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メドニンで、両手にヘナアートをしてもらう

★ガベス~メドニン

翌朝は、7時半のバスに思いっきり乗りそこなう。

夕べの隣の部屋のおじさんはもう旅立っていた。

10時の便に乗ることにしたけど、途中道に迷ってチケット売り場にたどり着くと、今そこに止まってるバスだから直ぐ乗れと言われて慌てて飛び乗った。

そして、更に南のメドニンに向かう。途中から、隣に素敵なおじいさんが座った。

マグルーブと呼ばれるスターウォーズでも使われた茶色のフード付きマントに木の杖。

ごつくシワシワの顔立ち。

完璧にかっこいい。

写真集に載りそうなおじいさんだ。

「シーナ?(中国人か?)」

「ノン。ヤバニーヤ(いや、日本人です)」

ふむ。とうなずくおじいさん。

言葉は通じないけど、カーテン下ろせとか、メドニンだよとか、目と杖で語る(笑)


バスを降りると、ガイドブックに書いてあるバスステーションではなく、街中のようだ。

便利だけど、一体ここはどこよ。

英語の表記もないどころかフランス語表記も見当たらないので見当がつかない。

アラビア語ばっかり・・・今風なカフェなら英語話す人がいるかもと思って聞いてみる。

なんとか通じてホテルへ向かう。

ホテルの隣のレストランのおじさんに受付はどこかと聞くと

「ホテル?ここだよ!」と言うが早いが荷物を奪ってレセプションに連行(笑)

「お礼はいいから後で食事しに来てね!」

とお礼を言う前にそう言ってニッコニコで戻っていった。


ホテルはボロボロだけど、意外と高い。

1泊なのでシャワーなしの一番安い部屋へ。

早速食事に向かう。

たまにはお肉でも食べるかとロティ(鶏のグリル)を頼む。


ロティを頼むと前菜(?)としてルビア(えんどう豆のトマト煮)が付く。

パンはどこでも食べ放題でサービスされる。

普段は安いルビアだけを頼んでパンにつけて食べているので今日はかなり豪勢な昼食だ。

アラブや中東を旅すると嬉しいのがこのパン。

とても素朴で小麦の自然な甘みと優しい香り。保存料などの添加物一切なし。

とてもおいしいのにとっても安い。朝焼きたてにありつくと、手が止まらない。

そんな訳で、旅の最中も痩せそうで全然痩せない。


食べ終えて、店のおじさんにゴルファへの道を聞く。

フランス語なのでほぼわからないけど、一生懸命教えてくれたので不思議となんとなくわかる(笑)

お礼を言って道を進んで行くと、ピンクの大きなオブジェが。

コムサ(フランス語で"like this")、とおじさんがガイドブックのピンク色の部分を指していた意味がわかった。

そこを曲がるとゴルファが見えた。おじさんのおかげだよ。ありがとう!


ゴルファというのは貯蔵庫や住居として使用されていた不思議な形の建物。

ここはそれがぐるっと輪のように並んでいて、建物は現在お土産屋として使われている。


中に入ると、観光客は見当たらず閑散としている。

来てもツアー客ばかりだからだろう。閉まっている店も多い。

端からブラブラと1軒づゆっくりと歩いてみる。


一人じゃ商売魂も火がつかないらしく、売る気まんまんで話しかけてくる人もいない。

英語で話しかけてきた青年が一人いたので、彼の店をのぞいておしゃべり。

都会と違ってのんびりしているので、なんだかリラックスしちゃうなぁ(笑)

青年も時間が限られているツアー客ではないので焦って売ろうとしない。


お土産屋さんで、商品を一つ一つ説明してもらうのが好きだ。

あちこちで見て知っていても、丁寧に教えてもらうとへぇーと感心したように頷いてしまう。

きれいに結晶している小さな「砂漠の薔薇」を「キレイ!」と言ったらくれた。


うれしいなぁ。欲しかったんだ。

お兄さんは、私のカフィーヤ(パレスチナ人がよく身に着けている赤×白のスカーフ)をファティマ巻きだよといってこっちの女性の巻き方で巻いて写真を撮ってくれた。


なんかお礼に買おうと、よく見かける色砂で瓶の中にらくだなんかを描いたものを買うことにした。

「いくらかな?」

「いくらでもいいよ」

「え?いくらでもって・・・わかんないよ」

「君はもう友達だから、払いたいだけ払って持って行ったらいい」

そう言われると困る。

仲良くなってから買い物をしようとすると、よく言われるセリフ。

身内価格でもぼったくりでもいいから決めてくれた方が楽なんだけど。

仕方なく、適当にポケットから小銭を掴んで渡す。

日本に持ち帰るのに割れないようにと硬いガサガサしたビニールをたっぷり巻いてくれた。

最後に一緒に写真を撮ろうと言うので近くの人にシャッターを頼んだ。

日本から写真送るね、と約束をしてゴルファを後にした。


この不思議な建物の裏にまわると、そこもゴルファ(カマボコ型の建物)通りだった。

おじさん達が地面に座り込んでゲームをしていたり、建物の2階を見上げると中でお茶を淹れているおじいさんが見えたり。

muze(博物館)の矢印看板があったので、それに従って行ってみる。

看板に沿って曲がっても美術館らしい建物は見つからない。

そこもゴルファが続き、門がある。

門のあたりにヒマそうな男たち。少し離れた所に民族衣装を着た黒人の若者。


私が近づくと、民族衣装の若者がこちらに向かって歩いてきた。

「見学かい?」「そう」「こっちへ」と門へ。 って言ってもどこがmuzeなの?

ここがmuzeだよ。そうなんだ(笑)門で入場料を払うと中へ案内してくれる。

あぁ。このゴルファ全体が郷土資料館のようになっているんだ。

中庭には古くからの彼らの生活が、人形や道具と共に紹介されている。

ベドウィンのテントや、嫁入りの時のお輿付きらくだの人形もある。

ゴルファの一部屋一部屋も、台所の様子とか、結婚式の衣装、羊の毛のつむぎ方など、

フランス語の説明文と共に展示されている。

彼が一部屋づつ、95%のフランス語と5%の英語とジェスチャーで説明してくれる。

私は普通の人の普通の生活にとても興味があるのでかなり一生懸命聞く。

石臼をまわしてみたり、羊の毛をならす櫛で引っ張って見せてもらったり。


最後に何故か世界中のお金を展示してる部屋があって、特にイスラム諸国のお金は

めずらしくて一つ一つじっくり見てしまった。

彼、アハメッドは面倒くさそうなそぶりも見せず、ニコニコしながら私の質問や感想に答えて付き合ってくれている。

あまりに時間をかけているので他の館員が心配して見に来た(笑)


外に出て、2階に登って写真を撮ってもらった。

「こっちは僕の部屋だよ。見たい?」

「え、ここに住んでいるの!?見たい見たい!」

と入れてもらうと、ベッドと服が数枚。以上。

隣の部屋は物置にしてるそうだけど、何もない(笑)

えらくシンプルな生活をしてるなぁ。


全て見終えると、ミントティのサービスがあった。

一緒に座ってお茶を飲む。

「これからジェルバ島からのフランス人の団体客が来るんだ。ここは個人の訪問はほとんどないよ。」

チュニジア南部は見所がいっぱいあると言うのに、殆どはジェルバというリゾート島からバスで1日ないし2日のツアーで駆け足で見てまわるんだって。


なんてのんびりお話してる間にツアー客到着。

他の館員がガイドとなって見学へ。

その間に他の館員がポットにお茶を補充。

たくさんの小さなグラスをお盆に並べ、庭から摘んできたミントをちぎって入れる。

「手伝ってもいい?」

「もちろん!」

許可がでたので自分もミントを入れる。


見終わった人たちに青年が「お茶どうぞ!」と勧める。

グラスを取って庭のベンチに座ってお茶をすする。

いつの間にか置いてある小皿にフランス人がチップをチャリンと入れる。

少しの間雑談し、トイレを済ませて、彼らはまた慌しく去っていった。


「今日の予約はこれでおしまい。これからスーク(市場)を案内してあげるよ。」

ほんと!?ラッキー。もう他のゴルファを見に行く気力もなかったし。


「おまたせ!行こうか。」

アハメッドは民族衣装を脱いで普通のシャツとパンツ姿になっていた。

あの衣装がいいのに。

「ははは。あれは仕事だから。普段は恥ずかしいよ。」

ということで、普通の姿になってしまった青年とすぐ近くのスークへ。

日用品が延々と続く。鍋釜、食器、石鹸・・・。

ヘナという植物の粉を見つける。毛染めにしたり、手に塗ったりする。

最近は日本でも美容院で見かけるようになった。

「これ買う。日本では簡単に手に入らないの。いくらか聞いてくれる?」

彼は値段を聞くと「安いものだから」と買ってくれた。

女性の髪留めやアクセサリー売り場では、プラスチックで出来た腕輪を買ってくれた。


次はお香コーナーへ。

お香はどの家にもあり、来客の時はいいお香を焚いてもてなす。

色んな種類があるけど、木片だったりガラスみたいだったり、全部自然の物なので、いい匂いだけど使い方がわからない。

青年が白い半透明の塊を取って

「これなんだか知ってる?ガムだよ。」と言って口に放り込んで噛み始めた。

お香がガム???なんだかわかんないけど、自分も噛んでみる。

うっ、粉っぽくて苦い。

でも噛んでいる間に味はなくなってしまって、ほんとにチューインガム状のものが口に残っている。

「ほら、嘘じゃないでしょ。これは胃にいいし、口もすっきりするんだ。」

確かにそんな感じ。

「これ好き?」

「うん。面白いね。知らなかったよ。」

そういうとまたこれも買ってくれた。

その時はわからなかったけど、後で調べたら、これは乳香らしい。

現地の人と一緒だと、ただ旅行者として一人で見てるより色々なことがわかって有り難い。


「ここから先はリビアエリア。全てリビアから来たものばかりだよ。」

リビアから!売ってる物は他とあまり違わないみたいだけど。

彼は又しても腕輪を買ってくれた。

「これ買ってもらったばかりじゃない。もういらないよ。」

「いや、買いたいんだよ。」

お茶1杯程度の値段だけど、なんだか貢がれているみたいだな(笑)

悪い女の子の食い物にされないように気を付けてね。


スークを一通り見終わって、お茶を飲みにカフェへ。

ガーデンカフェでカモが放し飼いにされている。

座っているだけだと会話が全てになる。

ガイドブックの会話例やフランス語会話本を開きながらのコミュニケート(笑)

「ねぇ、ヘナペイントを手にやりたいんだけど、あれっていくら位で出来るのかな。」

スースでヘナのデザインを並べているお店を見かけたけど、つけたら色が定着するまで濡らしたりできないので躊躇していた。

「うーん。男は普通しないからわからないな。」

彼は友達に電話している。

「僕の友達が君にヘナをしてくれるって。今夜彼女の家に行こう。」

あれ、もうやる話になってる(笑)まぁいいか。


夜7時、ホテルまで迎えに来てもらった。何か持っている。

「ほら、ダット(ナツメヤシ)だよ。一番いいグレードのを持ってきてあげるって言ったでしょ。」

秋はなつめやしの収穫期らしく、あちこちでナツメヤシが大々的に売っているのを見かける。

彼は1キロ入りの大きな箱をうやうやしく差し出す。

きゃー嬉しい!ナツメヤシは大好物。でも、さすがにキロは・・・(笑)

カバン一杯なのに。


タクシーで友達の家に向かう。

「僕はサハラ砂漠の出身だけど、これから行く家族も同じ町の出身なんだ。」

ナツメヤシと牛乳でもてなされる。

この組み合わせはアラブではベストなメニューなのだ。

3世代が勢ぞろいで、わいわいとにぎやかで楽しそう。

おばあちゃんはベルベル民族の刺青を顔にしていて美しい。

お父さんはとても陽気だ。

大体お父さんの気質でその家族の雰囲気も決まるけど、この家族はみな大らかで気さくだ。


彼女は10代後半だろうか。

姉妹やお母さんとビニール袋からデザインのシールを広げてあーでもない、こーでもないと決めるのにとても時間がかかった。

そしてこの緑色の粉に水、砂糖、レモンを入れて混ぜてしばらく置く。

手や髪にはオレンジがかった赤に発色する。とても不思議だ。

その間にシールをカットして私の手に貼っていく。

全部貼ったらペースト状のヘナを塗る。植物の青臭いにおいがする。

書いたら簡単だが、4時間近くかかった・・・。なんて呑気な人たち(苦笑)

終わった頃は私はされているだけなのに、へとへと。

写真を撮ってくれたが、見返すと自分だけ疲れきってやつれた顔をしている。


足もやろうと言われたけど、体力の限界を感じて丁重にお断りする。

塗った手はペーパータオルとビニール袋で包んで輪ゴムで手首を止める。

アハメッドにホテルまでタクシーで送ってもらい、鍵も開けてもらう。

お礼を言って、タクシーのおつりのコインから自分のタクシー代を取ってと言った。

ここからゴルファまで結構あるし、もう夜中だしね。

彼はためらっていたけど、今日色々してもらったお礼に何もできないからと言うと

申し訳なさそうに何枚かコインを取った。いい人だわ。

明日手を見せに行くと約束して、そのままバタンとベッドに倒れこんで寝てしまった。


翌朝、ビニールを取って手を洗う。

すると、まーかっかの手が!!!

すごいな。赤を通り過ぎて黒に近い位の色が着いてる。

ちょっと皮膚がゴワゴワと硬く感じられる。


荷造りをしてから、muzeへ。

うっかり通り過ぎたら、サダム・フセイン似の館長さんが(笑)呼び止めてくれた。

最後にまた中を見学して、お茶をいただいた。

入り口に昨日いた館員さんが。「聞いてるよ~。手を見せてよ。」というので、

ほらっ!と手を広げるとおおーっ。とニコニコ。

アハメッドも後からやってきて、素晴らしい!と褒めてくれる。

ヘナはこちらでは伝統的で喜ばしいもの。

特に南部は都会の北部とメンタリティが違う。

観光客がこんなことしても誉めそやしてくれる。


その館員さんはパパになったばかりで、子供がかわいくてしょうがないらしい。

携帯で子供の写真を嬉しそうに見せてくれた。

俳優のケビン・スペイシーに似ていて(髪はある!)笑顔のあったかい、とても穏やかで優しい人だ。

いいなぁ。こんな結婚、したいね!

スースで出会った九州男児モルディも、このアハメッドも、奥さんを大事にしてくれそうな気がする。

ただ、明らかにガベスを境に人が変わるのがわかる。

世界中どこでも大体そうだけど、南は誰もが穏やかでのんびりしてる。

ここの人たちと、スースの男の子達とでは、明らかに違う。

「僕はドゥーズ(サハラ砂漠)の出身なんだ。家族はドゥーズにいる。今度は僕の家に招待するよ。ママの手料理を食べて、バイクでガゼル猟をしたり、歌ってタイコをたたいたり、楽しいよ!」

そんな話をして別れた。

ここでもいい人たちに出会えてよかった。

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