02/【04】
傾斜している道を走りながら思う。
ここまでの事態になると、『賢者』は予想していただろうか?
ここまで厄介と知っていて、『勇者』は送り出しただろうか?
あるいは――
「――『塵吐苔』!!」
「――!?」
――『魔王』は、この事態の事を、知っていたのだろうか?
「――誰だ、アレ」
出した煙幕の向こうに、魔王によく似た女が立っていた。
ん、んん? でも、違うな、乳とか。表情とか。
「――と、その前に――」
俺はくるりと別を向く。んなもん、後で聞けばいいや。
「――――」
仮面を被った集団が目に入る――
5人程――ジリジリと迫って来る。
さっき上で蹴倒した連中とは、明らかに毛色が違う。
「――っとと――切っ!!」
それを、背後からやってきたイゾウが一太刀入れる――おっと、すげえな、ざっくり倒した。
――ガギッ
「おっと――対応速ぇな――ここで折れるとは、使い過ぎたかね」
――返す刀でさらにもう一人いくとか、手馴れてるな、この人――折れちゃったけど。
じゃねえ。のんびりしてる場合か。俺も攻撃態勢に移ろうとするが――
「――――」
「「「――――」」」
残る仮面の襲撃者達は、無言で退いて――脇道に走り込んで行った。
――水音も聞こえた事から察するに、水路か何かに逃げたようだ。
「――さて、ベル、何がどうなった?」
「その声、イゾーか!? よ、良かった――」
「っとと、叫ぶな、煙吸ってんだろ――」
わぁ、駆け寄って抱き止めたんですけど、史実だと出っ歯とか言われてるのに、イっケメーン。
「――『フェル』が攫われた――あっちへ」
そう言って、また別の脇道を指す『ベル』――『ベル』って……
「――イゾウ、介抱。俺は少し探ってくる」
「おう。すまん」
一人行動とか危険な気もするが――状況判らないなりに足掻かないとな、と思い、更に足を進める。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「しかし――『攫った』のか? 目的がますます分からんが――」
「ハメルクだ――最初から、そのつもりだったのかも――」
鎧姿の女を介抱しながら、イゾウは思案する。
「……旦那は殺し、孫は攫う――噛み合わねぇ。襲撃者が二組居た、と考えるべきかもな。
――ハメルクのハゲは、私心に駆られて動いたのかもしれないが」
「――それはそうと――何故、『彼』が――?」
「あん? ――ああ、あの坊主? 館ん中で顔合わせたんだが――」
「――何で、戻ってきたんだ?」
「――は? 話が見えねえんだが――」
きょとんとして呟くイゾウ。
「いや、だから――」
・ ・ ・
通路を走り抜けて、見えてきた先――
「――なっ、何故!?」
そこに見えたのは、人一人が入っているだろう袋を抱えた従者らしき大男――
と、その主らしい、貴族風の男――何か、見た事――いや、後々。
先ずは手前にいる、後詰と思しき兵士姿――
「――退いてろ!!」
「ぐえあ!?」
吊った!! はい、二人!! 次々!!
「な――ば、ばかな、なぜ!? タロン、下ろしてそいつを――」
貴族(仮)に言われた大男は、無言で袋をそちらに投げて、コッチに走って――
「甘ぇよ、真っ直ぐは」
バターン!!
「――!?」
「はい、寝てろ!!」
足引っ掛け完了!! 催眠性のある葉っぱを口にブッ込んで、あと一人!!
「な、ば、ばかな!? な、なぜ、こ、ここに居るのは誰――」
「しるかばか!!」
「ぐぱっ!?」
蹴り倒して、排除完了!!
「――絶好調だな。人間ベースなんだけど、なんでだろなぁ……」
『暴れんぼうジェネラル』のテーマが流れる程度に絶好調。
やってる事は蔦で吊ったり薬草食わしたりと、『仕事人』だが。
――あ、『言え!!(蛇声)』ってやればよかったかな、全員意識無いけど。
「――――」
――お、っと、忘れてた。袋がもぞもぞ這ってる。
「待て待て、今開ける」
そう言って近寄って――おい、誰だ堅結びした奴。
「って、頭から入れられたのかお前、ちょっと待て」
ズルっと引き出すと――『罪袋』かな? 顔面覆われてるて。
「はいはい、待て――よっと――」
ズボッとな――ん?
「――俺?」
そこには、今の俺の顔そっくりな――
「遅いですよ」
「……お前かい」
アウルがいた。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「お前、メイドになるとか言ってなかった?」
手足の縄を解きながら尋ねる。
「最初はなってましたが、色々ありまして――この体も『借り物』です。
貴方の方こそ、なんの有様ですか、それは。血染めが来期の流行ですか?」
「何処世界の『服板』だ。こっちも色々有ったんだよ」
まあ、この体になった瞬間の事は、気絶してて把握してないけどさ。
「――ふむ。まあ、想定通り貴方と落ち合えたなら、大丈夫ですね」
「おお、まあ、多分――植物時代のスキルはほぼほぼいけるし――流石に成長はしないけど」
「どこの『ThisWayさん』ですか、無理すると細胞分裂限界で死にますよ?」
「ああ、そうだよな――人間はそれも有るんだよな……」
こわやこわや、ショタ体走り辛い!! とかで無理矢理使わなくて良かったよ……
「――ん? お前、俺が来るって分かってたの?」
「例のアレの突入周期やら、色々から。
後、単純に、来る気はしてました」
適当な……
「とりあえず、状況の概略を伝えます。
現在二つの勢力に、この『体』の持ち主が狙われてます。
一つは現世的権勢の点で、もう一つは、魔術的な性能の点でです」
「……なんでソレに入ってるんだ、お前」
「簡略に言うとですね――
野良メイド→ある人に仕える→その人の子が命の危険になり、内部から保全する為に、憑依し直し、です――」
「――簡単に言ってるけど――ずるくね? それ?」
「管理者特権です、崇めよ」
いや、うん――まあ、そうなんだけど、そんなお気軽に移れるのかよ。
「まあ、『モノ』が『モノ』なので。歴史の変質がこれ以上昂進すると、不味いかと思いまして」
「何、それ? 『帝国』とやらが万全じゃない段でもう大概違うだろ」
「おや、見ましたか」
「見ましたか、つうか、流し読みだがな――」
「それが遠因だとは思うんですがね――実は私達の来た枝と、かなり異なる事態が――」
そこまで言って、言葉を切り、地面を見つめるアウル。
「――『術』も『種子』も動いてないのに、反応してるようですね」
「――何が?」
……聞くまでも無く、なんか地面が小刻みに揺れては感じるんだけどさ――
「――詳細は端折って、端的に言います。
『世界樹そのもの、若しくはそれに類する何かが、暴れています』」
……事態は加速する――(泣)
「――不味くないか?」
「正直に言うと、命の危険、という点では。
ただ、『賢者』から貴方が引き継いだ知識にも、この事態はありませんでした――つまり」
「――『神』か、それに近い何かが、直接的に動き出さないと不味いと思う程度に、焦っている?」
「はい――しかし、近いですね」
言うなって、さっさと逃げようぜ、はい立ってー。
「――ジン。この体、任せていいですか?」
「……何言い出してんの、お前」
「想像通りです。私が囮になって時間を稼ぎます」
いや、あの――う、うーん……相手の姿も何も分からんのに、そこまでしなく――
――ゴトッ――
――石とかブロックが落ちたらしい音に、振り返った俺は――
「――なんだ、それ――」
何か、触手なのか根なのか蔦なのか分からんものに絡み付かれ、干乾び圧し折れていく『大男』を見てしまった。
――うお、折り畳まれて、どう考えても入らない壁の穴に引きずり込まれたぞ――
「――まあ、この体を、ああしてしまわない為には、一番ベターです」
「お前は大丈夫なんだろうな?」
「何のリスクも無い、と言えるほど分かっても居ませんが、保険は掛けておきますので」
そう言って――お前、その手元のコウモリ何時の間に。
「時間が有りません。行きま――」
「いや、待って、なんでその体をそんなに――」
「――察しは付いてるんじゃないですか? ベル姉さんを見かけたでしょうし」
……正直、言いたくもねえ、そんなクソ運命……はぁ……
「――そっちが『魔王』で、こっちが『勇者』か」
「あの時の二人は、相応に体を弄ったりしていましたし、確実とは言えませんけどね。
『ステータス開示、アンロック』――見えます?」
「……『魔術』がレベル表示じゃなく、星印ついてるんだが――線表示の星だけど」
「システム的に言うと、この世界産のチートキャラと言っても良い潜在性能です。
白塗りの星マークになると、覚醒――まあ、それはどうでも良いです。
兎に角、私的な歴史を全部知ってるわけでもないですが――
あの時の『勇者』と『魔王』の発生時期の逆算とも一致してくるんです――」
まじか……
う、うーむ、『魔王』の方の記録、字がコロコロし過ぎてて読む気にも成らなくて、まだ見てないんだよな……
「――あれ? でも『魔王』、ベルって『賢者』に呼ばれてなかった?」
「『歴史』の細部が違う可能性はありますよ。本来、貴方のその体、死んでないはずですし」
死ん――やっぱ、死んでるの、この体? 返り血とか移り血でなくて?
「貴方が『侵食』して、再起動したんでしょうけど、厳密にはその体は一旦『死亡』してます。
というか、後で自分のステータスちゃんと見たら、胸に大穴開いてますよ、それ」
「――まじで?」
「加えて言うと――多分ですが、貴方、散じ掛けた勇者の魂を補強する形で定着してます。
余程強固な念が走ったんでしょうね。普通に考えれば、『召喚』と同等の事態――」
そこまで言うと、アウルは俺を引っ張って、横道に飛んだ。
――立ってた辺りから、例の触手が這い出て来てるんですけど……
「あー、もう。面倒な。
消えはしませんし、遠くに出ても、何年掛けても此処までは戻りますから――
というかしゃきっとして下さい、カッパぶっ飛ばした時見たく」
「お、おう、悪かったよ」
というか、事態の展開速すぎて頭が回らないんだよ、少しは労われ。
「では、行きます――来た道はあっちの道です」
「おう――気をつけろよ。」
「3――」
「2――」
「「1」」
急に弛緩した、アウルが入っていた体を背負い、俺は示された穴へと走る――
――ボゴォッ!!!!
その寸前――敷かれた石のブロックを跳ね上げて、それは姿を――
「――ト、レ、マァァァァァァァアアアズ!!!!」
思わず絶叫しながら別の穴へ走った――ふざけんな、フォルムが一切『木』じゃねえし!!
ってかなんだよ、なんでB級映画の古代ミミズが出て来るんだよ!!!!
この世界の『神』は極悪か!! あっ、ラスボスって話だったわチクショウ!!!!
「――う――?」
え、ちょ――まって、もぞもぞすんな。落とす落とす。
「――うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!????」
「なんでこのタイミングで起きちゃうんだよああもぉぉぉ!!」
――ジワ――
って――こい、つ――もらし――
「――ちっくしょぉぉぉぉめぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
出すもんを出して再び気絶したそいつを背負ったまま。
ありとあらゆる悪態を一言に込めて叫びつつ、俺はひたすらに走った。




