01/【Ⅲ】
巨大なクレーターと化した、『勇者』と『魔王』の決戦場。
その上に、『賢者』は浮遊しながら、物思いに耽っていた。
・ ・ ・
『魔王』と『勇者』。
そんな呼ばれ方をしているが、この世界においては、それらは根本的に異なる。
どちらが勝利しようと、世界は続いてきたし――
どちらが勝利しても、片方の種族を完全に滅ぼすと言う事は無かった――
いや、それもまた正確ではない――正確を期すならば、出来なかった、になる。
『魔族』と『人族』は、この世界では生物学上は同一だからだ。
・ ・ ・
何時、と言うことが出来ないほどの昔日。
世界に、疫病と飢餓と荒天が蔓延し、人類が滅びの底へと落ちかけたその時。
今では『邪神』と呼ばれている存在が、彼等にとある物を与えた。
『軸の木の果実』と呼ばれている、天から盗まれたとされるそれは、人間に変化をもたらしてしまった。
詰まる所は――魔術を使えるかどうか。
神の術である筈の力が、その木の実を経由して、人間に与えられてしまった。
その頃までは――
魔術とは『神』か、あるいは遥か遠い昔に、その使徒として地に下り来た者たち――
速い話が『エルフ』と呼ばれる種族にのみ、許された筈の力が。
――しかし、その能力は、必ずしも遺伝はしなかった。
大魔導師と呼ばれた者の子が、魔術を使えない事もある。
逆に、神の力を盗んだ者として相手を糾弾していた者の孫が、いきなり魔術に目覚めてしまう事もある。
力を得た少数派と、力を得なかった多数派――
そんな構図が出来てしまえば、必ず対立が起きるのは世の常であり――
この世界も、その例に漏れず、幾たびもの戦いを経験してきた。
ある時は魔が君臨し、ある時は人が解放した。
しかし――それを継続出来る程、この世界の人間たちは数が多くなかった。
何処からその違いが生まれるのか、『人族』と『魔族』は、長く問い続けてきた。
違ってしまった双方は、しかし、出来得る限りは共に歩む道を模索した。
しかし――決定的といえる違いが、彼等をじわじわと追い詰める。
問題は、『果実』であり――その及ぼした影響の有り様だった。
・ ・ ・ ・ ・ ・
魔術師や魔族は、とあるモノを食さなければ、生きている事が出来ない。
――より正確には、『精髄』と呼ばれる、魔力の大元を摂取しなければならず――
そしてそれには、『軸の木の果実』が一番簡易であった。
彼等の『生命』は、通常の人間の構図に、+αの形で『精髄』が循環して成っている。
それによって、彼等は普通より寿命が長くなり、普通より多くの魔力を体内に蓄え、魔術を使える――
数百年ほど昔、その事は研究成果として結論付けられた。
簡易、と言ったのは、他の術が無いではないからだ。
例えば大気や水、そう言った物にも、偏在はしている。
ただし、相対的に、そして状況的に言えば、余り現実的ではなかった。
それらから得られる分は、『果実』を食する何百分の一に過ぎず――
そして、彼らは――迫害から身を守る為に、その身から搾り出す様に、消費せざるを得なかった。
つまり、『魔族』は『軸の木の果実』を殖やさねば成らなかったが――
だが、それは――そうではない人間たちにとっては、受け入れがたいものだった。
『軸の木』と呼ばれるその木――無論、天からそれその物が下賜される筈も無い。
『接木』をしたりして作られた、『近縁種』に過ぎないのだが――その木その物が問題だったのだ。
・ ・ ・ ・ ・ ・
その木の周囲では、生態系が著しく変動してしまう。
それまでに行ってきた農業に適した種は、その周囲では殆ど育たなくなる。
大地から養分が吸われてしまうから――?
――いいや。それとは、真逆だった。
『軸の木』は、むしろ周囲を肥沃化したが――
『神に見捨てられた世界』、などと呼ばれ、養分も貧弱になっていたこの大地。
そこで生産されていた食物も、貧弱な土地でも育つような――
もっと言うならば、貧弱な地味でなければ育たないような種しか、残っていなかった。
加えて、『近縁種』になってしまった『軸の木』、その実も問題だった。
普通の『人間』が食用とするには、内包する『精髄』の濃度が高く成り過ぎたのだ。
つまり――『人間』にとって、『魔族』の側の生存圏が広がるのは、自分達の生存を脅かす事でしかないと――
互いがどうにか折り合いを付けようとしたその研究は、結論付けてしまったのだ。
敵対心。恐怖心。なんでもいい。
一度根付いたそれは、状況が変動しようとも、変わらない。
一度歪んだ樹を、元に戻す事が実質不可能な様に。
・ ・ ・ ・ ・ ・
『賢者』は思う。
どこからこの世界の歪みは始まってしまったのか。
自分達を、この世界で出迎えたエルフ達は、紋切り型の事しか想定していなかった。
つまりは――『邪神の手によって、この世界が歪んだ』、と。
だが――そもそも、その前の段階の、『飢饉』と『疫病』について、彼等は殆ど無知だった――
いや、隠しているのかも知れないが――それを問う猶予も無かった。
「――ん。そっちか――えらい変な方向に埋まって行った様だな」
弟子の発する波長を見つけ、思考を一旦止める。
「――これは、なんだ? 『魔王』と――何かが重なっている?」
妙な事態になっている、と思いながら、そちらへと飛ぶ『賢者』――
・ ・ ・ ・ ・ ・
――『泉』、と呼ばれる物がある。
此岸と彼岸の間に突き立った、『ある樹』から漏れ出る樹液の溜まりだとか――
それを飲めば力を得るとか、色々言われているが――
それは、異なる『時空間』同士の接点でもある――
――『旅の扉』です、本当にry。
「おい、早くしろ――まあ、『勇者』は焦らんでも良いだろうけど」
「冗談の心算か? 俺が『全滅方針』に加担しているとでも?」
「わかってるよ、んなの――相変わらず無駄にかたいんだよ、お前……」
……物思いに耽る位、させてくれよ……
<というか――結局、誰が『敵』なんだよ、それ>
「知らん」
「『勇者』と『魔王』の戦いで撒き散らされる、双方の血が『軸の木』の栄養みたいなもんだからな。
まあ、正確には、分散したモノが収束して行ってるようなモノらしいが」
ここから出る――その為に、三人一緒に『泉』を目指す事になった俺は――
結局、二人(二体?)を抱えて歩いております。
――だってこいつら、<コアって?>って言ったら一斉に胸元指差すんだもん……
冗談事じゃねえよ心臓抉るとか……
<『魔族』――『魔術使い』陣営は、木を殖やして増えていけば、最終的に不均衡ではなくなる、と>
「まあ、一方的にこちらが魔術を使えているから、余計に恐怖を煽っている処もあるしな。
濃厚に成りすぎた『精髄』も、薄めて摂取する術が無い訳でなし――
『普遍人』側にも唐突に現れるのが怖い、なんてのはそれこそかなり昔の話だし。
今ではそっちのバカの様に、術に類するモノを使う者も一定数居るわけだしな」
「――そういうのは、迫害をされない状況下で生まれ育った奴の言う事じゃないだろう。
俺は偶々運良く『師匠』に出会ったが――大半以上は迫害や差別の中で死ぬんだよ」
――カリカリすんなよ、『勇者』。『魔王』のせいじゃないだろ、それは。
<というか、戦いがより木を育成してる、ってんなら――
ああ、まあ、別の方法で有効活用する『蜜』を覚えちゃったのか、『普遍人』側は>
「ああ。なんと言ったかな――『芯実炉』だったか?
それを構築する為にこっちの『核』をぶっこ抜いて使うとか、どちらが悪党だか、ってな」
<死ねって言ってるよな、それ……>
「死者のそれでも可能だからと、一定の補償と引き換えに供与を頼んだら、断ったのはそちらだったろうが」
「聞いたか? 死人を冒涜してまで繁栄したいのかね、まったく」
おっほう、えげつない、いやもう、本気でえげつない……吐きそう……
「――まあ、そちらにもそちらの言い分があるのは分かるがな。
人口減に高齢化に少子化。機巧を利用しておっつかっつの運営とは聞いている――が」
<が?>
「極端に大樹化して利用するというのは、頭が良いとは思えんな。
アレは管理して育成するなら、必要とする水や養分が肥大化する訳だし」
「影響範囲は押さえ込める――というか、この辺りの論は、戦いの前にされ尽くしていただろう――
一定値まで達すると成長が鈍化し、影響範囲の広がりも鈍化するのは、そちらでも研究されているはずだ」
喧嘩してねえで、結論言って、どうぞ。
「――『魔詠人』の様に自然に殖やすのではなく、一定数を管理下に置いて育成すべき――
というのがこちらの側の研究者連中の主張だ。まあ、俺にはどちらでも良い話だが」
「それの管理方法に、『魔詠人』を数年毎に生き埋めにするんだったな――糞食らえだ」
どっちも有罪。
『魔族』――『魔詠人』側の方がまだマシ――『優良種』とか言ってるバカもいるみたいだから、グレーだけど。
<管理運営の出来ない力が碌でもないってのは分かったよ――まあ、俺も今、それで歩いてるんだけども>
「いやまあ、『魔導機甲』は厳密には系統違うんだが――それより――」
がっちょんがっちょんがっちょんがっちょん
「――なんでそんなギクシャク動いてるんだ、お前――」
「言うな『勇者』、つぼ――やべ、わらえ――プークスクス」
<250年モノの草に、歩行をいきなり思い出せとか無茶苦茶だろうが!!>
おまけに、この寄せ集めで――ああもう、バランス微妙に違うから動き辛いったら!!
「――まあ、『泉』まではもう直ぐ着くようだから、遅いわけでもないが――
生まれたての四足でももう少しマシに動くぞ」
「ば――ぶふーーっ」
<投げ捨てんぞてめぇら!!>
「――なんだ、この派手なキ○イダーは」
不意に、前方から声がした。
「……わーお……」
「――あ、あの、『御師匠』――」
「ざまあないな、『勇者』になど成った所でそうなるのが関の山だから止めて置けといったのに――
散々な人生を送ってきても、それでも尚、人に希望を捨て切れんか」
「――相変わらず、辛辣だなぁ、『御師匠』ちゃん――」
「お前もお前だ。態々このバカに付き合って、なんだ、その様は。
王の座を暖める暇も無く、ただただ勇者を止める為だけの『魔王』位なんぞ、兵器と何の代わりがある――
全く嘆かわしい。うちの弟子はどちらも御人好しのバカだ」
――いや、あのさ、あなた、いま、なんて言った――
「そうは思わんか、そこの派手な――『平成ライダーナントカ』さんも」
<てめ、なにもんだよおいぃぃ!?>
「メニューで見てみろ――というか、お前こそなんだ?」
###ピコン
###チカ=マナセ
###『賢者』『暴風の君』『転移者』
###【智慧の異天】
――もう、なんての――
これ以上フリーズしそうな情報をジャブジャブ注がないでくれるかな?
おれの現実が根腐りしちゃうよ――ああ、あれが『泉』か。
――ああ、映ってんの、俺かよ――
はは、なんか、DQかなんかで、こんな配色の鎧敵見たな。
###フュtベウvジンgふjrbs
###『世界に一つだけの魔草』『空から降る一億のココナッツ』
###【;えぺsd@94、zの異天】
もっ――字化けぇぇぇぇ(A`;)ぇぇええええ!?!?
――あまりの事に、俺の脳は思考を放棄し――いや、そも脳がねえ。
兎に角、意識が途切れた。
「おい、揺れるな、危ないだろ、草」
くわぁん くわぁん くわぁぁん くわぁぁぁぁああああ
『魔王』に殴られた音が、テンカウントか何かの様に、エコーしていった――