男をちゃん付けで呼ばないでください!
ルートスとサクヤの間に割って入って来たケータは上機嫌に問う。
「サクヤさん、さっきの話オーケーしたら女の人紹介してくれるんすよね?」
解釈がずれていたが見事に釣れたケータに怪しげにサクヤは笑う。
「したるよ~。あたしらんとこは美人も多いから期待してもらってええよ。どや?」
「やるっすやるっす!」
交渉の流れを取れたことを確信しサクヤは不敵に笑みをこぼす。
「ありがとうな~・・あ、ちなみになんやけど他にもきいてもらいたいことがあってぇなぁ?」
「いや~何でも言っていいすよぉ。なんで・・・」
「はいストップだ、ケータ。」
快く聞き入れそうになったケータの襟元を引っ張ってルートスは止めに入る。
「なんで止めるんすかルートスさん!?」
「勝手に約束事決めるからだろうが。東の街の情報とお前のお見合いで交渉が成立したんならその後は吹っ掛けられるだけ吹っ掛けてくるぞ、こいつは。・・・ただ働きはしたくないだろ?」
ルートスはそう言ってサクヤを見やる。
サクヤは高らかに笑っていた。
「相変わらず切れる子やねぇ。でも、冗談でも釣られたらあんたらの負けやなぁ。」
サクヤが差し出すのはギルドメンバーの一度の休暇のみ。
対してルートス達が支払うのは情報の確認・取得・伝達、この三つだ。
その上もう少しでさらなる支払いを重ねさせられそうになっていたのだ。
「憎ったらしい顔だな。そんなに嬉しいかよ。」
「まあなぁ、ようやくあんたから一本とれた思うと嬉しゅうてかなわんわぁ。」
付き合いもそこそこ長いルートスとサクヤは何度かこのような交渉をしてきていた。
その度にサクヤはルートスに色気で釣ってやろうと遊んでいたが、ことごとく退けられていた。
交渉も差し出すものが同等になるようにしてきていたため、今回が初となるサクヤの完全勝利だった。
いまだ笑いの途絶えないサクヤに獅子風神のメンバーらしき人物が話しかけてきた。
「サクヤさん、そろそろクエストに出ますよ。いつまでもからかってないで早く来てください。」
「ん?もうか、もうちょい勝利の余韻にひたらせてぇな。」
リリィエストより少し背の高いくらいの少年は、はぁとため息をついて言う。
「馬鹿なこと言っていないで来てください。みんな準備できてるんですから。」
「きっつい言い方やなぁ、一応マスターなんやけど。ミャーちゃん?」
そう言われたミャーちゃんことその少年は、前髪で片方しか見えていない右目をギラっと光らせる。
「役職とか階級とか興味ないですから。あと、俺の名前ミャーじゃなくてミヤって何回いったらわかるんですか?あと男にちゃん付けはやめてくださいとも言ってますよね。」
「言いやすいんやからええやんの。それに可愛らしいで、ミャーちゃんのほうが。」
「もういいです、行きますよ。すいません、みなさん。コレもう連れて行きますね。」
ミヤはルートス達に一礼した後サクヤの手首をつかんで連れて行ってしまった。
去り際にサクヤが「街の情報頼むで~」と言っていたことに抜け目のなさが見える。
嵐のように訪れ過ぎ去っていったサクヤに困窮したルートス、そして水着女子をいまから心待ちにしているケータと間にすら入れなかった残りの四人がその場に残っていた。
サクヤとミヤがいなくなった後、働きっぱなしだったルートスはみんなに解散するように言った。
ルートスはすぐにログアウトしてしまい、ケータは「ワクワクがとまらねぇーー!!」と叫びながら街へ走っていった。
訳の分からない展開を見せられた残りの四人は誰から動くこともなくその場にしばらくたたずんでいた。
沈黙を破ったのはラズリで、リリィエストの前で土下座をして「さっきはごめんなさいでしたー!」と謝った。
いきなり大声で土下座をしたことで周りがざわつき、注目が集まる中リリィエストはラズリの手の上に自分の手を置き「もう怒ってないよ、僕もごめんなさいでした。」と言った。
ラズリはそれにガチ泣きをしてリリィエストに抱き着いていた。
それを傍から見ていたシャナは「なんだこれ・・・」と思いつつ、隣で意味も分からずラズリとリリィエストの一部始終を見て泣きそうになっていたエリスを見て驚いていた。




