異世界で早速襲われたんですが!?
草原には一本の土の道があり、それは草原の奥の奥まで続いていた。
「ん~~~・・・これからどうしよ。」
今まで異世界へ行きたいとは常日頃から思っていたリリィエストだったが、異世界へ行って最初にすべきことについては考えていなかった。
どうしようとうんうん悩んでいるとグルルルルという音が聞こえた。
自分のお腹の音かと思ったが、音の発生源が後ろであったのでリリィエストは後ろを振り向いた。
振り向いた先にはリリィエストが見たこともない生物が三頭いた。
白い毛並みにまばらな黒い模様がある獣。
鋭い爪と牙を持ち、正面から見たそれはリリィエストの腰から胸までくらいの高さがあった。
異世界の生き物だ、かっこいい!と一瞬思ったリリィエストだったが、じりじりと詰め寄りながら涎を垂らすその生き物たちに、自分が狙われていることが分かった。
リリィエストは間髪入れずにその場から全速力で逃げた。
「いやぁぁぁああああああ!!」
目の前から一瞬で逃げられたことに白い獣もあっけにとられ、茫然とした。
土の道を走って逃げながら、白い獣がいないか後ろをチラッと見る。
その期待も虚しく白い獣はすぐそこまで追ってきていた。
再び前を向いて懸命に走る中、その目に人影が映った気がしたがそんなことを気にすることもできなかった。
必死に逃げるが、基本家にこもっていたせいで体力が人並み以下だったリリィエスト。
ついに獣の中の一頭が追いつき、リリィエストに飛びかかった。
あ、死んだ・・・と開かれた口を見てそう思った。
獣の牙がリリィエストに届こうとするその刹那、一つの影が一人と一頭の間に割り込んできた。
届きかけた牙の主が後方へ吹き飛び、驚いた拍子にリリィエストは躓いて転んでしまう。
振り向き後ろを見ると、先ほどまでいた白い獣が地面に倒れていて、そのそばに白光する剣を持った人がいた。
他の二匹は?とあたりを見渡すとすでに地に伏していることが見て取れた。
「あ、あの。」
後姿の剣士にひと声かける。
「ありがとうございます。助かりました。」
少し色の抜けた茶髪、リリィエストに比べ頭約二つ分ほど背の高いその恩人は鞘に剣をしまいながら答える。
「いや、気にすんな。それよりあんた魔法使いだよな、仲間は?」
「仲間はいないです。この世界には僕一人で来たので。」
「まじか。魔法使い一人でここいるとか、あんた何考えてんだよ。」
座り込んでいたリリィエストに手をかしながら青年はあきれるようにそう言った。
「ソロで魔法使いなんざ時間無駄にするようなもんだぜ?せめてパーティー組むなりスタイル変えるなりしなきゃ・・・」
「あの、ちょっといいですか?」
青年の話を遮り、リリィエストは小さく手を挙げながら聞いた。
「ん、どした?」
「そろとかぱあてぃとかすたい、る?とかってなんですか?」
「・・・は?」
青年は驚きを隠せないようで、素っ頓狂な声をあげる。
「あんた、まさか初心者かよ。だから一人でこんなところにいたのか・・・」
青年は何かに納得がいったらしく、リリィエストにいろいろ教えることにした。
「まずソロってのは一人って意味だ。パーティーは・・・まあその時の仲間みたいなもんだ。スタイルっつーのは所謂職業だな。いまのあんたのスタイルは魔法使いだな。」
「ふむふむ・・・」
「それにしてもあんたなんも知らないで、初めてこのゲームやるとか変わってんな。」
「それってどういう意味ですか?」
「だって、女の子でこのゲームを一人でやろうだなんてそうそういるもんじゃないぜ?加えてその見た目だ・・・年もそんなにないだろ?もっとファンタジックなものにでも・・・」
どうやら青年はリリィエストを女の子だと思っているらしい。
前の世界では女で僕という一人称を使うことはほとんどなく、それゆえ僕という一人称だけで男という認識がされていた。
「あの、わからないのはげぇむっていう言葉なんですけど・・・あと僕男です。」
「おいおい、ゲームも知らないって・・・じゃあどうやってこのゲーム知ったんだよ・・・・・ん?男?」
えええぇぇ!!と驚く青年。
その雄たけびは周りの鳥たちを騒がせるほどに大きかった。
「まっじか。バグとかでもないんだよなぁ、それ。」
じろじろとリリィエストのことを青年は見ていた。
「あの、それでげぇむってなんなんですか?」
「ああ、そうだったな。ゲームってなに、か・・・まあこの世界というか遊んでる媒体というか・・・仮想空間のことというか。」
「僕、別の世界から異世界に行く魔法でここに来たんですけど・・・」
―――ああ、そういうことね。
青年は何かに納得したようでごそごそと空をつかむようになにかをし始めた。
「そっかー異世界かー。そりゃ大変なこったな・・・もう6時か。」
青年が何かをし終えたようで再びリリィエストに向きなおる。
「俺はもう街に戻るけど、あんたはどうするよ?」
「・・・ついて行ってもいいですか?」
「そうかい、かまわねーよ。街には図書館もある。わからないことはそこで調べることだな。」
「はい!ありがとうございます・・・そういえば名前言ってませんでした。僕はリリィエストです。」
「俺はルートスだ。まあ短い間だがよろしくな。」
そういって二人は丘へ続く一本道を歩き始めた。
「あの、ルートスさん。」
「さんとか別につけなくていいよ、ルートスで。」
「じゃ、じゃあルートス。この世界ってどういう世界なんですか?」
街に続く道を歩きながらそう問いかける。
日が傾き、西の空は既に赤みがかっている。
「そうだな・・・このゲームは魔法は存在するが肉体がメインのゲームだ。魔法は基本アシスト系しか存在してないが、稀に火とか雷なんかの攻撃的な魔法書なんかが手に入るらしい。俺もそこそここのゲームやってるがいままでそんなもの見たことないけどな。」
「魔法使いの人ってどれくらいいたりするんですか?」
「このゲームにはだいたい二、三百人くらいいるが魔法使いは一割いるかいないかくらいだな。他はほとんど人間だ・・・っと、見えてきたな。」
なだらかな傾斜を上りきり、リリィエストの眼前に広がったのはモグスの町の倍はありそうな街だった。
街の手前側は壁のせいで見えないが中央の広場や奥の大きな建物がよく見える。
「る、ルートス!早く行きましょう!」
「はいはい、慌てなくても街は逃げたりしねーよ。」
ルートスは子供のようにはしゃぐリリィエストを楽しそうに微笑んいる。