int-/『月とパンケーキ』
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さて。
一区切りついたところで――付いてないって? 細けえ事ぁ良いんだよ(AA略)。
本筋には全く関わらないが、袋ラーメンとパンケーキで思い出した事を残そうと思う。
まあ、箸休めとでも思ってくれ――飛ばしても、本筋には影響はしない筈だ。
――というか、思い出した、つっても、『記録』から呼び出した事だしな。
後になってじわじわと整合性が付かなくなって来たとしても、それは――
それは俺の、『記録』に齟齬があった、と判じてもらえればいい――『二人分』だし、混ざってるとこもあるさ。
――まあ、中身的には、大した事の無い内容だしな。
グダグダ抜かさず、始めようか。
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「――あのだな、ねえちゃん」
「なんだ?」
「俺さ、風邪ひいて喉痛いって言ってんのな」
「そうだな」
「――なんで、辛味噌ネギマシラーメンが出て来るんだよ、死ぬよ、何この赤いネギ」
小学5年の冬休みだった。
俺は、滅多に無く風邪を引き、寝込んでいた。
――都合の悪い事に、家の人間は所用で外出中。
家には『俺』と、片目巫女従姉こと、『ねえちゃん』だけが残っていた。
「発汗すれば治る――」
「――前に、喉が痛めつけられて、呼吸困難で死ねます」
「――むう。それしか残ってないぞ。お前が普段から『塩』ばかり食うから」
「あー……しくじったなあ……ばあちゃんのおかゆ……」
実はさっき、作って貰っていたおかゆを食おうとして、ふらふらしながらぶちまけてしまったのだった――
無理して格好付けなきゃ良かった……大失態である。
おまけに、傍に座っているこの人は、料理が出来ない人である。
――いや、『玄妙な味』になる、『珍妙な風味』に成るとか以前に――
「――というか、普段のより、より赤いんですが――」
「鷹の爪あまってたから、入れたんだが」
「ふふっ、余計な魔改造は要らんと、普段から――」
そう――『余計な事』をしてしまう人なのだ。
『ご飯』を『栄養の塊』に『魔錬金』してしまうのだ。
食えなくは無い。食えなくはないが――
『これ、野菜スープじゃなくて、限りなく味の薄い野菜ペーストですよね?』
――を発生させてしまうお方なのだ。しかも、ナチュラルに。
その為、ばあちゃんが料理の類を基本的にさせていない――
まあ、チャレンジに対するリターンが少なすぎるからな、現時点のこの人の調理修行……
……加えて言うと、俺が料理を出来てしまうと言うのもある。
やれる人間が家庭内に二人も居れば、普段は困らんものな。
「むう――まあ、食えないなら、私が食べるよ」
「あー……ごめん。飯は――夕飯にはばあちゃん帰ってくるよな、それまで待つよ」
「そうだな――ズルズル――むっ!?」
「ん?」
「――ちょっと頑張り過ぎた――」
失敗した時の何時もの台詞を発するねえちゃんに、俺は苦笑いした。
・ ・ ・
「――んぅ?」
どうやら、咳き込みながらも眠っていたらしい。
窓の外は、雪が――
「――ちょっと、まて、めっちゃ降ってる――」
深々と降っている、と言いかけて、その降り方の凄さに、ビビる。
「……まじかよ……」
布団をずるずる引き摺りながら窓まで行くと、外はえらい事になっていた。
うちは山掛かった場所にあるが、流石にこんなに積もるのは経験が無い。
ふと時計を見る――おう、暗いと思ったら、もう4時かよ……冬場の日の落ちは早いなあ――
――なんて言ってる場合でもないな――
「うう、寒、寒……」
しゅんしゅんと湯気を上げる薬缶をダルマストーブから持ち上げ――
「あちち、やべえ、殆ど空焚き……」
俺はすっかりと空に成りかけたそれを持って、台所へと歩く。
湿度が無いと、更に喉がきついしな――熱は下がったっぽいし。
そんな事を考えながら台所へと行くと――
「――あれ? いねえな」
途中の居間に居るかもと思った『ねえちゃん』は影も形も無い。
「――部屋か? ――いや、『拝殿』かな。寒いから行きたくないな――」
残ったお湯と水で生姜湯を入れ、そんな事を一人呟く。
『拝殿』? と思った方。別に怪しげな新興宗教ではないよ。
普通に、昔からウチで――というかばあちゃんちで継承してきた『神社』だ。
縁起とかはよく分かりません――いや、一応は書物あるから読んだ事は有るが。
――というか、『ねえちゃん』が跡継ぎで、俺は中枢の詳細部ノータッチだしな。
『本殿』無い形式だから、敷地奥の『森』とか、その中の何かが『御神体』ってトコなんだろうけど……
『神社庁』とかの方から『禰宜さん(神職さん)』が来るとかの方式とも違うみたいだし、謎。
まあ、所謂『祓い屋』みたいな事もしてるし、通常の一般的な『神社』ではないのかもな――
と、それはいいや、『ねえちゃん』探さんと。後、食い物。
・ ・ ・ ・ ・ ・
結果から言うと、『ねえちゃん』は、俺が寝た後で買い物に出かけたようだ。
自室に戻ったら机に書置きがあった――あの人、『片足』だってのに、無駄に行動力あるよな……
……ふむ。案の定、ばあちゃん達はこの雪で足止めを食ってるらしい――
まあ、たまには理由つけて外泊もいいだろ、あの二人、普段ずっと此処だし。
さて、問題は『ねえちゃん』だ。
出は自転車で行ったんだろうけど……大丈夫かね――この雪じゃ大丈夫じゃねえよな……
――あ、『義足』なのに? って思ったかもしれないけど、膝下からなんだよ、あの人。
片目っても、眼球丸ごと無いわけじゃなくて――
『視神経逝ってる』とかで『目がおかしくなってる』って話しだし、言う程の不便は無いらしい。
……とはいえ、簡単に帰って来れるかったら、無理だな、この積もり方だと。
自転車置いてくるにしても、歩きだと結構掛かるしな。
「いやいや――にしても――
袋麺もカレーも何も無いって、何事だこれ……小豆の水煮缶……は流石に……」
そう呟いて、せめてもと炊飯器を開けたら――水に浸かった生米が……
「――確認せいと、あれほど――っ!! ――ゲホッゲホ!!」
思わず叫んだら、咳き込んでしまった。もちろん、炊飯のボタンを押す。
「あー……寝よ寝よ……」
そんな風にふてくされながら、部屋に戻る。
・ ・ ・ ・ ・ ・
時間の感覚が、酷くゆっくりしている。
こんな感じ、前も有ったな――そんな風に天井を見ている。
――もっとも、その『記憶』――俺には――
プップー
「んおっ!?」
急に窓の外から――多分車のクラクションだよな――それが響いた。
急ぎ窓へと向かうと、ボロボロのワーゲンバンが、ガタガタと坂を降りていくところだった――
どうやら、来た音に気が付かない程集中していたか、寝ていた様だ。
――とっカっとっカっとっカっ――
「――ただいま」
「……おかえり。村野さん?」
「ああ。自転車ごと運んでもらった――エライ目見た……」
だよな、あのバン、ちょっと行ったとこ(車で10分)の村野さんの車だよな。
「挙句に、この雪のせいか、物流が弱ってるらしくてな。
アイマート、ろくなモンが残ってなかった――」
「あー、うん。パックのおかゆとか――」
買ってきてねえな――その手があったか、みたいな顔しないでくれ……
「まあ、少し寝てな。私が作るから」
……大丈夫だろうな、ドロリとしたゼリーとか出てこないよな……
・ ・ ・ ・ ・ ・
窓の外をふと見ると、雪は既に止んでいて、日も暮れていた。
――また寝てたらしい――またというかなんというか――
さっきはどうやら寝ては居なかったらしい――自分が思うより、『ねえちゃん』を心配してた様だ。
「おーい、出来たぞー」
そこに響く、なんとも暢気なお声……何が出てくるんだろうか……
そんな風に思いながら、居間へ歩いていく。
「――パンケーキかよ」
「言ったろう。殆ど何も無かったんだよ」
口から水分持ってかれそうな物が、テーブルに鎮座している。
……つか、でけえよ。何で焼いたんだよ……
「というか、お前はそっちじゃない」
「え?」
とてとてと歩いていって、小鍋を持ってくる――
「……なんぞ、これ?」
「"パンケーキミルク粥・プリン風味"だ」
……は、判断に困るな……『飯』想定してたら、甘い香りの物件が出てくると……
「――あ、でも、美味い――『飯』ではないけど」
「それは確かに」
笑い事じゃないっすよぉ……
「――ん? おお、月が綺麗だな」
不意に言われた言葉に、俺も窓を見ると――
「――やべぇ……パンケーキに見えた……」
「ふっ――美味そうだろう」
「……食えないものって、なんでこう、美味そうなんだろう……『駄ねえちゃん』の作でも」
「おい」
――まるで、皿の上のそれのような、満月が空に。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「――そんな事もあったな」
「ああ――あれ以来、パンケーキだけは普通に食ってくれる様になったな」
『邪神』は、そんな風に笑う。
「普通に美味かったからな――あと、他だってちゃんと食ってただろ……」
「そうか――そういう『記憶』は、無くは無いんだな」
「『記録』的な感じだし、『どっちのか』判別も付かないけどな――むしろ、なんでお前が知ってるんだ?」
貴女、『邪神』だってんなら、時系列合わなくないか?
「いや、私もそこのと同じく、お前の一部から派生して再生されてるからな」
「え? 何だよそれ」
「『場所』が『場所』だからなあ……
まあ、言っても一部がフィードバックされただけで、全部知ってるでは無い。
『お前』については、むしろそっちの方が良く知ってる筈だ。
ヒト喰ったトコは在るが、悪い奴じゃないんだ、仲良くしてやってくれ」
指差された先で――おい、アウル、どんだけ蜂蜜かけてるんだよ、溶けるぞ。
「――まあ、安心した。そういう『芯』が存在するなら、お前は『ヒト』だ」
「……なんだよそれ」
「まあ、なんというか――
『力』を持っていくと、自分が『ヒト』なのかに不安を覚える事もあるだろうからな――
これは、『邪神』としての経験則」
「は。まあ、心に留めとくよ――さて――次の一手を考えなきゃな」
「――次?」
「『成功』したとして、大団円に一直線、なんて在り得ないだろ」
「……其処も安心した。『相変わらず』の様で」
「うるさいな。『想定して置く』のは大事なんだよ、実際」
腹は愚か、実体も怪しいのに、パンケーキ食っただけで落ち着くとは、なんとも現金な存在だな、俺も――
「……『想定』を遥かに超えたら?」
「次を考えるさ――それを超えてきたら更に、更に――」
「――――」
「『傾向』が読めてきたら『対策』も取り易くなる。
後は、『心』か『魂』が折れるまで続けるともさ――」
「やれやれ……そこまで腹が立ってるのか?」
「さあ――腹が立ってるのか、何なのか――半分流れで此処まで来たからな。とは言え――」
――あんな光景、『ねえちゃん』だって望まないだろうしな――
そんな風に思いつつ、コーヒーを煽る。
遥かな時を超えて、『邪神』の体へと飛ぶ、ちょっと前の事。
・ ・ ・ ・ ・ ・
さあ――お話を、回そうか。




