『03』/04
『空虚の野未踏査ダンジョン』、入り口近くの野営地。
――あれれ~――おっかしいな~――
そんな風に、仮面の奥で汗だくになっている女性が一人。
名を――
「……『四位の皇継』様に在らせられては、御壮健そうで何よりです」
「――はい」
『四位の皇継』――の偽者、ナタリーである。
ちなみに、眼前に居る男はレーン=リーアム。
冒険者ギルド・エスターミア方面統括役員――
……要するに、かつての彼女の上司だ。
直属、という訳では無いのだが――
(不味い。何が不味いって、私、この人と何度も顔合わせてるし――
現地視察で来た時には、食事に連れてったりしてるし――
声、声からばれかねない!! 不味い、非常に不味い、ってか、下調べはどうなってるの!?)
「――ところで、そちらの方々は――?」
「私が選んだ、『四位』様の護衛だ」
ベルさん!! ちょ、この状況はなんなんですか!?
この人が直々に来てるとは聞いてないですし、それに――
「……ああ。仮面か? 気にするな。暗殺を警戒しての事だ」
「同行する『三位』様の陣営を警戒するのは分かりますが、でしたら――」
「片や『聖女』直々に入り、片や陣地に居る、とは行かないだろう?」
それも聞いてないって!! 入らないって!! 非戦闘員ですって!!
てか、なんなん、この仮面の集団、怖いよーーーー!!
……そんな風に心で叫ぶナタリーの回りには、仮面をつけた人物達が六人ほど。
皆、一言も発しない。
「お待たせした――『聖女』様の準備が整いました。ご挨拶に伺いたいとの事ですが――宜しいですか?」
そんな風に、天幕を上げて入ってくる、若い男。
――かすかに、仮面の一人が反応した様に見えたが、知り合いだろうか?
「――大変だな、クランツ殿。態々ここまで送ってきたと思えば、そのまま護衛か」
「……困った事に、いいとこの学院出てるけど、実戦経験皆無なんですもん、みなさん……」
「――それは、また……」
「まあ、実際は各地の巡礼と慰撫が目的で、此処にくる予定は後付だったみたいなんで、仕方ないんですけど……
だったらせめて、せめてあと四人ぐらい、どっかの貴族の騎士団とかから借りて来て欲しかったなぁ……」
そんな風にぼやく青年の後ろから――
「……失礼居たします」
そう言って、入ってきた人――
や・べ・え。聖女様DA!!
ナタリーは、ミーハーにも興奮しそうになった。
・ ・ ・ ・ ・ ・
生まれつき、凄まじい『治癒』の力を持つ者が、とある公爵家にいる――
そんな話が出たのは、今からおよそ十年前の事だ。
しかも、年の頃は5歳程なのに、その力があると言う事の自覚をしっかりと持ち――
上も下も分け隔てなく、その力を使い助けているという――
そんな存在だ、直ぐに『聖女』として祭られる事になる。
どこかの教会に、尼僧として仕える事になったという話を最後に、極端に大きな話は聞かなくなったものの――
未だ民からは、未だ絶大な支持がある。
もっとも、『三位の皇継』がそうだと知る者は、殆ど居ないが。
・ ・ ・ ・ ・ ・
ナタリーが大興奮するのには、理由があった。
――実は、十年前、ナタリーが初めて『主役』を演じたのが、彼女の役だったのだ。
――まあ、背丈の低さで選ばれたのは、非常に不本意だったのだが。
ナタリーの中の理想の『お姫様像』は、実は眼前のこの人なのだ――
……シオは、ちょっと、チャン付けが似合うからなあ……
――って、モノローグ入れてる横で、なんでこの仮面の人は一々ビクビクしてんだ?
「――『四位』、火傷を負ったと聞きましたが――よろしければ、治しましょうか?」
――近い近い、何時の間にこっちに寄った!? 色白ーい!!
「――いえ、この傷は――私の目指すべき所の、原動力であり、戒めです」
……あかん。仮面の中に、ホンモノおるやん……
「これは、私にとっての悪夢――そして、私から大切なものを奪っていくものが居るという――
――『平穏』は、戦わねば得られないという、証です」
……え? ちょ、後ろからも言った奴がいるぞ?
「――そうですか――この様に用心深くせねばならぬとは――悲しいものですね……」
待って? ベルさん、なんで目を剥いてるの? ひょっとして、後ろのが誰か知らなかった?
「――明日は、良しなに願います――そちらの、恐らく緊張で震えている方も」
お、う。声掛けられただけでビクって思い切り震えたけど、大丈夫かな、この人。
・ ・ ・ ・ ・ ・
とにもかくにも、こうして、明日――私は未踏査ダンジョンに入る事になった。
――入らなきゃダメですよね、この流れだと……はは……
逃げなきゃ(使命感)。
「――『四位』様もお疲れでしょう、リーアム殿、明日はよしなに」
ちょ、ベルさん力強い!! 指がギリギリいってる!?
やだー!! しにたくなーい!! しにたくなーいぃ!!
ちょっと、そこの仮面二人、見詰め合ってないで、助けてぇぇぇぇぇ!!!!




