表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/388

【05】/09


 視点は、数分前の、イムガ陣営に移る。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「相変わらず、厄介な地形ですな。この地は」

「かつては湖が有ったとも、火山の火口が有ったとも言う。ロアズの古い伝承だがな――

 帝国建国の段階では、既にこの地に要塞に近い物が有ったとも聞く。

 もっともその要塞は、今見る板塀の規模の大きなもの程度だった様だが」


 谷間の道を抜けた先には、やや小高く山がある。

 現代に近しい世界から赴いた者、その知識に近い者には、こう言える――『カルデラ湖の跡』、と。

 ギェヌン=イムガは、師からの知識で、そう呼ぶ事を知って居る。


「とは言え、かつての要衝も今や『板塀』や『逆茂木』でどうにか形を保たせるだけ。

 近くの山々全てに巡っていたと言う金城鉄壁は見る影も無い――如何します?」

「だが、要所要所の柵はしっかり編んでいるようだな。

 ――平押しで抜くのは出来るだろうが、先ずは使者を送るべきだな」

「閣下、それは既に返答が来ているでは在りませんか。

 『本営に確認を取るが、数日かかる』など……連中、足元を見ていますぞ」

「……斥候を兼ねて送った相手、書簡もなし、ではあるがな――」


 側近の言葉に、ギェヌンは考え込む。


 ――連中からの、心象が悪いのは分かっている。

 あの陥落の一件で、イズマ衆の目は冷たいどころでは無いし、その遠因を作ったのは自分だと分かっている。

 ――血気にはやった連中、功名心を焦った連中を抑えられなかったのは自分なのだから。

 一方で――どれだけ和解をしても完全に丸くは収まらなかったのだ、とも。

 ロアズの血統が根深いこの地の者と、帝国正規軍の血統が強い一軍とでは、と――


「――仕方あるまい、進――」


 ――ヒュアアアアアアア!!!!


 正に、その時。

 決断を下すか下さないか、その間隙を突く様に、死霊の様な叫びが、後列に降ったのは。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「さーて本日の商品はこちら、イズマ山塊の狩人の皆さん御存じ、『勢子要らず』です!!

 『手持ち投石器スリング』で投げる鏑矢みたいなもんですねー」


 ……きょとんとした顔せんでくれ、と思いつつ、アビーは続ける。

 ノリノリで高所に上がって来たのは良いが、みんなテンション高すぎて、そのまま駆け下りかねないのだ。

 ――崖を。崖をだ。繰り返す、何度でも――『崖』だぞバッキャロウェイ。

 断崖絶壁で、何故、飛び掛ろうとする!? 逆落としどころか本当に落ちるだけの崖を!?

 ――だから落ち着きなさい、という意味を込めて、こんなノリである。


「あー、古くなってるから、使えるか分からんぞ? 一応、手入れはしたが――」

「だいじょーぶだいじょーぶ。最悪、包み紙の方が破裂する仕込してるから。

 ハイではニーナさん、一際デカイそいつを、敵陣目掛けて――」

「てりゃぁあああああ!!」


 ニーナが投げた紙の包みは、迫ってきている敵陣の近くまで飛ぶと―ー


 ――パッ――ヒュィィアアアアアアアアアア!!!!


「おおおおお!?」

「うわうわ、なんだ、すげ、なんだこりゃ!?」


 紙が破けるのと同時に、高い音を発し始める。

 谷の上空にアビーが展開していた風の流れに乗って、遠近へと分散し――

 あちらこちらへと、悲鳴にも似た音を引き連れて落下する、礫状の物。


 ――――!!

 ――――!!

 ――――!!


「よ――よーしよし、うろたえとる――てか、怖いな、この木の実、なんて音出るんだよ。

 精々が『モガリ笛』程度のモンだと思ってたのに。『勢子要らず』とは言ったモンだよ全く」

「……あんな風が逆巻いた状態のところに投げ込めば、そりゃなあ……

 てか、実際問題、俺らも驚えた……西風の強い日でもあんなに鳴かないぞ……」


 このブツ、正確にどう出来ているのかは不明だが、この辺りの山の木々に偶にぶら下がっているのだと言う。

 『鳥がついばんだ木の実が落ちずに、そのまま萎れ乾燥していくと出来る』との推測もあるし――

 『気紛れに迷い出た冥府の住人が触れた果実が呪われる』とか、あれこれ様々な御伽噺もある。

 ――経緯は不明だが、まあ、あの音を聞けば、熊でも猪でも逃げるわな。


「ま、まあ、この木の実の実証実験とかはまた後――続きましての商品は」

「商品て」


 そうそう、ちゃんと乗りなさい。頭を冷やしなさい。笑って良いから。


「どっかの『帝国軍』かよっていう、『破竹』のエントリーだ!! さあ発射!!」

「これも投げるんですね――ていやぁああああ!!」

「おおし、続け大弩隊――放て!!」


 ブンっ――ボッ――ブンっ――


 盛大な風切り音と共に、知る者からすれば「どうみても竹槍です」な代物が発射(一本投擲)され――


 ――パァン!! パァン!! パンパァン!!


「おお、どういう――破裂した!?」

「特殊な育て方した竹でな。特定方向に力が掛かると、裂けるんだな、これが。

 んで、中に液体が詰まってるから、逃げ場の無くなった液体ごと破裂する」

「ど、どど、どういう木――」

「ニーナそれ、厳密には『樹』じゃない――

 ってまあ、いいや。生態系修羅過ぎませんか、この地帯……」


 こんなやばい物がゴロゴロしてるのだ、ジンなら嬉々として召喚出来る様になるだろう。

 ……あいつ、今何してんだ?


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「な、なん――」

「……うろたえるな。どちらも、師の言っていた通りの事だ」


 そう、そして、文献等で学んだ通りの事だ。


「どちらも、音の鳴りやらは派手だが、実際の攻撃力がある訳ではない。

 直掩部隊、大盾を構えて前進陣形に移行を――」

「か、閣下!! 第三隊が!!」


 見れば、自分の居る部隊の脇を抜ける様に、後続の部隊が突撃していく。

 方向は――イズマ関の中央部、小高い丘のような部分の砦状の場所。


「な――何をやっている!? 指令もなく!!」

「――いや、かまわん。第一第二も続け」


 一際低い声音で発せられたその言葉に、側近がぎょっとした顔に成る。


「し、しかし、閣下――」

「……想定されている敵数は少ない。

 予定外だが、勢いが付いた状態で門扉を破れるならば――

 セオリーから行けば、こちらの勝利が確定できると言っても良い。

 出てきて混戦と成るなら、外輪山の崖からの撃ち下ろしが出来ず、高所の有利が相手に無くなる」


 そう言って、ギェヌン=イムガは采を振るった。


「――駆け、穿て。狙うは城砦の南東区域。

 兵の集中が見られたならば、周囲を囲むように展開せよ。

 皇軍相打つは心苦しいが、古き因縁の亡霊は、ここで振り切る」


 その声に、長い隘路から抜け出た隊が、どんどんと一点へと、淀みなく流れ始める。


「――流れは、止めては成らん。もはやその段ではないのだから」


 ゾワゾワと、まるで虫が流れにそって動く様に、一つの塊が、殺到していく――


 ――そこで、有利な差配、させると思うか?――


 そう、聞こえるとはなく聞こえた音に、そちらを振り向いた瞬間――


 ……――ゥゥゥゥウウウウウウウウン!!!!

 ひひぃぃぃいいいいいン!!


 突然、何処からか放たれた音の矢に、恐慌状態となる騎馬と――


「――なっ!? かっ、閣下!!!!」

「くっ、落ち着け!!」

「閣下を、閣下をお守りせよ!! 前進だ!! 下手に外に居ては狙い打たれるぞ!!」


 側近達によって、自身も大きな流れの中へと放り込まれるギェヌン=イムガ。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――うっそだろ、こいつ、この距離でかよ!?」

「流石だぜ、『一矢開門』!!」


 距離にしてかなりの所を正確に通した腕前に、大興奮の兵たちと――


「いいから、そろそろ後続に射掛けてくれ。上手く調整しないと、流石に多過ぎる」


 今度は全く逆の方を向いて、矢を番えるアロケル。


「それに、俺の師匠なら、あの飾り兜の房毛に矢をブッ込んでただろうさ」

「それはそれで頭おかしいって」

「腕前もな――」

「いいから、撃てって――」


 そう言って放つ矢は、赫と燃える火矢。

 それも今度は、兎に角満遍なく扇撃ちしている――出来るだけ、ヒトには当てないように。


「――自信失くすわ……」

「比べるな、悲しくなるぞ」

「良いから、撃て、頼むから、俺だけでは疲れるから」


 次々に注ぐ火の雨に、後続の流れが止まる。


「――脚が止まっても、急には止まれない。

 だが、前には、意味ありげな火矢の攻勢。そうなれば――」


 ――ッ!!

 ――ッ!!


「――脇に反れる道があれば、そっちに向かうわな――んで――」


 ふっ、と外輪山を見渡すと、あちこちから火の手。


「――なーんでみんなバカスカ燃やそうとするかね、うちの師匠といい……」


 そんな溜め息を吐きながら、アロケルは――


「甘ぇ。証拠も戦果も全部消し潰して逃げようとか、クソ甘ぇ」


 逃げようとしてか、流れと異なる動きの騎武者に矢を放ち――

 その衝撃の鋭さからか、主が落ちた事にすら気が付かず、馬は走り去った。

 落ちた鎧武者は、ギェヌン=イムガの傍に居たはずの男。

 ――『矢』とは言ったが大分大きなソレで、肩を地面に縫いとめられ、バタバタともがいている。


「……俺、音に聞く呉用先生とこいつには逆らわないようにするぜ」

「俺もだ。御先祖さん方に怒られても、こればっかりは――怖すぎるよ、この親子……」

「人聞き悪いな、お前ら程やけっぱちじゃねえよ。

 てか、親父に怒られるな、これ、想定と違うじゃねえか、って――」


 そう言いつつ、中央砦の方を見遣るアロケル。


「……実際のとこ、本当にいいのか? ホントに? 折角直したのに……」

「まあ、そういう事の為に作ったらしいからな、あそこ……」


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 妙だ――とギェヌン=イムガは思った。

 敵の抵抗はあるし、戦っても居るが――


「――何故、身動きが段々取れなくなっていく?」


 砦内とは言えど、敵を排除しながら、『広場』へと向かっている。

 小隊として陣形を再編する余裕が出そうなものなのに、実際は身動きがし辛く――


「――しまっ――」

「もう遅いわい、一軍の!!」


 敵の意図に気が付いたと同時に、その敵手がただ一人、何処からともなく自分に切りかかってきた。


「――名を聞いた事は有るぞ。

 守る為ではなく、入った敵を諸共に鏖殺する為の城の築き手――」

「ガナン=ロフトックちゅう、しがない大工崩れよ」

「――やってくれる――気が付かぬ様に、狭めている造りか――」

「くく、まあ、そんなところじゃな。

 ――だが、ここは別に――『殺し陣』じゃあねえんだ」


 そう言うと、ロフトックは、大きく手を打った。

 その瞬間――


 カッ――ゴアアアアアアアアアア!!!!


 どういった原理か、いきなり、最大燃焼の状態に燃え上がる、柵、柵、柵!!!!


「ひ、火だ!?」

「ぎ、ぎゃぁあああ」

「に、逃げろ、焼け死ぬぞ!!」


 もはや、統率も糸瓜もなく逃げ惑い、火の手の薄い方へ殺到する兵たち。


「――まあ、こういう事よ。何、心配するな。死ぬ造りにゃあしとらんから――」

「――それほどに、私のしくじりが憎いか?」

「……さてなあ。御輿担いで祭りの勢いだけで他の町内に乱入する馬鹿どもが、憎いちゃ憎いが。

 あんたは、哀れにも思うんでな――木偶にされて、たまったもんじゃない、と見える」


 その言葉に、イムガの中の何かが燃え――


「――ふ、くく、なんじゃ、立てる腹は、のこっとるんか……」

「デク、ではない……私は、人だ……」


 腹に槍を突き立てられながら、笑うロフトックと、

 心に刃を突き立てられて、無表情のギェヌンと。


「くはははは!! 人!? 人なら、人を人と思うわい!!

 お前の師と同じ様に、お前も人を『家畜』や『愛玩』としか見ておらぬ人でなしよ!!」

「違う――私は違う!!」

「違うなら、側近連中の顔面を鉄杓でブッ叩いてでも、下らぬ無駄吠えを止めとったじゃろ。

 『成果』の為に為されている事に目を瞑り、聞き流し――その結果がこの関の失陥だ!!」

「――黙れ。盗賊如き相手に守れなかった、ロアズの残党が何を吠える――!!」

「分かれ!! お前自身が何の手も下さんでも!! お前がこの関を壊し!!

 結果として、この国に混乱を招き入れ取るんだ!! お前の『師』の――『遺言』通りにな!!!!」


 ――ゾブっ


 ――酷く重い音が耳に残り、相手は事切れた。

 その手には、折れ、血塗れの剣。


「――再編せねば。消火も」


 その心には、実際の所、人間らしい希望など何もなく。

 されど、使命と義務のみが、道を続ける。

 ――過ぎる疑問を、全て無視し――

 ――往き過ぎねばならぬと――


「――少し見回せば――ガナン=ロフトックにさえ解る程――

 即ち、『敵』と怒れる者にさえ、その在り様の異様さが見える――

 ――でありながら、当人は、全く以って気が付く事が無い」


 ――両脇に燃える、劫火の途の向こう、その人影が立っていた。


「――故に、貴方は哀れなのです」

「――呉用ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 ギェヌン=イムガは、全てを悟った。

 この状況の全てが、この男のあった故と。

 ――そう悟った気になり、切り掛かり――


 ビュオっ――ギャリリリリリンッ

 ――ブンッ


 訳も分からず、視界の天地が返り――


 ドザァアッ!!!!


「――ゴハッ」

「……残念ですが、私だけでは、貴方をここまで追い詰める事は出来なかった。

 引いては、貴方の師の亡霊を追い詰める事も――貴方をこの様に、ブン投げる事もね」


 傲然と見下ろすその目に、しかし、確かな哀れみを見た。

 それすらも――理解が出来なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ