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『03』/00/0A


 『選帝』の宣下が下ったのは、こっちの暦で1395年の夏の事だった。


 フェルゾのおっさん曰く――


「退位の意向自体はずっと前から周囲に言っていた事の様でな。

 それから暫く間が空いたのも別に不自然な事ではない。

 まして、あの『ゼテルフォニ陛下』だ――

 『選帝』の内容でとやかく抜かさないよう、相当に詰めた状態まで持って行ってから、と考えておかしくない。

 ――まあ、そもそもで、『凶皇』に真っ向から反対意見を述べられる者も、指を折れる程も居ないがな」


 まあ――実際問題、いきなり辞めますって王杓を置くバカは居ないよな、とも思う。

 ……後半のくだりが絶妙に刺々しいのは、無視だ無視。


 その事に関連して、六星公国のお偉方の会議が、公国の中枢都市で開かれる事に成った。

 まあ、これも当然だわな――現帝が融和路線で来たからって次もそうとは限らない

 もっと言えば『明日からお前ら俺らの畑な』なんてブッ飛んだ事を言って攻めてくる可能性もある。

 あらゆる事を視野に入れる事は、『国防』とか『外交』とかでは当たり前の事だわな。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「それは良いんだけど――なんで俺まで一緒に連れて来られてるんだ」

「……いや、その……悪目立ちし過ぎだからでしょうねぇ……」


 お前の相方程じゃねえよ、悪魔ザミこさんや。

 旅商隊キャラバン護衛の依頼で、野辺を一文字に燃やす程じゃあねえです。


「――ジンはもっと自覚持った方がいいね、うん」

「何がよ? てか、何でいる、魔女っ子BBA」

「ババア言うなてめぇ、えいえんの1(ピー)歳じゃボケぇ!!」

「いや、マジでなんでいるの――」


 あんた、どっかの魔術師軍団の人だろが、アビーさんよ。


「護衛ですー、うちのトップも会議に出てるからですー」

「JSみたいな口調で話すな、痛い」

「イタイってなんだよ!?」


 これ相手には隠してもしょうがないので、こんな口調だ――

 てかこいつ、六星連こっち来てからなんのかんの顔合わせるんだよな――

 ……非常に微妙なタイミングでまで……


「まあ、アビーさんの言うとおり、変な噂が先行してる自覚は持った方が……」

「何、変な噂って」

「入ったダンジョンを壊滅させて出てくる、悪魔の様な奴が居る、と」

「はっはっは、お前が悪魔だろ、ワロス」

「いやあ……実際、『蜘蛛蟻アラコナント』の塚、森ごと焼き払ってたじゃないですか――

 『爆導索じゃぁぁあああ』って。樵のお兄さん、泣いて逃げてましたよ」

「あれを非道にカウントしないで頂きたいんだが。繁殖率考えると、ああするしかなかったんだし」

「退避させてからやりましょうよ、人を」


 だって、その兄さんが止めたのに入ってって、巣の上の木を切り倒したんじゃん、論破。


「お、ジン。ここに居たか」

「いや、待ってろって言ったのそっちですよね、何時間待たせるんです」

「いやはや、紛糾してなぁ」


 自分の頭をペチペチやりながら戻ってきたフェルゾのおっさん。


「で、お前を連れてきた用件をやっと済ませられる。

 ――ルオーラン殿、こちらが貴殿の会いたがっていた奇貨です」


 ――背後の威厳のあるおっさんは、この国のトップかよ。ラフ過ぎないか、格好。


「――ふむ」


 ……なんです。なんでじっと見てるんです。ナズェミテルン――


「――であるか」


 ――おい、何、上総介? 前右府?


「――ふ、その表情を見るに、やはり『世渡り』だか『星渡り』だか――『渡界者』の類の様だな」

「――ドーモ、サキノウフ=サン、テンセイシャデス」

「いやいや、俺は違う。ノブナガ=オダではない」

「――人悪いよね、うちのトップ」


 ――ん? え? なんだって、魔女っ子BBA?


「――い、一国のトップが、魔術結社のトップ!?」

「名の上で、程度だ――そう知られている事でもないし、実務は殆ど他人任せだがな」

「構造的には『筆頭株主』だよね、多分」


 おま――やだ、消されるわ、なんちゅう機密がいきなり暴露されてるんだ。


「国の上側では殆ど周知の事だ。この国の成り立ちを知っていれば、そう不自然でもあるまい?」

「……どういう事です?」

「『魔術師』とかを庇護しようとした人が、敗戦してこっちに迎えられたのが最初。

 ――大雑把に言うと、だけどな――てか、それ位学べよ、ザミー」

「バイトバイトでそれ所じゃ無いんですよ……」


 酒場の看板娘やってる場合かよ、この悪魔は。相方の飲み代が異常なのは分かるが。


「改めて――カルハ=カノイ=ルオーランだ。従妹が世話に成った様だな」

「ああ、そうか、直系なら――従妹?」

「――老けて見られるが、俺は23だ」


 ……どう生きたらポワポワ系女子とイカツイ系男子のDNAが分離するんだよ、おい。

 面影が殆ど無いっていうか、あいつの爺さんもイカツイ感じだったぞ。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「『六星公国』としては、今回の事態は頭の痛い限りでな」


 出された茶を飲みながら、俺たちは席に着いている。


「以前の――叔父の謀殺の時にもあった話が、再燃している」


 叔父――フェ……シオの親父さんか。

 ……何も、呼び名変えなくてもいいだろうに……ってまあ、直で名乗れないだろうけど……


「――出兵ですか」

「あちらの責任をはっきりさせろと、な。

 御蔭で親父は倒れ、まだ継ぐには早い段階で継ぐ羽目になった」


 まあ、ごっちゃごちゃ状態ですからね、あっち。

 前回は適当な偽装事実カバーストーリーでっち上げて、一応は納得させたんだろうけど――

 二度目とも成って来るとねえ――生きてるけどさ。


「――するんですか?」

「時期が悪い――『一人悪役』に成って、相手方を結束させるのは危険だ。次の皇帝に悪印象を持たせるのもな」

「――時期が良ければ、出すと言いたげですね」

「『従妹フェル』という、担ぐ神輿が居るからな――もっとも、俺個人としては――」

「私も反対票だ――こちらは、各都市を占領しても、それを統括出来るだけの人手が無いというのが表向き。

 裏向きは――旨みがな――出兵しての出費と、そこで出る直接間接の損害を考えるとなあ……」


 流石、商売人の上、フェルゾのおっさんは流通の滞る方が危険と考えている様だ。


「ベル=リガを橋頭堡に、という話も出ているのだが――あそこは色々な意味で火薬庫だからなぁ」

「冒険者ギルド経由で聞く話だと、大規模な未踏査ダンジョンが埋まっている可能性が高いという話らしい――

 となると、下手な手出しはギルドばかりか個人個人までも敵に回しかねん」


 ……可能性というか、埋まってますよ、『世界樹ヤバイネタ』が。

 ――まあ、情報元、多分『ベル代行』だろうけどもさ……全く以って『脳筋』の所業じゃねえ。


「――で、態々、何の為に俺を呼んだんですか?

 文脈的に、一介の悪目立ちしてる冒険者の出る幕じゃないでしょ」

「そうですね、私まで居る理由が分からないですし」


 いや、お前はこの人の護衛とか言ってたじゃん。


「――現状、『試争探索シーク・エグザム』の舞台に設定されるだろう場所は、あの場所だろうと踏んでいるからだ」

「……いや、未調査状態でやるもんじゃないでしょ、アレ」


 だってアレ、ギルドとか『学院』とかでチーム組んで――


「『目標に早く達した奴が勝利』、とか、『物品防衛した側が勝ちー』とかいう奴でしょ?

 レギュレーションとか面倒臭そうで噛んで無いから、詳しいルールまで知らんけども」


 まあ、賞金と名誉がメインだから、お前が噛む要素薄いしな、アビー。

 そもそもで、出資者の道楽の側面あるしな、聞く限りだと……


「通常のならば、それ用の舞台を整えてやるだろうが、これは『皇帝』を選ぶモノだ。

 ――数百年前には、同様の事があったとも聞いている」

「――まさか――見て来いと?」

「出兵派の抑えにもなる。『下調べを先ずしている』というな」


 ……ええとですね。


「――お断りします」

「――何故だ?」


 不思議そうに言うな。


「そもそも、シ――『四位フェル』が『立つ』か分からないでしょう」


 あぶねえ、感情先走って要らん事言い掛けた。


「で――ですね――非常に言い辛いですが――」


 ……悪いが俺は――


「あいつが『静かに暮らしたい』って言って、貴方達が邪魔するなら――」

「――な、ルオーラン殿。無理だろう?」

「……成る程。こういう――成る程な――『叔父上』にも何処か通ずるな。

 其処も含めて、シオは気に入ったか――いや――『叔母上』の様に、直感か?」


 ……んん? ……今、さらっと――


「――弱ったな。そこまで殺気立たなくてもいいぞ、ジン」

「……試した?」

「いや――そこまで、従妹を思ってくれているとはな。うむ。嫁にやる――持って行け」

「気がはやすぎぃ!! 俺らまだ12だぞ!?」

「そうでもない、俺とて12の時には結婚していたぞ?」


 この世界、気が早すぎませんか!? 貴族だからだろ!?


「相手は14だったがな――姉さん女房というのも、なかなか」

「のろけてんじゃねえよ!?」

「ちなみに、ルオーラン殿は子供が3人居る」

「いや、初夜からとんでもない目を見てな――」

「リア充は燃えろ!! オネショタかよバーカバーカ!!」

「Oh……進んでるね、こっちの世界……」

「どこに感心してるんだよおめぇは!? 魔女っ子名乗れない笑顔すんな!!」


 てか、悪魔ザミこ、お前も突っ込みを――真っ赤になって失神してるぅぅ!?


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――まあ、真面目な話に戻そうか」


 ――勝手に脱線したの、あんたらだからな――


「内々に通達した夜に、その場に居たナハル女史の話によれば、従妹は名を列挙されなかったという――

 だが、皇帝自身は、従妹に『可能性』を見ている、と――そういう話らしい」

「――勝手な話だ。無視したら良いんじゃないすか?」

「そう言いたいがな。場に居た有力者達はこうも思ったようだ――

 『もし仮に、伝え聞く噂通りの魔術的才知がある者ならば――』と」

「……去就を明らかに、どころか、出ません、って言っても狙われると?」


 深々と頷く相手を見て――

 ……心底どうでもいい……『出そうだから』で叩こうとすんなよ、杭じゃねえぞ、ヒトぞ……


「――連れて逃げる、程度では収まりそうも無い、ですか」

「……枯れた考え方をしてくれて、ありがたいよ」

「――折角死んだ事にしたのに、再び出て来るんだもん、あいつ……」

「隠し方が雑だったな。死骸の一つでもあれば、連中も落ち着いたかも知れんが」


 『死体役人形ラグドール』出せる能力なんて無いもんよ、俺。

 有ったらあんな水浸しにならずに使ってたよ、さっさと。


「――少し、待って欲しい」

「――考えを纏めるまで、か?」

「いや――半年ほど」


 俺の言葉に――全員で目を剥くな。逃げる気なら別タイミングで逃げるわ。


「……それはまた、随分……」

「考え無しに言ってるんじゃない、今の俺だと、まだダメだと思うから――」


 そう呟く俺――どう考えても、『負けて』も余り良い結末が見えない。

 次もそうとは限らないが、今の皇帝は勝敗が決した後に『粛清』してるし。


「『戦闘力』を引き伸ばす時間の猶予が欲しい――そういう事か」

「まあ、見目の見栄えってのも有るけど――」


 そうなると、ぶつかるかどうかは兎も角、見えている鬼門は差し当たり――『異天者』。

 ――あいつらの噂は、遠くこっちまで響いて来ている。

 どう考えても、あの敗戦が起点になって、真面目に修行しているらしい。

 この間はドラゴンだかを討伐したとかいう話も聞いた。

 ――手加減してくれよ、ツブラめ。俺はお前らを倒したい訳じゃないってのに。


「……聞き及ぶ限り、今でも十分、とも思えるが……」

「……カルハ――」

「――失言か」


 ……いや、変な圧出さなくていいっつうの、アビー。

 ――不幸な事故ってのは――まあ、いい。


「んで、もう一つ頼みが有る」

「なんだ?」

「――『禁宮』に、入らせてくれ」


 その言葉に、ルオーランのおっさ――ああちがう、お兄さんは立ち上がった。


「……あれが、どういう場所なのか、解った上で言っているのか?」

「知ってる。あの中はこの世ではない、そう言い残して死んだ『勇者』が居たのも知ってる――

 ――まあ、通常のダンジョンとは一線どころか万線を画しても足りない所、と」

「――理由を聞いても?」


 んなの、リスキーな経験値稼ぎに決まってるじゃん。


「半年で、『異天者』連中よりも、誰よりも強くならなきゃならんのでね。

 このままじゃ、どの道、連中と戦って倒されて、シオはひっそり死ぬ羽目になる。

 俺が『禁宮』で死んでも、結果は変わらない――

 『異天』を倒さないと認めないって連中が大勢出てきて終わりだろうから、そうなると倒し手が居ないだろう。

 『異天に対抗出来る』って点では、イゾウも出来るんだろうけど――」


 単純な地力ステータスで対抗出来ても、幕裏から延々バフを乗せてこられたら、無理だ。

 加えて、あの最後の瞬間の転位――あれを利用されたら、逃げ勝ちされる可能性もある。

 一瞬で良いから、チートをぶち壊して無力化出来る術が要るが――

 それには、チートという構造自体を理解出来て居ないときつい。


「……お前なら可能だと?」


 そこまでの自負も無いが――ただまあ、なあ……

 『出来る』のと『やる』のは話が違うし、やっちゃったら多分、後がなあ……


「……一番可能性があるだろう、とは思うよ。性格的な手の内は解るし」

「――解った。死ぬなよ」


 そう言って、手近な紙を取り、其処に筆を走らせ始める。


「切り札になって戻ってくるさ――心配なく」

「そうじゃない」


 ふと見ると――随分澄んだ目してるな、おい。


「従妹の思い人を徒に殺したなんて知れたら、何をされるか解らん。

 俺からは何も言ってないのに――あいつは、君を見掛けたらら良くしてやってくれ、と」


 ……やだ、泣きそう。

 あいつ、生きてると信じて疑ってないのか、便りの一つも無しで。


「――あーあ。んじゃ、行って来ますよ――『地獄の底』へ」


 俺は相手の差し出した紙を手に取り、部屋を後にする――っと、その前に。


「あ、ザミー。あいつらには適当に言っといてくれ。暫くチグサの面倒頼む。

 あと、アビー、手を貸してやってくれ――どうせダンジョンにも入ってるんだろ?」

「……はあ。この間、助けられた借りを返すって事で、金は取らないでおいたげる。

 ああ、待った待った――出るの数日伸ばしなさい」


 いや、時間あまり無いんだが、と思う俺に、アビーはこう言う。


「あんたへの助っ人が要るでしょうから、付けて上げるわ」


 ――現界地獄って呼ばれる、『禁宮』に行くって言ってるんですけど?


「うちの隠し玉――まあ、正確には、『根の国』所属でもないんだけど」

「――え、アビーさん、『彼』ですか?」

「うん、そろそろ、地獄見といた方が伸びるだろうから」


 ……誰よ。こんな奴の下にいる、可哀想な御仁は。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――あ、ゴアクリフト」

「……マジで?」

「こっちの台詞なんだが」


 やってきたのは――まあ、分かってたんだが。

 お前さん、僧侶だか神官だか言って自己紹介してなかった? ――あ、違う『法理術師』つったか。


「――うっそだろ。なんで?

 修行して来いって言われて、なんでお前が出て来るの? 魔術師じゃないじゃん、お前」

「こっちの台詞だよ――

 『ザキ!!』つって相手がブシャって飛び散る『魔術師』なんか知るか――『あくましんかん』が精々だろ」

「そもそも『ザキ』って言ってねえし!!」


 はい。ユート=レム君です――大丈夫かなぁ……腕前は兎も角、冒険者として……


「――まあ、いいや。で?

 何処に潜るんだ? 『35番廃抗』とか? 『鉤裂き公の魔窟』とか?」

「『禁宮』」

「――キングーのダンジョンなんてあったか?」

「『禁宮』」


 ――忙しい顔色だな、青くなったり白くなったりまた青くなったり。


「……ああ、もう、解ったよ……行くよ」

「無理に来なくても」

「頭打ちな状態に成って来てるんだよ、実際……

 俺だって強くなりたいけど、ゲニトリクスみたいなバケモノ火力は望めないし――」


 いきなりアレに対抗しようとするバカが居るかよ。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 こうして、俺ともう一人の転生者は、地獄を覗きに行く事と成る。


 まあ、内容は――その内どっかで話そうかな。

 ある意味地味で、作業のような話だから、話さないかもしれないが。


 兎に角、俺たちは其処へと降りていく。


 情勢は、後戻りも躊躇いも許さない。

 なら、真っ直ぐに貫き進むしかないのだ。


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