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0・オープニングはそれらしく

 

 暗黒、漆黒、無明、そこにはなにも見えない。なにも無い。

 光が無く目に見えるものはなにも無い。

 果ても無く限りも無い。ただひたすらになにも無い。

 無限の夜、星と星の間、闇の底。

 

 そこに声が聞こえる。音を伝える空気も水も無い世界に、幽かに声が聞こえる。声のように聞こえる言葉は音では無い。思いが直に伝わるような、あり得ない響き。意思の囁き、思考の細波、思いの欠片。

 嘆きを含む悲しみの声。


『あぁ、消えてしまう、失ってしまう、滅んでしまう。子供たちがいなくなってしまう』

 

 声無き思念は泣いているようだ。その声にため息で応える気配がある。

『消えて当然、滅びもまた自業自得だ。あなたが泣くことは無いだろう』

『それでも、私は感じたのです。あの子たちの笑い声に暖かさを、あの子たちの歌に喜びを、幸せを願い手を伸ばす姿に輝きを感じたのです』

『奴らがあなたにしたことを私は憶えている。欲望のままに、あなたから奪い、あなたを汚し、犯して盗んで貪った。俺は奴らの無様と無礼を赦す気は無い』

『私が傷つき食べられたとしても、あなたが癒してくれるでしょう?』

『俺ができることは癒すことだけだ。護ることはできない。あなたが蝕まれて嘆き苦しむ様を見て、俺がどれだけ悔しい思いをしているか。奴らなど、どうでもいいではないか』

『彼らこそが、私とあなたに近づく者、私とあなたを知りうる子供たちなのですから、この身を与えるのは当然です』

『奴らは無知で自分達が何をしているかも解っていない。自分達が何から何を奪って生きているかも気がつかない恥知らずの無作法者だ。あんな輩のためにあなたが犠牲になることは無い』

『無知ゆえに為すことであれば、賢くなって気がつくことでしょう。憎しみの果てに行うことを知って優しさを知ることでしょう』

『確かにそういう奴らはいた。だが極一部ではないか。大半がどうしようもない者共で、自分たちの成した行為の果てに滅んで消えるなら、放っておけばいい』

『ですが、その極一部の者の輝きに私の心は慰められ光を感じたのです。そして、今も滅びを回避しようと願いその手を伸ばす者がいます』

『矮小なる身であなたと俺に接触しようなどと、不遜な行いだ、身の程知らずの不埒ものだ』

『この者もまた、信じているのです。私が感じた光を、輝きを』

『そしてまた、あなたは泣くのだろう?悲しみ傷つくのだろう?』

『いいではないですか。私がどれだけ傷つきこの身を失っても、あなたが癒してくれるのですから』

『俺はあなたのために存在する。あなたの身を癒すことはできても、あなたの心を護ることも癒すこともできない。それなのにあなたはまたその心を痛めて俺を苦しませるのか』

『心の傷は私にとってたいせつな思い出。あなたがそばにいてくれるから、私は安堵して身を捧げることができるのです。だから、今一度彼らに機会を与えてあげましょう』

『そしてまた嘆くのか、傷つき悲しむことになっても。奴らがそれに気がつくことが無かったとしても』

『そういうものでしょう。太陽は己の身を焼き世界と生命を暖めても、「十分に暖められただろう、さぁお代をよこせ」などど、口にしたりはしませんから』

『あなたは…………』

『だからお願いです。「  」今一度、もう一度彼らに機会をあげましょう』

『俺はあなたのものだ。あなたの願いを拒めない。永劫にあなたのそばに仕えあなたに従おう。ただ、俺の胸の内をほんの少しでも知っていてほしいのだがな』

『知っています。わかっていますよ。その上で私はあなたに甘えているのです。頼りにしていますよ。私の声が聞こえるのはあなただけ、だからまた私の我が儘を聞いてください』

『ならば俺の応えも知っているだろうに。仕方ない、手を貸そう。まったく、ようやく静かになりそうだったのに、また気を揉むはめになりそうだ』

『だって、彼らがいなければいつまでも私たちだけ。さみしいではありませんか』


 囁く思いが闇の中に行き交う。ふたつの思念が響かなければ、ここは完全な虚無。

 片方からは慈愛と悲哀、もう片方からは諦念と静怒。かけあうように木霊する。


『いたずらに手を貸しても、いずれまた同じ結末にたどり着くことだろう』

『それは、この者もわかっているようです。ほら、この企みを覗いてみて』

『ほう、少しは工夫があるのか。しかし、祈りなのか執念なのかよくやるものだ』

『ならばこそ応えてあげないと、今度もきっと私を楽しませて喜ばせてくれることでしょう』

『だと良いのだがな……あなたの優しさにつけこまれてまた裏切られるだけだろうに』

『そのときはあなたが私を慰めてくれるのでしょう?』


 そこは深淵、闇の底。ふたつの思いが行き交うところ。そこに小さな光がひとつ生まれて、白い光は残光を引いて真っ直ぐに飛んでいく。後を追うように黒い光が影を置いて飛んでいく。

 

 ふたつの光の到達するところ

 ひとつの世界がまた、始まる



時代設定のカメラのフォーカスが1万年ほどズレました。主人公は次回から出ます

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