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Missing √  作者: 双葉 ミリカ
√T
20/28

winter

 

 《060》


 世界最大級の同人誌即売会コミケで見かけたコスプレイヤーがまさかの知り合いだなんて誰が予想しただろうか。

 いや、確かに似たようなシチュエーションは見たことある。ただしエロ漫画の中でな!


 あんなのエルフとかドラゴンとかがでるファンタジー物語と大差ないってことぐらい童貞の俺でも知ってる。あんなんありえねえって! ! っていうかあっちゃいけない。あって欲しくない。つらい。


 でもあれは多分クラスメイトだ。それも早川とかと違ってちゃんと「1回目」にもちゃんといたのを覚えている。

 三笠露(みかさつゆ)。今は全体的に短めだが水色の目が隠れるようなウィッグをつけているが実際は茶髪のセミロング。ちなみに地毛ではなくバッチリ染めたものらしい。

 たまに教師に怒られているのを一年生の間はよく見かけたが、途中から諦めたのかあまりみなくなった。何回怒られても一向に変えようとしなかったし彼女なりの維持があの茶髪……というか身なり全体にあるのかもしれない。


 中身は見た目のまんまで、面倒なのでサクッと説明するといわゆるパリピというやつだ。

 マンガとかでよくいるギャルっぽいやつ。今どきギャルと胸を張ってギャルと言えるような女の子はなかなか見られないのでギャルっぽいテンションのJK、そういうものをイメージしてくれればわかりやすいと思う。


 ちなみに今までもよく物語に出てきたクラスのボス、theJK前川愛香(まえかわあいか)さんの一味でもある。女子の世界は前川、三笠、奥峰(おくみね)の3人を筆頭に形成されている。

 あんまりこういう話はしたくないが、なんだかんだクラス内ヒエラルキーというものは無視出来ないほどに存在している。

 男子にはまあそういう傾向はあまり無いが、女子の世界はそうもいかないらしい。


 そんなオタクなんかむしろ虫ケラのように見るであろう彼女が何故ここにいるのか?

 いや、いるわけないんだよこれが。本来渋谷とか原宿とかにいる人種なわけで、年末に有明にいるなんておかしいにも程があるんだよ。



「なぁ小豆……やっぱり他人の空似じゃねえか? 」


「いやいやいや! あれは露さんですよ! 」


「いやいやいや! お前クラスメイトじゃねえだろ! 」


「いやいやいや! 先輩のクラスメイトぐらい全員把握してますから! 」


「いやいやいや! 怖いわ! 」


 いつものようなノリでわーわーやってると、いつの間にか周りに人が集まって……いる?


「あの〜写真いいですか? 」


「僕もお願いします! 」


「こっちもいいですか? 」


 手に思い思いのカメラを抱えた男達が声をかけてきた。

 クソッ! しまった忘れていた!

 ここはコスプレエリア、そして俺の隣にいる女はコスプレをしている!

 こうなるのは当たり前、いやなるべくしてなったのだ。正直この中でも小豆は可愛いし。


「じゃ、俺はこれで 」


「あああああ先輩! ! 待ってください! ! 置いていかないでくださいいいい! ! 」


 こうなってしまっては仕方がない。俺は心を鬼にしてその場を去ることにした。

 バイバイ小豆。お前のことは忘れないよ…...


 こうして俺はひとまず大量の戦利品を抱えながら戦場を後にするのだった。

 I'll be back.有明。また明日な。


 《061》


「いやー楽しかったですね! コミケ! 」


「あぁ……そうだな……」


 12月31日午後7時。場所、新宿。

 コミケ三日目を乗り越え帰路の途中、お腹がすいた、打ち上げがしたいと結局最後まで付いてきたコスプレ女がうるさいので途中でラーメン屋に寄って祝賀会兼忘年会を開催していた。


「先輩の家結構寛容なんですねこういうの〜いやー良かった良かった! 」


「俺の家は結構放任主義なんだよ。良くいえば自由」


「悪くいえば適当! 」


「まぁそういうわけだ 」


 2人テーブルを囲みながら俺は定番醤油ラーメン、小豆は味噌ラーメンをずるずると啜る。適当に調べて選んだのだがとても美味しかった。まぁ適当に調べて出てくる店はそれなりに有名な店なんだろうが。

 ていうかそもそもラーメンは大体うまい。


「この後俺は流石に家に帰るけど、お前はどうするんだ。親御さん待ってたりするのか? 」


「いえ……私のこと心配して待っててくれる親なんていませんから……」


 完全に冗談で聞いたつもりだった。

 上野小豆はゲームマスターだから、この世界はゲームだから適当に過ごしている、そんな想像をしていたのに、返答はあまりに生々しい内容に影を落とす顔だった。


「あ、なんかすまんな……」


「え、あぁ! ごめんなさい! せっかくの祝賀会兼忘年会なのにこんな湿っぽい話をしてしまって! 」


 小豆はコロッと表情を戻し、先ほどの顔を隠すかのようにまた味噌ラーメンをわざとらしく啜り始めた。

 小豆は言った。「帰りを待つ親はいない」と。

 その言葉から色々な仮説が建てられるが結論は導き出せない。

 上野小豆という少女の裏には何が隠れているのだろうか。そもそもこの少女はどうやってこのゲーム「ウラノササヤキ」を作り上げたのだろうか。

 もうとっくに気づいていたが、この少女は只者ではない。


 いや、少し考えればそんなこと誰だってわかるんだよ。一介の高校生にも分かったんだし。

 だってこんなゲーム存在するわけないし。エロ漫画の話じゃないけど完全にファンタジーだし。

 色々考えても結局どうにもできない現状なのでここは大人しく2回目の高校生活を満喫しようという魂胆である。せっかくだしね。楽しいしね。


「あのさ、じゃあこの後初詣行かね? 後で迎えにいくからさ 」


「え……? この後? 」


「そう、俺毎年行ってんだよ夜中に初詣。空いてるしな 」


 日が昇ってから行くとアホみたいに人がいて究極に行く気がなくなる。人酔いのマイナススキル持ちなので尚更きつい。

 それに、夜に灯るぼんやりとした灯篭の光と静けさは格別に神秘的で素晴らしい。


「でも……年末ですし夜遅いですし…...」


「うちの親はさっさと寝ちまうんだよ。適当だからな。俺の親だしなんかわかるだろ 」


「えぇ……まぁ……」


「じゃあ決まりな。寝るなよ 」


 こういうわけで俺は新年を可愛い女の子過ごすという今までで最高に青春っぽいイベントを経験することになった。

 4月から積み上げてきた青春ポイントを一気に倍以上に爆上げするぐらいのイベントをよくまあ俺はゲッツできたものだ。

 これもここまでの「2回目」の生活の成果なのだろうか。


 俺も髄分変わったものだとしみじみ思う。

「1回目」の俺が今の、「2回目」の俺を見たらきっとこう言うだろう。


「リア充は……死ね! 」


 と。


 この後俺が体験した初詣の話はまたの機会に話すとしよう。


 《062》


「あああああ行きたくねええええ」


「まあもう来ちゃったんだししょうがないだろ」


「でもさぁ……でもさぁ……」


「俺も行きたくないけど行かなきゃいけないんだよ、な? 嶺士郎? 」


 冬コミ、初詣、冬休み、はあっという間に過ぎてなんかいつの間にか新学期になっていた。ここだけ時間の流れが違うんじゃないかってぐらいあっという間に終わった。


 とある科学者の理論では人によって時間の感じ方は異なる。全ての人が同じ時間過ごしている訳では無い、というものがある。

 実際これはあると俺は思う。そう思わないとやってらんない。


「迅、1つ質問がある。」


「あー課題なら全部やったよ」


「なんでだよ! 」


「ん〜コツコツやったし? 」


 長期休暇の課題は終わる方がイレギュラーなのに、なのにこいつは……やはり只者ではない。

 もちろん俺は終わっていない。そもそも終わらせる気が毛頭ない。そういうものだし。


 冷たい風が俺達の肌にビシビシ突き刺さる。

 もう寒いのなんの。いくら着込んでも寒いものは寒い。なんかやっぱり寒い。

 加えて朝方の眠気、だるさ、めんどくささ、全ての要素がぎゅっと濃縮されて、

「帰りたい 」

 この一言に帰結する。


 灰色の雲、どんよりとした道を迅と共にとぼとぼ進む。気が重い原因の一つは環境でもある。

 あぁ……あの楽しかった冬休みはもう……

 蘇る楽しかった日々……あ、そういえば。


 ふと思い出した。冬コミの時のことを。

 三笠露に似ているコスプレイヤー。

 あれは本当に三笠だったのだろうか。

 確かめる術はあるのかわからないけど……ちょっと確認できたらしたいなぁ。


毎日投稿4日目。

なかなかキツいっすねこれw

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