theater
《041》
「なんなんだよ……ったくよぉ……」
翌朝だと思って目覚めたら、そこは昨日でした。
自分でも今の状況を把握できないので説明なんてもってのほか。
昨日と同じ天気、昨日と同じ朝食、昨日と同じテレビ、そしてなんといっても昨日と同じ気だるさ。
何もかもが昨日と寸分違わずここに存在していた。
さて、ここで普通の男子高校生なら驚き、焦り、あたふたすることだろう。
でも俺は違う。確かに俺自身のステータスは至って普通の男子高校生だ。これは信頼できる旧友のお墨付きである。あれから普通の男子高校生であることを俺は胸を張って高らかに宣言している。
なんなら受験の際に大学へ送る調査書にどでかく書いてもらっても構わない。
そんな普通の男子高校生である俺がこうも落ち着いていられる理由はただ一つ。もう犯人の目星がついているからだ。
こんなことをするやつは世界中どこを探しても一人しかいない。もちろんゲームの中を探しても。
朝食のクリームパンを口に無理矢理押し込み、通学カバンを乱暴に背負い、とりあえずは学校へと向かうことにした。
登校中にでもケリをつけておきたい。多分ほおっておくとめんどくさくなる。俺の普通の勘がそう告げている。
スマホを慣れた手つきで操作し、容疑者をすっ飛ばしもう有罪判決が出ている金髪少女へとコールする。
「もしもし! あれ!? 先輩どうしたんですか朝から? 」
「お前俺に何か言わなきゃいけないことあるだろ」
「言わなきゃいけないこと……あっ! おはようございます!先輩!」
「違うわどあほ! 」
次会った時2発殴ろう。次いつ会うか分からないがこのままだと拳万になってしまいそうだ。
ちなみに拳万とはかの有名な指切りげんまんのげんまんのことで、一万回ぶん殴るという意味らしい。
昔の人は怖い。一万回ぶん殴っただけでは飽き足らず、その後針千本を飲ますのだから……ヤンデレ少女も青ざめるのでは。
「冗談ですよ冗談! タイムリープのことですよね? 」
「そう! わかってんならさっさと言えよ! 」
朝からこのテンションは正直疲れるし、ちょっとイラッとする。
あいにく眠い時は機嫌が悪い人間なのでな。どうも落ち着かない。
「私もめんどくさがりなので意味の無いことはしません。このタイムリープ……裏がありますよ……? 」
「お前がやったんだろ。さっさとその目的、教えてくれよ。てか教えろ」
「も〜先輩せっかちなんですから! そう焦らずとも教えてあげますよ! 」
こいつの中では朝7時は深夜31時とかのか?
ここまでイカれたテンションを維持できる人間を俺は今まで見たことがなかった。
たまにシリアスな雰囲気になる時はかっこいいのに基本これだからやっぱりあずぴょんはあずぴょんだ。
「今回のタイムリープ……先輩があることをやらないと終了しません! ヒントは〜……女の子! 」
「はい」
「はい、林くん!」
「神崎さん」
「正解! 」
だろうな。ロミジュリの配役はそもそも役が発表されただけで実質まだ何も決まっていない。ていうか、LHRで決まったのは演目がロミオとジュリエットってことだけだ。
あと、あの1日でそれっぽそうなことと言えば神崎さんの頼みを断ったことぐらいしか思い当たらない。
これ以上あの日を掘り返しても、早川の弁当に入ってた卵焼き盗んだらクソうまかったとか、前川さんのブラがすけてたとかそんなもんだ。
とりあえずこの二つじゃなくてよかった。こんなことのためにもう1回同じ1日を繰り返すのなんて割に合わない。俺が俺自身を納得させられない。
「じゃあ神崎さんの頼みを引き受ければいいんだな。あんまりやりたくないんだけどなあ……」
「そういうことですね。まぁまぁそこはなんとか。とりあえずやってくださいな……」
「と言うかなんでわざわざこんなことをさせる。メリットがない 」
特別仲がいいわけでもないクラスメイトの恋路を助けてなんの利益がある。
誰かが幸せになっているところを見ると私も幸せ! とか平気で言える脳内お花畑人間ならまだしも、俺はめんどくさいことは極力したくない怠惰なフレンズなので赤の他人の幸せのため尽力なんてできない。したくない。
「じゃあ……今度会ったとき私がチューs……」
さぁ〜今日も一日張り切って行きますか!
《042》
タイムリープしたのは2度目なので勝手はある程度わかっているつもりだ。
俺が特別おかしな行動をしない限り世界は前回を同じ流れを綺麗にたどる。
もっとも世界中探してもおそらく同じ流れをたどっているなんて意識で今日を過ごしている人間なんて俺とあずぴょんぐらいしかないだろうけど。
俺が色々心配するまでもなく、適当に過ごしてたらいつの間にか自然に前回同様神崎さんに呼び出されるところまでやってくることが出来た。
なるほど。若干の誤差は修正されるとな。
「さっきも言ったけれど林君に頼みがあるの。とりあえず聞くだけ聞いてくれないかな? 」
神崎さんは前回と寸分違わず一字一句そのまま俺に声をかけてきた。
見たことのある光景がまた目の間で展開されようとしている。
「早川のことだろ? 」
「なんでわかったの……!? 」
「んなもん見てりゃわかる。あと俺のとこに来る女子の大半はそういう用事だからな。もう慣れっこだよ」
「そっか……私そんなにわかりやすいかなぁ……」
あたふた顔を赤らめる神崎さんを見ていると不覚にも「あ、ちょっとこの子かわいい……助けてあげたい」とかいう邪な考えが浮かんできてしまう。いかんいかん。
まぁ実際顔は整っている方だと思う。俺の好みではないが。
「じゃあもう……言わなくてもいい?察して……? 」
そういうのやめてください!ちょっとうるっとした黒目の大きな瞳で身長差による自然な上目遣い。普段スポーツ打ち込み活発、気が強くしっかりしているイメージの神崎さんがそういうことすると!
危うく断ってしまいそうになる、というか断りたい衝動をなんとか抑え不本意ながらも神崎さんの恋路をある程度適当に、それとなく助けるはめになってしまった。
女の子のこういう話こそ知らぬ触らぬが仏。
関わってろくな試しない。
昔、友人のひとりが女友達の恋愛相談を善意から聞いてあげていたのだが、何週間か経ったあと、そいつはよくわからんやつにぶん殴られてた。ほんとにいきなり。
動機はただの嫉妬。俺は見向きもされないのに恋愛相談受けるだと!? このクソ野郎め! ボカーン! ……てなノリで。
だから出来れば今回も関わりたくないのだがどうにもならないらしい。しょうがない。死なない程度に頑張ろう。
「で、具体的には何すればいいんですかね」
「えっとね、今度の文化祭の劇……なんだけど」
「あぁ〜……ジュリエット? 」
「そう! なんとかならないかな……? 」
ほぼ初対面と言うのにこの意思疎通のスムーズさといったら。
自称空気の読める男、林嶺士郎に抜かりはない。ぼっち時代、如何にクラスの他の方々に迷惑をかけないか常に気を張っていたからな。場を荒立てず切り抜けたり、そのへん林くんはしっかりしてるのだ。
「そうだな……まあ無難に立候補でもすればいいんじゃないか? 」
「そうだよねぇ……」
桜ヶ丘が言うには放課後にちょっと時間を取り明日役を決めるとのこと。
決め方は無難に立候補、からいなければ推薦やらその場の流れやらで決めると言っていた。
やっぱり俺がどうこういうより桜ヶ丘が1人でやった方がスムーズなんじゃ……?
「はいじゃあこれでこの話はおしまい。そんじゃあとよろしく〜」
「ちょ! 待って! 」
俺の役目はなんか無さそうなのでそのままとんずらしようとした所、ガシッと右手を掴まれた。運動部……しかも基本硬い棒を握っている部活というだけあってこのまま振り切って逃げれそうにはない。あ、テニス部のことですよ。
「……なんすか? 」
「いや……その……その後も色々……手伝って欲しいかなぁ……って……」
「え? 」
普通はここで「普段はスポーツ系で爽やか明るい女の子なんだけど、たまに見せる女の子らしい一面にドキッと来てしまった! この子はあいつのことが好きなんだろうけど構わない! 僕はこの子を支えてあげよう! そして傷心を狙って……グヘヘ」と思うかもしれない。どうかな童貞諸君。
しかし、残念ながら今の俺の中にそんな感情は存在しておらず、代わりに脳内にはイライラが雪崩のように押し寄せ、埋め尽くしていた。
めんどくさいんだよ! もう! ったくよお!
理由その1、めんどくさい。
理由その2、見返りがない。
理由その3、動機も義務も権利もない。
スリーアウトチェンジバッターアウトゲームセットだよ!
女の子に頼られて無条件で嬉しいとか思う新人童貞はもう終わったんだよ。今の俺は、そう、言うならばエリート童貞。
「あーもう……わかった。ただし、今度駅前のケーキ1個奢ってくれ。それでチャラだ」
「ホントに!? ありがとう! 」
さっきまで泣く寸前かって感じだった神崎さんの大きな両目が一気に光を取り戻す。うわー……切り替え早い。まあいい事だと思いますよ! 勉強でも大事ですしね!
「しょうがねえなあ……」
あずぴょんのせいで、何故かこの頼みを受けないと俺に文字通り未来はないのでここは仕方なく、仕方なく神崎さんの頼みを引き受けることにした。
しかし、やっぱり早川はモテるんだなあ。
確かにあいつはイケメンだし、性格もいいし、変に気取ってないし、話は面白いし、頭いいし、運動できるし……何ができないんだあいつ……?
ここまで来るともう僻みも嫉妬もバカバカしくなってくるレベルだ。
ド素人のなろう作家がNo.1アニメ化映画化ゲーム化ラノベ作家に嫉妬するだろうか。
SNSに絵をあげてるだけの人間が、大人気漫画家に僻みを向けるだろうか。
「俺も頑張ればわんちゃん届くんじゃねえかな」ってレベルの相手にしかそういう感情は起きないものだ。
故にここ早川の人気に嫉妬するのは明らかに労力も時間も無駄でしかない。
あいにく俺は効率厨なのでな。
《043》
「と言うわけで、ロミオ役とジュリエット役は、早川くんと神崎さんに決定しました! 」
神崎さんの頼みを引き受けたことで無事に俺の元へやってきた明日(正確にはもう今日なのだが)では、順調に、神崎さんの思惑通り事が進んでいた。
他の配役も特に問題なく決定していく。
こういうのは大体揉めるものなんだがまさかここまで上手くいくとは。いやー誰のおかげなんだろう。誰がクラスを上手いこと仕切って枠から外れたことを口走る輩が出ないように誘導してるんだろう。
いやー分からないなあー何が丘さんなんだろう! わかんないなー
なんとかヶ丘さんが頑張っている間、無能の俺は大人しく俺や早川の列の一番前の席の男子の並木とダラダラ今流行りのスマホゲームの話に花を咲かせていた。
今流行りとは言っても俺の中の感覚では3年前のゲームなんでなんだか思い出を振り返っている気分でしかない。
あのゲームもこんな時代があったのかあとしみじみする。
3年って短いようで案外色々変わるもんなんだなぁと身をもって体感する。まさかこんな形で体感するとは思わなかったが。
「じゃあ次は……」
ここからも引き続きみんなのお母さんクラス委員桜ヶ丘綾がお送りします……っと。
俺はこの辺で大人しく席に戻りますよ〜
LHR、しかも文化祭云々なので黒川先生はもはやノータッチ。
生徒の自主性を重んじるとかなんとかテンプレをまた叩きつけ、大人しくしている。
なのでもうクラスは一応授業中と言うこともすっかり忘れ、席を立ちあちこちに転々とパーティーが形成される有様だ。
自分の席へとこそこそ戻る途中、不意に目線を向けた先に見事ジュリエット役を手に入れた神崎千晶さんの姿が見えた。
相変わらず今日もその黒髪ポニーテールでチラチラ見え隠れするうなじがエロい、エロすぎる。
俺は特にうなじフェチと言う訳では無いが、こういう女の子のふとした時に見える行動や表情などに萌えを感じる。まあ多感な時期だししょうがないよね!
あと強いてあげるなら、髪を結ぶ時ゴムを口で加える仕草、好きですねぇ……あ、そっちのゴムじゃないです。そっちもいいけど。
当のジュリエットさんは友達と何やら楽しげに話をしていた。相手は確か……白百合さんだっけかな……?
穏やかな顔立ちに優しい声音。髪は綺麗な明るい茶色に天然だろうか、パーマがかかっている。毛先がくるんっと丸まっていて可愛らしい。
身長も低くまるでお人形さんのようだ。
お店に並んでてもいけるんじゃないかな……?
そんな白百合さんと神崎さんが楽しそうに話している姿はなんだか微笑ましい感じがする。百合の波動を感じる……!
いかんいかん、百合厨の血が騒いじまったぜ。




