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【転生したら石畳に咲いていたんだが】  作者: 黒月緋純
※脇道・食い物のおはなし。
11/388

int-/『月とパンケーキ』


 ######


 さて。

 一区切りついたところで――付いてないって? 細けえ事ぁ良いんだよ(AA略)。

 本筋には全く関わらないが、袋ラーメンとパンケーキで思い出した事を残そうと思う。

 まあ、箸休めとでも思ってくれ――飛ばしても、本筋には影響はしない筈だ。


 ――というか、思い出した、つっても、『記録』から呼び出した事だしな。

 後になってじわじわと整合性が付かなくなって来たとしても、それは――

 それは俺の、『記録』に齟齬があった、と判じてもらえればいい――『二人分』だし、混ざってるとこもあるさ。


 ――まあ、中身的には、大した事の無い内容だしな。

 グダグダ抜かさず、始めようか。


 ######


「――あのだな、ねえちゃん」

「なんだ?」

「俺さ、風邪ひいて喉痛いって言ってんのな」

「そうだな」

「――なんで、辛味噌ネギマシラーメンが出て来るんだよ、死ぬよ、何この赤いネギ」


 小学5年の冬休みだった。

 俺は、滅多に無く風邪を引き、寝込んでいた。

 ――都合の悪い事に、家の人間は所用で外出中。

 家には『俺』と、片目巫女従姉こと、『ねえちゃん』だけが残っていた。


「発汗すれば治る――」

「――前に、喉が痛めつけられて、呼吸困難で死ねます」

「――むう。それしか残ってないぞ。お前が普段から『塩』ばかり食うから」

「あー……しくじったなあ……ばあちゃんのおかゆ……」


 実はさっき、作って貰っていたおかゆを食おうとして、ふらふらしながらぶちまけてしまったのだった――

 無理して格好付けなきゃ良かった……大失態である。


 おまけに、傍に座っているこの人は、料理が出来ない人である。

 ――いや、『玄妙な味』になる、『珍妙な風味』に成るとか以前に――


「――というか、普段のより、より赤いんですが――」

「鷹の爪あまってたから、入れたんだが」

「ふふっ、余計な魔改造は要らんと、普段から――」


 そう――『余計な事』をしてしまう人なのだ。

 『ご飯』を『栄養の塊』に『魔錬金』してしまうのだ。

 食えなくは無い。食えなくはないが――


『これ、野菜スープじゃなくて、限りなく味の薄い野菜ペーストですよね?』


 ――を発生させてしまうお方なのだ。しかも、ナチュラルに。


 その為、ばあちゃんが料理の類を基本的にさせていない――

 まあ、チャレンジに対するリターンが少なすぎるからな、現時点のこの人の調理修行……

 ……加えて言うと、俺が料理を出来てしまうと言うのもある。

 やれる人間が家庭内に二人も居れば、普段は困らんものな。


「むう――まあ、食えないなら、私が食べるよ」

「あー……ごめん。飯は――夕飯にはばあちゃん帰ってくるよな、それまで待つよ」

「そうだな――ズルズル――むっ!?」

「ん?」

「――ちょっと頑張り過ぎた――」


 失敗した時の何時もの台詞を発するねえちゃんに、俺は苦笑いした。


 ・ ・ ・


「――んぅ?」


 どうやら、咳き込みながらも眠っていたらしい。

 窓の外は、雪が――


「――ちょっと、まて、めっちゃ降ってる――」


 深々と降っている、と言いかけて、その降り方の凄さに、ビビる。


「……まじかよ……」


 布団をずるずる引き摺りながら窓まで行くと、外はえらい事になっていた。

 うちは山掛かった場所にあるが、流石にこんなに積もるのは経験が無い。

 ふと時計を見る――おう、暗いと思ったら、もう4時かよ……冬場の日の落ちは早いなあ――

 ――なんて言ってる場合でもないな――


「うう、寒、寒……」


 しゅんしゅんと湯気を上げる薬缶をダルマストーブから持ち上げ――


「あちち、やべえ、殆ど空焚き……」


 俺はすっかりと空に成りかけたそれを持って、台所へと歩く。

 湿度が無いと、更に喉がきついしな――熱は下がったっぽいし。

 そんな事を考えながら台所へと行くと――


「――あれ? いねえな」


 途中の居間に居るかもと思った『ねえちゃん』は影も形も無い。


「――部屋か? ――いや、『拝殿』かな。寒いから行きたくないな――」


 残ったお湯と水で生姜湯を入れ、そんな事を一人呟く。


 『拝殿』? と思った方。別に怪しげな新興宗教ではないよ。

 普通に、昔からウチで――というかばあちゃんちで継承してきた『神社』だ。

 縁起とかはよく分かりません――いや、一応は書物あるから読んだ事は有るが。

 ――というか、『ねえちゃん』が跡継ぎで、俺は中枢の詳細部ノータッチだしな。

 『本殿』無い形式だから、敷地奥の『森』とか、その中の何かが『御神体』ってトコなんだろうけど……

 『神社庁』とかの方から『禰宜さん(神職さん)』が来るとかの方式とも違うみたいだし、謎。

 まあ、所謂『祓い屋』みたいな事もしてるし、通常の一般的な『神社』ではないのかもな――


 と、それはいいや、『ねえちゃん』探さんと。後、食い物。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 結果から言うと、『ねえちゃん』は、俺が寝た後で買い物に出かけたようだ。

 自室に戻ったら机に書置きがあった――あの人、『片足』だってのに、無駄に行動力あるよな……

 ……ふむ。案の定、ばあちゃん達はこの雪で足止めを食ってるらしい――

 まあ、たまには理由つけて外泊もいいだろ、あの二人、普段ずっと此処だし。


 さて、問題は『ねえちゃん』だ。

 出は自転車で行ったんだろうけど……大丈夫かね――この雪じゃ大丈夫じゃねえよな……

 ――あ、『義足』なのに? って思ったかもしれないけど、膝下からなんだよ、あの人。

 片目っても、眼球丸ごと無いわけじゃなくて――

 『視神経逝ってる』とかで『目がおかしくなってる』って話しだし、言う程の不便は無いらしい。

 ……とはいえ、簡単に帰って来れるかったら、無理だな、この積もり方だと。

 自転車置いてくるにしても、歩きだと結構掛かるしな。


「いやいや――にしても――

 袋麺もカレーも何も無いって、何事だこれ……小豆の水煮缶……は流石に……」


 そう呟いて、せめてもと炊飯器を開けたら――水に浸かった生米が……


「――確認せいと、あれほど――っ!! ――ゲホッゲホ!!」


 思わず叫んだら、咳き込んでしまった。もちろん、炊飯のボタンを押す。


「あー……寝よ寝よ……」


 そんな風にふてくされながら、部屋に戻る。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 時間の感覚が、酷くゆっくりしている。

 こんな感じ、前も有ったな――そんな風に天井を見ている。

 ――もっとも、その『記憶』――俺には――


 プップー


「んおっ!?」


 急に窓の外から――多分車のクラクションだよな――それが響いた。

 急ぎ窓へと向かうと、ボロボロのワーゲンバンが、ガタガタと坂を降りていくところだった――

 どうやら、来た音に気が付かない程集中していたか、寝ていた様だ。


 ――とっカっとっカっとっカっ――


「――ただいま」

「……おかえり。村野さん?」

「ああ。自転車ごと運んでもらった――エライ目見た……」


 だよな、あのバン、ちょっと行ったとこ(車で10分)の村野さんの車だよな。


「挙句に、この雪のせいか、物流が弱ってるらしくてな。

 アイマート、ろくなモンが残ってなかった――」

「あー、うん。パックのおかゆとか――」


 買ってきてねえな――その手があったか、みたいな顔しないでくれ……


「まあ、少し寝てな。私が作るから」


 ……大丈夫だろうな、ドロリとしたゼリーとか出てこないよな……


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 窓の外をふと見ると、雪は既に止んでいて、日も暮れていた。

 ――また寝てたらしい――またというかなんというか――

 さっきはどうやら寝ては居なかったらしい――自分が思うより、『ねえちゃん』を心配してた様だ。


「おーい、出来たぞー」


 そこに響く、なんとも暢気なお声……何が出てくるんだろうか……

 そんな風に思いながら、居間へ歩いていく。


「――パンケーキかよ」

「言ったろう。殆ど何も無かったんだよ」


 口から水分持ってかれそうな物が、テーブルに鎮座している。

 ……つか、でけえよ。何で焼いたんだよ……


「というか、お前はそっちじゃない」

「え?」


 とてとてと歩いていって、小鍋を持ってくる――


「……なんぞ、これ?」

「"パンケーキミルク粥・プリン風味"だ」


 ……は、判断に困るな……『飯』想定してたら、甘い香りの物件が出てくると……


「――あ、でも、美味い――『飯』ではないけど」

「それは確かに」


 笑い事じゃないっすよぉ……


「――ん? おお、月が綺麗だな」


 不意に言われた言葉に、俺も窓を見ると――


「――やべぇ……パンケーキに見えた……」

「ふっ――美味そうだろう」

「……食えないものって、なんでこう、美味そうなんだろう……『駄ねえちゃん』の作でも」

「おい」


 ――まるで、皿の上のそれのような、満月が空に。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――そんな事もあったな」

「ああ――あれ以来、パンケーキだけは普通に食ってくれる様になったな」


 『邪神』は、そんな風に笑う。


「普通に美味かったからな――あと、他だってちゃんと食ってただろ……」

「そうか――そういう『記憶』は、無くは無いんだな」

「『記録』的な感じだし、『どっちのか』判別も付かないけどな――むしろ、なんでお前が知ってるんだ?」


 貴女、『邪神』だってんなら、時系列合わなくないか?


「いや、私もそこのと同じく、お前の一部から派生して再生されてるからな」

「え? 何だよそれ」

「『場所』が『場所』だからなあ……

 まあ、言っても一部がフィードバックされただけで、全部知ってるでは無い。

 『お前』については、むしろそっちの方が良く知ってる筈だ。

 ヒト喰ったトコは在るが、悪い奴じゃないんだ、仲良くしてやってくれ」


 指差された先で――おい、アウル、どんだけ蜂蜜かけてるんだよ、溶けるぞ。


「――まあ、安心した。そういう『芯』が存在するなら、お前は『ヒト』だ」

「……なんだよそれ」

「まあ、なんというか――

 『力』を持っていくと、自分が『ヒト』なのかに不安を覚える事もあるだろうからな――

 これは、『邪神』としての経験則」

「は。まあ、心に留めとくよ――さて――次の一手を考えなきゃな」

「――次?」

「『成功』したとして、大団円に一直線、なんて在り得ないだろ」

「……其処も安心した。『相変わらず』の様で」

「うるさいな。『想定して置く』のは大事なんだよ、実際」


 腹は愚か、実体も怪しいのに、パンケーキ食っただけで落ち着くとは、なんとも現金な存在だな、俺も――


「……『想定』を遥かに超えたら?」

「次を考えるさ――それを超えてきたら更に、更に――」

「――――」

「『傾向』が読めてきたら『対策』も取り易くなる。

 後は、『心』か『魂』が折れるまで続けるともさ――」

「やれやれ……そこまで腹が立ってるのか?」

「さあ――腹が立ってるのか、何なのか――半分流れで此処まで来たからな。とは言え――」


 ――あんな光景、『ねえちゃん』だって望まないだろうしな――

 そんな風に思いつつ、コーヒーを煽る。


 遥かな時を超えて、『邪神』の体へと飛ぶ、ちょっと前の事。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 さあ――お話を、回そうか。


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