲しいのか? "俺の鉢植えに成れ"的な」
<ないです>
なに言い出してんのこの『賢者』……
・ ・ ・ ・ ・ ・
<――弱ったな――>
周囲状況を偵察する、と言って『賢者』が少し離れ――
俺は、悩んでいる。
>>君なら世界を救えるはずだ!!
って言われて。
>>よしきた任しとけ!!
なんて言って、冒険へ赴く。
そんなありきたりな『異世界転生』を、道端で夢見ていた事もあった。
――確かに有ったが――
「――自分がかつて居た世界の危機、そう聞いてもか? 随分と薄情な奴だな」
<……いや、その。殆ど覚えてないし、俺>
『勇者』に応え――そうなんだよなあ、と思う。
言われて、懐かしく思えるほど近くないのだ――実際問題、250年だしなあ。
インフルエンザ云々もうろ覚えで、確かそうだった、ってだけだし――
そもそも名前思い出せない致命的な按配だし。
――何かは、在った筈なんだが――
……まるで、ヴェールが掛かった様に――
ヴェール、なのか、改竄なのか――
<……それによ、勇者。お前が俺の何を知ってるってんだよ>
「――お前が俺たちの記憶を覗き見た様に、俺もお前を僅かながら把握したつもりで居る。
見捨てるつもりなら見捨てられた俺と魔王を抱えてここまで来た、その事だけを見ても、お前が――」
――何よ?
「俺と同じ様に、『割り切れない』種の人間だった、と思うのだが――それは思い違いか?」
<過去覚えてないと言った矢先からそっちを突付くのかお前……>
「ならば尚の事――」
「あー、うん、すまんな、ジン。こいつこういうビョーキなんだよ、『勇者病』っつうか」
いや、呆れ果ててなくて良いので、止めて、『魔王』。兄弟弟子なんだろ?
「――これをくれてやろう」
<ちょ、あぶねえ、ノーコンかよ>
ブー垂れながら受け取ると、それは――おい、豆本とか、なんて趣味の物を持ち出してくるんだ『賢者』お前。
「――御師匠ちゃん、それは――」
「どの途、私には不要となるものだしな。使えるかどうかはお前次第だが――
それで手打ちとしてくれ、なにせ、あまり時間が無い」
――ずぅん――
<……なんの音だ?>
「掘り進んで、この『大空洞』まで着いたんだろう――予想よりは遅かったようだな」
はん、じゃないよ『賢者』さん、それって――
「――『賢者』殿ではありませんか。
80年も前に完全に隠遁された方とこの様な場所で再会するとは、なんとも奇妙なご縁ですな――」
ああ、やっぱり。『原因』さんじゃないすか……
「……やっぱり、『エルフ』が背後かよ……何でお前、あんなのの尖兵に――」
「……諸国の中枢だぞ? ――蔑ろに出来たと思うか?」
「独立して建国でもすれば良かっただろ……」
後ろでボソボソ言うなよ、『勇者』&『魔王』。
……てか、エルフって割りに――なんだろ――
前髪パッツンだからなのか、すげえ野暮ったく見えるんですが。
「先遣でお前が来るとは、焦りすぎではないか? 『共和国』の。
――ああ、今は『司政長』だったか。百年で随分と立ち位置に差が付いてしまった様だな」
『賢者』の言葉に、ぴく、と反応する相手――煽るの良いけど、策有るんだろうな……
「……相変わらず、失礼なお方だ。それぞれの特色にあった地位に納まっているだけの事ですよ」
「隠すまでもないだろうに。
『王国』のは今や『新しい王朝の王』、『学院』のは新解釈を発して『教書長』だ。
お前と『共和国』は一見繁栄を手にしたように見えるが、実際は二人の御用聞きと、単なる田畑だろう――
それを覆す為に、自らここに来たのだろうが――望む物など、何も向こう側には無いぞ?」
にべも無い事い言うな、この『賢者』……
「……それを判断するのは、私ですよ、賢者殿。
何があるか、価値があるか、そんなものは貴方にはもはや――」
「――もっとも、お前が欲しいのは、単なる『事実』だろうがな。
『一番最初にその場所に着いた』という事実を得て――民の前に飾りたいのだろう?」
おい、めっちゃ頬がピクピクいってるよ、怖いよこのエルフ。
って、おいおい、今度は頭かきむしってブツブツ言い出したんだけど、なにこれ?
「――『勇者』、コアをジンに繋げろ」
「――正気か、『魔王』。これに賭けるつもりか?」
<コレいうな、何する気だ、おい、やめろよ、自爆とか――>
って、行ってる側から繋ぐ――な――
「知識だけだが持って往け。
一緒に飛べれば良いんだろうが、お師匠ちゃんのアレは、片道一回で一人が限度のはずだ」
うっわ、なんだこれ――
あの、『魔王』特有の魔術とか、魔王軍の構成とか、知識がばさーっと入ってくるんですけど――
な、ならば、そこであのキモエルフに『獄炎招来』!! ――あれ? 出ないじゃん。
「異界の炎を呼ぶ禁呪が、軽々に使えてたまるか」
おいおい、なんの意味があるんだよこの大規模データ――ん? なんか、頭の中で本の形状に成って行ってる――
###ピコン
###フラグメント『魔王の思い出』を手に入れました!!
……あの、なんだ――
なんでデフォルメされたモミの樹みたいな画像に――
本読んでるウサギさんキーホルダーぶら下がってんのよ、メニューさん……
――てか、なによ『フラグメント』って、こんなんあったのか。
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――なんとか言え。
###ぴこん
###『フラグメント』解放!!
おせえ、そんで、解説くれ――あ、今はいいです。後で良いです。