02/【05】
「――『雛児』だぁ?」
「ええ――要は、『身代わり』よ――」
ジンの走って行った方へ、歩を進めるイゾウとベル。
「――まあ、そら――『フェル』だもんな。居て不思議はないが――
――けど、旦那はそういうの嫌いだろうに」
「ハメルクが手配していたらしい。あれと関わりの在った商人が連れて来たんだ。
もっとも、連れて来てお目見えしたその日にこんな事態だし。
どこまで、仕込だったかは分からないけど――一旦断り、日を改める様に言った矢先にこれだ」
ベルの説明を聞きながら、イゾウは少し考え込む。
「――多分、その商人自体も巻き込まれて、だろ――表に隊商引っ繰り返ってたし」
「……ラハルド小父が断ったから、手順を変えた? それとも――」
「――ハメルクのハゲも踊らされた、そう考える方が自然だな――
旦那を殺し、自分は『フェルの偽者の後見役』にでもつける、そう吹き込まれたか」
「――ラハルド小父を殺す理由のある勢力が後ろ盾? となると――」
「さてな――旦那はついでで、『フェル』を殺す、もしくは社会的に抹殺するのが目的かもよ?」
「……怪しい連中は、『廷臣派』か『エルフ』か――」
「――旦那は『答えを逸るな』と言ってた――まあ、旦那は――敵対してる相手、多かったからな。
どこ、と言い切れないで、そういう言葉に成ったのかも知れないが――」
イゾウは呟く――それが全部でも無いだろうが、と噛み締めながら。
「――イゾー。何か聞こえない?」
ベルの言葉に、耳を澄ます――
……――ぁぁぁぁぁ――……
「……こっち通路って、なんだっけか」
「――確か、水路と並行に造られた通路の上ね」
「――あのガキ、まーた厄介事に巻き込まれたのか――?」
「……それは、どっちだ?」
「――両方」
二人は通路へと駆け込んでいく。
・ ・ ・
「――はっ、はぁ、はぁ……しつこすぎだろ、あの、ばけもん……」
必死に走りながら、俺は『世界樹の一部(仮)』を撒いていた。
先回りこそされていないが、しつこい。ひたすらしつこい。
――というか、道間違ってるかなんかで、同じ場所回ってる恐れも有るな。
「なあおい、道――
――プルプルプルプル――
――分からないでもないけど、落ち着けって……」
挙句道連れはプルプル震えっぱなしだし、ああもう。
「――ったく――大体、なんで領主館の下にこんなのが広がってるんだか」
「――昔の『遺構』の上に立ってるんだよ、三大公家の家は――地盤が、しっかりしてる場合が、多いから……」
――喋れるんじゃねえか――おい、いちいちビクビクすんな。
「どういう代物なんだ?」
「あっ――『神の枝』が、『軸の木』と一緒にこの地にやって来る前に栄えた――
『普人』や『鉄鬣』の時代の遺構、らしい、です――」
「――同じ顔相手に、そんなビクビクすんなよ――というか、色々知ってるなら――」
――一歩踏み出して、同じ距離ザザッと退かれると、ちょっと切なくなるよね……
「……あ、あの――その前に、僕からも聞いていいですか?」
「……なんだよ?」
「その――その胸の傷、痛く、無いんですか?」
「――傷? ああ、別に痛くは――」
――なんつった、こいつ。
「――お前、なんで『傷』がある事に気が付いた? 表面は塞がってるんだが?」
「わ、わかりません!! 昔から、そう言うものが見えるんです!!
アウルは『ステータス』とか言ってて、あんまり言うなって、言ってましたが……」
――アウルの奴、とっ憑いたはいいが、余分なものに目覚めさせてるじゃねえか。
「――まあ、別に痛くは無い。心配すんな――ええと、名前分かんねえと不便だな」
そう言って俺は相手の手を取った。
「ジンだ。よろしく」
「――ジン?」
「……なんだ? その怪訝そうな顔?」
「え? あ、いえ――何でも無いです。
僕は――その――……」
――お~い、居るか~? 坊主~
――そこに居る~?
「……ベル姉さん――?」
「……あそこからだな」
水路になっている場所の天井に、穴があいている――なんだろ、井戸か何かに使ってたんだろうか。
下の部分は、流れから引き込んで、溜めている様な感じだ。
――あ、イゾウとさっきの姉ちゃんだ。
「お、居たな」
「居たな、じゃなくて――悪いが、迷った」
「おう、今行く――それっ」
「え、ちょ――」
行くでな
ザブーン
くて、だな――
「ベル姉さん――」
「ああ、良かった、今行くから――」
「おい待――」
ザボーン
……待とうよ。
「おう、無事か?」
「――無事ね、フェル」
ツカツカツカツカ――ぱかーん、ぱかーん。
取り出した、薪大の木片で有無を言わさず殴る。
案ずるな――筒状だ。
……自分で出して何だが、良い音の出る『真木撮棒』だな。
「ちょ――な、なんだ、坊主、なんで殴った、ってかその木どっから出し――」
「――ロープでも下げて、こいつだけでも吊り上げろよ。
状況聞かねえでなんで下りてきたの……しかも、二人が二人とも……」
――なんか言え。
「「おっ、そうだな」」
パカーン!! パッカーン!!
・ ・ ・ ・ ・ ・
「いや、しかし、でかくなったな、『フェル』!!」
「ひゃあ!?」
イゾウが抱え上げると、『フェル』が奇声を上げた。
パカーン――ばっしゃーん!!!!
――てか派手に飛んだな、イゾウ。後頭部にフルスイングしたの俺だけど。
「――怯えてビクついてる奴を、後ろから抱え上げるなよ」
「いや、だからってお前、人の頭を木魚みたいにパカパカ叩くなって!!」
「はうう」
「なにやってんだか――とりあえず、上がって乾かして」
いや、状況聞いてたよね、ベルさん。なんでここで火を焚き出してるの。
「上は本格的に燃え始めているんだ。
さっきまでの煙が主体じゃなく、証拠の隠滅の方に掛かったのかもな。
――正直、ここで少し待った方が良いと思う――出て行っても、敵が待ってる公算が高い」
「――『アレ』は?」
「さっきから言ってる謎の怪物?
でも、多方向から複数が来たんでなければ、問題ないと思うわ――
むしろ――お前が、問題なんだけれど――な――」
――剣構えるなよ、女騎士風の人。テキジャナイヨー。
「――唐突な襲撃、それに備えていた『家宰』。
そこに『身代わり』に連れて来られた筈のモノが大活躍。
話が出来過ぎているのよ。何の目的?
先日、『上のエルフ』が、召喚に成功したという――『勇者』?」
「チガイマス」
(勇者では)ないです。なんだその誤解。
とっとっと
――っと、なんだ、『フェル』、急に。
「――何? 『フェル』」
「剣を引いて。この人は――この人は僕を助けてくれました」
「――助けた者が味方とは限らない」
「今敵対しないなら、問題ではないです」
「貴方って子は――自分の立場を――」
「弁えてます――弁えた上で――
『フェル=カハル』たる『ベルゼフェル=レト=エスターミア』が命じます。
『ベルトリーエ=ナハル』。眼前の者は、僕が信託します。剣を納めてください」
――話があらぬ方を向き始めたんですが――
ベル姉さん、剣を納めて片膝立ちし出したし。
「――不服は残りますが――貴方の御決断を尊重します」
こいつって――ひょっとして――
「――何やったんだ?」
「……なにが?」
「いや、随分懐いたもんだな、と思ってよ。
『フェル』は正直――人慣れしてないし。元々人見知りだし」
「――なんもしてないですが? 求む説明」
「……ベル。こいつ、何も知らんぞ。敵以前だろ」
バカにすんな、バカ。
確かに知らんが、あっちこっちの状況たらい回しにされて、瞬時に理解し続けろとか、無茶振りにも程があるわ。
「――しかし――」
「まあまあ――おい坊主」
「――ジン、な。坊主って年にしか見えないだろうけど」
「おう、じゃあ、ジン。ちょっとそいつの面倒見ててくれ。俺と、この怖い姉さんは、偵察してくるわ」
「誰が怖いだ!!」
ぱかーん
おい、俺のマキザッポを勝手に――
・ ・ ・
ああー、焚き火あったかいんじゃー。
なんというか、無言になるよね、焚き火って。
「――食うか?」
「あ――ありがとう」
使えるスキルの確認がてら、生やした果実を焼いて渡す。
『果実召喚・可能』、と――
「――お前って、何?」
「――何、とは?」
「ああ。率直に聞くわ――お前、『皇位継承者』か何か?」
――そんなキョトンとした顔しなくてもよくねえか。
「――君は――イゾウ同様の、異世界から来た方なんですね」
「んんー……はっきりとそう、とは言えないけど、まあそう考えてくれていいよ」
魂魄合成してこっちに出来たナゾノクサなんて、自分でも訳わからんし。
大雑把にそう捉えて貰った方が、話が早いわ。
「――『四位の皇継』。『フェル=カハル』は、そういう意味です」
――やっぱりかよ、面倒な。
『フェル=カハルたる』って言い方で、純粋に名前じゃない察しは付いたけど……
正味、お家騒動とか、関わりたくないんですけど。
「そんな事より、あの――さっきは、ありがとう」
「――さっき?」
いや、俺もカンブリアンミミズに食われたくは無かったしな――
「その――イゾウと一緒に水に落としたのって、あれ――」
……チガウヨー……
「――違う、偶然だ。別にお前のおも――失敗の証拠隠滅を謀ったわけでは――」
「い、いや、言わなくて良い、言わなくて良いから!!」
お前から話振ったんだろうが。
「――それはどうでも良いよ。お前、狙われる心当たり、他に無いか?」
「他、とは?」
「――『継承者』で、排除するだけなら、さっさと命狙って仕舞いだろ?」
――しゅんとすんなよ……他に言い様無いだろ。
「でも、途中で遭った仮面の連中も、お前を連れ去った家宰のハゲも――
お前を生きたまま何とかしようとしてたと思うんだが――」
「――多分、僕が、『種子持ち』だからです」
「……アウルもそんな事言ってたが、『種子』ってなんだ?」
「そう――ですね――『魔術』とはまた違う、『異天の力』ともまた違う、『特殊な力』、ですかね」
そういうとそいつは――おい、どっからその『花』出した。
「僕のこれは、『ドラウプニル』、と言われています」
「――『ドラウプニル』て」
――北欧神話ベースか。
後でアウルに確認しなきゃな、『『種子』MODの作者は誰だ?』って。
「後、僕は父が六星連関係者ですので、そちらが欲してる可能性もあります」
「……茶を濁すなよ、婿入りしてきた、そっちの本家の次男かなんかだろ?」
「わ、分かってしまいますか」
態々分家の末端の息子の子を、謀略百計使って取り戻しに来て溜まるか。
「他には――僕は魔力が強く生まれついたので――
――『樹の巫女』に捧げるつもりかもしれません」
「『樹の巫女』?」
「『軸の木』――『世界樹』に仕え、慰撫し、一定の年齢になった時に、生贄にされる乙女です。
色々な宗派というか見解で、その遣り様が色々違うので、はっきりと言えませんけど――」
「ふーん。『乙女』ねえ――」
「代表的にその位の年齢、と言う事で――もっと若く『捧げられる』場合もありますよ?」
……乙女ねぇ――うん、分かってたよ。わかってたから。
「……聞いたのは俺だが、伏せる事も覚えなさいよ……」
「……なにが?」
「――お前からそれ言ったら、お前が折角『男装少女』で育てられた意味無いな」
「へ? ――んん? ――あっ!?」
あっ、じゃねえ、乙女とか自分からばらすな、『皇女』(汗)。厳密には『皇女』でもないんだろうけど。
それ以前、男装なのか、両性的に育ててるのかも分からんけど。何か? そういう文化なの?
「う、あ、あー……う、うかつ――」
「……素ッ天然なのは変わらんな」
「そっちこそ、無駄に鋭いの変わらない――」
――……んん――なん――
――うぅわぁぁぁぁぁ――
――まじかぁぁぁぁぁ――
「……バカ二匹の声が――」
――今の疑問は、少し棚上げだな。
「あの、ど、どうします?」
「――音的に、こっちに逃げて来てるし、迎え撃つしかねえだろ……」
もう、腹括ってあの『グラBイズ』と戦うしかないよね? やだけど。
「――てか、お前、結局何て呼べば良いんだ? 『フェル』様?」
「――それで、良いですよ。六星の方の家としての名前は、『フェルシオン』がファーストネームですし」
名前複数あるんかよ――忌み名――
いや、単純に、どっちの家も立てる辺りの事だろうな。
片や『帝国』、片や『六星公国連盟』らしいし。
「じゃあ、『フェル』。ちょっと隠れてろ」
「え? ――僕も、戦えますよ?」
「――漏らすなよ?」
「目が覚めていきなり、あんなのが口開いてたら、ああも成るから!!」
へぇへ、さいですか。




