『03』/00/0B
大であり小であり、直線であり曲線であり、無機であり有機であり――
世界が此れ迄の積み重なりで出来ているのなら、其処に積み重なり、折り重なるモノは千差万別。
凡そ、ぴたりと噛み合う事の方が稀であり、必ずと言っていい程、隙間が生じる。
その隙間が大きく、深いものは――思いもよらぬ事へと誘う。
世に言う『ダンジョン』というも、大きく見れば、そう言った隙間である。
・ ・ ・ ・ ・ ・
――作業? あいつ、そんな風に言ったんですか?
――ちょっとぶん殴ってくる、少し待ってて下さい――あ、居ない?
ふざけんなあのバカ、俺だけにインタビュー押し付け――
<インタビュアーが筆記を控えました>
……すいません、取り乱しました。
ああ――いや、その――インタビュー受ける様な事なのか分かんないんですけどね。
――ああ、そうか、確かにそうですね。俺ら潜ったの、『遥か旧き王の禁宮』ですもんね。ただ単に戻ってくるだけでも記事には成りますか――
――ただなあ。紙面に載せて良い内容かまでは保証出来ないですよ?
あ――一応、行政とかギルドにも内容確認はするんですね? じゃあ、大丈夫かな。
――まあ、こんな風に訊くってのは、理由が在ってですね……
・ ・ ・ ・ ・ ・
潜り始め、三日目の事。
俺、ユート=レムと、バカ一匹は――
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
「おわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
『東方島嶼群』の中でも、最もヤバイと言われているダンジョン、通称『禁宮』の中を走っていた。
んで、なんでこんな声を上げながら走ってるかというと――
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ
メガ進化したダンゴムシの大群が、通路の向こうから転がってきた為だ――メガ進化って何だっけ!?
「――っは、はぁはぁ――な、なんだよ、なんなんだよ、これは!?」
「やたらデカイダンゴムシだな――ああ、驚いた……」
「おどろ――おま、感想それだけかよ!?」
横穴に飛び込んで事なきを得た俺たちの傍を、刺々しい球体になったモノがまだ転がっていく。
ギャリギャリと言う音が遠ざかり、床を見る――石畳の床が、変に削れていたのはこの為か……
「一層目で、突飛な生き物には慣れただろうに」
「慣れねえ。絶対に慣れねえ――くっそ、何だって俺は自分からこの悪夢に――」
「『レベル』は上がったろ?」
「御蔭様でな!! 帰る!!」
「此処から一人では無理じゃね?」
「お前が!! あの場所で!! 訳分かんないの引かなけりゃ!!」
「悪かったって――あんな突飛な罠とは思わなかったんだって」
= = = = = =
入って一層目――そこは確かに魔窟の始まりと呼ぶに相応しい、怪物たちがワラワラ居た。
通常のダンジョンなら、階層ボスみたいなのがわんさか居たのだ。
ダンジョンに関しての詳しい説明は省く――というか、学術的にもよく分からん事が多い。
所謂『階層ボス』なる存在が、単純に群れの中のα個体なのか、それとも違うのか――
そもそもで中の生物群も、遺跡に迷い込んでの変化なのか涌いてなのか、分かっていない。
こいつ――ジンの推測が当たっているなら――
あの連中は『凄く古い時代のシステムがまだ生きてて、ボスを生んでる』って事なんだろう――
どうやって、とか、知らんよ、もう――
だが、俺だって、駆け出しとは言え、あの無茶苦茶な女に師事した魔術師だ。
ああ、『法理術者』としてはそこそこでも、『普通の魔術師』としてはズブズブのド素人同然の経験しか無かったんで、伝手を頼って魔術結社に入ったさ――厳密には結社に入った訳でも無いけど……まあいい。
そこで死ぬ思いして魔術のイロハを覚えたとも。それでも駆け出しだね、とはあの少女の言だがな。
普通のダンジョン潜る程度なら、ボスも倒せる様には成ったとも。
――何が言いたいかって言うとだな、一層目の『戦力的』に、問題は無かったんだ。
問題はむしろ、一層目の途中――
= = = = = =
「――意味有りげな扉の絵、発見」
「……罠なんじゃね?」
俺もそう思った。だって、宝物庫(仮)のドン詰まりに掛けてるんだもん。
(仮)なのは、宝物庫ってほど『宝物』が無かったからだが――
「――あ。これ『九品門』だな多分――思い出した」
「なんだ? それ」
「『禁宮』の中でのワープ装置みたいなもんだったと思う。
触れる者の品――要するに、能力とか性質によって、特定階層まで飛べる――
とかいう奴じゃなかったかな? 系統としては『転移装置』だけど、技術系が違うとか」
「……前も聞いたけどよ、その知識どっから仕入れて来てんの、お前」
「何かの物の本」
……『聖樹教』関係者も分かんない知識の出所が、どっかの物の本て――
そう思いつつ、俺は思い切って『絵』を――は怖いので、『枠』を叩いてみる。
「おーう、大胆」
「うるせえ、集中させろ」
――んで、『探査』の魔術を使う。
この魔術は、要するに『インパス兼ライブラ』――俺はあまりゲームをガンガンやらなかったのでよく分からんが、あの魔女っ子師匠曰く、『魔術で対象物を調査するCTスキャナー』みたいなものらしい。
いや、断層で見えてるんじゃないから、若干違うだろ、と思ったら『X線スキャナー』とか言い直された。あんま変わってないじゃん――つか、機具名と方式名を言い換えただけじゃん。
「……埃被った、ただの『絵』だな」
視界に浮かぶ絵のデータは、多少の魔力があるが、単なる絵だ。
――こんな『原魔力』の濃そうな空間、魔力が多少移っても不思議は無い。
「まあ、本物もあれば偽物もあるだろうしなぁ」
そう言って、絵そのものに触れた瞬間――
――ズァッ
こっちの『魔力』に反応したのか、絵の周囲に魔術式が走った。
「――あーあ」
「……いや、落ち着こう――展開されただけだ」
光で文字や陣が浮かび上がっただけだ。手をゆっくり離す。
「――文字は古めだけど、文面はイルヴァジア語だな、なになに――
『我は押し留める者であり、道を開く者』――」
「読めるんだ?」
「いや、あのな、これでもこっちの世界の英才教育受けてんのな、俺。聖職系統限定だけどもよ」
「ああ――そういやそうでげしたな『助祭』殿。あ、『元』でげした」
「無理矢理太鼓持ちキャラになるなよ、げすとか言わんだろ……」
こいつ、ほんと――と思いつつ、再度読む。
「ええと――『門口に立ち、待ち居たり』――
……言い方は兎も角、普通の術式の内容説明みたいなもんだな。
さっき言った『九品門』の説明用かもな――特に不審なとこも――」
「『我はヤヌスであり、サエノカミであり、ドウソシン。
来たりて訪なう者を歓待するが、同時に遮りもする。
終わりの訪れを音にて報せる者なり。
試みに問う。汝は何者也や。我が名を知る者也や?』」
「――はい?」
「外周のこれ。古イルヴァジア文字。意地悪いな、これ組んだ奴」
きょとーん、である。いや、よく見れば確かにそうだと思うけど、何で読めるのお前。
「――『汝は門神なり。その御名はヘイムダル』」
そう、留める間も無く、ジンが唱えた瞬間。
――ジッ――『客人の来たれるを歓待する』――ジジッ――
そんな音が脳裏に響いて、俺たちは――
「……やべえ、地雷だったかな、これ」
「――うそだろ」
――明らかに、今の世に成ってからは手の触れた事の無いであろう、何処かへと飛んだ。
・ ・ ・ ・ ・ ・
なんで判ったって?
明らかに壁に飾られてる武器の質が違った。『英雄譚時代』のらしき物のが無造作に壁に掛かってんだもん。
柱の装飾とか、流石に経年でボロボロになった壁画とか――
新しく見積もっても、フラタカンフェル『王国』時代以前の、時代判断資料の中でしか見た事の無い様な物だ。
おまけに――
「――ジン。見間違えでなけりゃ、あれ、『死機士』だよな」
「――おう」
「――おう、じゃなくて」
『厄災』級に数えられる、古代のゴーレムが突っ立ってたんですもの――無造作に。
・ ・ ・ ・ ・ ・
――え? 倒してない倒してない。逃げましたよ、もちろん。
……ええ……誰だよ、そのおしゃべり……ああ、師匠すか、ソッスカ……
――うん、まあ、戦いはしました。
ジンがあれこれトラップ張りながら、俺が牽制――
いや、ひたすら脚力強化と回復で逃げ回ったんだけど――死ぬ目を見た……
あいつ、相手のブースターを可燃物で詰まらせて爆発させるんですもん、あの空間内で――
遺物の類、めっちゃ勿体無い……
まあ、それで、どうにかこうにか『腕』だけ奪って来たんですよ――
それが、そちらが見せてもらったって奴でしょう。
――ああ、軍事機密的には書かない方が良いですけど、そこじゃないんですよ。
――逃げ回った先が問題で――
・ ・ ・ ・ ・ ・
「――なんじゃ? 人か?」
「え? ちょ、そっちこそ人――じゃなくて『鋼鬣族』?」
「あっれ――ドグ爺さんじゃん」
「あん――おい、ジンじゃねえか?
何しとるんじゃ、『大空虚』から上がって来たんか?」
「――うっそだろ、見かけた事のある景色と思ったら――」
・ ・ ・ ・ ・ ・
『霊峰ハークシャン=ククライス』の、ドワルフの前哨村の下に居たんですよ。
意味分かりますよね――転位で飛んだか知らないけど、『最東の島から、中央の島まで移動してたんですよ』。
ドワルフ達の語る、『地底の果て無き野辺』が繋がっていて、その下にはまだまだ見た事も無い場所が広がってると、証明しちゃったんですよ――『お宝』も、『敵』も抱えてね。
そんなの、大陸に知られたら、えらい事なりますしね――
・ ・ ・ ・ ・ ・
インタビューを終えて、六星新報の記者が帰っていった後で、俺は考えを巡らせていた。
まだ誰にも言っていない事を整理する為だ。
ジンの出所の分からない知識。それはまあ、良くは無いが、置いておこう。
敵対しなければ、問題は無い――『師匠』に聞いた話から、そう判断出来る。
……『実家』と『四位』の関係から行くと一回は敵対しないといけない立場な気もするが――
……まあ、後から考えよう、去就次第だし――そもそも、関わりたくないし。
自分の魔術的な能力の低さ――これも、多分何とかなる。
あんな地獄を見たが、その分の経験も――
ジンの言っていた、『魔術は思ってるよりも適当で不定なもの』ってヒントもある。
――細かい魔素操作能力はある筈なんだから、後は鍛錬の繰り返しだ。
問題、問題、問題……
――『問題』は、むしろ――『別』だ。
・ ・ ・ ・ ・ ・
逃げてる途中でちょっとだけ入った『泉』の先だ。
たまたま見つけたそれの先、出口とか地上を期待して入ったその先には――
「……これは、ちょっと、不味いな」
最近噂の端に上っているダンジョンが広がっていた――
「――本当に、そこか?」
「……ざっと地形把握した時の構図そのままだ――こんなの埋まってたのかよ……」
中心を貫く縦穴の途中に空いた横穴――
そこに出て下を見下ろしたら、冒険者ギルドの最精鋭部隊が見えた。それを見てすぐ顔を引っ込めたが。
「……戻るぞ。んで、あそこに入れ無い様にしておくか」
「それがベターだな……」
そう言って踵を返し、再び地上への帰還に戻ったのだが――
・ ・ ・ ・ ・ ・
『皇帝』を選ぶ舞台に入り込める『裏口』がある――
アレだけではないだろう、あの規模なら、大陸側にだってあるだろう。
――そうなると、どうなる?
――簡単な想像だけでも、『伏兵』とか『仕込み』とか、想像がつく。
「――分かりやすく、『大魔王』とか出て来て、それを倒しにって世界なら良かったのになあ――」
政治の暗闘なんて、転生してからこっちの10年ちょいでこりごりなのに、と思いながら、そんな事を呟く。
「碌でも無い事言ってんな」
……てめえ、何処行ってやがった……
「――この野郎……こっちにインタビュー押し付けておいて……」
「俺主体で記事にしちゃうと、嘘っぽく成っちゃうだろうが。
その点お前はアレだ、背後考えたら『ああ成る程』、位に考えて貰えるだろ」
「く――無駄に賢しらに……」
「まあまあ――さ、もっかい行くべ」
「正気を疑う」
「狂気の沙汰程面白いもんだぜ、ユート兄さん」
「『兄さん言うな!! どういうキャラなんだお前は!?」
・ ・ ・ ・ ・ ・
種々様々の、折り重なり、隙間が空き、衝突する。
その思いもよらない事へ導く様は――ヒトも同じ。




