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【11】trafic--01


「――これで、此処数年分、全部か」


 相手から渡された資料を繰りながら、難しい顔のベル。


「見ての通り――まあ、別の名前で動かしている、なら分からん部分も在るが、それは多分無い。

 恐らくだが『例の物』の動きには、『当人』は何ら噛んでいないな。

 ――この状況下でよくもまあ、という様な物の、大口の買い付けはしているが」

「――あの方が『壷』だのを買い付けて売りさばいているのは、何時もの事だ。

 ――寧ろ、そこからの利益、単に『街』に回すだけなら問題ないんだがな――」


 帳簿からの抜粋でしかないが、今現在自分が追っている分の流れには、無関係と見える。

 ……まあ、関係しているならば、態々、エスターミアの港に入れないだろうが……


「……まあ、手間を掛けさせた。だが、良かったのか? あちらからすれば私は『政敵』だが?」

「何――そろそろ手を引きたくは在ったのだ。構わんよ」


 フェルゾの言葉でとある人物を思い浮かべながら、眉根を顰める。


「――何でまた。金払いは良いだろうに――それとも、難癖付けて支払いを渋っているのか?」

「金額の払いが良いのが、良い取引相手とは限らんものさ――上客が良い客ともな」


 面倒そうな口調ながら、その口元にあるのは苦笑である。


「注文自体は大口、荷の中身も別に、そっちの資料の様なものでは無い――だがな。兎に角注文が煩い」

「…………」

「うちは単に『集積』『運輸』をしているだけであって、その中身の質にまで噛んでいない。

 当然だわな。持って来るのは『冒険者』連中、一律で買い上げて一定量で送っているだけだ。

 であるのに、納期に関しては兎も角も、梱包の類まで此方持ちの手間。

 挙句には細々とした特徴表での指示だ――一級品だけ欲しいなら、自分らで見に来ればよかろうに。

 そこまでの口出しをするなら、半端をせずに、『商会』に纏めてやらせれば良かろうになぁ……

 ――まあ、ラージェヴァの極東部門と揉めたから自分らで、何ても聞いているがね」

「……何と言うか――申し訳ない」

「まあ、此方も商売――先代殿の恩顧も在ったからな。大目に見てきた処もあったさ。

 だがまあ、その手間と同じ時間で、より大きい物が見込めるなら、損切りと見切るのも商売よな」


 しゃあしゃあと、乗換えを宣言するフェルゾ――と言うより、言った通り、義理半分だったのだろう。

 より確りと義理を果たせるなら――商売分は投げ打って動く人物だ――


「――どうだね、エルス君。大人って汚いだろう?」

「あ、いや、はあ……」

「台無しだ」


 エルスが反応に困っているのを、明らかに面白がっている、禿げのオッサン――

 まあ、後退具合が顕著なだけで、そこまでの歳ではない筈なのだが――やれやれ、とベルは相手を見る。


「……あんたと来たら、本当になんと言うか……威厳が無い。

 ――というか、供として連れて来たのは私だが、『少年』に絡むなよ、おっさん」

「いや、ベル様も貶し過ぎかと……ハゲだのオッサンだのって……」

「毛無しぃ!?」

「言ってない――こう言う御仁なんだ、分かれ、エルス」


 思わず額に手を当てるベルに、わははと笑うフェルゾ。


「威張り散らして事が片付く方が少ないからな。場が和むなら太鼓ぐらい叩くさ。

 まして、こんな事に連れて来る位だ。その子は次世代のエスターミアを担う――そういう事だろう?」

「……挙句に、無駄に油断なら無いだろう?」

「――あ、はい……」

「ならばあれだ。変な距離を置かず、『肝胆なんとか』いうアレで行く方が良いだろう。

 良い取引相手、と言うのはな。『このやろう、しょうがねえな』と言いつつも、互いに得を出来る関係だしな」

「……そんなんだからあんた、妹夫婦に後始末一杯押し付けられるんじゃないのか……?」

「納得ずくなら構わんよ――言って聞くでなしな……」

「――ベル様、僕この人の笑顔、心に痛いです……」

「流せ……当人其処まで不幸と思ってないんだから……」


 と、ふと時計を見遣るベル。


「――帰りの便まで少し、港周りで聞いて回っても構わないか?」

「――別段構わんが、それなら儂も一緒に行くか?」

「いや。問題無いのなら大丈夫だ――折角、単なる旅行者風で来ているのだから、その体で聞くさ」


 言って立ち上がるベル――エルスも続く。


「――今度は朝来て夕に帰る、なんて慌しさで無い事を祈るよ」

「暫く無理だろうさ――お互いに――ましてこっちは、予定がつかえている」


 そう言って歩いて行こうとするベルに。


「――そういえば、何故『ジン』を信じているか、聞いてなかったが」


 そう問い掛けたフェルゾ。


「……分からん」

「……分からんって……」


 清清しいまでの顔でそう断言され、いっそ笑う。


「あの一日では、正直まるで信じていなかったのだがな。何時の間にか、信頼していた」

「――ほう?」

「――理由に成っていないのは分かる。

 だがな――『ベルゼフェル』――『フェルシオン』でもいいが――

 『シオ』があんなに無防備に他人を頼る事なんて、その父母以来、絶えてなかった。

 あんなにも無邪気に――まあ、びくついては居たが――飛びつく相手なんて、ずっと居なかった」


 自分にすら――と言い掛けて、一旦言葉を切る。

 ――それは、自分にすら甘えてくれなかった、なのか――

 ――それとも、自分にすら、甘えられる相手が居たのに、なのか――

 ――頭を振って続ける。


「――だったら、せめて不出来ななりに、『姉』として見守るだけ――

 その為に必要なら、どんな風聞も此方に集めるし、邪魔なら生垣も切り倒す――

 ――そういう覚悟の在り様が、私とアレは共通している――だから、差し当たり、信じている」


 言うだけ言い切って、ベルは再び歩き出し――階段を下りていった。


「――――」

「――ねえ。私、結局何で呼ばれたの?」


 物思いに耽っていたフェルゾの背後――衝立の後ろの席から、声が掛かった。


「……必要なら、向こうから切り取って、此方に取り込む――そういう話を、『総領』殿と付けていた。

 ――その為に、必要ならば、君の見た全てを語って貰う――そういう予定では在ったんだがな――」

「……その手の遣り様では、先ず無理でしょ……」

「まあ、無理だな――無理筋、は分かっては居たんだがな――」

「と言うか、『ジン=ストラテラ』を取り込みたいなら、逆にその味方になる方が早いわよ」

「――らしいな、アビー=ウィル」


 ごきごき、と首を鳴らして、赤毛の少女も立ち上がる。


「……ほだされた、とか、そういうのでは無いけどね。

 何処も彼処も、アレの行動原理を読み間違えてるもん。

 アレにある事ったら、『守りたい者を守る、邪魔するなら潰す』位だと思うわよ?」

「――確かに、実際に対話してみれば、その通りよな」

「……というか、アレの監視、もっと人増やして暮れないかしら?

 あんだけの事があった後で尚、私ぐらいしか居ないってどう考えても駄目だと思うのよ」

「――ほだされている、と思うぞ? 十分に。報告を受けた直後は、儂自身――『隔離』を取った。

 時期が時期だったから大きな騒ぎにまではならなかったがな。

 だが、お前さんは最初からそれは無意味と説いていた――酸鼻を極める光景を、一番最初に見た筈の者が、だ」


 ――不意に、その光景を思い出し――


「……見たから、分かるのよ――果たして、本当に邪悪であるのは、どちらか――」


 心が焼ける様な気分で、アビーはそう吐き捨てた。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――て、風に、気が付いたらこっちに落下してな。半年前だったか」

「うわぁ」

「まあ、そういう反応になりますわな……」

「……あの……なんでそんな、『爆発』……」

「しゃあねえだろ、貨物船に偽装した武器工房なんて腐れバカ物件に入ったら。

 そもそもで、あの状況で一番悪いの、潜入の為とは言え大口取引見逃そうとしたダボだもん。

 あんなレベルのモンが流れたら、うちの町廃墟になるわ――」

「止めたんだからね、私は止めたんだからね!? 撃つなって言ったのに人質の肩越しに相手撃つし!!」

「生きてたじゃん」

「それを皮切りにおっ始まったんでしょうがあの状況!?」


 はいはい、分かったよ天然どもめ――野菜食いなさい、野菜も。


「――てか、ジン」

「あんだ――こら、野菜も食べなさい」

「なんで親父といい、例の魔術師ちゃんといい、この物騒なお姉さんたちといい――

 時間も何も超えてバラバラに出てるのに、君の近辺に集まってるの?」

「俺が知るかよ――」


 本当に知るかよ――『メタ権現ゴツゴウシュギ』様の手になるもんじゃねえの?

 てか、お前が言うなよ、ガチャ転生者と『種子保持者シードキャリア』の混血が。


「まあ、都合がいいな。この子に聞いたとこによると、お前も冒険者なんだろ?

 私等も一緒に『ダンジョン』に連れてってくれよ、まだ入ったこと無いんだ」


 ……アーカ島って、放置されてるの多いから、緩い筈なんですけど……?


「――冒険者位、アーカ島にも居たでしょうに……」ヒソヒソ

「――このバカと一緒には降りたくない、といわれまして……」ヒソヒソ

「……何したんですか?」ヒソヒソ

「……いや、この人だけでも無いんですが、砦、消し飛ばしちゃって……」ヒソヒ草

「声張って言えよ!! アレに付いては反省はしてんだから!!」


 ……乱射魔の匂いがするからな、この人……


「――俺、年齢制限引っ掛かって、まだ正式なギルド員じゃないし」


 特例の特例で13かららしいので、俺はまだ盗掘者状態なんですよ――

 ――あくまでも、ギルド的には、で、抜け道通っては居るんだけど……


「おっお~? なんだい、盗掘かい? 悪い事してんのかい? 逮捕しちゃうぞ?」


 うるせえ、うぜえ。止めろ『悪魔ザミこ』――目を伏せるな。


「……どうする、チグサ。この人らも――紹介してもらっていいか?」

「まあ、いいけど――『鑑札』出してくれるかは伯父貴殿次第だよ?」

「実力はあると思うから、大丈夫だと思いたい」


 ――実際、手が増えるのは有り難い、とか言っちゃうだろうし、あのおっちゃん。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「実際、手が増えるのは有り難い」

「一字一句復唱しなくていいから」

「ん? 何か言うたかな? ジン」

「いんえ」


 次の日、俺たちはこの島を治めている『フェルゾ』太守のお屋敷に居た。

 チグサ――十代とうだい韓志和からのしわ』、チグサ=フェルゾの伯父さんの屋敷である。

 トーレントス=フェルソ――年齢は其処までいっていない筈何だけれど、ええと、サバンナ化がげふんげふん。


「まあ、ジンには言うまでも無いのだが――今こちら、東方島嶼連合は冒険者不足が深刻でな。

 大陸側での件の一件以来、未踏査ダンジョンの調査が盛んらしく、こちらまで人が流れて来ないのだよ。

 そんな中で、アーカ島で活躍した方が来てくれたのは有り難い」

「……砦ごと鬼人勢力爆破したんですけどね……」

「小さい事等気にせんよ!! はっはっは」


 気にしろ、ハゲ。悪魔が困惑してるだろうが。


「こっちの冒険者ギルドはどうにも閉鎖的でいかん。

 本部が向こうというのは分かるのだが、根を下ろして百から先の年が経っているのだから――

 もう少し歩み寄って協力的になってくれても良さそうなものだが――」


 さらさらと一筆認めながら、そんな事を言う。

 この磊落さで有能なのが怖いんだよ、このハゲ――借りあんまり作りたくないのに。


「よし。これで、君達も『特例』だ。励んでくれ――儂は励みすぎて禿げてるがな!!」


 ――悪魔、笑うとこ、ここ、笑うとこ、悲しい顔すんな。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――何やってんの、ほんと」


 眉間を押さえているフェルゾに、そんな風に告げるアビー。

 ……もっとちゃんと、言うべき事言えよ、と思ったのだが――

 ――同時に、昨日の今日では、何も考えられ無かったのも無理も無いか、と思う。


「……どういう反応をするか分からん以上、伏せるしかなかった。

 ――今このタイミングで、大陸側に戻る、と言い出されてもな――」

「……そもそも、チグサを置いていかない、というか、必要ならちゃんと連れて来るでしょうに」

「――連れて来られたチグサが、その三日後に今度はジンを追って大陸に行って見ろ。

 『山火事』だのではすまなくなるわ……顔はまだ売れていないだろうが、噂は無駄に足が速いからな……」

「――んで? 私はどうしろと?」

「ん――ああ、すまん、あっちとは別件なんだがな」


 言って、フェルゾは書簡を取り出す。


「薬草の類の関係で、『聖樹教』のとある御仁と知遇を得ていてな。

 その方から、こっちの方で『術者』を一人育ててくれ、という話だ」

「……私に振るなよ。ちゃんとした教育カリキュラム部門に投げなさいよ」

「……それがな。ややこしい事に、『ヴァレリーク』家からは、その入門の類を差し止めてくれ、と――」


 心底嫌そうな顔のアビー。


「……まあ、お前さん自身で如何こう、で無くてもいいんだ。

 ――どこかの部門の下に、適当に捻じ込んでくれれば。

 ――『六星連』の公共機関に入学は拙いが、誰かの弟子に、なら――」

「しるか!!」


 ――窓から飛び出して逃げ出すアビー。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 ……何か聞こえた……まあ、いいか……


「――てか、お前の契約者ねえちゃんは、なにしてるんだ?」

「カティなら、酒場で情報収集、とか言ってましたけど、飲みに行っただけですね」


 門を出て、そんな会話を交わす。銃士なのに女戦士みたいな人だな、おい。


「――というか、君は何なんです?」


 ――そんな疑問をぶつけてくる。ここ階段長いからさっさと降りてから話しようよ。


「普通の人間――て割には、あまりに突飛な性能してますよね」

「――話したくも無い、クソ長いお話があるんだよ。10万字から超えてるのが」

「――まあ、仕方ないですね。出会って数日で全部話せ、でも無いですし」


 勝手にそっち方向に勘違いすんなよ……面倒だからいいけど。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 こっちに流れ着いて、俺はとあるおっさんと、その家族に拾われた。

 そいつは、十代とうだい韓志和からのしわ』だった。

 十代『韓志和』というのは、名跡のような物らしく、初代の再来と言われた名工に因むらしい。

 要は、当主の名前だよな。初代にあやからないのは、恐れ多いからだとか。

 で、そのおっさん。どう考えても例の召喚器暴走で来たんだろうが、来たのが10年前――

 どうも、例の暴走で飛び去った連中の出るのには、ある程度の法則性がある様だ。

 多分、他世界か例の情報帯か知らないが、其処への距離が近くなってるタイミングの前後で出ているようだ。


 そこで――俺は拙速に戻る事より、この世界について改めて学ぶことにした。

 フェル――シオには悪いが、大陸の情勢が安定してる内は大丈夫だろうと判断したのだ。

 というか、判断材料が間違ってたら、解答も間違うしかないし。


 おっさんは半年ほど前に、とある事情でくたばった。

 おっさんおっさん言ってるが、年齢で行くとかなり年食ってたしな――

 ――その割りに、こっちで子供作ってるとか、お元気ですね。

 ――兎に角俺は、こっちに少し残ることに決めたのだった。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 無論――その縁ばかりが理由でもないのだが。


「やっぱ、酒うまいなあ――こっち」

「また稼がなきゃ――ジン君、すいません、立て替えてもらって」

「……良いんだけどよ」


 夜道を砦まで戻っている。


「――お客さんかぁ?」


 そう言いながら、銃を抜き――いきなり撃つなよ。


「腐った血の匂いがすんだよなぁ――こないだ嗅いだのと同じ匂いがよぉ」

「――こええな、このねえさん」

「ほんと、野生児というか、鼻が利くんですよね、この人」


 見ると其処には――頭をぶち抜かれた――『接がれし者イュムペート』の死体。

 ただし、人間ではなく――あの場で見た狒々型だ。


「たまーに見掛けてたんだけどよ、コレ何?」

「――"ヒルキ"とか"アガザル"とか呼ばれてる化けモンだよ」


 ――こいつらだ。こいつらが、理由だ。

 東方島嶼のあちこちで、こいつらが増殖しているらしい。

 幸か不幸か――大陸にはまだ居ないか、居ても少数のようだ。

 そして――俺の事を率先して狙っている様だ。


 余程、顔面ぶん殴られたのが腹に据えかねたか――あるいは俺が、恐ろしいらしい。


 俺は無言で例の薪を出し――火をつける。


「――アンデッド、って感じですかね。魔力見た限り」

「こんな臭けりゃ死体だろがよ」

「……普通、感じない。なにこのコヨーテ」


 バチバチと燃え落ちていくそれを見ながら、俺は呟く。


「一つ、忠告しとくけど――俺と一緒に歩くと――」

「はっはっは!! コレ狩るんだろ!? 上等上等!!

 おねーさん、訳分からんバケモノでも、撃てば死ぬのにはめっぽう強いぞ!!」

「いてえ、肩叩くな、外れる」


 しなり効かせて叩くなよ、いてえッたら。人の話し聞こうよ。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 待ってる人がいる、という幸福を、もう一度手に入れた。

 だが――自分の手はまだ小さく。

 守りたい者を、守り切るには、まだ小さく。


 ならば。為すべき事は?


 道はどんどん交差していく。

 その重なりの上で、俺はただ道を見ている。

 ――今は、まだ。


「――なあ、ザミ子」

「ザミ子言うな……ねえ、ジン君……あの大き目のシルエットって……」

「――ああ、ゲンちゃんだな……相変わらず、無駄に目立つな、あれは……」


 全てが、折り重なっていく、その路を。


 ――歩き出すのは、もう少しだけ、先。

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