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02/【07】


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――話は変わるが、ザッとで良い、召喚された奴の個体数は何体だ?」


 怪物の残骸に火を掛け直したりしながら、そんな事を聞く。

 イゾウたちは、普通に経路を抜けてくるようで、まだ来ない。

 まあ、さっきと違って、無理に跳んだら逆に危なそうだしな。


「7~10ってとこみたいです。ログ壊れてたんではっきりとは分かりませんけど」

「多いな――『フェル』。記憶に有る限りで良いけど、『召喚』って頻繁に行われてるのか?」


 ――何で若干不服そうなんだよ。『フェル』でしょ?


「ん~……多分無いです。それって『上のエルフ』の領分ですから、はっきりは分かりませんけど――

 歴史を考えると、『上のエルフ』の中では慎重を要する事柄ですから――『邪神』の絡みで」

「――おい、まさか――」

「『遺構』から『外道塞門』を発掘して実験してたら、最終的に『邪神』が、とか聞きますけど」


 ……ゲドーサイモンて……

 ま、まあ、要するに、召喚した奴が敵に回ったと。

 リスキーすぎないか、このガチャ……


「んじゃ、アウル。イゾウ以外で判明してるのは?」

「それを調べに行かなきゃいけないんですよ。分かってます?」


 あ、はい、さーせん。


「それに、イゾウさんもそれとは限りませんし――見得る限りだとそうなんですが――」


 そう言いながら、アウルは――


「――まあ、一人は見つかった様ですけどね」


 くるりと後ろを向き――俺も視線をそちらへ。

 そこには、赤い髪のメイド姿の少女が立っていた。


「……お話は、終わったかな?」


 そいつに向けて、俺は自然と構えを取っていた。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「そう身構えなくっても良いんじゃないかな?」


 そいつはそう言うと、瓦礫の上に腰を下ろした。

 ピクニックに来て、これからサンドイッチでも食おうかと言う自然さだ。

 ――メイド姿、と言ったが――どちらかと言えば、そういう風に呼びなれているだけの事。

 ――ヴィクトリア朝の、ぐらいが推定の限界だが、そう言った服装の相手だ。

 別に、警戒をしなくてはいけない、事は、無い筈だが――


「……悪いが、いきなりこんなとこに現れる『少女』を、警戒するなってのが無理だな」

「おやおや。まあそれもそうかな? でも、今は敵対する気はないんだけどね」


 油断がならない、と感覚が告げているが、それが何故なのかは分からない。

 『赤毛のアンです、よろしくお願いします』

 ――なんて言い出されると、信じてしまいそうなくらい、こいつからは『悪意』を感じない。


「まあまあ、こんな場所でお茶会でもないけれど、少し話をしよう、お三方」

「――すいません、私はちょっと急ぎで用がありますので。

 お二人と話をしてもらっていいですかね?」

「おや。残念だね」


 おま、アウル、押し付けていこうとするな、おい――ってもういねえ!?


「自己紹介をし合おうってだけなんだから、そうカリカリしなくて良いんじゃないかな?」

「――ここに居ると言う事は、僕の事はある程度は知っているかと。

 『ベルゼフェル=レト=エスターミア』、または、『フェルシオン=カノイ=ルオーラン』です」


 すんのかよ、自己紹介。堂々としたもんだな(困惑)


「ジン――ストラテラだ」


 仕方ないので俺もする――何故二人とも笑う。この体のデータから拝借しただけだぞ。


「ひょろっとしてるのに、『石の道』とはね――似合わんね」


 ……まーた石畳に咲いていたのか……

 そんな困惑を他所に、相手は立ち上がり、一礼をする。


「私は呼ばれ醒まされし者――奇脈の上に人生を送り、今やそのままに来たれる者――

 『アビゲイル=ウィリアムズ』――と名乗りたいんだが、自分でも自身が無い。

 だから、『アビー=ウィル』と名乗っている。お見知りおきを」


 くるりとまわってスカートの裾を上げ――


「……知って、ます?」

「――聞いた事は在る様な――

 ねえちゃんだったら、直ぐに思い出せただろうけど――」


 俺には、直ぐには思い出せない、そんな名前を――


「……あっ……」


 ……思い出してしまった……


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 魔女狩り。

 主に、基督教圏で猛威を振るった、宗教と国家が連携して行った、異端排斥運動。

 最盛期は17世紀とされるが、それ以前からも行われていた。


 魔女や魔術師と看做された人物、それに関連する事物、悉くが迫害の憂き目に遭った。

 それらは、人道的な事から言えば確かに悲惨であったが、それがもたらしたとされる、『結果』も大きかった。


 14世紀頃の『黒死病』の大蔓延は、魔女狩りの流れで『使い魔』とされた、『猫』の虐殺によって、

 媒介者である鼠の天敵が減った事も一因とされたり。

 また、17世紀初頭の、ヨーロッパからアメリカへの移民・植民の流れは、

 これによる冤罪・または迫害を逃れて、という事も後押ししたとも。


 ――さて。17世紀も、終わりが見え始めた頃の、アメリカ。

 現在で言う、ニューイングランド地方、セイラム。

 ここで、ヨーロッパからは遅れて、魔女狩りが猛威を振るった。

 俗に言う、セイラム魔女裁判である。


 たった数名の少女達の告発が、真偽定かならぬままに200名もの人々を牢に繋ぎ――

 少なからぬ死者を出したこの事件は、現在では集団パニックや集団心理の暴走とされる事も多い。


 だが――それがもっともらしい、というだけであり。

 それを考察したのは、『魔術』の実在には、否定的な人々であり。

 さて――それでは。

 誰が、本当の事を言ったのか?


 ・ ・ ・


「――ああ――マジか」


 何処まで読書狂だったんだあの人は――思い出せるとは思わなかったのに。

 目の前の少女に関する概略を『読み返し』、俺はちょっと呆然としていた。

 要するに――こいつ――


「おや? 思い出したのかな?」

「――『舌禍の魔女』、か。お前」

「おおう――後世でそんな雅語で呼ばれた事もあったねぇ」


 うっわ、こいつもイゾウ同様『正史』と違うってのか?


「――どんな人なのかは存じませんが――」


 あ、『フェル』が無視した。


「――『敵』ですか? 『味方』ですか?」

「どっちに成ろうかな――どっちがいい?」


 癖の強そうな赤髪をくるくる指に巻きながら、にこやかに聞いてくる。


「立場的にはね――『君のお爺様を殺したのは私なんだけど』」


 うわ、おい。何コイツ? 自分から、何言った?


「――そうですか」


 あかん。『フェル』がやる気になってる――いや、待て、程度が分からんのに――


「『雷槍』!!」

「――『金霧』」


 『フェル』の放った魔術が、相手の放った魔術に霧散する。

 すっげ――あれ、多分、金属片かなんかだよな、雷が変な伝播の仕方したし。


「素晴らしい。『不詠唱』でこの威力。素敵ね、君」

「――真意が読めないんですが、何をしに来たんですか、あなたは」

「自己紹介?」


「――って、なんで居るんだ、お前」


 不意に別方向から声が響く――イゾウだ。


「あら、わんちゃん」

「……おい、『フェル』、やめとけ」


 え、珍しい。止めるのか。


「俺ら全員死ぬぞ――そいつは、現在の『魔王』の一角だ」


 ……話が見えねえんだよこのもじゃもじゃ!! 何がどうなってんだ!?


「ふふ――つまんないなぁ――ま、いいや。

 改めまして、魔術結社『東方の根の国』のアビー=ウィルです」

「――話が見えてきた――今回の襲撃者の『協力者』か」

「ああ。『光銃』が万全で出てきた辺りで、東方から調達したんだろうとは思ったが――

 まさか、『魔王』が来てるとはよ――しかも、こいつが――」


 その言葉に――なんでむくれてるの、貴女。


「可愛くないからその呼び方止めろって言ってるでしょ、『わんちゃん』。

 後別に、自称してる訳でもなければ、『疑い事例』なだけだし」

「うるせぇ、お前に廃鉱ごと焼かれそうになったんだぞ、てか、わんちゃんはやめろ」

「知らなーいね。勝手にギルドに頼んだのは、別の奴だもん。

 私はワームを全滅させる『任務』やっただけだし、止めたのに戻って来なかったし」

「ああいうのは、せめてこっちにも言ってからやれよ!!」


 く、くそ、知能が低下しそうな口喧嘩しやがって。兄弟か――あ、ガチャ兄弟か。


「どうでもいい――貴女が、お爺様の死の原因なら――」

「は? おい、何言って――」


 ううわ、『フェル』が全然諦めてないというか、さっきより凄い魔術使おうとしてないか?


「――そうだね? 許せないよね?」


 んでなんで真顔で煽るの!?


「『南方に燃えるは、地の始まりより燃え盛る焔』――」

「『西より吹くは希望運ぶ。柔らかなリて砕きえず』――」


 こ、このバカ二匹、この狭い空間で魔術大戦争する気か!?


「おい、イゾウ、止めろ」

「……無茶言うな……てか、あいつ、何を言ったんだ?」

「いや――かくかくしかじか」

「はあ――相変わらず――何気取りだ、あのアホ」


 ……お前、何言ってるの?


「っと――な、なんだ?」

「あ、ベル。悪いが――その盾、さっそく壊す事成りそうだ」

「は? え? ま、待て待て!? こんな遺物、滅多に――」

「命有っての物種だ――はい起動詞唱えてー」

「くっ――『汝に問う。汝は何者なるや!!』」


 なに、この、混沌。


「ほら、お前もぼうっとしてないでこっち来い」


 そう言って、俺は盾の後ろに引き込まれる――てか、どっから出した、こんな大盾。


「――『果てに燃え立つ焔の剣』」

「――『四方より吹く科戸の渦』」


 おいおいおい、死ぬわこれ!!

 強烈な炎と風が空間一杯に満たされていく――


「――うそ、だ――」


 ――それは俺の台詞だ――

 盾から発されている、魔術バリアーを一切無視して。

 アビーの眼前で、炎の塊が、風に巻き取られるようにして塊を成している。

 ――あの、むしろ、酸素供給されてるのかなんなのか、更に青くなっていってません?


「――そ、んな――」


 へたり込み、うつむくフェル。


「――えい!!」


 その方に向けて、炎の塊を投げるアビー。


 ――ジッ――ボワァァァァアアアア!!!!


 フェルの背後で、出てきた所を迎え撃たれ、瞬時に灰になっていく、怪物。


「――『見よ、魔女が燃えている。その光すらも千々に砕け』」


 更に放たれた魔術が、赤熱する巨大な鉄槌の様な物を結実し――

 灰になりながらもまだ燃えるそれを、粉々に砕いた。

 それを酷薄に見守った少女は――天を仰ぎ。


「――飽きた」


 そう言うと、通路へと歩いていく――え、一足飛びにワープしてないか、あれ。


「――おい、フェル。行くぞ」


 呆然と見送るフェルを抱きかかえる。


「な――なんで?」

「――助けられたら、ありがとうを言うのが礼儀だろ」

「で、でも――」


 いや、別にあんな気まぐれカラミティさんに関わりたくないんだけどさ……

 どう考えても今いかないと、いろんなしこり残るもんよ、これ――それで未来で敵に回してもなぁ……


「てか、イゾウ。時間惜しい、一つだけ聞く」

「お、おう?」

「アレは、『偽悪家』だな?」


 そう言うと、イゾウはこっちをじっと見て――


「――怖ぇえな、お前――何で今のあれでそう思うんだよ?」

「勘に決まってるだろ、んなもん」


 背後に何千何万だか知らんが、読まれた本が積まれてる人間舐めるな。


「あと、口噤め、わんこ。感情駄々漏れなんだよ、あんた」

「わんこ言うな!! もっときりっとした言い様が――」

「ぶふっ」

「お前も笑うな、ベル!!」


 やかましい二人を残し、通路を走る――走ってばっかだな、とか思いながら。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「兎の跳~ねた足跡を~

 狐が跳~ねて追っかける~」


 聞いた事も無い童謡を歌いながら、ぴょんぴょん移動していく相手を追う。

 ……何だろうか、あの無駄なワープ……普通に跳ねけよ、その距離なら……


「――声、掛けないの?」

「――追って来て何だが、罠の可能性もあるからな」


 冷静に考えれば、その可能性の方が遥かに高い。

 追いつく気なら追いつける感じで移動してるし――何にも考えてない可能性も有るが。


「――みな――ああ、違う。ジン」

「……何だ?」

「――何で、僕に味方してるの?」


 唐突になんだ――って、向こうも唐突に立ち止まって振り返るし、ほら、引っ込め。


「……理由なんて、有って無い様なもんだ――」

「――そう」


 流れだ流れ――言ってもいいけど、混乱しか招かないのに、それを言う必要も――


「――いいねえ、淡いねえ」

「どわぁ!?」


 こ、こいつ!? 何時の間にあの距離を戻ってきた!?


「ふふん、教えてあげようか? 『シオ』ちゃん?」

「――は?」

「『ミナキ』クンは、君の中に『ねえちゃん』を見てるんだよ。

 君を直接的に助ける理由は無いけど、前世の想い人を助けようとしてるんだよ。

 なんとも、口から糖蜜でも出そうなスウィートさだよねぇ」

「――お前、何でソレを――」

「『生粋の魔女っ子』を舐めるなよ、少年――と大見得切りたいけど、種明かし。

 私は、君達が見るステータス的な物とはまた別に、その存在の『魂魄表面』に刻まれた字列が読み取れる。

 ――特異な死霊術の親戚とでも思えばいいよ」


 ――いや、あの――『生粋の魔女っ子』ってお前……

 どう考えても『現代』を知ってるフレーズに引っ張られて、その能力の甚大さが伝わり辛いんですけど。


「お前――本当に、何者だ?」

「言った通りだよ? 君の知ってる通りの『逝き方』はしてないだろうけど」

「――目的は?」

「質問が多いね。聞き出したければ、体にでも聞けば?」


 そんな風に言って、ぴょんと飛び退るアビー。

 ――ああ、そうするよ。これ以上時間とられる訳にいかんしな――


「――そおい!!」


 ――ビンッ――ゴスッ!!


「んぎゃっ!?」


 出のポイントに魔力集中するエフェクト出るなら、そこらを足払いすればこの通り!!

 蔦のトラップに引っ掛かるとか、何百歳か知らんが、子供よな、はぁっはっは!!


「ちょ、ちょっと――凄い音したけど……」


 ――ちょっと、やりすぎたかな?

 両足上に上げたまま引っくり返ってるし――


「――じ、ジン、見ちゃダメだよ!!」

「ち、違う、パンツとか見てないって!!」


 そもそもドロワーズじゃん、気にするな――あ、こいつも女の子なんだった。

 分かったから手をどけろ、いでで、力入りすぎて目が潰れる!!


「取り敢えず、ステータス見るか――」


 そう言いつつ、俺は相手を見る。『フェル』も見ようとしている様だ。

 表示ロック云々は、クラスにまでは掛からないみたいだし、そっから目的探れるだろ――

 ――因みに、『フェル』のクラスは、『  』の表示なんで良く分からん。

 これが、単にまだ未覚醒とかだからなのか、俺のスキルが低いからなのかは不明。

 というか、被召喚者とか、外部存在じゃないと見れないのかも知れんしな。


「――こいつ――」

「――ジン、『レネゲイド』って、どういう意味?」

「――『背信者』とか『転向者』って意味だった筈――それより――」


 『ウィッチハントウィッチ』に『ヴェンデッタ』に――『ハーティド・ハート』?


「――何だ、こいつ――」


 こいつの口振りと、この情報を整理しろ――

 『生粋の魔女』、『背信者』、『魔女を狩る魔女』『報復』――そして、『傷ついた心』?

 こいつは本当に本物の『魔女』で、誰かに報復をしようとして――だとすると――


「――不躾な男は、嫌われるよ?」

「――っ!?」


 唐突に、相手の顔が眼前に迫り、今度は俺が飛び退いた。

 相手は立ち上がると、スカートの埃を叩いている。


「――『フェル=カハル』に挨拶に来ただけなのに、とんだ厄介事を引いたかもね」

「こっちの台詞だ――『普通の魔女』がさっきみたいなのを使えるとかな」

「『普通の魔女』の手の内分かると――ふうん」


 ――いかんな。ちょっと楽しくなってるな――なんて笑顔だ。


「じゃあ、遊ぼうか」

「――『シオ』、ちょっと離れろ」


 ――まあ、俺もだが。


 ・ ・ ・


 さて――結果から言おう。


「――無茶苦茶やるわね――

 気に入ってた服、ボロボロ」

「――こっち、からだが、ボロボロ、だっつの――」


 見ての通り。

 或いは、テンプレ通り。

 俺は、敗北する事となる。


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