表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/388

【05】/04


 帝都『エイバロニア』の高級ホテルの一室。

 俺は、ふかふかお布団のベッドで、ゆったりとした睡眠を――


 ### ぴんぽーん

 ### メッセージだよ

 ### ぴんぽーん

 ### メッセージだよ

 ### ぴんぽーん

 ### メッセージだっていってんでしょうが


「やかましいわ!!」


 夜中に!! 脳内に!! 何してんだ魔ニピュレーターめ!!


 ### おお勇者よ、今正に起きようしている戦争を


「やかましい、キャラ違うだろ、アホの子」

「ああ、もう、それどころじゃないんだと!!」ヌルッ


 ――だからって、いきなり照明器具から生えるなよ、なんなんだお前は。


「流石高級ホテル、『結界』がほぼ完璧で、利用出来る魔素源がこれしか――でなくて。

 大変な事を思い出しましたよ、というか、大惨事ですよジン」

「おい、天井から下がりながらわたわたすんな、視界が煩い」

「んなこたぁ重要じゃないんだ、どうでもいい。

 すっかり見落としてましたけど、『大戦』へのフラグが立ちそうなイベントが差し迫って――」

「ああ――『旧暦』への揺れ戻しが来そうな奴か?」

「そうで――って、ああ、『賢者の知見』で把握してましたね、貴方」


 一応な。異世界で『世界史』勉強するとか、苦行だったけど。


「ああ、良かった、じゃあ、なんか手を打ってるんですね?」

「打ってないけど」


 ――そんな『UMEZU顔』されても。


「え、ちょ――何でです? 『正史』に行かない為に行動してるのに――」

「そらそうだが、お前の心配が『ロアザーリオ』のアレとして――

 この戦争と言うか内乱に関しては、どうにも成らないと思うぞ」

「えぇ? なんでです?」

「『二位の皇継デュラ・カハル』なんてカリスマが上に立ってる陣営で起きる御家騒動だぞ?

 外部の誰かで何とか出来るレベルじゃないって――引っ掻き回しても、水が更に汚れるだけだ」

「あっちもこっちも引っ掻き回してきた人が、今更何を」


 言うな。好き好んで掻き混ぜたんじゃないっつの……


「それにミヒャエル――ああ、ローアンの太守が上手くやるだろ」

「――ローアン?」

「……お前、何処と何処が争ってるのか、把握してないのかよ……」

「――ええと、まあ。年表流し読みしてて、慌てて来ただけなので……」


 夜中に叩き起こされた挙句、俺が説明すんのかよ……


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「勇猛なる、我が猟犬どもよ」


 ロアザーリオ・『第四軍統治領』の西端。

 黒ずくめの鎧の男が、同じく黒く染め抜かれた硬革鎧ハードレザーの集団を前に立っている。


「これを不要な争いと思う者もあるだろう。この時期に起こす事ではない、と思う者も。

 だが、考えてみて欲しい――貴殿等が何度煮え湯を飲まされた?

 あの入り組んだ領地境に野盗どもが入るたび、何度相手を慮って引いた?

 勇猛果敢で成る第四軍が、敵を前に手をこまねいて引かねばならなかった事――

 先代たちが、どれほどの苦悩であったか、察して余りある!!」


 男の言葉に、兵たちはただ目を爛々と輝かせている。


「ローアン太守に手入れの意向が無いのか、在って尚出来ぬのか、真偽は分からぬ。

 だが、長きに渡って掠められていた物事は、再び何処かへと流され、証拠すら消えるだろう。

 ――ゴルドワーンの一党、そんな事はお手の物――それを許しては置けぬ。

 ――往け、『黒妖狗モーザ・ドゥーグ』。

 ゴルドワーンの領主館を攻め落とせ。我等の正義を指し示せ」


 その言葉と共に、兵たちは四方へと散っていく。


「……モノは言い様とは、この事ですな」

「ゴルドワーンの館に、わが方にあるべき筈のモノが複数あるのは、事実だ。

 ――それより、ヘクトル。貴殿は貴殿で動いてもらうぞ」

「――やれやれ、こんなに早いとは思ってませんでしたが――『おあし』の分はしっかりと」


 夜更けの中、その人影二つも、それぞれの場所へと消えて行く。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「デュラ様は、もう一週間程滞在するとの話だ。

 ――あの方も、すっかりと『四軍』が動く事を期待しておいでの様だな」

「――性格悪くない? あなたのボス……」


 ミヒャエルの言葉に、アビーが溜め息を付く。


「駆け戻ってきて、諍いを収めても良いんだろうが――

 それをすると、今度は内に何時破裂すると分からない火種を抱える事になる。

 ――『四軍』は兎も角、『一軍』がな」

「というか、もっと強権的に絞めて――ああ、ダメか」

「ダメだな。ダメだからこそ、『部下同士での事情の行き違い』を一方に巧く収めろ、と言っているんだ。

 『不平勢力』が競合して貴族側に、何てなったら、目も当てられない。

 各軍が張り合いやらで仲が悪くても、部下全般までは話が別――同盟して、別の幕下につく頭はある。

 そうなると、『一位エノ』は兎も角『廷臣派』が力を持ち過ぎる恐れが出る。

 『聖樹教』に付かれても同様だな――要するに、厄介事の芽を摘め、という事だろう」

「だーから『修羅の国』呼ばわりされんのよ、ロアザーリオ。

 四六時中、『軍事演習』にかこつけた事実上の戦争してんだもん……」


 ぐうの音も出ない、と笑いながら、ミヒャエルは答える。


「――兎に角、ロアザーリオの形が揺らぐ様な事になって、困るのはそこに住んでる民草だ――

 とんだ無理難題では在るが……なんとかするしかない」

「というか、なんで『四軍』はそんなにこっちに粉掛けて来てるの? あんたの先祖がなんかしでかしたの?」

「――曰く因縁は色々あるが――」


 そう言いながら、溜め息を吐く。


「――最早、もっともな理由、なんてモノは、きっと何処にも無い。

 大きな理由としては、家の始祖まで遡れなくも無いが――

 それよりも、複数理由があってそれ一つ一つは単純でも、絡まりあったら複雑怪奇になってしまう――

 そういうモノの、見本標本だと思ってくれ――」


 そう、天井を見上げつつ言うのだった。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――わあ……」

「お隣の大公領は、異世界の皮被った戦国ニッポンでした、だ。止められるか?」


 ロアザーリオについてバサッと説明すると、アウルの引いた声が響く。

 まあ、ロアザーリオ地方への移動以降、何百年もの長きに亘って国獲りの巷だからな。

 詳しく説明すると、色んな意味で頭痛くなってくるから止めておくけど……


「触りは知ってたけど、無茶苦茶じゃない、ロアザーリオの歴史。『修羅の国』言われるは、それは――」

「というかだ。呉用先生に読める位――

 或いは内部の人間に分かる位、はっきりと表面化してしまってる兆候を、今更どうにかは出来ないだろ」


 そこを無理矢理『御老公』的に解決しても、その歪みが別に出るだろうし。

 自分の属する陣営なら、歪みを少なく少なく、小まめな曲げ直しも出来るだろうけど――

 他陣営の運営論理にまで口出しし続ける程は、暇じゃないよ、俺も。 


「――じゃあ、傷が広がり過ぎないように、って流れに?」

「ああ、んで、話は戻るんだが……

 俺ら以外にも、『本筋』というか『正史』を知ってる奴が居ないか?」

「――『上のエルフ』の『予定表』の事ですか?」

「だけとも限らないだろ。身内には居ないと思うけど」


 居たら楽だから、呉用辺りには言っても良いかと思ったんだけどな。


「『正しい歴史に戻したい勢力』・対・『あの悲劇は御免な勢力』の戦い――

 で済めば楽だったんだけど、どうもそうじゃないだろ、今の状況って」

「まあ、そうですね――うーん……

 知ってる私たちとしては、世界の終わりに繋がっていく筋と分かってるから……」

「その筋に行かないようにする、ってのが本来取る手で――

 その先に、好き放題にしてる、『神(仮)』を打倒する、ってのが最終目標――だった」

「――だった?」

「ああ、心配すんな、目的そのものが変わった訳じゃない」


 じゃあ、何故、とアウルが問いた気だが――いいからまずはシャンデリアから降りろ、お前。


「『賢者』『魔王』『勇者』――あいつ等が来れなかった『軸』だ、これは先ずいいか?」

「ええ。でも、大局的に見ると、『接がれし者イュムペート』の大元みたいなのも居ますし――」

「つまり、俺たちの知って居るあの『未来』――

 もっと前から『予定』に書かれてる可能性が高いと思わないか?」


 何せ、身内であるはずのエルフ――まあ、身内の認識で無い可能性もあるが――

 それを実験材料に使う様な連中だ――レムナエクのシャルの事を思い出しながら、呟く。


「もし仮に、エルフ――

 『神の枝アールヴァン』と呼ばれてる連中の、『目的』の過程にあの状況があるんだとしたら?」

「――世界にあの気持ちの悪い『人間型』が蔓延する事が『過程』って――

 何を目的に設定すれば、そういう演算結果に成るんですか」

「さてね。御偉いアールヴァン様々の考えてる事なんて知るかよ。

 これも単なる想像だ――だがお前、あれが『最終目的』だと思うか?」


 正直、ゾンビゾンビしてる奴が蔓延してる方がまだマシだよ、あんなの。


「――ここから見ての、異世界にまで蔓延するのが、目的?」

「そう思えるよな。『賢者』から貰った知識だと。

 だが、それだって想像の域を出てない――

 俺ら、『神』か何か知らんが、あの未来へ持っていった『存在』の『意図』を全然知らんしな――

 知らなくても、邪魔は出来るから、知る必要はない、とも言えるんだけど――」


 其処まで言うと、アウルは頷く。


「――つまり、この小競り合いに焦点が集まっているうちに、出来るだけ情報を集めようって話ですか。

 戦争そのものは、見ない事にして――」

「手出ししないだけだっつうの」


 ……嫌そうな顔すんなよ。

 世界も救いたいが、他にも救いたい奴がいる。

 その為なら、多少汚い手でも使うさ。


「なんというか、呉用さんと会ってから、生き生きしてますね、ジン。主に、黒さが」

「『綺麗な目標の為の汚い手』を平気で使う大人を見て、俺も学んだのだよ、アウル。

 ――やるからには、容赦無用、とな」

「元からじゃん」


 うっせうっせ、確かにそうだけど。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 理由。理由。理由。


 この世は、理由の坩堝だ。


 明瞭・不明瞭、

 理解可能・理解不能、

 利己利他・正義悪徳・背信殉教。

 顕正、冥理、教理、俗利。


 形は様々だが、理由と言うのは、それこそどこにでも転がっている。

 天命に見出しても良い。

 運命に見出さなくても良い。


 人命御大事と引いても良いし、自明の理が大事と踏み止まっても良い。


 一つ一つに、理解が及ぶか及ばないかは、別の問題として。

 この世界は、多様な理由の連鎖が動かしている。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「……理由、か……」


 本来の自分からは、最も遠い言葉を、彼女は呟く。

 本来の自分というのは、突き詰めればシステムの一端――それも、自発的な行動を取るものではない。

 所詮は、という言い方はしたくないが、『メニュー』の発展系でしかないのだ。

 呼び出されれば応え、呼ばれぬ時は、黙している――それが、『普通』。

 『異世界再開拓ユニット』としての『普通』は、そうである、と『アウル』は認識している。


 無論、自分が普通とは異なる事は自覚しているが……

 それを自覚し得る事自体が、普通ではないのだろう、とも思う。

 通常通りの挙動ならば、そんな事を自覚すら出来ない筈だ。

 あくまでも行動の主格は『開拓者=転世者』であり、自分の立ち位置は支援ユニット――

 あるいはその為のシステムでしかないのだし、思考し、推察するのは彼らの領分だ。


 それが出来る程度に最初から『柔軟性フレキシビリティ』を与えられていたのか――

 それとも『邪神イーリース』と呼ばれる存在によってもたらされたのかも、知らない。


 極端な話、自分は自分がこうやって、一方の存在に肩入れしている『理由』すら良く分かっていない――

 上げれば確かに、幾つか説明はつく。つくが――

 『開拓』を主目的とするに当たって、世界の安定性が必要だから――

 『開拓』の目指しているベクトルが、『敵』と仮定している相手と違うから――

 言葉での説明のしようはあるが、どれもこれも、自分の『感情』そのものには沿わない。


 『別世界からの存在を引き入れ、その存在を主格とし、世界を改革する』


 やっている事は、相手側も自分の属するシステムも変わらない。

 なのに、何故、『敵』と認識するのか。

 自分の『感情』に即して言うなら――『神』のやり様が気に入らない、のだ。

 ただし、それが何故気に入らないのか、という話に成ると、ぼんやりとしたモノになってしまう。

 ぼんやりとというか、それこそ『感情論』『反りの合う合わぬ』の話に。


 ――何が気に入らないの。アウル。


 溜め息混じりに、自分に問う。

 無論、答えは無い。

 答えは無い、というか――『気持ちが悪い』、という、至って非論理的な事に行き着く。

 ――そう。『気持ちが悪い』のだ。

 『端末』なのか『末端』なのか、はたまた『信奉者』なのかは知らないが――

 その意思か計画の代行者であろう、『神の枝アールヴァン』を見ていても分かる。


 明確でない目的、場当たりに思える介入の影、それでいて一個一個は洗練された戦略。

 ――老獪な手で、無邪気な悪戯をしてくる様な、得体の知れなさと。

 盛り立て盛り立て、それを一遍に滅ぼすような、琴線の読めなさ。


「…………」


 ジンが最初に居た軸――彼の言葉を借りるならば『旧暦』。

 そこでは、『帝国』と言う『作品』も、『聖樹教』という『結果』も、叩き売る様に滅ぼし去り――

 その先鋒であった筈の『異天者』達すら使い潰し――

 何をやったかと言えば、帝国と言う物の三分割。

 その挙句に、『接がれし者イュムペート』なんて物を大繁殖させるがままにする。


 そして――

 ――自分に本来在る筈の無い『感性』が忌避する、『あの光景』に全てが集約する――

 『賢者』の記憶の一端を受け取った、ジンを経由して垣間見た、あの景色。


 沈黙。静寂ではない。全てが沈黙している、あの光景。

 生物も植物も、風や日差しといった自然現象さえ。

 何らの躍動無く、必要な所に、必要な分が配分されているだけ。

 ――まるで、手入れの良く届いた、『庭』の様な、世界。


「――最終的にああなるのに、なんでこんなにもゴチャゴチャ掻き混ぜに掛かってる?」


 そんな風に呟いて、少し沈黙し――溜め息を吐く。


「……最初から『人間』だったら、もっと分かったのかもなぁ……」


 しみじみと語るその存在の頭上を、変わらずに、光の帯が流れる――


 ――人間でない、というのは、アウルがずっと考えてきた事だ。

 ――出自が違う。肉体が違う。存在が違う。

 メイデン種という、『受肉した精霊の様な存在』――その肉体に、さらに間借りして居る自分。

 『たましい』だけで魔素の流れを往還し、その場の魔素を使って、擬似的な肉体を構築すら出来てしまう自分。

 この世にそんな『術式』を使える存在は――居るかもしれないが、まだお目にかかっていない。

 『特別』と採るか、『特殊』と採るかの問題なのだが――

 アウルには自分が、『まともな存在』とは思えないのだった。


 普通なら、薄気味悪がられても仕方の無い自分を――

 ジンもシオもアビーも、さして気にする事無く受け入れてくれる。

 ――だから、自分に出来る事で、皆のバックアップをしたい。

 それが例え、誰にも知られない暗躍の形であったとしても――


 或いは、誰よりも人間らしい『人外』の少女は、密やかに決意を重ねるのだった。

 まるで――心に言い訳をするように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ