02/【09】
何か、こういう狐火の術みてえだな、等と思いながら、俺は発火する葉っぱを貼り付けて回る。
動きは大味なのが幸い――いや、あんまり触りたいモノでもないけどね。
「イゾウ!! 状況!!」
「見た通り!! さっきの部屋から、こいつらがワラワラ生えて来て、昇り通路塞がれた!!」
さっきぶった切れたイゾウで間に合わなかった、って事は、同時に複数生えたのか。
そうなると、こいつらのトリガーは――やっぱ『フェル』か?
上は大火事、下は謎生物の洪水て――なんちゅう初期イベだ。アルベルトも衝撃だ。
兎に角、なんとかヘイト集めて、こっちに向けさせないと――って待て。
「『フェル』でもベルでも良いけど、さっきのアビーみたいの出来ないか!?」
「出来るかスカタン!! 風動かしてるだけと訳が違うんだぞ!!」
いや、ごめん。まじごめん。スカタンとか初めて聞いたよ。そっか、あれはあれでチートさんなのな。
「『盾』も壊れたし、手持ちの武器は貧弱な儀式サーベル。
せめて自前の獲物があれば壁ぐらい抜けるんだが――」
どうやってだよ、あんた――姫騎士なのにドリルでも使うのか?
「てか何処に置いてんだよ、ベル。無用心な」
「部屋だよ!! 定例の謁見受けてて、いきなり放火されるとは思わんだろうが!!」
「――無用心てなんだよ。どんな兵器だよ――」
「あー、なんつった? 魔術を武器とか鎧とかに擦り付ける――」
「『付与』な!! 擦り付けるって!!」
「それそれ、それを増幅できる槍な」
――エンチャンターなんですか、ベル姉さん――
あれ、じゃあ――
「イゾウ!! お前刀持って来てたろ、それに――」
「は、はぁ!? ま、まてまて、これにか!?」
「――イゾウ。やるぞ」
「ちょ――ば、ベル、やめとけって、えらい事なるぞ!?」
「もう成ってるだろうが!! 四の五の抜かすな!!」
――あ、待って。ちょっと、やばい気がす――
――ズァッ!!!!
――る――案の定!?
「うわぁぁあ!? な、何、なんだこれ!?」
「――あー、もー、人の話も聞けよ、やっぱ、こうなるじゃねぇか!!」
――あの、エネルギーで出来た切っ先が、こっちまで届いてるんですけど。
てか、お前、やっぱって言った? 成るの分かってたの!?
「くそ――いいかジン!!
コレは長くもたないし、力が切れたら、俺はぶっ倒れちまう!!
端的に聞く!! 何処を切れば良い!?」
「――唐竹に振り下ろせ!! 俺がコレの本体倒す!!」
しか、無いよね、これ、もう!!
つって、何なら倒せるんだよこれ!?
根を絶つったって、それを出来そうなスキル無いですけど!?
「よーし、示現みたいであんま気に入らねえが――やるぞ、いいか!?」
よくねえ、もちょっと考えさせろ――
「う、うわぁぁぁ!?」
「『フェル』!? イゾウ、『フェル』が――引っ張られる!!」
――はは。こっちでも『ねえちゃん』には振り回されるらしい。
――っはっはっは……はは――くそが!! きたねえ触手でそれに触るな!!
「やれ!! イゾウ!!」
「――切威りゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
一旦引いて――裂帛の気合と共に、降ってくる切っ先――
その『斬り痕』に向けて出来るだけ正確に、『不運惨果』を――
### ぴんぽん
### スキルの習熟度が上がりました。
――槍上になって刺さってったんですが――てか、落ちていった?
――ズン――バチ、バチバチバチバチ!!
何かが――いや、これ、俺聞いたことあるわ。
生木が冬の寒気に堪えかねて、弾ける時の様な――
そんな破断音が、地面の底から響き、近付いてくる。
「やった――か!?」
バカ、イゾウお前、止めろバカ!?
――――ッッッ!!!!
唐突に怪物たちは動きを止め、次いでギクシャクとした動きで捩れ始め――
バチバチバチバチ!!
その表層が不意に弾け始め――樹液と思しき液体を――
――ほんの僅かだけ吹き出し、その傷跡から――俺のよく見知った――
「――『フェバルス=ディヴァカミナス』」
顔を出した『フェル』が、そう告げた――俺を形作る草が、花を咲かせた。
……いや、あの、違う、こんなロマンチックな技じゃないです、これ(汗)
「――やった、な」
だから、やめて、イゾウ。疲労困憊は分かるけど、フラグおっ立てて気絶しないで。
あと、『フェル』、いきなり飛びついて抱きついてくるな、頭がアバラに当たって痛い。
「――お前、一体、何者なんだ?」
「説明が面倒臭すぎる存在。とだけ認識してくれ、順を追って話す――」
砕けて朽ちて行く相手に、尚用心深く迫るベルに、そう告げる。
と言っても――どこからどう順を追えばいいものやら……
「それは、あの世ででもやるんだな!!」
「ちょ、ロド兄貴、声出しちゃ不味いですって」
不意の声に振り返ったら――おいおい。上に居た誰かじゃん。
――おーい、イゾウ。踏まれてるよ、君……起きろよ、すやあ、じゃなくて。
「何がだ、パラーゴ、言ってみろ」
「いや、そのままそれで撃っちゃえば」
「うるせぇぞ、ああ? あんな不意打ちでやられたまんまで、面子が立つか!?
俺たちゃ、大陸に名を轟かせた凶賊だぞ!?
不意打ちでやられました、ひっそりと不意打ちし返しました、なんて――」
「――おい、その足をどけろ」
――ベルさんや、言い合いしてる奴等に、態々声掛けんでも……
「色々あって、あまり機嫌が良くないんだ。さっさとどけろ」
「"さもないと"? どうするってんだい、お嬢ちゃん。
こっちのコレに貫かれて、あの世まで昇天してみるかい、なあ!?」
「兄貴、興奮しすぎですよ、知的キャラで行くんじゃなかったんですかい?」
「はっは、まあ、態度次第では、生かしてやってもいいぜ?
騎士の姉ちゃんのストリップでもおがめりゃ、少しでも腹が治まるかもなぁ!?」
下種ぅい――でも、あれ、持ってるあれ、『光銃』とか言ってた奴かな?
寸足らずのマスケット銃みたいな格好だけど――あれ? 仮面連中持ってたか?
「――さあさ、取り敢えず――エディック、そこのちっこい坊ちゃん縛れ」
「――え? あの、兄貴、二人、いますけど」
「両方縛ればいいだろバカが」
「パラーゴ、だからてめえは――」
……ええと。坊ちゃんじゃないです(二重に)。
ベルさん表情無い位イラッと来てるみたいだし、このまま薄い本展開は無いと思うけど……
……それは兎も角、やな予感するなぁ……
「――こっち来ない方がいいよ?」
一応警告してみた。
「――っはぁ……悪いな、坊主、どっちがお偉方の子か知らねえが――」
まあ、聞かないよね。
「出世なんざどうでもいいが、これが済んだら罪を減じてって話なんでな。
――ずぐっ――
おぇあにょの、っぎせっいんにっ、なななななな」
……『フェル』の目を隠しといて良かった……いきなりの串刺し公スタイルとか。
あー……ゴア表現に、だんだん慣れてく自分が嫌だなぁ……
そんな俺の思いを他所に――それはさっきイゾウが刻んだ痕から、ぬるりと現れる。
「な、なんじゃ、こ――」
助けようとしたのか、或いは武器の回収のつもりか。
駆け寄った男は、ソレの振るった『手』で、姿を消し――
――その下で、赤黒い染みになった。
「――トレマーズならぬ、グリードであったか――いや、違うか」
ムリムリとはみ出してくるそれを見ながら、俺は呟いた。
原始ミミズから、無数に人の腕生えてるとか、これ、なんてヘカトンケイルよ。
・ ・ ・ ・ ・ ・
形状を言うならば、それは『ローパー』というアレに近い。
ぬらりと伸びた筒状の肉体から無数の腕が伸び、好き放題に空間をまさぐっている。
――だが、通常のそれとは違う。
伸びた手は――歪に歪んだ感じが酷いが、人間のそれ。
――何と言うか、やはり、こういったものの方が心に来る。
――ズガッ!!
弱った。非常に弱った。
何がって――あのさあ。
俺は、『俺TUEEE』がしたいのよ。
してるだろって? いやいや、違うんだって。
俺のしたいのは――ええと、有体に言うと、『脳筋』で『無双』がしたいのよ。
指先一つで百万の軍勢ごと海を割って『成敗!!』って終わりたいのよ。
大体、俺は『名探偵』ではなく『フルボッコスニーキング探偵』に成りたいのよ。
あの手この手を考え散らかしながら、敵を追い詰めるんじゃなく。
『ちょっときゅーっとしますよー(ぐぎっ)』って解決したいんだよ、俺は!!
誰が、常に考え続けないと死ぬるイベントで、強くならざるを得ないなんて望んだよ。
レベル上げて物理で殴れば万事解決、って、何時になったら拮抗崩れんだよ。
その辺わかってんのか、『神』!!
――どんっ!!
「はいはい、通じるわけねえよな、ああ、うん――そもそも『敵』だわな」
出てきた『奇カトンケイル』の攻撃をかわしながら、そんな風にぼやいてみる。
というかだな。バランス悪過ぎ。腕ぶん回すのいいけど、そもそもここ閉鎖空間。
ガガガ――ドンッ!!
ほらほら、壁削ってからヒットとか、無駄打ちだよ。パワーを壁に!!
「く、くそ、なんなんだよ!!」
おうおう。『凶賊』とかはっちゃけてたけど、流石にバケモンには敵わんか。
というか、かっこつけて構えてた武器が――
パパパパッ!!
「くそっ!? なんなんだこりゃ!?」
『光線』じゃなく『光の弾』じゃ、あわあわもするか。
速射性は高いみたいだが――要するに、掴まされたんだな、こいつ。
お使いの武器は正常ですが、ティアー1です。
「ちくしょうが!! ふざけやがってあの眼鏡!!」
――はい。情報頂きました。はい。
眼鏡呼ばわりって事は、それ以外の特徴が出てこないって事だろうし――
はめられたな、凶賊さんや――まあ、自業自得だろうけど。
おいおいおい、剣抜いて切り掛かるのは勝手だが――
ドガァッ!!
「ぐえっ!?」
ほらみろ、お約束な真似しやがって――あ、でも生きてる。
兄貴呼ばわりされてただけあって、良い装備してるのか、はたまた『魔術師』か――
「ジン――無事か」
「ああ――イゾウは?」
イゾウを背負って、腕を避けながらベルがやってきた。
「意識は無い。だが、さっきのあれで魔力を出し尽くしただけのようだ」
「――イゾウにも魔力あんの?」
「厳密には、魔術を使えない人間にも魔力はある――
って、なんだ、そんな事も知らんのか?」
知らないよ。『賢者』の書いた資料、そろそろ読ませてよ。
「――って、『魔術師』って、魔力を外部から摂取しないといけなかったんじゃ――」
「そっちは知っているのか。不思議な奴だな。
簡単に言えば、容量が大きい分、その目減りの影響も受けやすいんだよ」
分かるような分からんような――空になると水が上がらない、手押しのポンプかな?
「そんな事よりも、問題はあれだ。どうする?」
「――いや、ベルさん考えようよ、そこは」
俺を何歳児に見てるんだ。あんた、年上だろうが。
そう思いつつ返したら――
「私は『付与術師』だが脳筋だ」
「威張って言う事かよ!!」
物凄く凛々しくダメな事を言ったぞ、この女騎士!!
「う――お? うおぉぉぉ!?」
あ、叫び声でイゾウ起きた――技後の硬直なのか分からんが、起きるまで数分か――
――いや、使えるな、って一瞬思ったけど、リスクが勝ちすぎるな、実際。
「起きて早々で悪い、幕末戦闘マッスィーン。あれの対処策思い浮かばないか?」
「いや――ありゃ、逃げるべきだろ」
正解過ぎる。何処にってとこは除いて。
ああ、でも――地面から生えては来てるけど、さっきまでの奴見たく、動けはしないのかな?
あのフォルムでさっきまでのミミズ的な動きで迫られたら、本格的にキモイが。
「――ジン」
「ん? なんだよ」
『フェル』に袖をちょんちょんと引っ張られ、そっちを向く。
「――『マップ』、見て」
その声が僅かに震えているのに気が付いて、俺は無言で『マップ』を意識した。
「――うっそだろ」
意識の上に浮かんだ周辺状況には、敵を示すと思しき光点が――無数に。
さっきの『不運惨果』の影響か、消えていく点もあるが、それでも尚多い。
「――下からどんどん出て来てるみたい」
「……『井戸』がどうの言ってたが、そこからかな」
アビーの言っていた事を思い出しながら、呟く――決断が必要か――
「――ぐぇえああああ!?」
唐突に響く悲鳴に、そっちを振り向くと――
独り奮闘していただろう、凶賊の男が、無数に伸びた手に捕まった所だった――
力の加減が無いのか、捕まれた腕や足があらぬほうを向いている。
「は、はなし、やが――」
――ぐぢっ――
最後まで紋切り型の小悪党な台詞を残し、その男は怪物の喉笛へと落ちていった。




