恩人との再会とこれからのお話
ラズリとのお風呂タイムが終わりリリィエストの顔は上気している。
それがお風呂に入ってのぼせたのかそれとも他の理由なのかは定かではない。
リリィエストはリビングのソファーに座っていて、ラズリはキッチンのほうで何やら作業をしていた。
鼻歌交じりにリビングに戻ってきたラズリの手には二つのカップがあった。
「リリィってコーヒー飲める?苦いのダメだったら砂糖とかミルクあるから使ってね。」
テーブルにカップを置きラズリはリリィエストの向かい側に座る。
始めてコーヒーを見るリリィエストはその黒々とした飲み物を恐る恐る口にする。
だがやはり苦いようで、砂糖やミルクをこれでもかというくらい入れてようやく飲めた。
「そういえばリリィって会うたび一人でいるけどこのゲームに知り合いとかいるの?」
「一人だけどいるよ。ルートスって言って街の外で助けてもらったんだ。」
「・・・へえ、ルートスね・・・・」
ラズリがなにやら意味深な表情をする。
どうかしたのだろうかとリリィエストが思ったその時、玄関のドアが開く音がした。
「そのルートスっていう人ってのはさ・・・これのことだったりする?」
ラズリは目線で玄関の方を示す。
その先には今玄関からきた、命の恩人で地図も分けてくれたあのルートスがいた。
「え、ルートス!?」
「・・・なんでリリィエストがここにいんだ?」
「はぁーーー・・・・やっぱりこれのことか。」
「おいラズリ、人をこれ扱いすんじゃねーよ。」
どうやらリリィエストとラズリの言っているルートスは同一人物だったらしい。
ルートスはラズリの隣一人分の席をあけて座る。
「んで?なんでラズリとリリィエストが一緒にいるんだよ。しかもこの家で。」
「あの、ルートスと別れた後いろいろ見て回ろうとしたんですけどお腹が空いて・・・でもお金持ってなくて途方にくれてたんです。」
「その時偶然リリィに声かけられたから、いつも行ってるお店の引換券あげたのよ。そのあともう一回会ってリリィの服が砂まみれだったからお風呂貸してあげたってわけ。」
お風呂、という言葉にリリィエストが顔を赤らめる。
それに気づいたルートスは怪訝そうに、
「ラズリ・・・お前リリィエストに何か変なことしてねーだろうな?」
「さあ?どうかしらね。」
「はあ・・・・・悪かったなリリィエスト。金も渡さずに、しかもこいつが面倒かけちまって。」
「そんなことないですよ。ラズリにはい、いろいろ助けてもらいましたし、ルートスにも十分なほど助けてもらいましたから。」
「そうか・・・ならよかったよ。」
男同士の会話のはずが、絵面だけでみれば桃色感が漂っていそうな雰囲気だった。
「そ・れ・で?リリィはこれからどうするのかなー?」
そんな雰囲気をぶち壊すように強調してラズリが問いかけた。
「そ、そうだね・・・まだこの世界について知らないことがたくさんあるし、やっぱり図書館に行こうと思うんだ。」
「そっか、でも図書館も入館するにはお金が必要だったよね?」
「教会やギルドを除く大体の共用施設は必要だったな。図書館なんて行ったことないから実際わかんねーけど。」
「やっぱりお金って必要ですよね・・・何かお金を稼げることってないですか?」
「まあ稼ぎ口はいくつかあるけどな・・・まず一つ目は俺たち冒険者たちの目的でもあるクエストだな。NPCとか他の冒険者とかからの依頼を受けて報酬である金を得る。基本は俺たちが街の外で出会ったああいう敵を倒すことだな。んで二つ目、これは所謂マッピングってやつだな。マッピングってのは未開拓の土地の情報や地形なんかを記録してギルドに売ることだ。地形なんかは歩いてるだけでその部分は勝手に自分のウィンドウのマップに追加されてくんだけどな。そして三つ目、一つ目のをメインクエストとすると三つめはサブクエストになる。メインのクエストはギルドでしか受けれないがサブクエストは街や街の外でも発生する。ギルドを通さない個人間のやり取り・・・まあお手伝いみたいなもんだな。報酬は金だったり物だったりといろいろあることがギルドを通すクエストとは違うところかな。だいたいこんなところだな。」
ふむふむと真剣に話を聞いているリリィエストと、半分寝にかかっているラズリ。
「一番効率いいのは一つ目のメインクエストをやることだな。といっても昼間の様子だとそれも厳しそうだし、二つ目もおんなじ理由でだめだろうなぁ。効率悪いけど三つ目のサブクエストが一番望みある感じだな。」
「サブクエストだとどれくらい稼げるものなんですか?」
「物にもよるが、一時間で五百から一千くらいが相場だろうな。ちなみにメインでやると十倍稼げたりもする。」
「じゅ、十倍ですか・・・」
ルートスのいっていた効率が悪い、という言葉の理由がよくわかる。
リリィエストにとって当初の目的である異世界の冒険という点では二つ目や一つ目の稼ぎ方の方が一石二鳥ではあるのだが、現実的に考えるとその日の食事もままならない今では確実に稼げるところが必要だ。
「いーじゃない、メインのクエストでも。そのほうが手っ取り早いでしょ?」
寝ていたと思われていたラズリから急な提案がなされる。
「パーティー組める仲間もいないんだ。そんな状況で一人で、しかも魔法使いがクエスト行っても失敗するのがオチだ。」
「ギルドに入ればいいんじゃん。仲間もできるしお金だって稼げる。一挙両得じゃない?」
「・・・・・そうだな・・・」
「あ、あのー、ちょっといいですか?」
リリィエストが控えめに手を挙げ、二人は続きを促すように視線をやる。
「えっと、ギルドについてもうちょっと説明お願いしてもいいですか?」
その発言にラズリはなぜかやる気になり、どこから取り出したかわからないが眼鏡をつけていた。
「私が教えてしんぜよう!さっきからルートスが言ってたギルドのことがギルド本部のことで、今私たちが言っているのがそのギルド本部の下にあるギルドのことね。ギルド本部の役割はギルド設立の承認と冒険者へのクエストの斡旋ってとこかな。ギルドは誰でも作れるけど複数加入はできないからそこは注意してね。ギルドに加入していると同じギルドのメンバーとのつながりができるから仲間もパーティーも作りやすいし、それに何と言っても月に一回個々のギルドの貢献度によって特別報酬がもらえるの!だからギルドに加入しない手はないのよ!」
「・・・まあ大体そんな感じだ。既存のギルドに入るにはギルドの長であるギルドマスターかサブマスターの承認を得ないと入れないがな。抜けるときは同じくどちらかの承認なしには抜けられない・・・けどまあ新しく作ったり入ったりできないだけでそんなに不利益はないけど。」
ラズリの熱弁とルートスの補足にふむふむとうなずきながら聞くリリィエスト。
そしてテーブルを手のひらでたたきラズリが続ける。
「そ・こ・で!他に行く当てのないカワイイ・・・じゃなかった、可哀そうなリリィに一つおすすめのギルドを紹介しちゃおうと思います!!」
「お、おいラズリお前・・・」
ルートスが止めようとするがラズリはお構いなしに続ける。
「私たちのギルド、フライブルにリリィを招待するよ!」