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02/【11】

 『力』と『速』の連携は、実際に厄介だった。

 うん。何というか、これで多分ロマリア近辺、或いはウォルス位――

 要するに、『冒険序盤の終わり位」ってのがな。基準の異論は認める。

 だが――


「おい、何やってんだ、二人共!!」

「くっそ、なんだ――攻撃が効かないのか!?」

「お前のは、いなされてるんだよ、バカナシが!!」


 ――そこら辺で良かった、と言える。何でって?

 こっち、草とは言え、250年分の経験値が有る。

 ミスと0ダメにしか成らんなら、何とでも出来るさ。

 もっとも、『賢者』達と迎え撃った『イュムペート』戦――

 無数の攻撃が波状で来るアレを経験してなけりゃ、目と思考が追いつかなくて、ほぼ詰んでただろうけど――

 塞翁が馬だなあ、世の中……


「――なあ、引き分けにしとかない?」


 俺が問うと、向き合っている三人はこちらを見つめる。


「俺は戦う気が無い。そちらも『使命』か『天啓』か『宿命』か知らんけど――

 個人的な理由として、今倒さなきゃならないって事はないだろ? 呼ばれた理由は知らんけど」

「何を訳わかんねえ事言って――」

「まて、リュート――お前は、誰だ? 何を何処まで知っている?」


 リュートと呼ばれた『速』の異天を押し留め、『精』の異天が聞いてくる。


「長くて信じがたい話を、今語って信じられるか? って話だけどな。

 まあ、色々と、知ってはいるよ――」


 『賢者』の口振りと、寄越された知識集からすれば、この時点ではどうにもならない、と分かってはいるが――

 時間も稼いだし、戦わずに済めるなら――


「シロウは相変わらず、単純だな――まあ、それが良いとこなんだが。

 リュートは、かっかっかっかし過ぎ。何がクールなんだか。

 タスクは――相変わらずというか、もっと普段からこいつらの手綱握ればいいのに」


 というかだな――

 顔見てやっと溢れてきたとは言え、『記録』の中の友達と戦うのは、今一気が乗らないんだよ、実際。


「……誰だ、お前――なんで、僕を、『チカ』と――」


 ――あ、『知』が起きた――って、ああ、うん。そうなんだっけか。

 『賢者』の奴、ぼかしてでもこっそり言えばよかっただろうに。相変わらずコミュ力は無い奴だな。

 おかげさまで、今ローブ下から出てきた男の顔が分からんとこだった。


「――理由は簡単。知ってるから」

「――バカを言うな――じゃあ、こいつは!?」

「人をこいつ言うなって――多分、フミさんだろ?

 服のせいでよく分からんが、相変わらず乳でかいのか?」


 俺の答えに、全員唖然としている。

 ――まあ、『邪神』の縁者つって切り掛かったら、ステータスには出無そうな事をパタパタのたまわれればな――

 まあ、いささかリーディングめいてる言い方したが。


「――じゃあ、お前――」

「……うっそだろ……」

「だけど、あの、物言いって――」


 おうおう。悩みたまえ。思い出し給え。


「「「シオ、かよ?」なのか?」さん?」


 語尾揃え――えっ? なんで?

 ちょっと待て、なんで姉ちゃんの名前を――

 って、チカ、じゃねえや、ユキヤもなんで不思議な顔で見てるんだよ、そっちを――


「ひでえな。友人の事忘れたのかお前らと来たら……『ミナキ』だ、『ミナキ』」


 いや、こいつら、たまにこういうボケかまして来てたしな、まあ――


「「「――誰?」」」


 ……嘘だろお前。


 ・ ・ ・


 理解は出来ないが、腑に落ちる――

 『知』の異天と呼ばれている、『真奈瀬(まなせ)千哉(ゆきや)』の頭には、そんな考えが浮かんでいた。


 こっちにやって来て、半年ほどになるだろうか。

 やってきた理由は思い出せるが、その前後の詳細な事を思い出せない。

 そんな、なんとも気持ちの悪い状態に、頭を悩ませ続けてきたのだ。


 シロウ、リュート、フミは、あまりそこら辺を考えては居ないようだった。

 いやむしろ、この世界の魅力的な姿に、そんな事はまずは置いておこうとして居るかの様にも思えた。

 実際問題――この世界では自分たちは『選ばれた者』であり、その扱いも悪くはない。


 だが――自分とタスクは、悩んでいた。

 確かに――あの時『神』はこう言ったのだ。


『神域を侵したのだから、こちらの言う事に従ってもらう』


 自分たちは――俗にいう『心霊スポット』へ、それも、単なる『廃墟』へ行ったはず。

 『神域』? そんなものでは無かったはず。

 そして――そこへ、誰かが、迎えに来てくれた――


 そんな風に思い返そうとすると、記憶の寸断がある。

 まるで、何かを――『誰か』が関係したシーンを、ごっそりカットされた様な。

 もしも――こいつが、自分の記憶の中の、思い出せない誰かなのだとすれば、この寸断は、理解が出来る。


 だが――


 そう思う自分の足元が、不意に揺れる――


「――な!?」


 なんとも不都合なタイミングで、先ほどの怪物が再び現れた。


 のばした手は、再び届かず――駆け寄る『彼』を見ながら、ユキヤとフミは、黒々とした穴へと落ちて行った――


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――んだよそれ――クソが!!」


 いち早く飛び出していた『彼』は、届かなかった手を引き戻すと、穴に飛び込む――


「――おいおい、待ちな――って」


 だがその動線に、不意にボロ布を巻かれた棒が割り込んできた。

 それを払い除け――移した視線の先には、素浪人風の男が立っていた。


「状況も判らないまま、単騎で降りてく心算か?」

「どけや、おっさん!!」

「おっさ――」


 『彼』は剣を抜き――その棒を叩き落そうとするが、相手は更に俊敏な突きで、肩口を一撃する――

 しかし、まるで怯まずに、そのまま殴り掛かる。


「ちょ、待て――話聞けっつの!!」


 素浪人・イゾウは、片手で相手の顎を殴りつけるが、『彼』・ツブラはそのままイゾウの額を殴る――


 ――ああそういや、こいつって、冷静に見えて死ぬ程熱い奴だったわ――


「――っってぇぇ!!」

「ひゃははは、鉢金切られても無事だった頭だ!!

 さぞ痛か――うお、やべえ、一瞬飛んだ――殴り殺す気かてめぇ!?」


 ――なんだろう、バカが増えてしまったぞ?

 そんな風に思いながら、俺は呆然と状況を見つめた。


 ――つっ つっつっ


「――ジン。大丈夫ですか?」


 びっくりするから忍び寄って服の裾を引っ張るの止めようね、『フェル』。

 ――なんで戻ってきちゃったかなぁ……


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 ――動けなかった。

 そう、タスクは繰り返していた。

 地面が揺れ裂け、あれが一瞬姿を現した瞬間、自分は動けなかった。

 間に合わない、体勢を整える、まず腕を切り落とし、ここは奴のテリトリーだ――

 一瞬にして巡った思考は、しかし体を動かせなかった。

 シロウもリュートも動けなかった――そんな中――


 こっちの世界に来ても、はしゃがず、悩まず、普段通りに見えた、ツブラが。


 これは――敗北感、だろうか?

 悩みながらも、この世界での役割を精一杯にこなせば、何とか成るだろう、などと考えていた――

 自分の楽観的な考えを、突き崩されたような。

 百の策を講じるより、一の突撃が必要なのだと――そう突きつけられたような――


「シロウ、リュート。動けるか?」

「――ああ。大丈夫だ」

「――ちょっとまだ頭の整理が追いつかないが、問題ない」

「仕留めそこなった、俺たちの責任だ――行くぞ」


 歯噛みしながら、三人で、開いた穴へと向かおうとする――


 ――カッ


「だから、待てって――」


 その行く手を遮るように、地面に小柄が刺さる。


「お前らとジンに何の因縁があるか知らんが、ここは協力してあのバケモン――」

「退け言うとるやろ、石頭が!!」

「おいツブラ、腕決められながら暴れんなよ――関節外れるぞ?」


 緊張感の無い光景に、タスクは頭を抱えたくなった。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「まあ、みんな仲良くっていうんじゃねえよ。

 役割分けてブチ転がしましょう、って話だ」


 イゾウに先導されながら、俺たちは穴を下っていく。

 なんというか――狡い知恵が付いたのか、怪物は穴をあちこちに掘って、こちらを撹乱している様だ――

 まあ、全然意味無いんだけどな。

 俺と『フェル』は『マップ』で周囲の敵対反応っぽいものとか見えるし、後――


「……こっちだな」


 イゾウさんがさっきから、謎の嗅覚発揮してるんだよ。

 振動近付いてるから、当たりっぽいし。


「急がないと、二人が危ないんじゃ――」

「――薄情な言い方だがよ。更に食って知恵なり力なりを付けられるなら――

 飛び出た時にとっくに食われてると思わないか?」

「――――」


 イゾウの言葉に、タスクが黙る。こいつ、ユキヤ程じゃないが切れるからな。

 淡々と事実を積んで行く推理なら、さっさと結論にたどり着くだろう。

 ――俺? いや、さっぱり。というか、反吐が出そうな想像はしてる。


「――こいつの前で言いたくは無いが、多分あの二人は、回復用に持ってかれたんだ」


 ちら、とベルを見るイゾウ……勘弁してくれよ、想像当たってるのかよ……


「おい、じゃあ、尚の事――」

「落ち着けって、『堅』の。魔力が思いっきり揺れてる感じがあるんだよ。

 多分、『知』の方が抗戦中なんだろうぜ――ところで、あいつは火使えるのか?」

「――いや。多分使えないと思う。俺は教わってない。ツブラ、お前は?」


 タスクの言葉に、ツブラは鼻を鳴らす。


「――『教則本』に載ってたか? あの連中が、それ以上の事を教えるか?」

「おい、イゾー。エルフ連中が火の術なんて表立って教えると思うか?」


 おいおい、すげえな、なんだこの二人(堅の異天と謎皇女)の嫌そうな顔。

 カッパさん(大分前参照)も大概だったが、そんなに鼻持ちなら無い連中か。


「――って事は、だ――誰か分からんが、味方も居るようだ。

 なんかきな臭い匂いするからな」


 ――スンスン――しねえです。何、このわんこ。まじわんこ?


「――そろそろだな。手筈はさっき言った通りだ」

「――なあ、おっさん」

「――おっさんではないが、なんだね、『速』の異天殿?」

「俺らも戦う――」

「ダメだね、無理だ。経験が違う」


 にべも無く答えるなよ……一応相手、異天で各ステカンスト……


「さっき戦ってて、相手に有効打を決められたと思ったか?

 再生してくるのが前提にあるのに、ちまちま削って倒すのは悪手なんだよ」

「――そっちの坊主が強いのは、さっきやって分かったが、なんでツブラもなんだ?」


 ……分かってて聞くなよ、シロウ。イゾウ頭掻き出してるじゃん。


「『分かってる』だろ?」

「――――」

「『力』『速』、お前さんたちが能力に任せて戦ってた裏で、多分こいつは――」

「おい――焦げ臭いぞ?」


 先陣切ってるとは立派に『壁役タンク』してんな、ツブラ。

 ――あ、今度は流石に分かるわ。樹の燃えてる匂いだ――


「――んじゃま、やりますかね。

 みんな、『薪』は持ったな?」


 ……良い顔してんなよ、イゾウ。

 そのマキザッポ出したの、俺なんだからな……

 ダンジョン内で危険物クラフトする羽目になるとは思わなかったよ……


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 作戦はこうだ。(どっかの特番風)


 1・反応が複数あるので、先ずは俺・イゾウ・ツブラの三人で何体か倒します。

 2・フェルとベルは魔術で援護、シロウ・リュウト・タスクは倒した奴を焼きます。

 3・『本体』にあたる奴をなんとか探して、上手い事倒します。

 4・おわり。


 ――雑ぅぅぅwww!!

 とは言っても、状況が読み切れない部分があるから、細かい作戦の立て様がないが。


 とにかく、居るだろう部屋に雪崩れ込んだら、後は流れでお願いします、な訳だ。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 ――その筈だったんだが――


 ビュン――ビスッ!! ボウ!!

 ビュッ――バスッ!! ボッ!!


「やれやれ、きりが無いな。いい加減で疲れてきたぞ、はっはっは!!」


 無数の怪物(普通のカンブリアンミミズ)が殺到するそちら側――

 だ、誰だ――あの走り回りながら火矢で相手をサクサクしてるのは!?

 あ、扇撃ちしやがった。ほほ、欲すぃぃぃ、この弓兵めっちゃ欲すぃぃぃぃ!!

 って、どっかの炎上魔王ごっこしてる場合じゃねえや、誰よあれ。

 ――って、おい、上から一体来て――


 ――とっ――とっ――ズパっ!!


「――ふぅぅ――」


 ――なんだ、今のイゾウの動き。四足獣並に低い姿勢で走ったぞ?


「ほほう――まるで虎だな。鉄牛が見たら勝負するぞと騒ぎそうだ、はっはっは!!」


 ――おい、今、聞き捨てならねえ単語が聞こえたんだが。


「笑ってないでもっと射ってくれ、弓の旦那!!」

「応さ、はは、劉高とやりあった時を思い出すわ!!」


 ――バグってんじゃねえの、この世界の『召喚器』……


「……お前が、ミナキなんだとすれば、あのおっさんが誰かを当てられるか?」

「――当てて良いのか? お前も心当たり有って言ってるよな?」


 ツブラに話しかけられ、確信してしまった――マンガめっちゃ読んだもんな……


「『小李広』」

「『銀槍手』」

「「『神箭将軍・花栄』」」


 ぱしぱし、ぐっぐっ。


「――何やってんだ、お前ら二人……」

「おう、ユキヤ。見ろよあれ、あのおっさん、花栄だぞ花栄」

「――さっき名乗り上げてるの聞いたよ。頭が狂ったかと思った」


 まあ、な。水滸伝の世界から、不敗の将がエントリーしてくりゃな……


「――おい、ツブラ、お前――」


 俺の事覚えて――と続けようとしたが、黙ってろ、というジェスチャーをされた。

 ――こいつ。この時点から何かに勘付いてるのか?

 ――まあ、向こういた時から、野生の勘が凄かったしな、こいつ。

 それよりも――


「フミは?」

「あっちの、ベルさんだったか、に預けてきた」

「ほんじゃまあ、あっちはおっさん二人に任せて、俺らは――フェル、本体は?」

「……あの奥っぽいです」


 指差す先には、燃え朽ちた怪物の残骸が、押し退けられて道になっている。


「でも――なんだろう。嫌な感じが――」

「――だな」


 あからさまに、ボス部屋の雰囲気が、その奥の穴からしている。


「まあ、さっさと行って終わらすぞ――もー、疲れ切ってるよ、俺は」


 主観的には、「ああ、今日もよき朝、夜露うめえ」とかやってから――一日?

 大体一日ほどぶっ通しで、斬った張ったやってんだもん、そりゃ疲れますよ、ええ。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 どうしたら良い?

 どうしたらいい?

 今や、怪物となった彼は、必死に次の手を考えていた。


 全く思うようにならない。

 回復をしようとしたら、唐突にあの弓使いがやってきて、腕を何本も射落とされた。

 それ以前。それ以前。それ以前――弟分二人は、自分の指示通りに動かない――

 それ以前、それ以前、それ以前――何故、こうも思ったように進まないのだ?

 自分が何をしたというのだ。この不運は――


 ――かわいそう――

 ――かわいそう――


 この声も――!! 何がカワイソウ、だ!!

 そんなに憐れむならば、力の一つでも寄越せ!!

 打てる手も打たないうちから――


 ――いいよ――


 その単語を認識した瞬間、まだ保たれていたロドの意識が、不意に解けるのを認識した。

 まるで――織物が、一本一本の繊維に引き裂かれていく様な、そんな違和感。


 あ――あ――あ――


 腕を見る。残されていた腕が、繊維に戻る様に、ぶちぶちと音を立てて解けていく。

 その傍から、ギチギチと、不自然なまでに密集させられ、編み上がっていく腕――


 ああああぁぁぁぁぁあああ


 痛み、ではない。

 何か――自分自身の、一番なくしては成らない何かをまさぐられる様な、不快感。

 ――それを感じている事さえも、たちまちのうちに分からなくなる。


 ――ふぅぅぅぅ


 そして、心の中には、最早一つだけだった。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 最奥と思しき所に、それは居た――いや、居たというか――


「――何の冗談だよ――この時点から、こいつ居るんじゃねえか――イュムペート」


 確実に怪物だった筈のそのフォルムは、酷く歪み切っていたが、おぞましくも、人間に見え。

 そして、そいつの奇妙に歪んだ雰囲気は――何匹も叩き伏せた、イュムペートそのもので。

 決定的に違うのは――その顔は、例のミミズの大顎面だった。


 そいつは、こちらの声に振り向く――振り向こうとした。


 ――たんっ


 ――ぬるり


 酷くねっとりとした風合いで、それの上下は分かたれ、上が地面に落ちた。

 ユキヤの使った強化魔術で、ツブラが一閃した痕跡だった。


「――お前もこええよ、一刀両断て」

「――変身直後狙ったみたいで、後味は悪いが、まあ仕方ないだろ」


 と。その瞬間――

 『フェル』を跳ね除けたのは、偶然だった。

 ツブラがユキヤを跳ね除けたのも、多分同じだろう。

 切られながらもまだ立っていた下半身、その切断面から、触手じみた物がかすめていく。

 次の刹那――切られ、地面に落ちた上半身が、ぎちぎちと地面を這い出す。

 

 何故、何故、何故―― ヂャ魔ヴぉ――ずるな


 そんな思念に彩られた殺意が、空間に満ちていく。

 腕が、まるでだだを捏ねる様に、地面をバンバンと叩き、その度に、敷石が砕けていく。


「――なんだ、この悪夢空間」

「――俺が知るかよ」


 実際問題、悪夢の方がまだ気楽だったろう。

 それは、現実に、確実に、根を広げ――今やこのダンジョンを食い破ろうとしている様に見えた。


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