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 非常に簡略、そして、雑に言えば――

 全ての現実は、突き詰めれば、波の動きである――と、量子力学は語る。

 『波動関数の収束』という、一般人からすれば荒唐無稽とも思えるような領域の話によって。

 詳細については語らない――語れる程の知識も無いが。

 『酔歩する男』という小説に当たってもらえれば、大枠だけでも見えるかもしれない。

 筋を語るも無粋なので、切り詰めて言うならば――

 『現実は、我々の知覚によって、その姿を見せている』という事だ。


 普通に考えれば、学者の考えた机上の空論とも取れるが――

 とあるというか、時折、というか――『宗教』や『哲学』の中で、似た様な事が告げられている。

 『色即是空・空即是色』――『全ての物(色)は空である』と。

 また別の賢者も語る――『万物斉同』とか『パンタ=レイ』とか。

 それは要するに、『全ての物事は、不変でなく、観測の角度で異なって見える』という事だ。


 唐突に何を言い出しているのか、と思うだろう。


 まあ、大きな意味など無い。

 当たり前と言えば当たり前の事だからだ。

 『現象の決定』、なんて大事にまでは至らなくとも、事の印象を決めているのは、人間の色眼鏡だ、という事。


 ――つまり。


 『歴史の分岐点』――その頭上に、一条の星が奔るだけで。


 天下を覇する筈のある者は、竦み、勝利を溢し。

 またある者は、背を押され、海原へと漕ぎ出す。


 そんな、他愛のない変動を。

 我知らず、決定してしまうのも、ヒトだ。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 ――昔日。


「このまま押し切れれば、何の恐れる必要もないな」

「然様ですな」


 後に、『帝国』の通称で知られる事となる国の建国者と、その協力者が戦場を見つめている。


「……心が痛むものだ――愚弟に従ったとはいえ、民草を薙ぎ払うのは」

「その戦も、もうじき終わりとなります。

 傷口が大きく開かれないよう、その傷が病の入り口と成らぬよう――早急に処理をせねば成らなかったのです。

 王太子の御嘆きも、後の世では理解されましょう」

「然様。『上の方々』――『深き森の方々』が協力をしたのも、それ故の事です。

 遠近おちこちに、『王流』が乱立する気配の有る世の中に、最大の権威を分割する訳には参りません。

 麻の目の様に乱れている、とは言えど――それが故に、正しき強さを示して頂かなくては」

「各国、各種族、或いは各大陸への重し、という訳ですか――エルフ殿らは、迂遠に過ぎよう気もしますな」


 挑発するような言葉を発した武官を、それに言葉を返そうとしたエルフを。

 両手を上げて制した王太子は、武官に向き直る。


「――包囲は完璧だな?」

「は。蟻も――等とは申せませんが、一兵は愚か、一民とて半島から抜け出る事は出来ぬ程度には。

 あまり長引けば、集中を欠く恐れもありますが、定期的に陣の入れ替えをしております故」

「そこまで締めて居るならば、いずれ、そう長くないうちに打って出てくるだろう」


 そう溜息をつき、王太子『イスマ=フラタカンフェル』は天を仰いだ――


「――決まり切った事を覆してまで、何故、新しきを求める――弟よ」


 ・ ・ ・


「――分が悪いな」


 敵陣に、無数に翻る『王樹旗』――

 古からこの国に、隠然たる力を示してきた連中の旗印を見つめながら、『反逆者』の側に立った青年は呟いた。


「――公。最早、これまでです――公だけでも――」

「投降せよ――とでも言うか?」


 側に立つローブ姿の人物を相手に、青年はカラカラと笑う。


「お前らと道を共にしたのは、俺の選んだ事だ――その末路も、自分で決めるさ」

「――本当に、理解が出来ぬ御人だ。

 そのままで行けば、玉座に座れぬまでも、王に次ぐ権威を持ち得たでしょうに。

 担ごうとしたのは我等だが、それに自ら乗って来た上、無い筈の義理に――」


 そう呟く相手に、青年は肩をすくめる。


「俺と兄貴では、『感性』が違う。その『摂政』なり『宰相』なりにはとても成れんし――

 エルフの御用聞きの様に生きるのも、最初から救う相手を決めて生きるのも御免被る」

「――そうであっても、我等『魔詠人(マナス)』や『鋼鬣族(ドワルフ)』に肩入れする必要は――」

「なに、同じではないが近いのさ。言っただろう、『感性が違う』と。

 仮に補佐を行って居たにしろ、何れは袂を分っていただろうさ。

 だが――俺には最初は武断の軍事バカしか居なかったからな。

 潔く、気合一杯で突撃も結構だが、それだけではここまで持たなかった――

 感謝してるぜ、お前らには――」


 カラカラと笑いながら、青年は槍を肩に担ぎ直す。


「魔術を使える者を、効率的に部隊に編み、それを以って戦う――

 同族でやらかすとは思わなかったが、自分の考えた理想の部隊と共に戦えた。

 武人としては、中々にいい人生だったよ――

 ――まあ、そんな事言いながら、ひょっこり生きて帰るだろうけどな、くはは!!」


 そう言いながら、青年は階段を下りていった。


「――惜しい――我等に、いま少し力があれば、彼を『覇王』とする事も叶っただろうに」


 その背を見送りながら、ローブ姿の『魔詠人』は溜め息をついた。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


#フラタカンフェル暦354年――ベル=アレアの戦い

#当時、その大陸を治めていた、フラタカンフェル王朝最大の内戦。

#『魔詠人』等の扱いと、王の跡目を巡る争いから、当時の王太子と、その弟が争った戦いは、二年程続いた。

#当初、弟軍は、忌まれて居た『魔詠人』の力をも駆使し、寡兵ながらも善戦。

#しかし最期には、弟の軍勢は『ベル=アレア半島』へと押し込まれ――

#僅かな手勢を引き連れ、敵陣へと切り込み、弟は討ち死に。

#王太子は、これを以って大陸の再統一と、他の大陸への覇を唱える。

#それから十年程の後――エルフの庇護の下、数百年にわたる『帝国』を築く――


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 ――それが、『正史』。


 誰かの望みの色濃い、『観測結果』。


 ――ジ――ジジジ――


 『波動関数は、収束する』。


 ――だが――それが『波』ならば――

 水面に影響の有る物事など、何と多い事であろうか。


 ――例えば、そう。

 流れ在る川面を、勢い良く飛び跳ねていく――『水切り』の石の様に。


 ――ビキッ――


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――おい、ルオーラン公」

「……いきなりなんだ、とっつぁん。公とか付けて呼んだ事無いだろ、気色悪い」

「部下の手前でまでオーリと呼び捨ては出来んだろが!! んな事より、あれ見ろ!!」


 『鋼鬣族』の一族長の言葉に、天を見遣る弟王子――『オーリ=ルオーラン』。


「――――」

「今や地の底が人生の大半の俺らにも、分かりやすく教えてくれ――あの、『空に走ってる光』は、なんだ?」

「――あれは――」


 その目の先には――


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――おかしい――何故だ? 観測記録には――」

「落ち着け、事情の分からない我等にも分かるように説明してくれ」


 エルフの狼狽を見ながら、佐官と思しき軍人は急かし。

 王太子――『イスマ=フラタカンフェル』はそれを見つめる。


「――天の巡りも観測対象として来ていた我等の記録に、これまで無かった物が――」

「兵が聞きたいのは、その様な事ではありませんぞ、エルフ殿。

 あの――何と呼んでいいのかも分かりませんが――あれの吉凶を」

「――彗星、流星、いずれその類とは思いますが――あの様な物は――」

「――有ったならば、既に知っていなければおかしい、と言うのは聞き飽きた!!

 ――王太子!! 兵に動揺が広がる前に、攻勢に――」

「ま、待たれよ――今、『上の方々』の陣に人を走らせている、答えを待ってからでも」

「――第一陣を、もう少し前に出す。1区画程だ」


 天を見上げ、そこに翻る様に流れる光の帯を見つめ――イスマ王太子は決断する。


「――それでも問題はない、だろう?」


 心に過ぎった竦みを押し殺すように、呟く。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「態々、その様な事を聞きに来たのか?」

「も、申し訳ありません。ですが、上の方々直々の意見も、と」

「――全く――多少規模は大きいが、単なる『流れ星』だろう。

 宇宙の塵が、地上へと落下する際に激しく燃えているだけの事――」


 呆れ果てる、と言った口調で、上のエルフ――『神の枝アールヴァン』は、仮面の下から語る。


「実際の危険が出るほどの物は、常に観測を続けて居る。

 何らかのイレギュラーで、あれほどの輝きが出ているだけだろう」

「わ、分かりました――その様に」


 走り出て行く伝令を見送り、ふん、と鼻で笑う。


「全く――知識を与え過ぎての反逆を恐れるのも良いが――

 これ程のギャップが有っては――進む計画も進まぬぞ――」


 ギラギラ光って忌々しい、と毒づきながら、天のソレを見上げる。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「おら、聞け、戦争狂いども!!」


 誰がだ、このバカ王子、等と言う罵声を受けながら、オーリは笑う。


「違うか? 真っ先に敵陣に突っ込んでくバカ野郎どもだろうが、俺も含めて」


 ちげえねえ、と爆笑が起こる――それに対して、槍を掲げると、一団は黙る。


「――アレが吉兆かどうかは知らん。だが――」


 その光をなぞる様に穂先を動かし――向ける先には、敵陣。


「――行けってよ――」


 その笑顔に、皆が歓声を上げた。


「策は言った通りだ!!

 通れば生きて帰れる目もある!!

 だが――芋引けば、俺たちみたいな奴等を受け入れてくれた連中も死ぬ!!

 どうする!? やっちまうか!? あの、口先だけご大層な連中を!!」


 その声に、歓声は最早、獣の吠え声に近くなる。


「往くぞ、血塗れ野郎ども!! せめて誰かを救って死ぬぞ!!」


 最早、その狂奔は――敵陣へと走る一本の槍となった。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 ――再度言う。

 天に、高々一条、光の帯の奔っただけだ。

 捉え方による。

 だが、たったのソレだけで、予期せぬ方へ動く事もある。


 どこかの空で羽ばたく蝶が、何時かの空に嵐を起こすように。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 ジジジジジ――


#フラ カ フェル暦354年――ベル=アレアの戦い

#当時、その大陸を治めて た、フラタカンフェル王朝最大の内戦。

#『魔詠人』  を巡る諍いと――ジジジジジ――


 ### ぴんぽーん。

 ### 歴史の項目が更新されました。

「ちょ、ま、は、はやすぎて、こ、こえ――」

 ### ……ちゃんと説明聞かないから……

「いしき、ごと、とぶとか、回るとかきいて――うb」

 ### 吐くなら適当なとこで途中下車PLZ


 ジジ――


#フラタカンフェル暦354年――『ベル=アレアの戦い』

#当時、その大陸を治めていた、フラタカンフェル王朝最大の内戦。

#『魔詠人』等の扱いと、王の跡目を巡る争いから、当時の王太子とその弟が争った戦いは、二年程続いた。

#当初、弟軍は、忌まれて居た『魔詠人』の力をも駆使し、寡兵ながらも善戦。

#しかし最期には、弟の軍勢は『ベル=アレア半島』へと押し込まれた。

#この戦争の最終期に於ける激戦は、天に奔った一条の光によって、その戦意差が顕れた。

#これを巧みに利した弟王子は、将として死線を共にしてきた者たちと、敵陣へ突貫。

#敵陣を食い破り、参陣していた『上つエルフ』の陣を蹴破って、敵後方の港町まで走り抜けた。

#これを、『突端岬』砦から海路脱した者達の連絡を受けた、『東方島嶼連合』の船が拾い、

#彼らは大陸脱出に成功――同時に、『東方島嶼連合』の艦隊が、砦に残った人員も救出。

#王太子勢は『勝利』を宣言するも、実質的には勢いに水を入れられた。

#勢力の上では、大陸を押さえた王太子は、『帝国』の樹立を宣言する。

#しかし、『東方島嶼連合』は、弟王子を盟主に、『六星公国』の樹立を宣言し、帝国の政策に反意を示す。

#親アールヴァンの『帝国』と、汎人類の『六星』。

#数百年に及ぶだろう、新たな歴史の始まりである。


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