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俺もちょっと言いすぎたかもしれない。たとえ野田さんが俺の予想通り何かひどいことをしていたとしても、それをそのまんまユキに言ってしまうのはいけなかった。やはり、誰かのことを心配して相談に乗ろうとするときには相手が話すのをじっと待っていないとこういうことになるらしい。
でも、本当にひどいことをされたんだろうか。そんなわけないから野田さんをあそこまで庇ったのか。あいつも不安定だし一概には言えないのかもしれないけど、ただの俺の勘違いだったんじゃないか…悪いことをしてしまった。
それにしても、最後に玄関で振り返って見たユキの目に浮かんでいた涙はなんだったんだろう。俺のせいなのか、それとも――
「――ゆう…くん」
「…え?」
声と物音がした玄関の方を見ると、そこには紛れもなくユキが立っていた。
「だまって、あとついていっちゃった。さっきはごめんなさい。ほんとうに…私なんでこんななんだろう」
「ユ…あっ」
ユキは語尾を言い終えないうちにその場に崩れ落ち、声をあげて泣き出してしまった。俺もその場にしゃがみ、そっと抱き寄せ、優しく撫でてやった。さずがに今度は拒否せずに俺の背中に手を回し、首に顔をうずめてきた。
「ほんとはね、悠くんが心配してくれてると思ったら嬉しかったんだけど…いつもいつも悠くんは優しくしてくれるのに、私はそれすら拒んで…ううっ」
「まあ、泣くなよ…俺の方も悪かったな」
「悠くんが謝ることなんて一つもないじゃん…」
「いや、無理やりお前の話を聞き出そうとして肝心のお前の気持ちをちゃんと考えていなかったからさ。お前、あのとき混乱してたんだろ?そういうときにいきなり人をむやみに疑うような変なこと言ってますます嫌な気分にさせちゃって、ごめんな」
「…」
「―――なあ、今日は泊まってけよ」
彼女は俺の首に顔をうずめたまま、黙って小さく頷いた。
それからユキはずっと黙り込んで、俺が作った夕飯にもいつもの半分ぐらいしか手をつけなかった。風呂に入るようにすすめても頷くだけで、いつまでもソファーから動こうとしなかったので結局俺が半ば無理矢理風呂場に追いやった。ただでさえユキの風呂は長かったが、今日は1時間半は入っていたので溺れたのかと思って慌てて確認しに行くほどだった。たまに間違えてユキの入浴中に風呂場に足を踏み入れようとしてしまう時があるが、そういうときにするように水をかけてきたりシャンプーやら石鹸やらを投げてきたりはせず、ただ俺の顔を悲しそうに見上げるだけだった。
ユキの長風呂を待っている間、何もすることもないまま、なんとなくパソコンをいじったり無駄に掃除をしたり布団をしいてみたりしたが、やはり何も変わらなかった。