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【09】『Λ渦巻く状況/逆巻く螺旋Λ』


「ででん、本編始まると思った?

 ねえねえ、新章始まると思った?

 残念、那珂ちゃんでした!!」

「……はぁ」


 目の前で起こっている、謎の状況に、ユートは頭を抱えている。

 場所は東方島嶼連合・最西端の港町、『イキトス』。

 エルマルド――要するに、『帝国』の在る大陸との玄関口である。

 諸々の厄介事から逃れてほとぼりを醒まそうと、こっちに来たのは良いが――


「――通じなかったか……似てなかったかな――?」


 ――港を出た辺りで、いきなりこの人に捕まったのだ。


「いや、あの、お姉さん――どなたです?

 あ、いや、顔も見たことあるし、名前も知ってるけど――

 なんで干されて消えた人のそっくりさんがこっちに……」

「んん? ああ――いや、当人。御本人。本物だから」


 この辺りで、ユートの心を、訳の分からない衝動が突き動かし――

 何年も何年も、丹精込めて隠匿してきた前世知識がスパークしてしまった。


「本物の『雁野かりの御津姫みつき』がそんなラフな格好で異世界歩いてるのかよ!?

 なんでヨレヨレのロンTに、あからさまに擦り切れたGパンなんだよ!?

 あんた別に『ダメ人間枠』じゃなかったろうが!!」


 ていうか、なんであんたなんだよ!! と心の中で叫ぶ。


「おお~。情報通り、転生者だ、この子――てか、ガチ勢か、君」

「推しは星倉さんだよ、悪いかよ!! 握手オネシャース!!」

「いや、悪いなど、ありがとう――うん。懐かしいなあ、ユリエ、元気かなあ」


 柔らかい、掌柔らかい~――とそこで正気に帰る。


「――で、なく。何の御用でしょうか?」

「ん? おお、すまんすまん。転生者(仮)がこっちに来るらしいって話聞いてね。

 ちょっと下調べ兼ねて接触を試みようかと思って――んで、アパム、何聞けばいいんだっけ」


 と、影のやや薄い、隣に座っていた青年に声が掛かった。


「……たった一時間前の相談内容を忘れるか、『シャチョー』」

「いや、確認確認」

「ああと――どうも、『安波あなみたける』といいます」

「――はい、どうも。ユート=レムです。

 前世名前は下の名前がユートだったの以外、スルーで」

「うん、了解。後もう二人程仲間が居るんだけど、それは追々。

 で――聞きたい事が幾つかあってね――先ず、これから聞こうか――『帰る方法』知ってる?」


 いきなり核心に踏み込むのか、と身構える。


「――俺の場合は、無いですね、多分。

 そちらは『転移』で、俺は『転生』でしょうから、基準がそもそも違います」

「――そうだな――まあ、こっちも『どっち』なのかちょっと分からないけど――」

「でまあ――はっきり言うとですね、在るかも知れませんけど、調べてません。

 こっちの世界って、俺にとっては夢の様な世界ですので」


 そう――ユートにとっては、こっちの世界は正に夢の様な世界なのだ。

 わざわざ向こうに帰りたいとは、思えない。


「――そうか。という事は、君は『天然モノ』か」

「……は?」

「いや、どうやら、何パターンか在るらしいんだよね、こっちに来る『入り口』。

 こっち、意図的に送られたパターンらしいんだけど、帰り道とか一切聞かされずにこっちに来てるもんだからさ」

「そう遠くないとは思うんだけど、やっぱり何か魔術的な要素が絡むのかな――

 アレもある程度時間決まってるしな……」

「いや、あれはどっちかってぇと、『デイリーガチャ』みたいなもんじゃないの?」


 なんだよ、デイリーて――混乱を加速させないで欲しい、と思いながら、


「――他の聞きたい事って?」


 ユートは促した。


「ああ。そっちは簡単。エルマルド大陸の詳細な情勢が知りたいんだ。

 別に財務の数値とかは良いけど、こっちに入ってきて下まで降りてくる情報が、色々錯綜してるもんだから、渡っていいものかどうかが読み切れなくてね。

 俺たち同様に、一歩引いた目で見てる人間の情報の方が、予断が無いと思って」

「ねえアパム~。そんな慎重にならなくても、ゲンちゃん連れて行って適当なとこで根を下ろせば良いんじゃないの? 傭兵とかさ」

「付いた先がド腐れ外道だった、なんてヤだろ。

 少なくとも、俺はこっちでまで腐れ上司抱えたくないよ……

 それ以前、ゲニトリクスは悪目立ちしすぎるだろ……」


 そう、アパムと呼ばれた男は言う。


「――ざっとで良いですか? こっちの事、どの程度知ってるのか知らないですけど」

「一応、君が『神童』とか言われてた事は聞き及んでるよ、ユーティレス=レム」

「――下調べは万全、ですか」

「いや、疑い持たれても仕方ないけど――こっちの情報、一年前ぐらいにエスターミアから避難してきた商人とかの情報で、少し古いんだよね――だから、お願い」


 ユートは思った――推してた人の親友に手を合わせられたら、仕方あるまい、と。


 ・ ・ ・


「武力的には均衡が戻っては来てますけど、三大公領の内部はそれぞれです。潜在的に一番軍事で強いのは、ロアザーリオでしょうね」

「バーフェルブールの所謂『貴族連』は?」

「財力はアホみたいにありますけど、あそこは『第一の皇継エノ・カハル』と『第三の皇継セレ・カハル』を有するって優位性と、これまでの支配基盤が頼りなとこがありますからね――

 しかも、蓋を開ければゴッチャゴチャの内部闘争ですし」


 アパムの問いに答えながら、現況はロアザーリオが一番優勢だろう、と思う。

 ――最も、エルフ連中は相変わらず貴族連中の背後に居るし、それを覆せるのかは疑問が残る訳だが――『第二の皇継デュラ・カハル』という大駒がどの程度までの能力か、そして、それをどの程度活かし活かされるか――


「――良い目をしてるねえ、戦術家の目だねえ」

「……少しは考えろよ、シャチョー。一年で会社軌道に乗せた手腕を見せろ」

「運と資金で無理矢理なんとかしただけだし、地元で起こしたからそう大変でも無かったしなあ――副官が超有能なら、なんとでもなる――」


 そう呟く声に、副官か、とユートは一度目をつぶる。


「――転生者や転位者を抱える駒数で行くと、バーフェルブールは最有力なんですけど――未知数度だと――」


 そう言いながら、目の前の地図の上に塩の瓶を乗せる。


「――エスターミアか」

「一年前の一件での被害が一番大きかったのは事実なんですが、その旗下にいるだろう人材が――噂話までひっくるめると、非常に怖い事になってます」

「怖い、とは?」

「――慣用句で、『さながら魔王』とか『勇者のような』とか言うの知ってます?」

「ああ、たまに聞くね。『とんでもない奴』とか『世の中が変わる程の』とか、そういう大人物たる奴に付くんだっけ?」

「そう言うのが、跳梁跋扈してるのがエスターミアです。今の」

「……火薬庫だなぁ」


 ミツキの言葉に頷くユート――シャチョーシャチョー言われてるが、この人何時の間に会社興してたんだろ。俺がこっちに来た後か?


「復旧復興が異様ともいえるペースで進んでるんですよね。

 大陸各地の商人からの資金提供というか、投資の様なものも集まってますし――

 『帝国』中枢がいちゃもん付けたら、そこを契機に戦争始まりかねない――

 しかも、どっちが勝つかは、微妙です」

「『一騎当千』って奴がそんなに居るのか?」

「――所在の分からない鬼札が多過ぎるんですよ、あそこ。

 一人はちょっと前に冒険者やってるの見かけましたし、一番の大駒は、噂だけならどっかの学院で学生してるとか聞きます。

 でも――一番厄介な札の所在が不明なんですよ」


「お、アパムさんにミツキさんじゃん。

 何、何の悪巧みしてんの?」

「――ん? おお、ジン。久々。買い物?」

「うん。チグサのアホの子が、開発に係りっきりでね」

「あー、後でまたゲンちゃんのアタッチメントとか頼むかも、って伝えて」

「あいよ」


「ああ、ミツキはほっといてやってくれ――なんだい、一番厄介って」

「あくまで詳細不明な話なんですけど、例のあの日に、エルフ達が召喚した『異天者』たちと、一戦交えて――勝った奴が居たらしいんですよ。

 流石に分かりますよね、『異天者』」

「分かるよ。こっちに来た中でも、すっ飛んだ能力を最初から持ってる奴がたまに居て、そいつらの事だ――へえ、まじか」

「――驚かないんですか?」

「そいつも『異天』なんじゃないかな、と考えると、辻褄は合うだろ」


「てか、最近どうよ?」

「いや、どうという事も無いよ。潜る・狩る・運ぶだ」

「冒険者してるねぇ。いいぞー」

「いや、タイミング見極めて、さっさと帰りたくはあるんだけど、こっちでも縁が出来ちゃったからなあ……じっくり腰据えて、色々学びながら待つよ――んじゃ」

「おう、がんばれー」


「――そんなにポンポン異天がそこらへんに転がってたら、この世の終わりですよ」

「――ソダネー」

「ソウダネー」

「……なんです、二人して。奇妙な笑顔になって」


 意図が読めないまま、疑問符だけが浮かぶユート。


 ・ ・ ・


「じゃ、うちらと来る、って事でオッケー?」

「宛が在って来た訳じゃないんで、助かります」


 結局ユートは、この二人の冒険者PTに入る事に決めたのだった。

 二人と共に、町外れまで歩いている。


「――驚くなよ?」

「何にです?」


 ごろんごろんごろん


"お帰りなさい、ふたりとも"

「――玉が喋った――ああ、ゴーレムですか、ハロかと思った」

「「反応薄いな、おい」」

「教会で勤めるって、意外と多岐に覚える事が多――」


 こんな程度で驚きゃしない、等と思いながら更に歩を進め――るのだが――


 でぇぇぇぇぇ(´・ω・`)ぇぇぇぇぇん


 街から見えないような位置に、それは隠蔽されて座っていた。

 明らかに。あからさまに――


「……ロボットやんけ!! なんであのマークが顔に!! なんだあのドリル!!」

「良い反応だ(にやにや)」

"……やっぱり、あのマーク変なんじゃ……"

「ゲンちゃんのパーソナルマークなんだから良いじゃん」

"げせぬ"

「きゃ、キャタピラ!? なんだあの凶悪そうな砲身、なにこれ、これなに!?」


 ユートは思う。

 こんなんわいの知っとるゴーレムや無い、なんなん。この世界、と。

 関西人じゃないはずなのに、関西弁が混じる程度に狼狽しながら。


 そうして、現時点での情報整理を止めた。

 だってドリルだ。ドリル、まずは、ドリルを。


「ロマンだよね」

「ロマンですよね!!」


 ああ、この世は――素晴らしい。


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