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 ……――朝露の零れる音。

 何処へ行っていたのか不明瞭な意識が、収束していく。

 自分を形作る『体』の隅々に、意識が満ちていく――

 朝のやってくる方から、光が差して来る――

 その光が、自分の形を浮き彫りにしていく。

 石畳の道端に根付いて在る、一叢の草を――


 …………

 ……


 ――おっおっ。

 どっかで読んだ事のあるSSみたいな展開だお!!


 じゃねえよ。

 どうなってんだよこれは。


 『転生しました』――分る。

 『異世界に転生しました』――まだ分る。

 『異世界に転生したら石畳の道に咲いていました』――コレハ、ワカラナイワ――分ってたまるか。


 ……あれかなー、あの変な祠にお参りしたせいかなー……

 あ、おっぱいでっかい獣人通ってった。すばらしやすばらしや――

 ……って、『植物』になってるからか、言う程楽しくも嬉しくもないなー……


 ・ ・ ・


 『異世界転生』する事になった、俺の前世について触れて置こう――

 ――といっても、極端にドラマチックな事はない。

 普通の家庭に生まれ、普通に成長し――16の時に、性質の悪いインフルエンザで死んだ。

 多少若かったかなー、とは思う。

 なので、異世界転生する素地ってなると――

 中学の時の修学旅行で行った京都でお参りした、あの裏寂れた祠ぐらい……賽銭、もっと弾めば良かったか……


 ――と、思っている。実際は――よく分からん、という。

 記憶が曖昧なんで、正解かは知らない――ディテール思い出せるけど、他人事感が勝つんだよなぁ……

 こう、夢の中で『ああ、これ夢だわ』と気が付いた時の、夢の自分を冷静に見てる感じというか……


 ――というより、正解だからなんだ、という。

 現世、草だぞ。草。過去生詮索してる余裕はねぇですよぅ……


 ・ ・ ・


 まあ、転生先が道端の草とか、話が酷すぎていっそ草生えるが――嘆いていても仕方ない。

 ……ああ、草草言ってるが、メニュー画面的なものが見れたので、種族確認出来ただけだ。

 自前では体を動かせないし、感覚器に当たるだろうパーツが、花の部分にあるみたいで、上しか見れないんだ。

 ……実際問題、動かせない事は無いんだが、『伸びる』なんだよ、能動的に出来るの……方向決められないし。

 だから、実際は俺は、自分の茎も葉も見たことがない――視界の端には映るけど、自分のかの確証が無い。

 ――なんで思考出来てるのか? それは知らん。本気で知らん。


 ……ともあれ――草なら、そのうち世代を移って、枯れるだろう――

 今はまあ……この不便な状態で、少し待とう――次はヒトだといいなー……




   ###########

   #――250年後――#

   ###########




 おう、ふざけんなwww

 道が廃れて誰も通らなくなった上に、枯れても新芽出て横に這い伸びて死なねえじゃねえかwww

 おまけに種も出来ん。ひたすら蔦状の自分が広がって行ってる。どんな種類だよ。


 ###ピコン

 ###種族・『魔草種』

 ###支族・『フェバルス=ディヴァカミナス』


 違う。メニューは呼んでない。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 とまあ。

 訳の分からん植物の体をもて余しながらも、生きていた。

 次第にコツが分かって、『意識』の置場所がある程度自由に成ってきたのと――

 繁茂の度合いが自分の想像を越えて来たので、ネット見る感じで色々見れる様に成ったしな。

 暇潰しには事欠かなかった。


 それがある日、あんな事が起きるとは、考えも及ばなかった。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 250年の繁茂が過ぎて、其処からも更に数年が経過した頃の事。


 俺は相も変わらず、よく茂った自分の各部を、あっちへこっちへと飛び回っていた。

 と言っても、俺自身の『花』はまだ見た事が無い。

 どういう按配なのか花同士が、割と離れた位置に咲くらしいんだな、これが。

 まあ、別にどうしても見たいってもんでもないけど――

 ……顔ついた花とかだったら、死にたくなるキモさだしな……


 ――死にたくならないのか、って疑問に思う人も居るかも知れない。

 人間に近い意識を持った状態で、250年間植物として繁茂し続けるとか――と。

 ――まあ、最初の頃はひたすら死ぬ術を模索もしたけどね。植物だけに手も足も出ないし。

 それにまあ、最初の内は主街道だったのか、人通りもそれなりに有ったし――

 近くに屋台の飲料屋が来てたりもして、人間の話し声も聞こえてたしね。暇はしなかった訳よ。

 ――ああ、一時は酒場が建ってた事もあったな。何で廃れたんだろ……


 まあ、この体はこの体で中々面白い。

 ――何せ、『メニュー』が出てくる世界だぞ?

 そんな世界に有るものと言えば――?

 ――そうだね、スキルだね。

 言っておくが、250年間ずっと二酸化炭素を吸って酸素を吐く事にだけ従事してた訳ではない――

 ――このスキルを見よ!!


 ###ピコン###


 ###スキル:語学###

 ###言語:ユマノス語:Lv99

 ###言語:オルキシア語:Lv99

 ###言語:古イルヴァジア語:Lv99

 ###言語:古マナス語:Lv99


 ああ、待って待って、違う違う、語学留学しに来たんじゃないって、メニュー、それじゃない、戻れ戻れ。


 ###スキル:肉体由来固有スキル###

 ###分泌:強可燃性体液分泌:Lv10

 ###分泌:催眠性体液分泌:Lv17

 ###分泌:異常量花粉分泌:Lv59


 ふっふっふ――どうだね、このスキル――

 ――って、待って、そんな冷えた目で見ないで。

 花粉とヤードポンド法は滅ぼされなければ成らない、って、俺の花粉じゃないし。


 と、とにかく、こんな風に着々とスキルを増やしていた訳だ。要はレベリングだな。

 いわゆる『経験値』は、体が成長して伸びていくだけで勝手に蓄積するし、未知の経験をすると大きく入る。

 例えば――こんな風に。


 ・ ・ ・


 ###ピコン###


 ###繁殖範囲内で、大規模戦闘が開始されました。

 ###初めて魔族の血を吸いました。

 ###経験点・+5000

 ###初めて人族の血を吸いました。

 ###経験点・+1000

 ###初めて魔術の炎で焼かれました。

 ###経験点・+3000


   ・

   ・

   ・


 ・ ・ ・


 ――いや、違うよ、吸血植物じゃないよ。地面に落ちてきたんだよ、血が。

 こっち来て百年ほどの時に、大規模な戦争が俺の一部の上で繰り広げられたわけよ。

 そしたらだな。『したらもうウィリーさ!!』って勢いでスキルが発生してだな――

 発破出来る葉っぱを備えた、謎植物に進化してしまったのだな。うん。


 ……とまあ、そこが前提な。

 今正に起こってる、この――


 ###『勇者』の血を吸いました。

 ###『魔王』の血を吸いました。


 『最終決戦』が俺に『栄養けいけんち』を供給するという、謎事態のな。 




 # # # # # #




 ロシュ暦1545年。

 かつてはベル=アレア――『平穏の野』と呼ばれた地。

 150年前の、人と魔の大戦の決戦地。

 そして今や、ベル=リガ――『空虚の野』と呼ばれる地。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「最期の地に、随分と色気の無い場所を選んだものだな――」

「そうかね――旧き英霊たちの眠る地だぞ? 雌雄を決するにはいい場所だ。

 それに、ここなら、なんの遠慮も無く、互いに力を振るえるだろう?」


 片や、青と白銀(しろがね)の――片や、赤と黄金(こがね)の人影が、それぞれ一つ。


「――全く。厭な物だ」

「何がだ?」

「――俺達は、何千何万と言う身勝手な願いに押されて、この舞台に上がっている。

 そんなに滅ぼし滅ぼされたいなら、自分達でやれば良いだろうに。

 そうは思わないか? 『勇者』殿」

「――その結果が、全人口が半減した例の大戦だ。

 どんなに化け物染みた力でも、そのぶつかり合いが大陸を破損する程でも――

 我等の様な存在に仮託するのが、いっそ平和的な解決なのだろうさ――『魔王』殿」


 互いに深々と溜め息を吐き――その戦いは、再開した。


 # # # # # #


 ――等と、現実逃避のモノローグを入れたくなる光景が、俺の目の前を走っていく。

 『勇者』と『魔王』の放ち合う力のぶつかり合い――

 その余波が、地表の土を削り、大規模な亀裂を穿ち、撒き上がる粉塵が、空を黒く覆っていく。


 ――あのだな、なんで俺の上でやるんだよ!?

 もっと別の場所あるだろ!! 魔王城とかよ!?

 って――ぎゃぁぁ!! 数ヘクタール分が一瞬で燃えた!?

 やめ、やめろお前ら、何年掛けて広がったと思ってんだこのやろう!!

 って、発声器官無いから伝える事も出来ないじゃねえか、面倒臭ぇなこの体!!


 とにかく何とかしないと、繁茂する陸地が無くなりかねない。

 この上、海の中から再上陸を期して何百年も這ってとか、それこそ考えるのを止めなきゃならんわ!!

 塩水では死ねないらしいしな、この体(実験済み)!!

 なんとか――なんとかしなければ――どうする、どうするよ俺――


 ###ピコン

 ###経験が一定値に達しました

 ###新しいスキルを使用出来るように成りました


 な、ナイスタイミング!!

 なんだ、『【ブラ○ンド・ガー○ィアン】!!』とか、ド派手に茨の森展開出来る奴か!?

 いや、考えてる場合じゃない――あの二人、めっちゃビカビカ光ってるし!!

 だからふざけんなって、何が『これで終わりだ』、だ、このバカ!!

 ええい、使用、使用、新スキル――むーん――これをこうか!?


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 勇者と魔王が、それぞれ最後の一撃として繰り出した、それぞれの最強の技――

 その攻撃が、重なるか重ならないかの、空間に――『ソレ』は姿を見せた。


 総体としては、歪な球体――色の悪い石榴。それに棘が何本か出っ張っていた。

 禍々しい、と言うには何処かチープなそれを、勇者も魔王も無視して更に踏み込んだ瞬間――


 ぱん


 不意にソレは弾け――


 ――ババババババババババッ!!!!


「な、っ!?」

「ぐぁ!?」


 勇者と魔王は、無数の細かく重い一撃を全身に食らって、吹っ飛んだ。


 弾けた球体から飛び散ったモノは、所構わず撒き散らされ、その先で更に破裂する。


 ――それは、先程の勇者と魔王の戦いにも引けを取らない、破局的な光景だった。


 ・ ・ ・


 ……どんなスキルだ、これ。

 俺は、俺は『メテオ』を唱えた心算は無いんだが――

 め、メニュー――説明は――


 ###特殊スキル『不運惨果(デス・バイ・バッドフルーツ)


 ――何?


 ###非常に不安定な種子房を上空に発射し、

 ###そこから無数の種子が不特定方向に飛び散ります。

 ###種子も不安定な為、当たると小規模な爆発を起こします。


 ――メテオじゃないけど、メテオだった。

 てか、自分で飛んで破裂して、ばら撒いた子が更に爆発するって、なにこのクラスターココナッツ爆弾……


 ――メキっ


 ……やりすぎた。確か、この辺りって空洞なんだよな、下――


 ――メキメキメキ――ザァァァァァアァ!!


 ああ、自業自得とはいえ、魔王と勇者と同じ穴に流されて落下して行ってるんですけど――


 ザザザザザザザザ――!!


 ああ、誰かたすけてーぇぇぇぇぇ……


 ・ ・ ・


 この日の後。

 勇者と魔王は、その消息を絶つ。

 歴史の1つの曲がり角、丁字路だった筈のそれを、十字路にしてしまったその存在を――

 まだ誰も気を止めていない。


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― 新着の感想 ―
[一言] 脱字です 分る→分かる
[一言] まだオープニングですが、とても面白いです!
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