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《055》
時間、午後12時。場所、中庭ベンチ。
気候、クソ暑い。状況、やばい。
「で、具体的に何かプランはあるの嶺士郎君? 」
「プランなんてもんはない。こんなん案外単純なんだよな。迅ならもうわかってるんじゃねーの? 」
「まぁ......多少は? 」
神崎千晶の暴走、それに付随して連鎖的に起きる悲劇を阻止するため、俺と迅は手を組んで動き始めた。
お互いがお互いの手を前へ前へ引っ張っている今、できないことは何も無いんじゃないかってぐらい自信が湧いてくる。
「要は神崎さんが誤解しているのが全ての原因だからそれをちょっちょいと解消しちまえばいい 」
「でも、お前にはそれが出来なかった。迅にだけはそれが出来なかった。そうだよな? 」
「そうそう、そんだけなんだよ。今回ばかりは1人で悪い事の芽を取り除けなかった。だから嶺士郎が協力してくれるってなって安心した。本当にありがとう 」
「なんだよ改まって。気にすんなって 」
この問題はおそらく早川迅と白百合真白以外なら誰でも解決することが出来るポテンシャルを備えている。
もっとも、可能性は100%ではないが。
神崎さんは「早川迅に白百合真白が取られる」という勘違いをしている。だったらその誤解を解けばいい。けれど当事者で今現在ヘ憎悪の対象となっている迅が何を言おうときっと神崎さんは耳を貸さない。
そして真実を白百合さんが告げるのも言語道断。神崎さんは真実を知られたくない。
問題はそれだけ。さらにいえば、迅への踏み台として利用されているに過ぎないが、ある程度神崎さんの表向きの目的に関わっている俺は、この事実を告げるのにピッタリと言っても過言ではないだろう。
やっぱり見ず知らずとは言わないが、全く関わりのないクラスメイトにいきなり自分の最大の秘密を突きつけられたらそれこそ発狂しかねない。
迅と俺が組む、それはこの自体を最も穏便に安全に収束させる最適解といえよう。
「とりあえず俺は放課後迅が待ち構えているはずの場所にスタンバイしておく。そして、誤解をうまいこと解くから、迅は白百合さんをよろしく頼む 」
「おっけー! 任しといて! 」
「くれぐれもさり気なくな。2人でくっついてるとこを神崎さんに見られたらそりゃもうたまったもんじゃない」
あははと迅は苦笑いとして了承した。
そうだ、みんなこうして楽しく笑い合えればそれでいいんだよ。
だって......文化祭なんだしな。
せっかくできた友達。
迅に桜ヶ丘に、柳に白百合さん、前川さんに神崎さんも。みんなみんな、一回目の青春時代にはいなかった。でも今は俺の周りにみんながいる。こんな楽しい日々が壊れているのを黙って見ているだけなんてお断りだ。
もうあそこへは戻りたくないんだ。
今の俺は失うモノの無いあの頃の俺ではない。失うモノが、失いたくないモノがたくさんある、そんな弱っちい俺なんだ。
弱っちい俺は今を守るために戦わざるを得ない。そういうことだ。
《056》
放課後、夕日の差し込むロマンティックなあの教室。
青春を、甘酸っぱい恋を表現する舞台には持ってこいのロケーション。そんな舞台に、青春とは真反対の位置に立っている男、いや、正しくは立っていた男が今存在している。
「どうしたの林君......? 」
「神崎さん、話がある 」
「本当のことをそろそろ話してほしい 」
「何言ってるの? 嘘なんて林君についてないし、だから何も言うことは無いんだけどな? 」
相変わらずスポーツ少女という言葉がバッチリ合う雰囲気、フェロモンを振りまきながら神崎さんはいつものようにポニーテールを揺らす。
俺の未来と気持ちは今そのポニーテールの何倍もゆらゆら揺れ動いていることをどうか頭の隅に置いて置きながらここからの物語を読んでいただきたい。
「神崎さん、あなたがホントに好きなのは白百合さんだよね? 」
ニコニコしていた神崎さんの顔に急に影が差す。俺はこの神崎さんを知っている。見たことがある。つい半日ぐらい前、時間軸的にいえばちょうど今に。
「何のことかな? 真白? そりゃあ真白のことは好きだよ? あの子いいこだしね〜」
「違う。恋愛感情の好き、性的な好き、青春の好き、真実の好き、そういう好きの話を俺はしている 」
「......は? 」
いくらか普通を装おうとしているのはわかるが、もう完全に表情が崩れ始めている。
さぁもう一歩だ、その仮面を完全に剥がしきる。そうすれば全部綺麗に、みんな笑顔でいられる。
「そろそろ認めなよ。俺は全部知っている。同性が好きでもいいんだ。それはニセモノじゃない、美しい結晶のようなものなんだよ 」
あー恥ずかしい。本当に何を言っているんだ俺は。詩人か、ポエマーか、哲学をかじった厨二病患者か。
「林君......知ってたんだね......」
「だから言ったろ。全部知ってるって 」
よかった。案外簡単に折れてくれて。
これ以上臭いセリフを吐き続けたら糖尿病でぽっくりいくところだった。
そう言えばあの時も迅と俺が追求したらすぐゲロったし、秘密にはしておきながら、やっぱり根は正直で真っ直ぐなのが神崎さんの本性なのかもしれない。
これが分かったのは嬉しい誤算だ。
「そうだよ......私は真白が好き。友達として好きだったけど、いつの間にかそれは変わっていた。自分の気持ちがだんだんわからなくなっていた。探して探して探した後にやっと分かったの。あぁ、私は真白が好きなんだなあって 」
同じことをやっているはずのにこんなにも穏便に、穏やかにことが進んでいく。
やり方一つ、きっかけ一つ、役者1人違うだけで同じイベントもここまで変貌する。
きっとこれはいい意味でも悪いことでも活用できるはずだ。覚えておこう。
「で、林君はそれを私に言って何が目的なのかな? かな? もしかして脅し? 私林君はそういう人じゃないと思ってたけど、実は鬼畜だったり? 」
テンションは多少低いものの、もう吹っ切れたのか雰囲気はあの修羅の神崎さんではなく、いつもの爽やかな神崎さんに戻っていた。
「いやいや、俺にそんなつもりも野望も後ろ盾も......度胸もない。」
ヘラヘラと軽い笑いを彼女へ向ける。
キモヲタ陰キャ童貞にとって女の子に物申すなんてのはどぎつい精神疲労イベントなわけで。
「俺は誤解を解きにきた、ただそれだけだよ。神崎さんは本来ここに迅を呼んだ。そのことも知ってるよ。」
「ほぉ......? 」
「神崎さんは誤解している。迅と白百合さんはそういう関係じゃない。ただの友達、いや、そう言うのもなんというかモヤッとしちゃう関係なんだよ。そんだけ 」
「へ? 」
「うん 」
俺はかつてここまで間抜けな顔をした神崎さんを見たことがない。すげえバカっぽい。
いや、実際根も葉もない噂に踊らされ挙句の果てに勘違いで罪のない男を切りつけようとする神崎さんはバカではないか? バカだな。
恋心というものの恐ろしさは充分知っていたつもりだったが、改めて痛感させられた。
「あはは......ウソ.......全部私の勘違いだったの......? 」
「まあそういうこと 」
「ふふ......ははっ、はははは! ! バカだね私! ! なに早とちりでこんなになってたんだろ! ! アホくさ! ! はーもうなにこれ! 」
神崎さんは笑っていた。
声を上げて笑っていた。
自らを笑っていた。
自分を思いっきり嘲笑していた。
その笑顔は、とても清々しくて見ているこっちも気分が晴れていった。
「じゃあ、打ち上げ行きましょ。遅れたら面倒だし 」
「そうだね! 」
自分の思っていることが全てではない。
自分の思っている常識が常識ではない。
自分の世界は自分が思っているより小さい。
そして、一歩外へ踏み出さないとわからないことは多い。
たった一歩踏み出せば180度変わることもその一歩が無いことでそのまま終わることもある。
未知を恐れることは正しい。
けれども、知ることを恐れてはいけない。
殻を破って知を求める。真実を追求し、この目で確認することが大事。それが全てとも言える。
そんなことを知れただけで、この文化祭は大きな収穫と言えるだろう。
「じゃあ......行きますか 」
輝かしい夕日を背に俺は教室のドアを閉めた。
あとがきに失礼致します。
√Cは今回で完結となります。
ここまで引っ張ったのに案外サクッとしたオチにびっくりしたり、物足りなさを感じた人もいるかもしれません。
√Cのテーマは大体今回の最後に詰まっています。
「自分の世界が全てじゃない」と「一歩踏み出すだけで世界は変わる」なんて感じです。
同性愛を受け入れる、異端なモノだと思っていた自分を変える。嶺士郎はそんなことを経験しました。
さらに神崎さんは恋に盲目になった性で世界が狭まっていた。ちょっと外に目を向ければ全部解決する。そんなことを知れたということです。
ふたりを通して何か感じてもらえれば嬉しいです。
それでは明日から√Tをよろしくお願いします。




