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前編

 ※初投稿です。読み専だったのですが、なんとなく書き始めた短編らしきものが書きあがったので「どうしようかなー、投稿してみようかなー、でも怖いなー」とか思いながら酒の力を借りて投稿してみました。どきどきです。

 お暇つぶしにでもなったなら幸いです。

 初恋が実らないものだ。とは、誰が言った言葉なのだろうか?


 彼女の笑顔は、もう俺に向くことはない。



 ああ、こんなにも高い空が、まるで押し潰すように俺の上に落ちてくる。

 あの日の空とまるで変わらないというのに、状況と心は、まるで正反対だった。


 小春日和の放課後。学校の屋上の、まだ暖かい日射しの下。

 優男風の男子生徒が、おさげ髪の、少し地味目な女子生徒に告白した。

 戸惑いがちに、ゆっくりうなずく女子生徒。


 そして――二人は口付けを交わす。



 ――空の高い日の、高校三年生の冬。

 ――学校の屋上。給水塔の陰に隠れながら、

 ――俺は、彼女たち(・・)に見つからないように、声を抑え込んで、


 泣いた。






—— …… —— …… —— …… ——


「うん……私もきょーくんのこと……好きだよ」

 その瞬間が、いままでの俺の人生の中で、絶頂の時だった。

 中学二年の冬。屋上の青く高い空の下――。


 俺、守田恭矢は、幼なじみである秋山明希に告白をした。

 結果はOK。

 なんとなく、色気づいた頃からは、お互いを意識してるんじゃないだろうか? とは思っていたが、明希は地味な見た目とはいえ、そこそこ以上に整った顔立ちをしており、案外男子人気も高かった。

『きょーくんのことは好きだけど……そういう対象じゃないんだ……ごめん……』

 ――なんて言われる可能性も、想像してなかったわけじゃないのだ。


 とにかく、ハッピーデイ。初恋は実った。

 幼稚園に通っていた頃以来のキスを交わす。たぶんこれが本当のファーストキスだと呼べるんだろうな、なんて浮き足立った気持ちで思う。


 ――……そんなものは、半日も保たなかった。


 その日、明希の両親が亡くなった。

 玉突きの酷い事故で、ほとんど即死だったらしい。

 葬儀の後、一週間も塞ぎ込んだ明希は、突然に記憶喪失になった。医師がいうには心因性のものらしい。

 両親を失った事実に、まだ成熟しているとは言い難い精神の明希は、自身の心を守るために、その記憶を閉ざしてしまったのだそうだ。


 そこで、俺の両親は一つの嘘を吐いた。

 あなたは、私達の子供である――と。



 その日から、明希は俺の『妹』になった。


 元々、明希の両親とウチの両親は、旧来の親友同士。

 だから、明希引き取ってくれるような親類がいないことも知っていた。

 明希の両親が亡くなった直後から、彼女を引き取る決意は出来ていたのだ。


 両親の嘘を明希から隠すために、様々な辻褄あわせが行われた。

 俺の誕生日は、公文書以外は表面上、本当の誕生日である五月五日から明希の誕生日である六月五日だと、合わせておいて(・・・・・・・)、俺と明希は双子ということになった。


 そして、二人して少し遠い中学に転校することになる。

 元いた学校の、全ての生徒に口裏を合わせるのは不可能だからだ。


 両親からは何度も『不便させてすまない』と謝られたが、明希の為を思えば、俺に否やは無かった。

 ただ、無邪気に俺のことを「おにいちゃん」と呼ぶ明希に、俺の心はいつも、削られるような痛みを持った――。

「双子なのに似てない」と笑いかけられる度に苦笑を漏らし、家族の愛情を示される度に胸の奥にもやが掛かった。


「お前たちが、高校を卒業したら全部教えようと思う」


 明希のいない時に、親父が俺にそう伝えた。


 その時には明希は悲しむのだろうか? 事実を受け止められるのだろうか?

 不安だった。不安だったが――それ以上に彼女の兄という鎖が外れることに、心を踊らせている自分に嫌気が差した。


 そして、何も出来ない俺は、ただその時を待つ。明希が妹でなくなる日を、ショックを受ける彼女に、「兄弟じゃないが愛している」と、伝える日を。



 その日の前に、どこかで明希が、恋の味を覚えてしまわないことを、只々祈りながら――




―― …… ―― …… ―― …… ――



「まぁ、祈りなんて通じなかったわけだが……」


 気だるい身体をごろりと仰向けに返すと、視界の隅に錆の浮いた給水塔が映る。

 できたてカップルはとうの昔に、寄り添いながら屋上から出ていった。


 小春日和の暖かな日射しを名残惜しんで、こんなところで日向ぼっこなんてしてしまった所為で、あんなショッキングな場面に出くわしてしまったのだ。馬鹿馬鹿しい。


 ――はぁ……


「目……赤くなってねーかな?」


 手鏡なんて乙女なものを、俺が持っているはずもなく、陽が傾いて顔が見辛くなるのを待ってから下校することに決めた。


 携帯が振動する。三度震えて休み、三度震えて休み、そして三度震える。このパターンはメールだ。

 気だるい気分で携帯を開く。


『彼氏出来ちゃった。うらやましい?』


 ああ、頼むからもうちょっと休ませろよ。

 なんて返せばいいんだよ? お前のおにいちゃんは、こういうとき、なんて言うんだよ?


『おめでとう』? 『良かったな』? 打ち込もうとしても、指が震えてしまう。

 ああ、もういっそのこと充電が切れていたことにするか?

 ……ああ、そうしたら夜に直接言われるか……明希の声で、嬉しそうな顔で。


『先を越された。くそったれ!』


 そう返すので精一杯だった。それだけで身体の中の活力を全部振り絞った。

 そしてすぐに振動するオレの携帯。


『おにいちゃんも彼女つくりなよー、モテると思うんだけどなー? おにいちゃん』


「はっ、バカ野郎」


 それ以上は返信も出来ず、オレは携帯を仕舞い込んだ――。

 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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