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【04】『恐るべき未来達』


 どんな物事でもそうだとは思うのだが――

 物事は『解釈』のし様と、それをする側の『ちから』で、容易く曲がる。

 『法』や『掟』や『仕来り』でどうなっていようが、それらすらも矯めて枉げて来た事。


「――やっぱりというか、なんというか」

「――まあ、そうなりますわね」


 ――だから相手が『規定』の中で何かをしてくる事ぐらい、予想の範囲内だった。


 指定された場所へと入った私達の前に、数人の人影。

 明らかに本職・それも相応の実力の、『冒険者』と思しき人物が、二人立っている。

 ……まあ、作法的に『立会い』『助太刀』は間違いでは無い。

 決闘を受けた当人――オーレ=カイル=オアークウッドは、その二人のやや後方に。

 ……随分と良い装備で出て来ているが、それもどうでもいい。

 こちらより――何歳だっけ? まあ、兎に角――年嵩の癖に大人気無い、と思わなくは無いが、それはそれ。

 男爵家だろうが『嫡男』だ、『相応の準備』は分かる――オアークウッドは金もコネも在るし。


 ――それよりも、だ。


「あちらの動向は予想の範囲内だけれど――ねえ、シオ」

「ん? なに?」

「……なんで、『観衆』と思しき方がいらっしゃるのかしら?

 ……いえ、『いらっしゃる』、の規模では無いわね――何? この――イベント事状態は?」


 結構な人数が、『円形の訓練場このばしょ』の周囲で、こちらを見ている。

 というか、おいおい、飲料軽食を売ってる奴まで居る。

 相手の代理人だか介添え人だか、怪訝そうな顔で見回してるじゃないの……


「――さあ?」

「目を見て話しなさいな」

「……ちょっと噂を流しただけで、こうなる、とは――物見高いね、みんな」

「この学園、娯楽は希薄ですもの――じゃねぇわ」


 放課後の訓練場って段階で目を輝かせてたのは、この為か!!

 これじゃあ、晒し者じゃないの!! 手を振るな!!


「――まあ、これだけの衆目で、勝敗の偽りは出来ないでしょうから、良いでしょう」


 どさくさに紛れて、うちのメイドが横断幕準備して見えるが、もう、ほっとこう……


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 『リエット=レトキア』は、私達の数少ない共通の知人の一人である。

 オアークウッドにも仕えていた私、『シゼル=ミナル』にとっては、同僚の子。

 マリー御嬢様にとっては、同郷――帝都周縁地方出身者として、会話を交わす間柄。

 そして、『彼女』にとっては――意外な事に数少ない友人の一人だ。


 『彼女』――『シオ=カノイ』は、私の御嬢様の同室者であり――

 恐らくは、二番目の理解者だ――一番は、無論の事私である。

 ……御家族も理解の在る方々ではあるのだが、御嬢様が少し距離を――と、それは今は良い。


 御嬢様は、勝手に『ライバル』と言い張っているが――うむむ、正直、相手になっていない。

 いや、御嬢様がダメなのではない――相手が無茶苦茶過ぎるのだ。


 成績は優秀、品行は方正と言う程ではないが、人当たりが柔らかい。

 眉目秀麗という点では、うちの御嬢様に軍配が上がるが――

 よく整った中性的な顔立ちがあの笑顔で接するのだから、老若男女問わずかなり人気がある。

 二人とも何処かしらポンコツな所があるが、彼女はソレを含めても『普通の格』では無い。

 本質的に、ヒトの輪の中央に居る存在だ――でありながら、それに特有の圧迫感も無い。


 そんな性格と性質でありながら、彼女に友人と呼べる人間は少ない。

 柔らかな壁がある、と評したのは御嬢様であるが――

 自分の一定以上の近さに、人を立ち入らせない様にしていると感じられる。


 まあ――相応の人生を歩んだのだろう、とは分かっている。


 あまり面白い生き方をしてきては居ないだろうと、想像はついた。

 諜報の手解きも一応受けている私にも、背後が探れなかったのだ。

 これは、相手を怪しんで、と言うよりは、通常手順の身辺警護の一環だ。

 あれでも御嬢様は『王族』の一端。周囲に居る者への『目配り』はどうしても必要だ。


 だが逆に――暮らしていたと言う『大陸の東側』に、アレだけの『傑物の雛』が居た痕跡が見当たらなかった――

 貴族社会というのは、次世代の才能には過敏ともいえる興味を持って居る。

 それは、自分の家柄の浮沈に関わる事でも在る。


 筈なのに、シオ=カノイは、学園に提出された資料以上の事は見えなかった。

 ――『御実家』のオルランドゥ殿に、それとなく問い合わせもしたが、返答は『触れるな』だった。

 相応の噂は聞いているが、確証が無い――むしろ、確証だけが無い、と。

 元は皇帝直属の近侍武官だった彼が、其処まで言うのだ――逆を言えば『それで切り上げろ』という示唆だ。

 その段で、逆に誰なのかの想像はついてしまっていた。


 ――だが、仮にそうであるなら――

 自分は逆に、彼女に御嬢様の『殻』を破って貰う事を期待した。

 ――稀有な運命を背負わされた者同士。

 手に手を取れずとも、『独り』では無いと――


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「あの――シゼルさん、これは――」

「お弁当ですよ。一緒に食べましょう」

「あの――私は、オアークウッドの――それに、貴女を――」

「まあ、百も承知の上で、あちらのお二人が『先ずは守れ』との仰せですので」


 そんな中で友人の一人に、この子が居たと言うのは、なんとも因果としか言い様が無い――


 この子も、可哀想な子だ。

 彼の男爵家では、家臣に魔力持ちの子が生まれた場合、率先してその子を養育・教育する。

 表向きは兎も角も、結局はその恩で相手を縛っているのだ。

 望む望まぬによらず、親から引き離され、この学園に入れられ。

 折角育んだ友情も、自分を縛るモノに利用され。

 そして、それを、仕方の無い事と教育されている。


 累代の因果に縛られている――それは、自分も同じだった訳だが。


 御嬢様も、シオも、リエットも。

 周囲の大人の思惑に振り回されて生きている。

 ――かつての自分が、大人たちの事情に振り回されたように。


「私自身をどうこう、に関しては、気にしてませんよ。

 あの『豚坊ちゃん』の命令に、貴女が意見を言えるとは思えませんし――」

「……どうして、皆さん……」

「あのお二人は基本的に、御人好しなんです。そうとだけ考えて置いてください」


 能力こそすっ飛んでいるが、まだ11、12の少女なのだ。

 とはいえ、仕えるに価する存在でもある。

 さて――では、この恐るべき子供達の、戦いを見守るとしよう。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 冗談キツイ、とナーグは思った。

 自分の魔術師としての底等、当の昔に理解出来ている。

 有体に言えば、自分に出来る事と言えば、然程ランクの高くない獣魔を操る程度だ。

 『毒蛇使い』『毒蜂使い』等と呼ばれ、基本的には奇襲だの暗殺だのが主体なのだ。

 

「――金返して、冗談キツイつって、逃げれば良かったなぁ――エザク」

「……全くだな」


 相棒である、『群狼のエザク』が返す言葉にも、覇気が無い。

 ――当然だろう。


 まさか、目の前の少女二人に――

 狼5頭+毒蛇10匹+巣一つ分の毒蜂を、一瞬で消し飛ばされるとは誰が想定しただろう。


「――こわっ。マリーの魔術特質、こわっ」

「い、いやいやいやいや!! 操作は貴女持ちで撃ったでしょ!?

 なんです今の分解ガスは!?」

「『体内回路サーキット』そのまま使って撃っただけだよ?

 あれがマリーの得意属性でしょ」

「あん――あんな物騒な魔術使った事もありませんわよ!?」


 くそやべえ。なんだこの状況。死骸がブスブスと崩壊して言ってるんだが。

 ――『死霊魔術』にはこんなのもあると聞いた事はある。

 だが――目の前の少女二人に、ぶっつけ本番でドン、で出せる物ではない。


「な――なにをやっている!! 二人共!! 安くない金を払っているんだぞ!?」


 うるせぇな、この豚、と言いそうに成って、おっとと、雇い主の子、と自分に言い聞かせる。

 その横で、同じ心持なのか、エザクが溜息を吐いた。


「――オーレ殿、無理です」

「何だと!?」

「この水準と最初から伺っていれば、手の取り様も在りましたが――

 普段から依頼を受けている義理――その範囲での事を超えています

「それに、お前さんが金払ってる訳でもないしな――

 やりたきゃ、普段従えてる連中呼んで来て続けなよ。俺達ゃ、手駒ゼロなんで」

「――な――」


 ――正直、このクソ坊ちゃんには何の義理も無い。

 自分達はあくまでも、実家からこの坊ちゃんに『装備』を持ってきただけ。

 それを、『備品』の一部の様に戦わせられたんじゃ、俺たちの立つ瀬が無い。


「男爵殿には、命令に著しい齟齬があった為、契約破棄、と伝えさせてもらいます」


 エザクの冷酷な宣告が引き金となったのか、持ってきた『杖』を起動させ、相手に向けて歩みだす――

 ああ、もう、跡取りがこんなバカとか、オアークウッド男爵家終わりだな、とナーグは思う。

 相手との力量差が、まるで理解出来ていない。


「ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 『杖』――『魔重のメイス』とか呼ばれている奴だ。

 送り込んだ魔力を『打撃力』に変換するそれを、思い切りぶん回しながら進んでいく。

 ――構えとか、そう言ったのは流石『嫡男』。相応の訓練を受けては居るんだろうが――


「――よっこい


 不意に、シオと呼ばれていた少女が、


 ――しょっ!!」

「――っがっ!?」


 その頭に降った。

 そうとしか形容が出来ない。


「――『転移術式』、か? ――あんな使い方が?」

「――この学園のガキどもは、色んな分野でバケモンかよ」


 苦笑いする魔術師二人を他所に、男爵の子息は、鼻血を流しながらも立ち上がり、シオに杖を振り下ろすも――


「――せいっ!!」

「――ぬぐぅ!?」


 どこからか取り出された、無骨な木の棒に、それをいなされ、膝を強打され、地を舐める。


「くそ――なん――!?」


 ――ジジジジジ


 唐突に火を噴いた木の棒を、相手の顔面すれすれに突き出し、


「――まだやる?」


 その少女は、にこやかに尋ねるのだった。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――という訳で、俺らはあくまでも『雇われ』。

 何で、あんた等にも王家にも、敵対する気はないよ」


 両手を挙げて軽薄に微笑む魔術師に、


「――まあ、いいでしょう。兎に角、この手紙と一緒に、アレを一旦男爵家へ送ってください」

「えいへい。お足さえいただけりゃ、なんでも」


 場所は学園の正門の前。

 装備を持って来たという馬車に、そのまま件のバカ息子を乗せた。


「しっかし――」

「――なにかしら?」

「いくら君が『腐朽姫』とか呼ばれてるつっても、あの子を友達には」

「――なんです?」


 軽薄な笑みの相手に、目をやる。


「――王家の人間のお友達には、いささか危険すぎないか? とね?」


 失敬極まる奴だな、と思いながらも考える。


 あの松明――と呼ぶには、いささか高火力だったが――

 ――を、顔面の横でバチバチやられたんじゃ、確かに溜まったものではないだろう。

 それは――聞いた事も無い様な甲高い声で悲鳴も上げるだろう――

 それでも、あえて惚けてやる。


「何がです?」

「――あの目、見なかったのかよ――虫でも潰すみたいに、人の命を弄べる目――

 あんな目で責められたんじゃ、あの坊ちゃんでなくても、失禁するよ」

「弄ばれる様な命なのが悪いんでなくて?」


 そう言って、笑ってやった。


「あの子は――私の友達。

 命を軽々しくなんか扱わないのは、私が一番知っています」

「そうかい――

 まあ、リエット嬢ちゃんに関する事を白状させたりとか、あんな優しい子もいない、という気もするが――

 バランスとってあげるの、大変だぜ、きっと――」

「知ってますわ――勿論――その上で――

 彼女が明らかにバランスを崩したなら。

 力及ばぬまでも、私が――」


 そう言って、そっちを見上げる。

 ――校舎の屋上で、そいつはぼーっと空を見上げている。

 もうちょっと、締りのある顔してなさいよ、と苦笑する。

 ……おい、手を振るんじゃない、他の人がえも言われぬ笑みを浮かべてるでしょ!!


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 まあ、こんな風にして、私は。

 彼女の厄介極まる性格と、厄介極まる魅力に、抵抗するのを諦めたのだった。

 それでもまあ――ライバルだと、言い張って居ようとは思う。

 どうせなら、隣に並んで歩きたいのだから。


 好きなだけ、揺らし、崩しなさい。

 貴女の歩みや羽ばたきで、どれ程のモノが砕け、変わるとしても――

 それでも私は――貴女の『友』なのだから。


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