異世界に行くことができました!
「たーだーいま。」
家の扉を開け中に入る。
両手にはパンやら肉やらいろいろ町で買ったものであふれていた。
「んー・・・とりあえずはご飯だよね。」
キュルルとなるお腹をさすりながらそう言う。
荷物を置き、簡素な台所で火をおこし肉を焼く。
最近では火を起こせる魔法具もあるようだが、そんなものにまで手を出せるほど金銭的余裕はなかった。
塩で味付けしただけの肉とパンを用意し、イスに座って食べる。
食事中にも頭の中は広場で見た異世界からの帰還者のことでいっぱいだった。
食事を終え片付けも済まし、そのまま自室に行く。
窓のそばにある机の上には魔力のこもった装飾された石があった。
机の周りには今までの失敗の情報がかかれた紙が広がっている。
普段はきっちりと整頓されているのだが、朝の爆発で資料が散らばってしまっていた。
「そういえば、今回は魔力が結構残ってる。珍しい。」
爆発前と後でさほど変わらない量の魔力がその石にはたまっていた。
イスに座り、石に手を置きながら考える。
――あの男の人はどんな異世界に行ったんだろうか。どんな冒険をしたんだろうか。何を見て何を知って帰ってきたんだろうか。
いろいろ考えを巡らせていると、一つの案を思いつく。
「そうだ。あの時の異世界の歪みを再現できればいけないかな?」
今度は石に両手を置き目を瞑る。
真っ暗な視界の中、あの歪みのイメージを強く思い出す。
そのイメージを持ちつつ、リリィエストは石に魔力を込める。
少しして周囲の違和感に気づき、目を開ける。
目を開けたその先にはぐにゃりとゆがんだ自分の手と石が見えた。
「な、なにこれ!?」
辺りを見渡しても周囲のすべてがゆがんで見えた。
ここでようやくリリィエストは自分が歪んでいる中心にいることがわかった。
しかしその直後視界だけでなく頭の中もぐわんぐわん揺れ始めた。
ギリギリのところで意識を保っていたリリィエストだが、次の瞬間目の前が光に包まれた。
その光を浴びると同時にリリィエストは意識を手放した。
「ねえリリィ。俺たちも冒険しようぜ。」
朧気な意識の中、少年がリリィエストに語り掛ける。
―――わからない。君は誰?冒険?
そう聞き返すと少年はあきれ顔で答えた。
「何言ってんだよ、いっつも言ってたじゃんか。忘れたのか?」
―――わからない。いつも、一緒にいたの?
朧気な意識が冴えはじめ、目の前の少年が霧が晴れるように消えていく。
「さあ、行こう。みんなも待ってるぜ。」
少年は背を向け、こちらを見てる何人かの少年少女の方に近づいていく。
―――待って。君は一体・・・
伸ばした手が少年に届くことはなく、目の前がフッと暗くなった。
意識が戻り薄く目を開く。
鼻に通る土の香りが自分が地面の上に寝ていることを教えてくれる。
―――あれ、僕、部屋の中にいたよね?
体を起こし、いまだ揺れる意識をゆっくり落ち着かせる。
そうしてはっきりした視界に飛び込んだのは、果てしない草原と蕾をつけた木々、そしてその奥に見える岩肌が露出した山々だった。
景色に見とれていたリリィエストだったが、ふと自分の頬が濡れていることに気が付いた。
なんで濡れているんだろう、と思ったがそれに勝るものに思考を奪われる。
リリィエストの家の周りの森は既に花が咲き終わり緑豊かなものだったが、あたりに見える木々は葉どころか蕾さえ開いていない。
そして家にいたはずなのに外にいる、ということ。
総じて導き出される一つの結論。
「異世界来たぁぁああーーーーーーーー!!!!」
長年の夢にリリィエストは叫ばずにはいられなかった。