Prologue
本日はMissing√を開いてくださりありがとうございます。
初めに言っておきますが、この物語には夢も希望もご都合主義もチートも魔法も存在しません。(ごく一部物語成立のためありますが……)
輝かしい物語が読みたい方はこの先へ進むことをおすすめしません。
なお物語がひと段落するまでの文字数を記しておきます。参考にどうぞ。
この物語がどのようなものかは√Aの最後まで読んでいただければ大体わかると思います。
プロローグ 10084文字
√A 50068文字
√C 34172文字
√T執筆中
《001》
青春とは非常に残酷な言葉だ。
現代社会……少なくともこの日本では、主に16歳から18歳頃の少年少女は「普通」青春するものだと言われる。
では問おう。
青春とはなんなのか。
彼氏彼女がいることが青春なのか。
部活に打ち込み汗を流すことが青春なのか。
対して家でアニメやゲームを嗜むのは青春ではないのか。
勉強に打ち込みいい大学を目指すのは青春ではないのか。
そんなことはわからない。
何故か。そんなのは簡単。
「だって決まってないのだから」
具体的な基準なんて決められていない。
このくらいのことをしたら青春と言えますだとか、青春ポイントが一定の値を超えたら青春してると言えますだとか、そういうわかりやすいものは無い。
だったら自分が青春していると思えばそれはもう青春なのではないだろうか?
青春の基準なんて決めるのは自分ではないだろうか。
きっとそんなことを気にしている時点で俺は青春という言葉とは程遠い人生を送ってきたのだろう。残念ながら容易に想像がつく。
これを踏まえて問おう。三年前の俺よ。
「青春とはなんだ? 」
《002》
卒業式には桜の木が花びらを儚く散らし新たな門出を彩るものと言われているが、実際桜がちゃんと咲くのはもっと遅い。
これを言うと大概めっちゃ嫌な顔された。特に女子に。
嘘でも桜に染み付いている綺麗なイメージというものを保管しておきたいらしい。まあその気持ちはわからなくもないが。
そんな素敵な幻想は案外色々なところに潜んでいるわけであって。
今、俺の置かれている卒業式というイベントはそのような素敵な幻想の宝庫でもある。
夢見る学生達の最後の砦。
場合によってはもう2度と学生というご身分で責任のたいして伴わない自分勝手で利己的で自己中心的な生活をできないのかもしれない。
そんなわけで終わりゆくこの一瞬で綺麗で美しくて理想的なエンディングを迎えるのは、この先の人生で卒業式……いや、学生生活、言い換えれば「青春」なんて言うやつを思い出の中で美化するために必要な儀式なのかもしれない。
しれない、というのは俺はそんな儀式をするつもりがさらさらないからだ。
正確に言えばそんな儀式でさえすることができない。したいとは思わないが、たとえしたいと誰に懇願しても叶わぬ夢である。
別に卒業式の後クラスで集まったり(クラスとはいうが結局集まるのはその空間を仕切っていたグループ……いわゆる一軍のみである)、写真を撮ったり、別れを惜しんで涙を流したりしたい訳では無い。大事なことだから念入りに言っておこう。
つまりこの長ったらしい導入部分をきゅっとラノベタイトル風にまとめあげると、
「僕は友達がいない。」
《003》
思えば始まりは入学式のあの日だったのかもしれない。
俺は特に理由もないが、学力のレベルと親の勧めで県外の高校を受験することになった。
その時俺は行きたい高校があったわけでもないし、そんな適当な自分が選ぶよりはたとえ自分の人生であろうとも良い方向へと流れていくのではないか、という思惑からなんの抵抗もなしに受験。そして見事に合格。
俺の人生の一回目の受験はあっけなく終了した。
が、問題はそこではなかった。
小学校から中学校へは学校が変わるとは言っても共に生活するメンバーが変わることはないわけで、実質小学7、8、9年生だ。
だが、この高校入試とやら、ちと訳が違う。
なんと既存の関係はほぼほぼリセットされる。
あんなに仲のよかった友達とでさえ、なかなか連絡を取らず、ばったり会ったらなんだか言葉を迷ってしまうようなよそよそしい関係に成り下がるほど変化がある。
結構前に、最寄り駅でたまたま中学の時の友人を見かけたが、なんだか気恥ずかしいし、なんて声をかければいいのか分からないしで結局そっとエスケープしてしまった。中学の時は毎日のようにゲームやらアニメやらの話をしていたアイツなのに……!
さらに、新しく飛び込む環境は完全新作。登場人物も舞台もシステム一新!
出会うキャラはみな新キャラ!
そんな高校という環境の中、上手くやっていけるかどうかは初めにかかっている。
そういうことも含めて攻略wikiのURLはしっかりメールで送っておいてほしい。
そう出ないと俺みたいにしくじる。
取り返しのつかないほどに。
友達って1回ゲットするイベント逃すともう手に入らない系アイテムだったんだなぁと後で知った時のあの絶望感を通り越した諦めは、他の人にはぜひ回避してほしい。
友達のいない3年間……青春とやらに分類されるべき時期に友達も作れずぼっち極めたのも今はもうただの思い出だ。
まあ正確に言えば特になんの感想もない。
スタートからゴールまで一人ぼっちだったわけだし、大した悲しみも後半は無かった。
もし高校3年間の自分史を作りましょうと言われたらカップラーメンよりも早く仕上がる自信がある。いやそんな自信いらないんだけど。
ぼっちとは言ったものの、プラスにもマイナスにもならないぼっち生活だったので序盤は孤独感は尋常ではなかったけれどじきに慣れた。
むしろ既にある関係を失ったりする方がよっぽど辛く苦しいんだろう。リア充のみなさんは今日もお疲れ様だ。プロぼっちの俺はリア充の方々に労いの言葉さえかけられる。
ぼっちも悪いことばかりではない。
一人歩く帰り道も意外と悪くない。慣れれば。
勉強したり、ゲームやったり、外を眺めたり1人でも結構楽しめるものだ。慣れれば。
SNSで情報収集すれば面白いし時間も軽く潰せるものだ。慣れれば。
そんなわけでプロフェッショナル俺は、路地裏の道くを1歩1歩桜の花びらを踏みつけながら歩いていった。
あぁ……今日で高校生活も終わりか……
高校に行ったら彼女は自然と出来るものだと思っていたけれど、出来なかったなぁ。
高2辺りで童貞は捨てたかったけれど、結局付き合いは18年目に突入しちゃったなぁ……
思ったより高校生活ってつまんねえなぁ……返品したい。
「おい! と、とまれ! 」
ぼーっと1人反省会を開催していると、突然焦り気味な女の子の声が聞こえてきた。
今は卒業シーズンだ。最後に伝えたい思いでも込めてラブコメしてるのだろうか。
お兄さんそういうの嫌いじゃないぞ。今言っておかないときっと後で後悔する。俺はそうだった。これは小学6年の冬のことなんだが、
「なんで無視するんだよ! 止まれって! 」
おいおい無視はいけないだろ。
めっちゃ必死だぞ女の子。
どうせその気持ちには答えられないとでも言うんだろうけど話ぐらい聞いてやれって。
「ふざけんなよ! ぶっとばすぞ! おい! 」
うわぁ……だいぶご立腹に様子だ。
こりゃ告白の前に1発ガツンと重いの食らうんじゃないか……?
女の子の必死のアプローチを完璧に無視する悪魔のようなやつが1発殴られる(という俺の中では完成されたシナリオ)のを一目見てやろうと俺は足を止めくるりと後ろを見た。
「このやろー!! 」
その刹那、パチンという鋭い音が閑静な住宅街に響き渡った。
あれおかしいなあ……
ほっぺたがじんじんするぞ……?
《004》
「なんで止まってくれないんですか! 」
もう一度状況を整理しよう。
俺は卒業式の帰りに一人寂しく家へと直帰していたところ、痴話喧嘩をしているカップルを心の中で嘲ていたはず。
なのになんで俺は大人気バンドアニメげきおん!のキャラクター上野小豆通称あずぴょんのコスプレをした少女にビンタされてるんだ……?
「いや……その……俺じゃないかと……思って……」
声が竜頭蛇尾……いや蛇頭鼠尻ぐらいにしぼんだ。
「全く……先輩は……めちゃくちゃ声かけたんですよ! めちゃくちゃはずかしかったんですよ!? 」
「先輩……? やっぱり誰かと間違えて……俺後輩の知り合いいないし……」
「いいんです! これで! 先輩は先輩なんです! 」
少し照れているのかあずぴょん(のコスプレをしている少女)は頬のあたりをほんのり赤らめている。
俺の愛してやまないあずぴょんのコスプレをしているということもあってか、かなり可愛く見える。いやもう可愛い。
アニメで彼女が通っている学校の制服に、多少金髪ツインテールは目立つが、元々人も少ない地域なので気に止める人もいない。
「じゃあ俺はこれで……」
「だからちょっと待ってくださいって! ダメなんです! 」
立ち去ろうとしたところ、がっちり腕を掴まれる。
近い近い! いい匂いするから!
この場合「む、胸が当てってる! 」ってなるところだけど、なんかあんまり当たってない。
胸まであずぴょんを再現するとは……この女の子……なかなかのやり手……!?
「先輩にはやらなきゃ行けないことがあるんです! 」
「はい……? 」
あずぴょん(仮)の声で一気に現実へ意識が戻される。
あずぴょん(仮)の顔は、さっきとは打って変わって真剣に何かを訴える、そんな心意気が伝わってくるような顔だった。
「一体なにを……しろって……? 」
コスプレをした女の子に強い口調で頼まれごとをされるという今まで一度も体験したことないイベントを一気に体験して、口調がいつも以上にキモくなる。
いや、ないでしょこんなの。御年18歳のキモオタ童貞コミュ障非モテ男の俺じゃなくてもなかなかないだろう。
もしこんな経験をしたことがある人がいるなら申し出てほしい。1発僻み100%パンチを御見舞したい。
久々の女の子、しかも美少女との会話に戸惑う俺をよそに、あずぴょん(仮)はフフッと口元を緩め、こう言い放った。
それはとても突飛なもので、
おかしなもので、
信じられないもので、
夢のあるものだった。
「先輩には……青春をやり直してもらいます。」
《005》
「青春を……やり直す……? 」
何言ってんだこいつは……
やり直す? 何を?
青春? はぁ? てか青春ってなんだぁ?
「はい! やり直すんです! そして、先輩には真実の道……True Endへと到達してもらいます」
……True End? ノベルゲーかなんかの話か?
その手のゲームはあまり嗜んだことがないのだが。面倒だし。飽き性の俺はアニメ化されたら見るのスタンスで一貫している。
「ゲームなら……あまり得意ではないので……」
丁重にお断りしておいた。
「知ってるんですよ! 先輩が重度のアニオタで泣きゲーと話題のエンジェルバスターズ! の大ファンだってことを! 」
あずぴょん(仮)はこれでもかというぐらいのドヤ顔で言い放った。
これは事実だ。確かに俺は重度のアニメオタクでエンジェルバスターズの大ファンだ。
もう何十回も見た。
ただ、なんで彼女がそれを知っている……?
中学の頃なら俺の趣味嗜好を知っているやつがいてもおかしくはないが、今はもう……
「まだまだ知ってますよ! 先輩の特に好きなジャンルはタイムリープ、繰り返しなどの時間系だってことも! 」
あずぴょん(仮)はさらに畳み掛けるよう、顔をぐいと俺の顔に近づけ言い放った。だから近いって。
しかし恐ろしいがこれもあっている。
俺のオタク趣味をここまで把握している人が世の中にいるなんてありえない。
だって俺には高校での友達が1人もいないのに!!
「で……なんで俺のことそんなに知ってるんだよ……? あなた何者……?」
先輩と呼ばれてるし、見た目も女子の体格事情なんぞ詳しくないがパッと見どちらかと言われれば年下にしか見えない彼女に敬語を使っているのはスルーして欲しい。
「そうですねえ……とりあえず上野小豆ってことにしておいてください! 」
「なぜあずぴょんの格好をしあずぴょんを名乗る。なんなんだよホントに……」
ありがとうございます! 最高ですっ!
まさかあずぴょんのこんなにクオリティの高いコスプレイヤーさんとお話できるなんて夢にも思っていませんでした! ありがとうございます!
「先輩があずぴょん好きだから頑張ったんですけど……? やっぱり二次元キャラを3次元に持ち込む文化……嫌でしたか? 」
上目遣い気味での質問っ!
ありがとうございます!
「いや、別に……そのへんあんまり気にしないし……」
俺史上五本の指に入るぐらいにキモいどもり具合の返答だった。
「ですよね!そう言ってくれると思っていました!」
実は俺の回答が見えていたかのような回答をしながらも、にっこにこと素直に喜んでいたようだった。
そのぶっ飛んだ精神とは裏腹に、結構純粋な女の子なのかもしれない。
それに、俺のことをよく知っているし、それを踏まえて俺の好みをうまいことついてくるし、この際この子が何者なのかなんてどうでもよくなってきた。
「で……俺はどのゲームをすればいいんだ……」
とりあえずここは彼女の要求の内容を聞いておこう。ややこしい話はそれからだ。
「そうでした! 先輩には、『アオハルクエスト』というゲームをやってもらいます! 」
「聞いたことないなあ……? 新発売かなにか?」
その手のゲームをやらなくとも、ネットへばりつきオタクなので情報はどんどん入ってくる。
「そりゃあそうですよ! 私が先輩のために用意したゲームですから! 」
「君が作ったのか……ゲームを……!? 」
「まあそうなりますね」
何かのサークルのメンバーなのだろうか。
ゲーム一本……それが同人ゲームであっても相当な時間と労力がかかることは俺でも知っている。冴えない彼氏の作り方ってアニメで見たもん。
「色々突っ込みたいところは多いけど……まあせっかくだしやってみようかな……暇だし」
確かにめちゃくちゃ怪しいけども!
あずぴょん(のコスプレをした人)に頼まれちゃあ仕方がない!よね!
「で! す! よ! ね! 先輩ならそう言ってくれると思っていました! じゃあ早速プレイしましょう! 」
「で、俺はどーすればいいんですかね……?」
あずぴょん(仮)は手を前に突き出し、俺に向かって叫んだ。
「なにもしなくて大丈夫です!全部私に任せてください! では……『アオハルクエスト』スタート! 」
彼女がそう叫んだ瞬間。
その瞬間世界は暗転した。
それは全ての始まり。
まさしく第1話って感じだった。




