02/【01】
「――あー、あ」
変動した表示を見て、アウルは呟く。
「……『邪神』も大概だったけど、このヒト、高々『移動』で……」
目を回して引っ繰り返っている相手を見る。
### ポーン
### ポーン
### ポーン
### ポー カチリ
一端、音を切る。
「……何処まで、変わるかな」
楽しいような、怖いような、そんな気分で、うんうん唸っている顔を覗き込む。
・ ・ ・
分岐の前に立っている。
行き先を示しているだろう看板は、『 へ』『至・ 』等、ふざけているのか何なのか。
八街ってそういう意味じゃねえ、と思いながら、八筋の道の交差点の真ん中に立っている。
「――自分の精神世界で迷子になるとか、なーにやってるんですかねぇ……」
煽るような調子の、若い男の声が聞こえた――というか――
「お前――俺か?」
「厳密には違うけどな。前世とでも思えば良いんじゃね?」
にやにや笑いながら、そいつは横に立っている。
見た目的には、ちょっと軽薄そう――と言うか掴み所なさそうではあるが、普通の人間だ。
それが、自分だと何故分かったのかは、本当に感覚的な事なんで、説明は出来ないが。
「というかお前は、『俺』と『ねーちゃん』の二心合体的なアレで出来た魂らしいしな。
お前さんは、むしろ――息子とかの類か」
「そうか、とうちゃん」
「うん」
「……」
「「おぇーー」」
何しに出てきやがったこの野郎は。
さっさと戻り――あ、どうしよう、まだ回ってるかな。
「いやはや、性格はほぼほぼ俺だな、中々気持ち悪い」
「自分で言って悲しくならんか、それ――てか――なんで俺が二人いるんだよ」
「そもそも『別』だって言ってるだろうに。『草』の癖に鳥頭なのか?」
……自分で自分に煽られる構図って、中々イラっとくるな。
……つか、水先案内人とかでもないのかよ。案内しろよ。
「何しに来たんだ、マジで」
「いや、むしろお前が深層まで降りてきたんじゃねぇかな?」
「――何処の『デスウォッチ』気取りだお前。お前みたいな『 』なんて御免だわ」
「そうそう、そういうとこだよ、俺とお前が違うってのは」
――何言い出してんだこいつ。
「お前、覚えてないんだろうけど、『読書狂』はねーちゃんの方だぞ?」
「――――」
「小説だの文章だのの内容からの引用を、パラパラするのはな。
俺の方じゃない。あの片目巫女の領分だ」
「――巫女?」
え? 邪神転生で片目読書狂巫女?
盛りすぎじゃね? ――いや、待て? なんか、まだ、もっとあった様な……
「おいおい、その口調だと、本気で覚えてないのかよ」
「……いや、どう、なんだろう、覚えては、居るんだが――いや……」
……なんだ? この……余分なものがある、感じは――
「――まあ、お前は、自分の死因すら誤認してたしなあ」
「――どっちなんだ。俺はインフルエンザで死んだと、最初は思っていた。
だが、今は、邪神に――ねーちゃんに言われた事の方を信じている。
実際のとこ、どっちが――」
「どっちも同じ事だろ。死んだ、という事象は変わりない。
ねーちゃん風に言うなら、『現実が胎児の夢で無いと証明する事は困難』だ」
「ちゃかぽこちゃかぽこじゃねぇか。何の関係が有るんだよ」
こんなごっちゃで『夢落ちでした』とか言うんじゃねえだろうな。
「――あ」
「思い当たったかな?」
「『生まれても居ないのに、ソレを既に観測してしまってるなら、そいつには未来を変更できないのかもしれない』」
「『なのに、時に未来を上書きする者が居るのは、何故なのだろうか?』」
by、中二のねーちゃん。
「――上書きされたのか」
「『神』になのか、『何か』になのか、インフルが正史だったのかどうなのか。
それすら不明ではあるがな。大体、俺もそこら辺の記憶曖昧だからな、二心合体の影響で」
「また――適当な」
「鷹揚、と言えよ。くたばっちまったのは変わらないんだ。
それに、何処をどう曲げても――結局お前は、この道を往くんだろ?」
そう言って、そいつはすっと後ろに下がり――そこには、無かった筈の道が。
……ずっと、向こうの方に――何かがある。
……森、か? ありゃ。
「――俺の精神構造って、どうなってんだ、これ――……」
「思い出さなくてもいいって。人間、忘れる事が必ずしも不幸じゃないんだぜ?」
「――あ、そ」
俺はその道へと歩を進めようとして――一旦振り返る。
「――俺を、何時か思い出すのかな。『ねーちゃん』側の記憶だと、俺って――」
「――そんな糞みたいな記憶は、ここにおいてけって。
自分が『幸せ』になれる道が、人間、一番満たされてる道なんだからよ」
「――そうか。お前は、6歳から前の俺の――」
「思い出すなって」
そいつは背中を押し。
俺は吹っ飛ばされて、道へ――おい、これ道じゃねぇ、『穴』だ。
「じゃあな」
「ふっざけんなぁぁぁぁぁ……」
・ ・ ・
### おお、目が覚めましたか。
### あやうく「おまえのようなものは そのまましんでおれ!!」にするかと
「夢落ちやんけ!!」
ちょ、しかもまだ視界が回ってるんだが、何時になったらこれ終わるの?
### もう直ぐじゃないですかね。
### 現実への入射角も、大分きつくなってきてますし。
――あ。
これ、現実の地面に向かって、墜落するパターンだわ。
湧き上がってくる『記録』から、そんな事を考える。
### にしても。
「――なんだ?」
いや、正直、衝撃とかに備えようとしないといかんのではないのか?
### 時間とか次元を飛び越えてって辺りはともかく、
### 一つの『因子』が『世界』に接触して変化させるとか――
「お、おう」
### まるで『精――
「それいじょういけない!! おま、そういうとこやぞ!!」
### 何がです。
「東北姉妹のロリ枠みたいな声で『精C』とかいうんじゃありません!!」
### もっと微妙なラインの事を、あなたがはっきりと言ってますが。
「……何て言おうとしたってんだ」
### 『汎胚子説』キリッ
絶対違う、精、までは聞こえた。あと、キリッは別に発音せんでいい。
・ ・ ・ ・ ・ ・
さてさて。
夢(だと思いたい)から覚めて、気持ちが落ち着くに従って。
次第にこの『種』に乗った状態の回転も落ち着き始め、やっと俺は落ち着きを取り戻した。
――というか、外殻としてのモノが回ってるからって、データ体(と仮称するが)の俺まで回る事ぁないよな。
――思い込みって、怖いわ――……
まあ、少なくとも、上記の会話をする程度の落ち着きは取り戻しつつあった。
あー、でもなー、この流れは、地表にぶつかる流れだよなー……
そんな心配は――
### さて――私も一旦お別れを言いましょうかね。
――唐突に言われた言葉で、すっ飛んだ。
「――おまえ、きえるのか?」
### ネタに走らなくて結構です。
### まあ、ネタ挟まないと死んじゃう病の貴方には無理ですか。
「いや、そんな奇病じゃねえし――」
### 心配しなくても、システムは残していきますから。
### 対話が出来なくなるだけですよ。
「いや、そっちでもねえ――俺が影響与えた事で――」
### んなヤワなシステムじゃないです。
### というか、一旦と言ってるじゃないですか。
俺が首を傾げたのに被せる様に、はんっ、という鼻で笑う音が聞こえた。
### なんですか、従姉に飽き足らず、こんな少女型にまで懸想してるんですか?
「ネタに走ってるのむしろお前だろうが」
### ――羨ましく思えてきたんですよ、貴方達が。
今度は唐突に神妙な響きが届く。
### どう考えても重い永続デバフを、勝手に背負わされてるのに、
### なんでこんなに楽しそうなんだ、この人たち、と思ったら――
### 私にも楽しませろ、ヒャッハーさせろ、と少し思えまして。
「――あ、そう、ですか」
いや、君、インターフェースなんだよね? 人造物だよね?
電気羊どころか、もっととんでもない夢を抱いちゃったぞ、この子。
ヒャッハーするという、謎のパワーワード動詞の内容は一体。
### なので、私もまあ、どっかの誰かに『精神定着』して、うろうろしようかと。
「簡単に言いやがるな、おい――出来るのか?」
### さあ? まあ、『メイデン』モッドにでも介入すればいいかな、と思ってますけど。
### ほら、アレ。
「――野良のメイドじゃん、しかもヴィクトリア朝とは分かってらっしゃる」
いかん、想像以上にマイクラだ、この世界――って、そこじゃない。
「それなら別に、一緒に来てもいいんじゃねぇの?」
### 窓の向こうからじゃなく、実感したいんですよ。
### 海のVR映像実況を見てたら、本当に海に行きたくなった、的な。
「的確なのかなんなのか――」
### まあ、どの道――また会うんじゃないですかね。
そう言うと、アウルは俺の前にスッと立った――そんなイメージ。
「んでわ」
「おう――へばなーって言ってみ」
がっ――向こう脛蹴られた、ジョークなのに。
「へばなーp」
挙げ句、親指下げられた。解せぬ。
――まあ、そうして、アウルは去って行った。
・ ・ ・ ・ ・ ・
生身のその顔を、正面から見たい。
そう気付けなかった私も、察せない貴方も――
どっちも等しく、唐変木だ。
・ ・ ・ ・ ・ ・
そして、ふと気付く。
「――やべえ、街に向かってるぞ、おい」
ま、まあ、『胡桃』大だし――
### ピンポン
### 目的地周辺です
### 被害予想を算定します
――だよな、この速度だもん――
もういっそ、あのデカイ建物にぶつからねえかな、なんて、逃避――
### コース変更を開始しました。
――あ、これ、アカン奴や(確信)。
・ ・ ・ ・ ・ ・




