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4・激闘!王国お宝鑑定官

 

 戦斧と盾の査定も終わって、あとは小剣だけか。

 ノクラーソンは部下の査定した戦斧と盾の所持者証明書とか書類を見て、また額に青筋を浮かべている。

 そのうち血管が切れるんじゃないか?少し心配になる。

「ドリン、査定官を急かしたり脅したりするな。あまり悪質だと捕まえることになるぞ」

「それ、脅してるのはそっちだろ。俺達は命がけで持ってきたものを安く買い叩かれて損をしたく無いだけだ」

 ノクラーソンの部下は怒られたくないのか、俺とノクラーソンの言い合いが始まったらこそこそと出て行ってしまった。

 こういうときに上司の仕事ぶりを見たほうがいいんじゃないか?

「私の部下に、お前に泣かされた、というのがいるんだがな」

「交渉の範疇だろう。さっきも言ったが俺達は命がけで地下迷宮に潜ってる。これで得たお宝の交渉にだって命がけで挑む。その泣いた部下ってのにはそんな探索者に相対する覚悟が足りなかっただけだ。部下ならしっかりと教育したほうがいい」


 俺とノクラーソンの視線がバチバチと交錯する。いつのまにかサーラントも来て合流してた。合流したはいいが、なんでお前らわくわくして見てるんだ?

「前座が終わり、いよいよ本戦が始まるね!」

「ラウンド1、ファイッ!」

 茶化すシャララとパリオーをノクラーソンが睨む。


「あと査定するのはこの小剣だ」

「拝見する」

 ノクラーソンは丁寧な手つきで小剣を調べる。懐から丸眼鏡を出して鼻にかけてじっくりと見て、

「1万7千cs、だ」

 ぐ、流石はノクラーソン。買い取りにも売却にも微妙なところを一発で突いてくる。

「そいつは魔術仕込みなんだがな」

「キーワード発動タイプの防御系、対魔術用防御陣が使えるようだ」

 この方面から攻めても守りが堅い。ならば、

「その魔術のための魔術回路が剣の根元に彫り込まれているだろう」

「確かにある」

「それが何に見える?」

「これは、魚か」

「そうだ。魔術回路の機能を損ねないように、もとの回路の形を生かして泳ぐ魚の絵として彫り込まれている。こういった芸術的価値を追加して査定してみると?」

「変わらん。模様など珍しくも無い。1万7千だ」

「珍しく無い? そんな訳あるか。今までにみた武器や盾についた絵柄を思い出してみろ。竜や魔獣といった勇ましいものは多くても、そのなかに普通の魚っていくつあった?」

「む……、」

「勇猛さは無いがユーモラス、武器防具の飾りなら普通に可愛らしいものが逆に珍しい。蝶や鳥も見たことはあるが、魚というのはなかなか見ない。その希少価値を考えて査定するべきだ」

「ん……、一理あることを、認めよう。1万8千」

「もう一声」

「この小剣に出せるのは1万8千cs だ。魔術が仕込まれていても、発動するためのキーワードが分からなければ使えん。それを調べるのに手間もかかる」

「なら、その手間賃はいくらだ? ここにその小剣の魔術を発動させるキーワードが書いてある」

「なんだと? なぜそれをいっしょに出さない?」

「別々に売ったらいくらになるか、興味があった」

「ぐぬぬ……」

 俺は手にもった長方形の獣革をヒラヒラさせる。もともと小剣の刃をくるんでいたものだ。俺は獣革を指差して、

「キーワードが判明しているなら調べる手間が省けるだろう?」

「そのキーワードで確実に発動することが確認できれば、そこの獣革とセットで1万9千まで出そう。その汚れた獣革だけなら1csも出さん」

「いいだろう」

 俺は獣革をカウンターの上に置く。たしかに汚れてしまっているんだよな。

 ノクラーソンは獣革を手にとって見て、

 ビキッと額に青筋が走る。

「肝心のキーワードが半分しか読めんだろうが! なんだこの血の跡は!」

「お宝を持って帰る途中の戦闘でついたものだ。言ったろう? 俺達は命がけで財宝を持ち帰っているんだ。その血痕は俺達探索者の苦労の証であり、そのドラマの一端でもある」

 俺は腕を組んでうんうんと頷く。

 なかなかカッコいいこと言ったな、俺。


 こそこそ

「……あれ、ドリンが自分でつけてたよね」

 ひそひそ

「……ドリンがケガを治してたのって、そのために?」

 ぼしょぼしょ

「……でないと、あんなにキレイに後ろ半分だけ隠せないだろ」

 おいこら外野。内緒話はもっと小さい声で。


「魔術発動のキーワードが不明なら1万8千cs だ」

 ノクラーソンは獣革をカウンターに置いて告げる。

「まぁ待てノクラーソン。その獣革でキーワードの前半分は解ってるんだ。後ろ半分は俺の頭の中にある」

「だったら言ってみろ。それで発動するか試してやる」

「俺が思い出しやすくなるためにも、ここはキリ良く2万csでどうだろうか?」

「ふざけたことを」

「別にふざけてはいない。ノクラーソンがその小剣を1万8千と査定してからめんどうな発動ワード調査をするか、他の魔術師に依頼するか、それとも2万と査定して手間を省くか、好きな方を選んでくれ」

「…………」

 悩んでいるな。俺のことは気にくわないのだろうがまじめだな、ノクラーソン。

 1万8千cs にしてめんどうな作業は部下に投げる手もあるだろうが、もうひと押し。

「魚の彫り物、こういう変わった飾りと混ざった魔術回路は例も少ないから解析もひと手間かかるだろうな」

 ノクラーソンは、ふーーー、と大きく息をついて、

「分かった。2万cs だ」

「いいだろう、2万で売却だ。キーワードはトリオット」

 ふぅ、まぁこんなところだろうか。

 ひととおり終わると周りからはパチパチと音がする。

 お前ら、なんで拍手?


 このあとは金粒と銀粒、今回はプラチナもある。これは相場で値は決まっているから重量で換算するだけ。

 宝石各種は種類と大きさとカットで金額が決まっている。ドワーフが目を光らせていれば、つまらない誤魔化しもできない。

 まぁ、仕事にまじめなノクラーソンはここでケチをつけるようなことはしないのだけど。

 銀製の食器に黄金のティースプーンに極楽鳥の羽ペン、なんでこれが宝箱に入ってたかは謎だが貴重な品ではある。

 このあたりの価格の知識は俺には無い。

 カゲンとヤーゲンとサーラントに任せる。なぜこの3人が少しとはいえ高級品のことを知ってるかは、謎だ。

 今回は査定に困るようなお宝は無かった。前には重いのを頑張ってサーラントに運ばせた悪魔っぽい彫刻は安値だったし、古代期のものらしい書物『女性下着百科事典』は後でバカみたいな高値がついてびっくりした。

 魔術と関係無い書物、絵画、彫刻といった芸術関係はホントよくわからん。


 そして今回の目玉は直径50センチの大型魔晶石。

「おぉ……」

 カウンターの上に置けばノクラーソンが感嘆の声を漏らす。

 魔晶石はその大きさで価格も決まっているから、珍しくても交渉の余地は無いのが残念。

 ノクラーソンは専用のノギス、では足りなくて奥からメジャーと差し金を持ってきて魔晶石のサイズを計る。

 ひととおり計測してからまた奥に引っ込んで資料を持って戻ってきて、それを見ながら紙に数字を書いて計算をはじめる。

「少し時間がかかる。しばし待て」

 んー?

「おいノクラーソン、なんで時間がかかるんだ? 大きさでの換算表を見るだけだろう?」

「今年度発行の魔晶石価格換算表には30センチまでしか載ってない。ここ数年20センチ以上の魔晶石を持ってきた探索者がいないから、リストから消えてしまったんだ。過去の事例を参照して計算するので、少し待ってろ」

 あー、そういうこともあるのか。


 過去の例を引っ張ってきても、当時と今で物価が違うところもあるから、まじめなノクラーソンはそこも考えているようだ。

 開いて見ている資料には20年前の宝石貴金属の価格表とかもある。これは時間がかかりそうだな。

 俺は水筒のぬるくなった紅茶をひとくち飲む。さてと、

「ノクラーソン、計算中に俺達の身体検査を先に終わらせてもいいか?」

「む、そうだな。では街側の出入り口で貨幣を用意しておこう。また後程」

「というわけで持ち物検査に行くか。みんな出し忘れたものは無いか?」

 ここでポケットの宝石を出し忘れて密輸扱いされてもめんどうなので、全員で持ち物を再度チェックする。

「じゃ、また後でね」

 猫娘衆が女性検査室に向かう。残った俺達は男性検査室だ。

 地下迷宮の財宝を隠して持ち出さないように徹底的に調べられる。

 王国大迷宮監理局の制服を着た人間(ヒューマン)が偉そうにふんぞり返って目を光らせて、その部下達が俺達の荷物を調べたり服を調べたりしている。

 揉めるのもめんどうなので俺達は自主的に上半身裸になっている。カゲンとヤーゲンは持っているミスリル銀の長剣の所持者証明書を管理官に見せている。

 俺も一部の高価な魔術触媒と自作の簡易魔術回路とその部品の所持者証明書を用意する。

 この証明書が無いと地下迷宮で拾ってきたものと間違われる。最悪、証明書を無くすと貴重な所持品を財宝として売却または買い取りにしないとならなくなる。

 とは言ってもこの検査も地下迷宮から出るたびに毎回やってるから、手順も解ってるしみんな慣れたもの。

 ちゃっちゃと済ませて移動する。

 ここの検査のたびに監視と警備のどこかに穴がないかつい探してしまう。なんとか上手いこと隠して通ることはできないもんだろうか。リスクが高いから実行はしないが。


「今回の稼ぎはいくらになるかな?」

 カゲンがにやにや笑いながら言う。金粒銀粒だけでもかなりの量だった。1回の量なら間違い無く過去の俺の記録でも1番。

「この人数で分けてもかなりのものだろう」

 サーラントが淡々と答える。こいつとドワーフ達がいないと1回で運びきれないぐらいあったからなぁ。

 俺も楽しみだ。収入しだいでは魔術書を買うか、それとも魔術研究用に道具を買うか。

 あ、その前に餞別を買っておかないとな。

「俺は手甲を買うかなー、邪妖精(インプ)用をオーダーメイドで作ろうかなー」

 それ、効果あるのか?

「しばらくのんびりするのもいいな」

「とりあえず服を新調するか」

「鎧のツケを払って、あとは……」

 みんなも稼いだ金の使い道を笑顔で計画。

 このときはみんな受かれていた。


 

1cs は銅貨1枚、呼び方はカッパーシード。繁栄を願った種の絵柄。

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