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 私は私室への道を歩いていた。



 この屋内の通路に入る前は、外から向かっていた。しかしいつも居るはずの警備兵さんの姿が見えないことに気がついた。






──少し早いけれど、交代の時間だったのかしら?






 疑問に思いながらも騒動のことを知る由もない彼女は、いつもように最短で私室へと戻るべく普段は使用人すら使うことの無い、寂れてしまった隠し通路を使っていた。


 本来、彼女は屋敷内を通り私室へと向かって良いリツァーデン家の者。しかし面倒臭がりの彼女の性格がこの時は逆に面倒事を巻き起こしていたのだった。笑えない冗談ではあるのだが、彼女に悪気はないので如何ともし難い。





 あともう少しで私室にたどり着くという一歩手前にて、彼女は漸くこの屋敷がいつもの雰囲気ではないことに気がついた。

 それは、私室手前に出る扉に手をかけた時に聞こえた慌ただしく過ぎていった使用人数人のやり取りだった。






「ベティお嬢様はまだ帰っておられないみたい…」



──そりゃ、ココにいますからね…。



「本当に、何処へ行ってしまったのかしら…」



──ココにいますって!って、言いたいなぁ…。



「いつもならアソコに行っているようなお時間ですのに…」



──はい、行っていましたとも!



「でも、先程見に行ったらもぬけのからだったそうよ?」



──ああ…入れ違いってヤツですね~。








 律儀にも心の中で使用人達に返していた彼女は、途切れた会話の内容に違和感を覚えてそれを分析するために反芻していた。

 そうして、漸く違和感の正体に気がついた彼女は愕然とした。



 何やら、自分が行方不明扱いになってはいないか…?


 こりゃイカン、と彼女はもう少し詳細を得るために来た道をもう一度戻っていった。





 この通路は、その昔戦がはびこっていた時代に造られた隠し通路である。

 本来は使わずに緊急時に使う、要は緊急時避難通路のようなもので普段はというか近来は蜘蛛の巣がいたる所にはりめぐらされていた程の寂れっぷりであった。しかしそんな通路を、彼女が見つけては一人で使えるようにある程度の掃除をしていたのである。迷路のように屋敷全体に張り巡らされたこの通路は、こそこそと移動する際にはおおいに役に立ったことは彼女の計画のうちであろうか。そのために、幼い頃からの行方不明事件は多々起こされてきたのだった。

 使用人からしてみれば、迷惑この上ない令嬢のお転婆ぶりに毎日のように振り回された日々であったが、彼らは総じて彼女を見捨てることはなかった。それは、彼女の性格を知っていたからに他ならないのだろう。






 そんな通路を活用して彼女が次に向かった先は、両親の居るであろう大広間。


 こうした騒動が起きると、まずは当主である父親に話がいく。

 なのでこの場合も父親の元に向かえば、事の詳細を知ることができるだろうと判断したのである。



 そうと決まれば話は早い。

 彼女は踵を返すと、もう頭の中にインプットされてしまった最短の経路を瞬時に引っ張り出すと駆け出した。












 着いた先では、既に両親の他、兄弟も勢ぞろいしていた。


 一気に顔を引き吊らせた彼女は、この騒動がもう収拾のつかない程の規模になっていることを思い知った。



 顔を揃えていたのは両親の他には、長兄ウォルヘルム、先程顔を合わせた次兄グレイシス、三兄シュベルト、そして双子の弟達エルリクスとマグリクス。

  彼女の家族は一様に会していたのだ。



 彼女がその光景に暫くの間呆気にとられていると、ふと視線を感じた。その視線を辿ってみれば、長兄と次兄が何やらジッとこちらの方向に顔を向けているらしかった。


 かった…というのは、彼らの位置から少し距離があるために多分こちらを向いているかな、位にしかわからないからだ。しかし気配に聡い両名が、少し離れていると言っても気配すら消せない彼女の存在に気がつくことはできるだろう。






 一方、やはりと言うべきか。行方の知れなかった妹の気配を感じていた彼らは、ほぼ同時にその方向を見やる。そして、双方気がついたことにお互いも気がついていた。






「兄上、あちらに愛らしい猫が迷い込んだらしいですよ。」


「…そのようだな。」






 上の兄たちが、突然話だした事にすぐ下の弟が不思議そうに問いかけた。






「兄貴達、いきなり猫がどうとか、現実逃避でも始めたのかよ?」


「「ウォルヘルム~、グレイシス~。何話してんのさ、こんな時にー!!」」






 すかさず末の弟達からクレームが起こる。


 兄弟の中では専らベティにへばりついている双子は、今回の彼女の行方不明の騒動を聞きつけてから慌ててこの場に駆け込んできた。しかも各々片手に獲物を持って、という物騒極まりない出で立ちで…。



 彼らは貴族の間で、忌み嫌われた双子というだけで社交界では晒し者になってしまっている。

 そんな弟達にベティは胸を張って良いのだと教えてくれた優しい姉だ。事あるごとに、双子であることで得する事を吹き込まれた彼らは、最初は半信半疑だったがしかしそれを確信にまでしてしまった彼女に今はシスコンといっても過言ではないほどの執着を見せていた。

 いつもどこに行くにも二人は一緒に行動しているのは、彼女に言われた一言が原因だと、使用人は口を揃えて言うだろう。




 そんなこんなで、彼ら兄弟は総じてベティに甘ちゃんなのだ。

 兄弟唯一の常識人だと言える、三兄シュベルトですら彼女には弱いのだから、この屋敷の人間がいかに彼女を大切にしているか分かるだろう。そも、愛していなければ今回のような騒動は起こらない。しかも屋敷総動員でする事ではない。









 上二人の兄は、顔を見合わせてからクレームを寄越した弟たちに向き直る。


 長兄が目線で次兄に合図をすれば、次兄は呆れたようにため息を一つ付いて無口で口下手な長兄の代わりに弟たちにわかりやすく完結に応えた。





「お前たち、その位置から右斜め後ろを振り返り視線を少し上に上げてご覧。」





 弟たちは、揃って怪訝な顔をした。

 何とも似たもの同士である。


 しかしそれから、半信半疑に次兄をジッと見据えるのでそれに応えるようにグレイシスは首肯する。

 ハッとしたように三者は言われた通り回れ右をしてバッと音がするほどの速さで視線を上げた。


 すると、瞬く間にその瞳が輝きだす。

 双子に関しては双方、縺れながらドタドタとそこへ一目散に駆け出した。一人出遅れた、未だ色々な意味で唖然としているシュベルトを上二人の兄はさもありなんと苦笑して見守るしかなかった。


















7:了

家族構成は、これで全部。


父ディレスト

母?

長兄ウォルヘルム

次兄グレイシス

三兄シュベルト

双子の兄エルリクス

双子の弟マグリクス

※双子はレベティアナの弟たち。


です。


私はこの子達の名前を漸く覚えることが出来ました。(笑)




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