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【05】/01


 『禁裏』・『内庭』・『外苑』の三重環からなる、大陸の『冠』――

 新年を祝う明りに照らされ、帝都『エイバロニア』は、華々しい夜を迎えていた。

 幾重ものドレスを着た貴婦人――『右手めて』には花束を、『左手ゆんで』には剣を。

 吟遊詩人の類からは、その様に形容される都市は、晴れやかな空気で人々を迎え入れている。

 普段ならば、上級の役人連中、或いは衛士位しか歩いていない禁宮の周囲も、どこか浮き足立った空気である。


 しかし。『禁裏』の更に深奥。

 皇帝の私邸たる『金葉宮』に集った面々に、それは無かった。

 極私的な会食、という話ではあるが――

 『皇帝』が『皇継』と顔を合わせるという事の意味は、その場の誰もが理解――


「……ふぁあ」


 ――していないのが一人居る、とベルは頭を抱えた。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「……失礼。ここ数日、碌に寝てないもので」 

「いやはや、いかに控えの間と言えど、『四位フェル』様の従者は豪胆な事で」


 『一位エノ』の連れてきた従者の、あからさまな蔑視が刺さる。

 ――名の知れた連中ではなく、貴族連から適当に見繕って連れて来ただろう事は把握出来るが――

 油断を誘う演技とか、そういう風に捉えての当て付けなのかは分からない。

 ――もっとも、油断はされていても問題ない。

 こんな程度の連中に油断されようが、何の問題も無い。


 ……ああ。何ら問題ないとも。

 こちとら、『次の段階だ』って言われて、寝食から何から区切り無く修行して――

 『帝都』に入ったの今日の昼だってんだ、眠いっつうんだよ。

 おまけに、入ってみて分かったけど、この場所、そんな簡単に皇帝に近づけないじゃん。

 『暗殺警戒』とか、まるで必要なかったと思うよ、正直。


 ――まあ、そんな事は言い出しても限が無い。

 俺の今すべき事は、待つ事。

 ――そう。この扉の向こうで続いている、会談の結果が出るのを待つ事だ。


「――気に入らんな」


 ……気に入らなくて結構なんで、放って置いてくださ――

 おい、待てって、そこの『武官』。態々立って行くなよ。


「如何に年少に見えようとも、この場においての立場は対等。

 皇帝陛下の御前に居ると代わらぬ場で、それを弁えぬ態度はなんだ?」

「――それを言うならば、その少年の方でしょう?

 皇帝陛下の御前と代わらないと仰るが、その御前であくび等――」

「私は、先刻来の貴殿の口振りについて言っているのだ。

 貴殿が貴族の内で何位のものかなど興味が無い。

 そして、そちらの少年がどんな事情を抱えているかも知らぬ。

 だが、貴殿ののたまう言葉の端々に、この場の全員を見下しているのが見て取れる」

「――それは、失礼――」

「もう一つ言って置こう。ここは町場の酒場では無いし――

 先程から口説いている相手も、皇帝陛下に直属のメイドであって、女給ではない。

 ――場を弁えていないのはどちらであろうな」


 ――いや、さっきからその人五月蝿いけど、煽らないでもらえますか、『二位デュラ』の従者さん。

 面倒臭くなるばかりだよ、ほんと……


「――ふん、ロアザーリオの田舎猪に、貴族の挨拶を理解せよというのも無理か」


 ――不意に横から別のが出てきて、五月蝿い方はニヤニヤしながら下がる。

 用心棒付きでイキってたのかよ……『一位エノ』は、何故こんなのを連れてきたし。


「……侮辱にすら成らんな。確かに我が家はロアザーリオでも田舎――そして、『猪』とは『勇猛』の象徴だ。

 上っ面ばかりの情報を信じているから、罵倒する言葉すら薄っぺらくなる」


 だからー!! なんで煽るんだよ!? つか、こっちにやれやれって視線を向けるな!?

 ていうか、『三位セレ』に付き添ってきたお前ら、何か言えよユートとクランツ!!


「貴様――」

「その位にして置け。ハルアモンの御家の。

 『金葉宮』で諍い事など、冗談にもならんぞ」


 つかつかと歩み寄ったベルに、相手は一瞬怯んだ様子をみせる。


「……流石、ナハルの御家の方は、滅びたりといえど、良くご存知で」

「――――」


 ――支援砲撃にイラ付いたのは分るけど、その笑顔はやめようよ、ベルさん……

 ……というかもう、『THE貴族こっち』は、方々を煽る為に連れてきたのかな、『一位』は……


 ガチャっ


 場がヒートアップしてきたところで、不意にドアが開いた。


「――陛下が余興をご所望です。どなたか剣舞を――」

「……私が出ましょう。で? どなたかお相手していただけますかな?」


 ハルアモンとかいう奴が煽ってくる。

 ――ここで、大仰にあくびが出た。あくびをした、じゃないです。マジ欠伸。


「――少年、余程自信があると見えるが?」


 ……そうなるよね……


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――剣は刃引きしています。当たっても切れる事はありません」


 そう、衛士に言われながら剣を渡される俺を、シオは意外な目で見つめていた。


「――何があったの?」

「……そっちこそ、何があって余興って話に?」


 そう呟くと、シオは頬を掻いた。


「何って言われても……今の時点での程度が見たい、とか言われたけど。

 『魔術でも披露しますか?』って言ったら、場がシーンと……」

「なるわ、そりゃ。お前、自分の能力をもう少し自覚しようよ」

「『ドラウプニル』でお茶濁そうと思ったんだけどなー……」


 で、と言いながら、シオはこちらを向く。


「……どうするの? ハルアモンの家柄のあの人って、魔法剣士だった気がするんだけど」

「――どうと言われても。手出しなしでいいよ」


 ――笑って頷くなよ。


「ちょっとの間だったけど、どのくらい強くなったかなー、って、少し楽しみで」


 ……そんな上等なもんじゃないって。


「――いかがされた? 陛下がお待ちだぞ?」


 だからー。みんななんでそんなに好戦的なんだよ。

 この一週間で、俺お腹いっぱいなんだってば。

 相手が剣を振りながら、その感触を確かめているのを遠目に、


「……まあ、仕方ないか……」


 俺は剣を構えつつ、テーブルがどけられたスペースに向かう。


「――さあ、では」

「陛下。合図を」


 相手と『一位』に促され、皇帝は頷く。


「――始めよ」


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 どれほどの才能が有ろうとも、と、ハルアモンと呼ばれていた男は思っていた。

 しかし、それは決して侮りの類ではなかった。


 『家格』の絡みだけで付いて来た連中とは違い、自分は、廷臣派の中でも武腕で上がって来た人間である。

 努力を怠った事は無いし、相応の試合にも戦場にも出た。

 対する相手も、『四位フェル』の従者に付く程だ、弱くは有るまい――

 だが――見目にはそこまで筋肉質とも思えない。

 つまりは、相手と自分での、生きた日数の違いが、勝敗を分けるだろうと。


 相手に向けて、とん、と疾駆する。

 魔術を禁じられている訳ではない。『筋力増強』と『跳躍』の魔術を絡めて、相手に跳ぶ。

 この一撃が決まらずとも、其処から連撃に――


 ――ぃぃぃぃぃいいいいん!!


 金属同士が擦れ合う音が聞こえた、と思った瞬間、自分の脇腹に衝撃が走った――次いで、全身に衝撃。

 ――剣筋に剣を合わせて、それを逸らしながら、一撃を喰らった?

 床から立ち上がろうとする自分に、剣が伸びてきて止まるのを認めた。


 ハルアモンは、脇腹から突き抜ける痛みに、気絶し、それ以上の事を考えられなかった。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 目の前で起こった事に、デュラは目を丸くした。

 ハルアモンとか言った男の――正確を期すなら、その『家名』は知っていた。

 バーフェルブールに十何もある剣術流派の一つ――そして、決して『お飾り』ではない流派の一つだ。

 『実戦寄り』と『儀礼寄り』の大別の中では『実戦寄り』。

 手を合わせた事は無いが、あの初速の動きは、中々だった。


 その一撃に刃を合わせ、その勢いを呑むように体を流し――

 その流れた勢いに力を上乗せして、相手に逆に叩き入れる――見事と言うよりは、『美事』なカウンター。


 以前、手合わせをしたイゾウも似た動きをした。

 だが、それは、イゾウ=オカダという稀有な『剣鬼』だから出来るモノと思っていたが――

 ――まさか、ここまでこの少年が化けて来るとは。


「――ファルガス。あれ、出来るか?」

「……剣術というよりも、体術の流れに近く感じます。

 相手のあの直線的な動きを鑑みれば、出来なくは無いでしょうが――」


 相当な『打ち合い』を経験せねば、出来るとは言えない。

 初手で、相手の動きを、あの年恰好の少年が……そんな風にファルガスと呼ばれた従者は独白する。

 口調こそ呆れるような口振りだが、その目は興味深げに光っている。


「――花栄殿の言った事。そして、何故私に見るべきと言ったか、分かりました」

「そうだ。花栄は恐らくは、あれの才を察していたのだろう。

 あって欲しい筋では無いが、もしもあれと『敵対』するとなれば、お前が要だ。

 ――期待するぞ、『アルヴァール=ファルガス』」


 デュラの言葉に、その従者がニッと笑う。


「なんと。そちらのその青年、『百騎斬獲』のファルガス殿か」


 不意に、横から掛かった声に、デュラはそちらを向く。


「――自分の手下が手も無く潰された割に、上機嫌ですな、『兄上』。」

「ああ、何。敗北から学べる事も有るさ――

 アレの様に、鼻っ柱ばかり強い奴は、一度粉々に砕かれた方が良いだろう。

 実際の所、あれだけ見事に叩き伏せられれば、自分はまだまだと目が覚めよう」

「――貴族連への見せしめ、ですかな?」


 さして面白くも無さそうに言う『二位』――『一位』は両手を上げる。


「『他の勢力如何なる者ぞ』、なんて言う連中が多くてな。

 『自負心』を持つのは悪いとは言わないが、バランスが必要だ。

 お前の様に、素直に従ってくれる相手が居るのは羨ましいよ、『弟殿』」


 兄、弟、という皮肉を応酬しあう二人に、傍の『三位』が溜め息を吐く。

 ――立場上、『皇継』は、その順位に応じて『兄弟』とされるわけだが。

 この二人の口にするそれは、あまりにも暗く重い。

 調べてみたその闇はあまりにも深く、茫洋としていて、手出しを躊躇わせた。

 ――だが、この場では、表向きだけでも、取り繕わなければ。


「――その様にカリカリと言葉を交わしたのでは、親しげな言葉も意味が無いでしょう」

「うむ。確かにそうだな、『妹殿』」

「……無理に、そう呼ばなくても結構ですよ、『一位』様」


 口調は親しげだが、その言葉の内にはなんらの本音も無い。

 誰かを褒めるのと同じ口調で、誰かを殺す。

 この男には、そんな恐ろしさが在る。


「――中々、良い臣下を持ったな、『四位』。

 アルツム=ハルアモンは、先の御前試合でも良い成績を収めた剣士だ。

 酒に酔っていたのか、些か直線的ではあったが、それを引いても、あれを迎え撃つとは、見事」


 皇帝にそう声を掛けられ、『四位』が一礼をすると、再びテーブルが整えられていく――あっさりとした物だ。


「――ユート。手当てを」


 『三位』の言葉にユートは頷き、ハルアモンを壁まで引っ張っていった。


「――ふむ。興味深い。実に良い会談であった」

「――陛下。ここの全員が興味を持っている事をお尋ねしますが――」

「『選帝の儀』の内容について、であろう?」


 『一位』の言葉に応じた皇帝の言葉に、場の空気が緊張する。


「もう少し待て――今細部を詰めている。

 だが、噂の通り、『試争探索シーク・エグザム』を基本とする事に代わりは無い。

 また――『空虚の野ベル・リガ』をその舞台の一部とする事も、事実だ」


 皇帝からはっきりとした言質を取れたからか、『一位』について来ていたもう一人の従者も頷いている。


「――とはいえ、折角集ったのだ。もう一つ、情報を与えよう。

 皆それぞれに長所がある。それは以前も言った。

 また、時の運と言うものもある。この座に座っていれば、手痛い敗戦もある。

 それ故、期間を長く設ける――その分の難題と思っても良い」

「……国の内側が定まらねば、他国より攻め入られる口実となりませんか?」


 そう呟く『一位』の言葉に――


「私を誰だと思うている。よしんば、『西方国』でも攻め入ってきたとしても、

 私が手ずから軍を率い、打ち倒そう――それに」


 皇帝は、薄く微笑んだ。


「――国が荒む様な競い合い方をすれば、その分、この座に付いた後が大変だぞ?」


 数多の政敵を粛清した人間の微笑みは、その場の空気を凍らせるに十分だった。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 何て笑顔で微笑みやがるんだ、このおっさん……サイコパスかなんかかよ。

 国の頂点がある種の異常者って、よくこの国もったな……

 ……いや、異常者だからもたせられたのかも知れないけど……


「さて、褒美を取らそう。そこな少年。寄るが良い」


 ……褒美とか、要らないッス、帰って寝たい。

 というか、今のあれ、卑怯な手を使って勝ったようなもんだしな……

 ……いや、酒に一服。あんまり効かなかったみたいだけど。

 あと、『なんのまだまだ!!』とか言われたら面倒なんで、神経を過敏にする奴を一撃に添えて。


「武器、防具、褒章金。好きなものを選ぶが良い。準備させよう」


 わー、こんなとこにもロマサガ要素が?

 ……とか言ってる場合じゃあないな。

 剣を下さい。その剣でいつか自分を倒すか。おいおい、そう来るか、何て成っても困る。

 防具もダメだな。同じに流れなる可能性が。

 金……金金金!! って流れになってもなあ……

 ……ああ、ダメだ、眠くて頭が『ロマサガ脳』になってる。おまけに疑り深くなってる。

 受け取っても受け取らなくても角が立つ、『情に棹差すと流される』、漱石か。


「――陛下。その他を選ぶ事は叶いますでしょうか?」

「ほう? なんだ?」

「あーと……不躾かとは思うのですが、『陛下と個人的に話をする権利』を頂いても?」


 ――おお、い、笑顔が怖いよ、ニガァアアっって感じに笑うんじゃねえよ。


「――面白い事を言う。さして面白い話は出来ぬぞ?」

「面白いかどうかは兎も角、興味深いので」

「よろしい。その権利を与えよう。お前が望むならば、叶う限り時間を設けよう」


 そう言って皇帝は立ち上がる。


「では、『選帝の儀』に関して、正式な事は後日通達する。皆、会食を楽しむが良い」


 ――き、切り抜けた……眠い!!

 ――で、皆さん、なんでそんな顔でこっちを見てるんです?


「……恐れ知らずだな、ジン=ストラテラ」

「――眠いんですよ、デュラさん」

「あの男を恐れるゆえ、『個』として会話しよう等という者は居なかった。

 だがお前は、さらっと約束を取り付けてしまった――」


 肩を叩くなよ。脳回らないなりの最良の選択だって。


「気に入らぬ、の感情の動きで切って捨てられない事を祈るぞ」


 ……そこまでやばくは見えなかったんだけど、そういう人なんですか?


「……何故私を見る」

「いや、個人的にベルさんは知ってるかと」

「デュラ殿の言うとおりの部分も有る」


 ……マジで?


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