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02/【10】


 悪党であった。

 稀代の大悪党――ではなく、小悪党であった。

 ロド=プルグラの人生とは、本当にちっぽけな所から、転落した人生だった。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 生まれも育ちも、然程良い訳ではない。いや、悪い訳でもないが。

 何処にでも有る様な辺鄙な村の生まれで、何処にでも居る様に、冒険者を目指した。

 幸いというかなんというか、彼の家は名主だった。

 不幸な事に、穀潰しの三男坊ではあったが――他の農民の子等と違い――

 そのままのままギルドに入り、右も左も分からぬままダンジョンに投げ込まれる様な事には成らなかった。

 その下部組織である養成所へと入り、一通りの事は学べたのだ。


 普通の家の息子娘は、そこに入る最低限の教育も受ける事が出来ない。

 理由は簡単。力か魔力が強ければ、それを武器に冒険者を最初から目指すし――

 もしも学を与えたとして、その為に費やされる時間、それに対するリターンが不透明すぎる為だ。

 農民の子で、学を得たとして成れる物――商人の下働きか、多少良くて最下級の役人だ。

 町に出したとして、それにすら成れず、『野盗』の類に落ちる者も多い。


 冒険者に必要な最低限の教育は、養成所へ入るための最低限ではない。

 名前や簡単な文章の読み書き位ならば、『教会』がやってくれる。

 それで事足りる。冒険者になるだけならば。

 養成所には、ギルドの職員養成の場としての側面もある。

 要するに、手ずからギルドの駒を作っている所なのだ。

 そこに入る最低限とは、例えば最低限でも剣を振るえるとか、使われていない古代文字を読めるとか――

 速い話が、農民としての生活とは、無縁なモノが必要だ。


 一段上へ抜け出す為の最低限が、自分達へは何も利益をもたらさない。

 時折出る獣魔を追い払うなら、剣より長槍がある。

 古代語を読めたとしても、それで記された様な農耕書など、閑村には無縁。

 であるならば――労働力として働かせた方がいい、というのも頷ける。


 そもそも、街にも人は居て、そこにも子はあり。

 それならば幼い頃から見知っている者を働かせた方が苦も無いのだ――


 ともあれ、ロドは養成所を卒業し、無難に冒険をこなしていた。

 パーティーはロドを含め四人、ロドがリーダーだった。

 ランクが低いながらも、順調にこなしていた筈が――ある日、穴が開いていた。


 潜ったダンジョンで、仲間が宝を持ち逃げしようとしたのだ。

 ロド以外の三人が、示し合わせて――彼らが、同じ村の出身とは聞いていた。僅かな壁はあった。

 だが――所詮、といってはなんだが、正式な兵の訓練と同じ様な剣術を練習してきたロドには叶うべくも無い。

 相手の斧を跳ね除け――矢を払い――剣を折り――


 ギルドに帰り、報告をした。

 罪には問われなかった。

 手に入れた宝の中身は――魔術の掛かった革鎧だった。

 こんな物の為に――そんな風に悪態を吐きながらも、身に着けた。

 そして――宿へと帰り、仲間達の荷物を整理しているうちに――手紙が零れ落ちた。

 そこには――村に疫病が流行り、その治療費の為に、誰それが身売りをしなくてはならない、等と書かれた――

 仲間の家族からの、悲痛な叫びが記されていた。


 何故、一言言ってくれなかったのか、と考え、次の瞬間に笑ってしまった。

 自分は、彼らの言う事を、一度でも聞き入れた事があったか?


 事情があったといえ仲間殺しをした者に、他の冒険者はあまり気を許しはしない。

 たちまち、食うに困り、野盗に落ちた――そして、そこいらを根城にしていた集団に見つかって袋にされた。

 下っ端になったのは、命がそれでも惜しかったからだ。

 後は――あの三人の亡霊を塗り込めるように――ただただ黒く暗く――


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 それが、今や――得体の知れない化け物の喉笛で、軋みながら身悶えている。

 欲を掻いて、親分を裏切ってまで、自分に従う連中を連れ独立した時。

 立身して帰って、鼻を明かしてやる等という夢を思い出してしまった時。

 それとも――ああ、今の状況を招いた事が、なんなのか、分からない。

 いや、分かっている。いや、だからこそ分からない。


 あの時――あのギルドの受付で、あいつらが、話があると言ったときに――

 どうして自分は、先ずは行って帰ってからにしよう、と言ったのか。

 どうしてあいつらは、もっと強く、訴えてくれなかったのか――

 ああ、わかる。自分のせいであるのは。

 だが――そんな構成や状況のパーティーは、何処にでも居て――


 ――………そう――


 何処でだって同じ様に言い合っていて――時には喧嘩にもなっていて――


 ――か…い…う――


 それなのに、何故、俺だけが――


 ――かわいそう――


「あ、ぐ、は――」


 軋む軋む。軋んで行く。

 喉笛の締め付けがきつくなっていく。

 軋む軋む軋む軋む軋む軋む軋む軋む軋む――

 ――それでも――鎧の魔力が、自分を守ってしまう――


 ――かわいそう―― ――かわいそう―― ――かわいそう――


「誰だ――さっき、から――!!」

「かわいそう」


 目の前に、つるりとした、人の顔があった。


「――なん――」


 ――ごごきぎぎばぎばぎききばき――


 疑問を口にする事も出来ぬまま、無数の痛みの中――ロドは――


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 ――ぉぎぁあああああああああああああああああああ!!!!!!


 怪物が絶叫した。


「な、なん――」

「――くそ、なんだよそれ」


 俺は――体が身震いするのを感じた。

 ふと見上げた、そいつの顔に、ステータスが重なって見えた。

 さっきまでも、見えては居たんだろう。

 だが、それどころじゃなくて、注視もしていなくて。

 だが、今や――注視して、見てしまった。


 名前の無い怪物に、ロド=プルグラという名前が浮かぶのを。

 ステータス表示が、無表示からバチバチと切り替わりながら、『知性』が5から50へと跳ね上がるのを。

 そのジョブの項目が、凶賊から――『かいぶつ』へと、変化するのを。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 ――これは流石に不味い。

 どういう手順かは知らないが、あの怪物は、捕食した対象を吸収出来るらしい。

 先程までの『????』の表示から、『凶賊』の男の名前に変化した以上――

 その挙動も、単調・無理押しなものではなく、知性を伴ったものになるだろう。


 知性の無い怪物ってのも、それはそれで怖いが、知性を持ったら別の怖さが出る。

 というよりも、狡猾な知性を持った豪力の生物の怖さなんて、クマだのを見れば容易く理解出来るだろう――

 人間は、かなり分が悪い。


 だから――


「そこまでだ!! 化け物!!」

「――えっ? ――えっ!? 誰だおま――うっわ、まじか!?」


 彼は――気配と姿を消すといわれていたローブを脱ぎ捨て、そこに立ったのだ。


「『天拳鬼腕』の異天者、シロウ=タカシナ、推さ――って、うぉぉぉ!?」


 ――ゴッ――ドンッ!!


 いきなり振り抜かれた拳を、手持ちの巨大な鉄棒で殴り留める衝撃と共に。


「名乗りくらいさせたらどうだ、怪人!!」

「何やってんだバカシナ!! 偵察だっつってんだろ!!」


 ゲェっ!! 増えた!!(ジン)


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 おち、おちつつつ、落ち着け、俺、まじでお前が落ち着け。

 怪物が人を飲みました。

 怪物が人と融合しました。

 唐突に現れた『力』の『異天』が、その拳を止めました。

 その来た方の通路から『速』の『異天』も姿を現しました。←イマココ

 ふ・ざ・け・ん・な!! 何の準備もしてない状態で、今かち合うのかよ!?


「何やってるんだか……折角エルフたちが用意した『ステルス付き』脱ぎ捨てて……」

「ま、まあ、シロウ君にいまの状況で止まってろっての無理だね、ははは……」


 あっかーん\(^q^)/更に増えたぁ!! ウゥゥゥ!!

 『膂力』『速度』『魅力』『精神』――ん? 『醒心』だ。

 ――今、れば――


「大丈夫かい、少年」

「問題ありません」


 声掛けんな。私は単なる草です。モブ以下です。

 黙って背を向けろ――おい、こっちの面子を回復しに行ってんじゃねえよ有難う!!

 ――くそ、か、観察したらぁ!!(やけっぱち)


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 流石、『異天者』――とでもいうべきか。

 ステータスこそノイズが掛かっていて見えないが、聞き及んでいる情報から察せる。

 それぞれの割振られたステータスが上限到達カンストしていると考えると、頷ける戦い方だ。

 『速』が相手を撹乱、『精』と『魅』が相手に【戦力阻害デバフ】を掛け、


 ズドッ!!


 『力』がその隙を突いて一撃を加える。


 間違いなく、『勇者PT』である……二人ほど、まだ来てないけどな。

 問題は、何故この面子が、『今』『ここ』に居るのか――


「――噂に聞く、『異天者』の面々が、何故ここにおいでなのですか?」


 サンキュー、ベルねえさん。貴女が聞く分にはなんの角も立たないだろう。


「ああ、各地にご挨拶に伺っていた途中でして――

 挨拶が遅れました、『醒芯零雨せいしんれいう』の異天――」

「名前まではいい――貴殿等の仕業とも限らないのだからな」





 ……あっれ? なんで、そっち突付くの、このねえさん。


「貴殿等の、とは言わないまでも――

 ……貴殿等を此処へと寄越したであろう、『深き森』の上のエルフの策謀とも考え得る――」

「ちょ、待ってください、こちらにはそんな――」


 割って入ろうとした『魅』の前に、『精』が立つ。


「――威力偵察の為に、ここまでしたと?」

「貴殿等が、上のエルフをどの程度知っているのか知らんがな。

 連中と、『御館様』は基本的に反りの合わない方だった――それ故――」


「「マッチポンプで、被害を出しながら助ける」」


 ――不意に、俺の声と別の声が重なる。


「――疑えるが、今回のそれは、此方とは無関係の事だ」


 別の通路を通ってか、ローブ姿の人影が現れた。


「――ユキヤ。どうだ?」

「上の火は消せたが、領主館は使い物にならないだろうな」

「――ツブラは?」

「召喚された『火精』が入ってこない様に、階段上で見張っている。

 術式に封入された力が切れれば――」


 ……出やがったな――『賢者』、いや、『知』の異天。

 ――ローブすっぽりで、顔も拝めないが、一応ステはわかる。

 ……名前違う気はするが、なんかの理由があるのかもしれんし。


 ぎぇぇぇぇぇぇ!!


 ふと怪物の声にそっちを見る――って、ちょっと、逃げてるじゃん!!

 穴に引っ込んで行ってるじゃん!?


「くそ、あの巨体でちょこまか逃げやがって」

「――タスク。状況は?」


 『知』の異天に問われた『精』の異天が頭を掻きながら応える。


「――エルフの言っていた、『邪神の名残』らしい物に遭遇。

 ――多分、本体攻撃が必要だったが、本体の確認にまで到らず、今は退かれた、だな」

「……万端で戦うって事が出来ないのか、あいつは――」


 おお、早くも、なんか亀裂が――怖いなー、イゾウ……何処行ったあいつ。


「――あの。そちらの方は?」

「ああ。こちら、『知』の異天です」


 俺の問いに、『精』の異天が応え、『知』の異天がこちらを向く――


「――っと!?」


 お、おいおい、なんだ、なんでいきなり突っ掛かって来た?

 しかも、『フェル』じゃなく俺を狙って――


「おい、何して――」

「さっさと魔力を読めるように成れ、タスク――

 こいつらが通常の『人間』に見えるのか?」

「……何言ってる」


 ……いや、あのですね。確かに『通常』では無いですが――


「こいつらの方が、『邪神の名残』じゃないのか?」


 ……ああー……『神』か『上のエルフ』か知らないが、俺らを狙ってこいつら寄越したのかよ……

 ――ど、どうしよ――というか、戦ってばっかじゃねえか!?

 何時終わるんだよ、この連戦イベント!!


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 さて、問題です。

 目の前に、今自分がいる陣営とは、余り仲の宜しくない陣営に召喚された、『勇者PT』が居ます。

 言動の内容から、来てから凡そで数週間ほど、長くても一年は行ってないでしょう。

 世情を知る為と、初期修行の為に各地を歩いていると考えられます。

 それが、誤解か行き過ぎた考察か、あまり良い感触で接して来ません。


 ――どうしろと。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「ちょっと、待ちなってユキちゃん――」


 『知』の異天の背後から、『魅』の異天が声を掛ける。


「確定的な事何も無いうちから、敵として攻撃するのは――」

「――人畜無害と見るには、強力過ぎるんだよ――」


 ……声音に苛立ちがあるんだけど、ああ、あれかな?

 知覚出来るものと、それに対する感性の違いで苛ついてんのかな?


「――知らないからといって、

 『四位の皇継フェル・カハル』に攻撃をするのは、賢くないな」


 ――ふ、ふふん、ローブ下からめっちゃきつい視線来てるけど、そんなんでびびりはしないぞ。俺の目的は――


「『知』の異天、と言われる割には、思慮が足りんと思うんですけどね?

 冷静になってくれませんかね、『チカ』さん」

「おまえぇぇ!!」


 冷静さを奪う事だかんな!! はっはっは!! 『フェル』をベルさんにぽーい!!


 ――ゾンッ!!


「っこわ!? なんだ、その鋭利な拳!?」


 立ってた辺りの地面が、鋭く抉られた。あれか、風纏わせてるのか。


「おいおい、落ち着けよユキヤ!!」

「うるさい!! 出来もしないのに勇者を気取るな、力バカが!!」


 あっあっあー、や、やべえ、切れた、切れさせちゃった(汗)

 ――ベルは――オッケェ!! 姿隠した!!

 俺単騎なら、最悪は例のアレを目くらましにして――


 ズァッ!!


 ――『知』の一撃をかわした横から、鋭い一撃が走った。

 ただし。俺に向けてと言うより、その場所にいる、『知』の異天を威嚇する様に。


「……どういう状況だ、こりゃ」

「――貴方は?」

「――『堅』の異天、ツブラと呼べ――」


 ……ぐっへぇ……VITとか、『壁役タンカー』にしかなら無そうな立ち位置の癖に――

 一人、別次元の雰囲気の人が出てきちゃったぞ……


「――ツブラ!! 退け!!」

「落ち着け、バカ」


 ドギャッ!!


 おお、一撃で『知』を昏倒させちゃったよ……レベルで考えると桁が違うっぽいな。


「……すまんな――あ~……少年」

「ジン=ストラテラ、と言います――『フェル=カハル』の身代わり役です」

「……そうか――その……逃げた方が良い」

「――は?」


 何言ってんだ、こいつ――って、なんか、他の異天連中に、妙な気配が……


「――『囁かれている』」


 その声が終わるか終わらないかのうちに、俺の立っている場所に、『速』の異天が。


「『啓示』――ですか」

「――『邪神を廃ぜよ』、とずっと言ってる」

「あんたは効いてないんじゃないの?」

「……そうでもない。押さえ込むのがやっとだ」


 まじか~……いや、でも――


「今、このタイミングの理由が見えないんだけど――」

「俺も知らん――が、推測は付く」


 動かない様にしているツブラを見遣り、相手もこちらを見る。


「「欲を掻いてる」」


 そう言って、俺たちは、それぞれに向かってくる相手の一撃を迎え撃った。


「何やってる、ツブラ!! そいつは――」

「『邪神』の縁者、と言われたら、それだけを理由に子供に切り掛かるのか、お前は」


 そう言い合いながら、『力』を押さえ込むように離れるツブラ。


「――悪いが、事情は分からんが、お前は倒さなきゃならんようだ」

「……随分ですね、それはまた――勇者のお仕事じゃないでしょうに」

「……最初から、俺は俺が勇者だとは思ってないさ」


 言って、再び距離を取る『速』の異天。

 『精』と『魅』は――何らかの理由で――『魅』も倒れて、それを横に寄せてるな。

 恐らくは脳か精神の処理落ちか? ――『精』は『知』と『魅』の回復か――


 ――ドンっ!!


 ……もうちょっと、もって下さいよ、とは言わんよ、『堅』のツブラ。

 満身創痍で心突付かれながら、この状況把握の時間をくれただけ有り難いやな。


「――すまん、武器は折った。後はなんとかしろ」

「ボロボロでやってきた段階で、そこまでの期待は無かったよ――悪いね」


 あまり重く言うと気にするだろうな、と思い、軽口を返す。

 ……仕方ねぇなあ、もう……


「しかたない――遊んでやるよ、勇者の群れ」


 さっさと逃げろよ、三人、と思いながら、俺は構えを取った。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――弱ったな――俺の隠れ癖のせいで、この様だ、すまんかった」


 通路に隠れたイゾウの前に、『フェル』とベルが立っている。

 異天が現れる瞬間、読み切れない気配を感じたイゾウは、二人を置き去りに一旦離れたのだった――

 ベルは首を振る。


「逆だ、イゾウ。私の方こそ、冷静さを欠いたまま残ってしまった。

 ジンやあの怪物に注目が集まっているうちに一旦隠れて、死角から攻撃に移れれば良かったのだが――」

「――互いに悪いと思っているのなら、それでいいでしょう――それより」


 二人の両手に押さえられながら、尚戻ろうとする『フェル』に、イゾウは苦笑する。


「おい、戻ってどうする気だ?」

「ジンを助けます」

「無茶言うな。下手すりゃ、俺らの中で一番強いぞ、アレ」

「それと僕が助けに行きたいのは、無関係です」


 はっきりと言い切るその言葉に、イゾウは笑う。


「――ベル、どうする。おっさんは流石に、この淡い思いをどうこう出来ん」

「『フェル』、少し待ちなさい」


 ベルに言われて、そちらを向く。


「援護の口火を切るにしても、タイミングがある。

 状況判断には、貴方の能力が必要なのよ。わかるわね?」

「――『マップ』ですね」


 勤めて冷静に語るベルに、『フェル』も冷静さを取り戻す。


「――すみません、ベル姉さん。冷静さフォっ!?」

「……本来なら、そんな事気にしなくていい歳なのにね、あなたは」

「ひゃめふぇ、ふらはひ」


 フェルの頬をつまみながら、ベルは溜め息を吐いた。その肩を、イゾウが叩く。


「――タイミングは任せる。気に成る事があるんでな。

 最悪、ジン引っつかんで、逃げるぞ」


 言いながらイゾウは、『奥の手』を準備し始める――

 先程感じた、得体の知れない気配を思い起こしながら。


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